”Beautiful Tango”by Hindi Zahra
ワールドもの好きの一部で話題となっている(?)インディ・ザーラの日本初登場盤ということで。まあ私の場合、ジャケ写真の写りがいい女っぽかったんでジャケ買いしたわけなんですが。毎度、すみません。
ザーラは(インディのほうが苗字だそうで)1979年にモロッコで、北アフリカ先住民族であるベルベル人の血をひく者として生を受けた。その後、10代の前半にフランスはパリに一家で移住している。
その後、欧米の文化を正面から受け止めつつ自らの音楽を育み、2005年、メジャー・シーンで話題となり、こうしてアルバム・リリースとなったわけだ。
そんな彼女の特異な経歴は、その音楽の上にも当然反映されていて、北アフリカ的なものと欧米的なものの混交した、実にユニークな音楽世界を作り上げている、との世評。
・・・で、さっそく聴いてみたのだが私には、なんか目新しいものを聞くという感じはせず、むしろ不思議な既視感があった。
既視感といっても退屈とか不愉快とかいうんではなく、むしろ懐かしい感じ。昔馴染みの音楽に意外なところで再会してしまったみたいな温かい思いが胸を満たしたのだ。
それはたとえば冒頭のタイトルナンバー、ビューティフル・タンゴ。この曲、英語で歌われているせいやアレンジのせいもあるんだろうけれど、なんか昔の英国ポップスに聴こえたのだ。
なにげない生ギターの弾き語り中心で歌われるその唄は、マイナー・キイのメロディや、ブンチャブンチャという古めかしい歌謡曲リズムから、私には60年代の英国ポップスのヒット曲、たとえば”マンチェスターとリバプール”なんてナンバーを想起せずにはいられなかったのだ。おお。こんな世界、聞き覚えがあるぞ!
次の、ベルベル語で歌われる、北アフリカ色濃い筈のナンバーも、私には60年代にドノバンが試みていたような、サイケなエスニック・ポップスの匂いを強力に感じた。やや書き割りっぽい、昔の彩色写真みたいな薄っぺらい異国情緒が漂う。
その後の曲にも、生ギターとボンゴだけでやっていたサイケ・フォーク時代のTレックスやら、エスニック味で煮しめたみたいなサイケ・フォークの大御所、インクレディブル・ストリングバンドなどの面影が次々に現われ、カラフルな幻想が音の合間に舞う。これが、変な話だけれど、なごめてしまうんだよな。
あくまでも気負わずさりげなく歌いだすザーラの歌声は好ましいものであるし、この不思議な、あるはずのないノスタルジィによっていたっていいのだが、しかし、彼女のキャリアに60年代のロンドンなんてないのだし、この辺の偶然の符合、考えてみずにはいられない。 なんでこうなる?なんかここにワールドミュージックの意外な秘密とか隠されていないかな?とか思ってみたり。