人相書
「ここは重税で出入りが大変な町なのですが大丈夫なのですかな?」
「あー、そうなの? でもサーカスだとその辺り寛容に相手してもらえるから大丈夫かな。どうもここの貴族って奴隷売買も手を出してるそうでね。奴隷商人からの招待もあるんだよね」
おお、行商では通行料が高額でしたがサーカスと奴隷売買では安く通して貰えるのですな。
なんだかんだお義父さんのサーカスは興業の方でも話題に上るようにはなっているようですぞ。
「イミアちゃんはそろそろ馬車の中に隠れてようか」
「は、はい……」
お義父さんがお膝にのせていたモグラに指示を出しますぞ。
精神ケアという事でお義父さんがスキンシップをしているのですぞ。
まだ日は浅いですがケガの治療は元よりおいしい食事もあって徐々に活力を得ている状態のようですな。
お姉さんやお姉さんのお姉さん、パンダの実家なんかでも就寝して安心できる場所だと認識してもらうのが大事なんだそうですぞ。
やはりモグラは助けられなかった影響で精神ダメージがありますからな。
サーカステントを建てる敷地にもうすぐ到着ですぞ。町の人たちがサーカスが開かれるのか興味がありそうな顔をしていた気がしますな。
ですが何やら魔物商の配下がお義父さんの元へとやってきて報告しているようですぞ。
ふむ……そういえば樹が問題なく活動していたらそろそろリースカがここの貴族に捉えられているなどの事件に首を突っ込む頃でしょうな。
「あ、そうなの? うーん……じゃあどうしたらいいかな」
「ヴォフ? どうした」
「どうかしました岩谷様?」
「建てないのか?」
ヴォルフを含めた奴隷たちがお義父さんの周囲に集まってきましたぞ。
なので俺もその輪に近づきましょう。
「なんだ?」
錬も馬車から降りて聞きたいようですぞ。
エクレアを始めとしてパンダやゾウも指示を待っているようですな。
「ああ、みんな。えっと……ここで、まあ……ちょっと事件があったらしくて、この町、すごく亜人獣人にピリピリしていてね。サーカスの開催は難しいみたいなんだ」
「事件ですか?」
「うん。数日前、ここの領主が獣人に殺されたらしくて、亜人獣人を扱うサーカスの開催は危険なのは元より、事件を受けて奴隷商人も奴隷紋を徹底してるんだってさ」
一応、奴隷の売りが加速してるから安く購入するのに適してはいるそうですぞ。
おや? 樹がここの領主を成敗する時期とは少しだけずれてますが、ここの領主が殺害されたのですな。
これは今までのループにない出来事ですぞ。
「領主の殺害ですか……物騒な話ですね」
「……そういった事件も起こるほどにまでなっているのか」
エクレアが目を細めて呟き、ワニ男が深くため息をしましたぞ。
「様々な要因は想像出来るが、起こるべくして起こっているのだろう」
「しかも隣の領地から奉公に来ていた貴族の娘も行方がわからなくて困ってるとか」
「ヴォフ、犯人は誰なんだ? 獣人って話だそうだけど」
「それがこの被害者の貴族が酷い奴らしくてね……虐待目的で何名も奴隷を購入していたのはわかってるらしいんだけどね」
「となると奴隷紋を突破して主人の殺害とは……相当な恨みを持った犯行ですね」
「奴隷かどうかわからないぞ? 仲間を助けるために誰か侵入したものかもしれん」
メルロマルクではエクレアの領地出身の亜人がいらっしゃいますからな。
ですがこのような出来事は今までなかったはずですぞ。
何が原因なのでしょうな?
で、その領主が購入したらしき奴隷や怪しい人物の人相書き一覧が町の中で出回っているようですぞ。
どれも凶悪そうな人相書きになっていますな。
ですがこの国の人相書きは特定に程遠いイメージが多分に含まれるものが多いのですぞ。
お義父さんが指名手配された際にも本人かわかりづらいのが散見しましたからな。
フィーロたんやお姉さんもですぞ。
お姉さんなんてかなり不細工なアライグマのような獣人絵が貼られていたこともありましたな。
後年、お姉さんと称して貼り出されていた指名手配書をお義父さんが保管していて「懐かしいな。これがラフタリアだと」と見せて、何で未だに持っているのかお姉さんに問い詰められていました。
曰く、保管していたのは味のある絵だと思ったのが理由でしたな。
ともかく張り出された犯人候補の人相書きがありました。
亜人が何人も描かれておりますな。
他にハムスターなのかリスなのかモモンガなのかわからない者とモグラなのかハダカデバネズミなのかわからない妙なのもありますぞ。
ほかに情報提供の募集ですぞ。
こちらは普通にリースカですな。
お義父さんが受け取ったものを受け取り俺も読み取りますぞ。
「元康くん、何か知らない?」
「知りませんな。というよりは、こんな出来事今までありませんでしたな」
「うーん、となると今回の俺達の行動……サーカスとかラフミちゃんが原因かな?」
なになに……貴族が死んでいたのは屋敷の地下牢獄、拷問中に何者かに全身を串刺しにされて絶命したと思われると……。
無数の串刺し傷がありしかも呪いの炎によるやけど傷まであると……もはや呪術によるものとしか思えませんな。
ライバルならこんなむごい殺し方ができますぞ。
もしや既にこっちの世界に来ていて暗躍をしているのではないですかな?
奴ならそれ位やっていてもおかしくはありませんぞ。
「かなり凄惨な状況だったみたいだけど、こんな殺し方をできる種族っているのかな?」
「物理的な殺し方に魔法的な殺し方が合わさってますよね」
「ヴォフ……全身を串刺しにして呪いを施して焼く……シルトヴェルトでもあまり見ない殺し方だ」
「どんな恨まれ方かねぇ? エルメロ、何か知ってるかい?」
「……シルトヴェルトで呪術に精通する者を知らないわけではないけど、これはわかりませんね」
パンダがゾウに聞いたのはゾウの配下であるネズミたち側にそういった勢力が多少いるかららしいですぞ。
「ルナ辺りなら詳しそうだな。闇魔法を使うだろ」
「んー?」
確かにルナちゃんは闇の魔法の使い手ですが違うのですぞ。
「いえ……これはラフミならできる手立てですぞ! アイツ勝手に動きすぎですぞ!」
「勝手に私の犯行にするな。私が無意味なことをするはずないだろう? 私が罰するのはチョコレートを玩具にするモノにだぞ?」
俺の推理に突然現れて否定してきました。
「全身が串刺しで呪いの炎で焼かれて死んでいるのですな」
ふと、お義父さんが呪いの盾を使った時のスキルと反射効果が思い浮かびますな。
アイアンメイデンでしたな。それとダークカースバーニングでしたかな?
この二つのスキルなら可能ですが、今のお義父さんは呪いの盾を使えないので実行不可能ですぞ。
「単独犯じゃなく複数犯ならありえますね。もしくは……」
と、そこでモフモフ姿のウサギ男が俺を見てますぞ。
「なんですかな? 俺がこんなところでこんなやつを殺す義理はありませんぞ? 殺すなら塵一つ残さず光にしてやりますぞ」
ここの貴族は放っておけば樹が成敗してお縄につける貴族ですぞ。
わざわざ俺が出るまでもないのですぞ。
まあ、フィロリアル様を虐待しているのならば惨たらしく殺してやりますがな。
「何にしてもあまりよくない場所だからサーカスは開かずに移動して奴隷買い付けだけをしておく方向にしようか。安く叩き売ってるみたいだからね」
「……これでまた、メルロマルクとシルトヴェルトの友好が遠のいたのかもしれんな」
「……」
エクレアの一言がひどくその場に残る出来事でしたぞ。
ここを明るくサーカスでどうにかしよう! とはなりませんでしたな。
何分、お義父さんのサーカスは亜人獣人が多いのでこういった時に明るい話題は振りまけませんな。
どうやら町内では三勇教の連中が亜人排斥を声高々に叫んでいるようですからな。
このままだと悪い噂を樹が聞きつけてここに乗り込んでくるかもしれませんぞ。
何せ未だに活動はしているようですからな。
どうやって活動しているのかわかりませんがな。樹は姿を偽るのが好きでしたのでローブでも羽織って弓だけで勇者を名乗っているのかもしれませんぞ。
「この町を統治する後任の貴族はどうなっているのだろうか」
「エクレア、メルロマルクですぞ?」
「……何も言えんのが口惜しい。早く女王が帰還するのを祈るほかあるまい」
「……町の中にエクレールさんやシオンが入ると騒動が起こりそうだ。ここはどうか我慢してほしいね」
お義父さんの読みでは見せしめに亜人や獣人が殺されて晒されているのではないかという話ですぞ。
というわけで買い付けの際にお義父さんは魔物商の配下とお姉さんのお姉さんに協力してもらい、この町の奴隷は軽く見て村の者以外は購入しないようにするだけにとどめるとの事ですぞ。
なので足早にサーカスキャラバンは次の目的地へと行くことになりました。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。