リスとモグラ
特徴的な尻尾まで隠しているとは判断するのに時間が掛かりました。
単純にリスの獣人もシルトヴェルト等には居ますからな。
まあ、特徴的なサンタ帽子があるのですぐに見分けは出来ますがな。
ずいぶんと目つきが鋭くなっているように見えますな。
「君はー……?」
お義父さんは心当たりが無いとばかりにリスーカになった樹を見つめますな。
ですがフードを外した樹の頭にあるサンタ帽子に視線が向かったのですぞ。
おそらく錬の頭にあるサンタ帽子から可能性として思い浮かんでいるという所でしょう。
「さすがにわからないでしょうね。こんな姿になってしまった僕を……フフ、笑うなら笑えば良いですよ。それより」
樹は何やら自嘲風味で喋ったかと思うとモグラへと視線を向けますぞ。
「んー? イミアを狙ってるー? ダメだよー」
コウがモグラを守るように角度を変えて背中に隠しますぞ。
樹はそんなコウに若干眉を寄せたかと思いましたがすぐにお義父さんの方へと視線を戻しましたな。
で、お義父さんを始めとしたエクレア、ワニ男は樹の頭にあるサンタ帽子へと視線が集中していますぞ。
「あー……」
「うむ……イワタニ殿」
「うん。そうだね。単刀直入に答えて良いかい?」
「ええ、何かあるなら素直に言ってもらえると助かりますね。こっちも色々とありますから」
「じゃあ……君は樹……フルネームで言うなら川澄樹で良いんだよね?」
お義父さんの質問に樹が大きく目を見開きましたぞ。
きっと違いますとか言うつもりでしょう。正義に固執する樹はこういう時に嘘を言うのが常ですぞ。
「よくわかりましたね。こんな姿に変わり果ててしまった僕を……盾の勇者の特殊能力ですかね」
「そんなんじゃないよ。樹も何かあったんだろうけど、こっちも色々とね……」
若干喜びとも悲しみとも入り混じった涙目に樹はなったように見えますぞ。
そんな所でモグラの巣穴の方から僅かに物音がしました。
「大丈夫です。僕の知っている方々で、彼等なら問題はありません。出て来て下さい」
樹が涙を拭うと大きく声を掛けますぞ。
すると巣穴の方から……一匹のモグラとストーカー豚が出てきました。
おずおずと警戒気味の歩調で現れた巣穴に居たモグラをコウが背に乗せていたモグラが見て驚きの声を上げましたぞ。
空気を読んでコウはモグラを降ろしますぞ。
「エミアさん!?」
「イミアちゃんと同族の人だ」
モグラが巣穴から出てきたモグラに駆け寄って再会を喜ぶように抱擁していますぞ。
「ブブ……」
ストーカー豚は何やらメイド服のような恰好をしていますな。
タクトのメイド豚とキャラ被りですぞ。
「イミアちゃん、その人は?」
「あ、はい。この人は……エミア=ニルウェン=リーセラ=テレティ=クーアリーズ。私の親戚のお姉さんです」
相変わらず恐ろしく長い名前ですな。しかもモグラと最初の部分が一文字違いなだけで実に聞き間違えそうになりますぞ。
よく覚えてますな。俺は既に名前を忘れましたな。右から入って左から出ていく名前なのですぞ。
名前はもっとシンプルに、フィーロたんのように覚えやすいのが一番なのですぞ。
ユキちゃんやクロちゃん、コウやサクラちゃんですな。
リアとかミアとかそういった名前が付く者がこの世界には多すぎますぞ。
ちなみにリアやミアはこの世界基準で博愛や勇敢などの特別な意味合いが混じる単語らしいのですぞ。
お義父さんの尚文という名前が文字を尊ぶという意味があるようなものなのでしょう。
間違ってもニャーオ、フミフミという可愛い子猫の鳴き声と寝床を踏む姿からでは無いでしょうな。
脳内でアークが絶対にしてくれない楽しそうな顔で招き猫のポーズをしてくれる姿が思い浮かびますが違うでしょう。
ちなみに別のループでお義父さんがあだ名でニャオ文とか猫系男子なんて言われた事があると仰っていました。
おや? 最初の世界のお義父さんが拳をバキバキと鳴らして不快そうな顔をしてますぞ。
お前はこんな状況で何を考えているんだと。
きっと気のせいでしょう。
「え、えっと、そうなんだね」
お義父さんが困ったように答えました。長すぎる名前ですからな。
そういえばお姉さんは人の名前を覚えるのが得意でしたな。
「僕はエミアさんと呼んでます。こちらは……リーシアさんです」
「ブブブ……ブブ」
ストーカー豚は随分と元気のない返事をしているようですぞ。
若干怯え気味ですな。
「そ、そう。それで……まずは何を話せばいいかな?」
「話さねばならないことはたくさんありますが、まずは尚文さん。元康さんも居るようですが、どうしてこんな所に来たんですか? 顔見知りですが返答次第では容赦はしませんよ」
「はっ、樹のようですが容赦もしないからと言って痛くも痒くもないですぞ」
「そりゃあ……あれだけ派手な罠を食らってケガ一つしないなら怖い物なんて無いだろ」
「シオン、気持ちはわかるがあまり気にしてはいかん」
ワニ男が何やら戯言を言ってますぞ。知った事では無いですな。
樹は俺の返事にムッとしてますがお義父さんの方に再度顔を戻しますぞ。
「えっと、その件はこちらにいるエクレールさんを君は知ってるでしょ? 俺が君との決闘の報酬で受け取った彼女」
「……ええ、そうですね。メルロマルク内の亜人獣人にとって希望となっていた人ですね」
「う、うむ。エクレール=セーアエットだ。おそらく……貴殿は弓の勇者であるな」
「それであなた達はなぜここへ?」
「父の遺言に残された肖像画にあるメッセージを読み解いた所、ここに何かある事が判明して調査に来たのだ」
と、エクレア達はここに来るまでの経緯を樹に説明しましたぞ。
「なるほど……確かにあなたならばここに来ることがあっても何の不思議もないという事ですか。エミアさん」
「はい。エクレール様、ここは亡きセーアエット様が遺したメルロマルクで何かあった際、亜人や獣人が安全に国外へ脱出するための隠し通路があります。私たちはその通路の作成及び秘匿を任されていました」
樹と一緒のモグラがそう述べましたぞ。
なんと、そのような代物がここにあったのですな。
全く知りませんでしたぞ。
別ループのモグラたちも全く話をしてませんでしたからな。
しかしそんな通路があるならサッサと使って脱出すれば良いのでは無いですかな?
奴隷狩りにあった際にのんきに捕まっているのはどういう事でしょう?
いえ……おそらく場所を特定されたら逃げられない程度の代物という事でしょうな。
「もしもの際、エクレール様のような信頼できる者以外には何があっても話すなと命じられていた事でございます。脱出路をメルロマルクの者に知られる訳には行かず、一族の者たちが何があっても隠し通したものでございます」
「そのような代物が……」
「これがあればセーアエット様が亡くなった後の奴隷狩りから民を……」
エクレアとワニ男が何やら苦そうな顔をしていますぞ。
まあ、エクレアですからな。いきなり奴隷狩りをし始めた連中を私刑にしてしまったので知る由も無いですぞ。
何よりワニ男にも聞かないといけない難解なメッセージを読み解く暇があったらさっさと場所だけでも教えておけですぞ。
俺も日本に居た頃、訳の分からない謎を仕込まれた連中と謎解きを稀にしたので思うのですぞ。
「そんな脱出路など今の俺たちには不要ですぞ。ポータルでサクサク国外移動ですな!」
「わー……敢えて触れないようにしていることを堂々と言ったなぁ……」
エクレアやワニ男、樹が不快そうに眉を寄せて俺を何故か睨んでますが事実なのですぞ!
お義父さん達は呆れたような顔ですな。
「確かにそうでしょうね。ですが勇者の庇護を受けられない者たちの緊急脱出路になりえるのも事実ではあります」