チョコボム
「おい槍の勇者。貴様、何を傍観している。奴を放置しているといずれフィロリアルの尻からチョコレートを生み出す研究が始まるぞ! 以前の世界では盾の勇者がなんとかしたが、この世界ではどうなるかわからんぞ?」
なんですと!? そういえばヒヨちゃんがそのような事を仰っていたような気がしますぞ。
もしや今までのループでも同様の研究をしていたというのではないですかな?
ならば何が何でも許せませんな!
「尻からチョコレートって……俺の世界では馬のフンをモチーフにした商品はあるけど実物じゃないしなぁ……とんでもないスカトロ野郎って奴かぁ」
最初の世界でお義父さんがそんな名前で呼んでいる人物がいるのを覚えてますな。
なるほど、奴だったのですな。
ですが……確かチョコレートモンスター騒動時に奴が作った件のチョコレートがゼルトブルに流れていて、チョコレートモンスターの討伐に一役買った記憶もあるのですが……。
ハッ! つまりラフミの弱点でもあるチョコレートがあそこにあるのですぞ!
「槍の勇者、貴様が何を考えているのか当ててやろう。奴の作るチョコレートが私に効くと思っているな? 残念ながら今の私には効かんぞ? もしも私にあのチョコレートを投げつけようものなら最愛のフィーロの尻から何が出るようになるか……わかっているな?」
「くっ!」
ラフミめ! まさかフィーロたんからチョコレートを出るようにしてやるとでもいう気ですかな!?
「どんな脅迫? 下品だからやめてほしいんだけど」
「では出発だ」
「いやだ! いやだぁああああ! 助けてぇええええええ! おかしらぁああああ! ウェルトぉおおおおお!」
「ほかの盗賊どもはさっさと突き出せ。ほら、お前も行くぞ!」
と、ラフミは盗賊を引きずり、錬の仲間のリーダーも指名して歩き出しました。
「だ、だれか! この方を止めてください! じゃないとこいつの親父が大変なことになります!」
「むしろどうやったらコイツが止まるんだ、尚文!」
錬がお義父さんに聞きますぞ。
俺もラフミを止める手段を聞きたいですな。
「なんで俺に聞くのかわからないけど、ラフミちゃんを止められる人なんているの?」
俺がいますぞ! 絶対にいつかこいつを止めてフィーロたんに愛の抱擁をするのですぞ!
「アゾット、お前も来るか? 盾の勇者は国境を越えられんから行くなら後にしろ」
「い、いや……」
「ふむ……まあいい。後でルナとキール辺りにチョコレートを大切にする様、教えておいてやる」
「どうしてそうなるんだ!」
「今いるのはユキか……ちょうどいい。ユキ、チョコレートは愛を司る贈り物だという事を教えてやろう。意中の相手に渡すと効果的だぞ?」
「ほ、本当ですの?」
お? ユキちゃん、意中の相手に渡すチョコレートに興味があるようですぞ。
きっと最初の世界で仲が良かったフィロリアル様へ渡すチョコレートですかな? ユキちゃんより足の速いフィロリアル様は今はおりませんが、送る意味で興味があるのでしょう。
「どうやらこれは止められそうにないですわね。元康様、どうしますの?」
「フィロリアル様の為にもいかねばなりませんな」
フィロリアル様の為に俺も同行することになったのですぞ。
お義父さんと錬はお留守番となりましたな。
そんな訳でバレンタインイベント地域へと到着しました。
チョコレート農家という名の様々なチョコレートの木が栽培されている地域ですぞ。
俺もこの辺りは来たことがありますな。
木にチョコレートが実っているのですぞ。
「懐かしいな。アゾットは平和になるとよくこの辺りに滞在して治安維持をするのだ」
「レン様が?」
錬の仲間のリーダーが怪訝な顔をしていますな。
あの錬が自分の故郷へ通っていた事に疑問があるのでしょう。
「ああ。アゾットの事だ。直接聞いた事ではないが、もしかしたら志半ばで死んだお前を想って償いをしていたのかもしれんな」
そういえば最初の世界の錬の仲間は全滅したらしいですな。
もしかしたらその辺りを知っていた可能性はありますぞ。
しかし、その理屈だと他にもいくつかの地域に錬はエクレアや助手と一緒に滞在していたと聞いた事がありますな。
もしや……他の仲間も変わった地域出身かもしれませんぞ。
正月とかクリスマスとかハロウィンとかゲーム時代は色々と季節イベントがあったので、そういう事もあるかもしれませんな。
「……」
錬の仲間のリーダーは複雑そうな顔で沈黙しておりますな。
どこかの世界のお義父さん曰く、知れば好意を抱く様なジワジワ来る善意を人知れずしているのが錬なのだとか。
まあ錬は自分から治安維持をしている理由を話す様な性格ではないですからな。
そもそもそれ等の話を自慢の様に自分からしてしまったら償いとは言えないでしょう。
とはいえ、コイツ等と縁の無い世界の錬もこの辺りに来ていた気がしますが……。
「むー! ムーー!」
で、盗賊は縛られた挙句、口までふさがれて運ばれていますな。
ラフミは土地勘があるのか農家の連中に全く声をかけずに一目散に盗賊の実家へと到着したのですな。
気配を消して実家の裏手にある妙な建物をのぞき込み、中に誰かいるのを確認したラフミが俺たちを呼び寄せました。
そして徐にどこからともなくラフミは手榴弾らしき爆発物を取り出しました。
「見ていろ。そして貴様の父親が苦しむさまを見て喜ぶがいい。チョコレートを自慢の道具にし、玩具にした愚か者をな! くらえ! パイナップルチョコボム!」
チンっとピンを抜いて手榴弾を建物の中に投げ入れるとブチャ! っと大きな音が響き渡りました。
最初の世界のお義父さんが『その道具を作ったのはどこのどいつだ?』と詰問している気がしますぞ。
「ぎゃあああああああああああ!? な、なんだ!? 何者かがワシの研究を盗み、口封じに来たかぁあああああああ!?」
と、チョコレートまみれになって転がりながら出てきました。
これがこの盗賊の親ですかな?
フィロリアル様の敵ですぞ!
パラライズランスで追撃しますかな?
「ふん! 貴様のくだらない発明品という名の冒涜行為に終止符を打ちにきてやったぞ!」
ラフミが形状変化してチョコレートの卵に縛り上げました。顔だけ出しておりますな。
最初の世界のお義父さんが鼻で笑いつつ『はは! 無様なチョコレートエッグだな!』と仰ってそうな気がしますぞ。
「ワシの発明品をくだらないとはどういうことだ! ワシの愛は絶対! いずれワシの発明品が世界中に轟き、ワシのチョコレートをみんなが求めるのだ!」
「ふん。貴様は相変わらず戯言を抜かしているのだな。どこの世界でも貴様はそうだった。少しは反省したかと思えば数年もするとコリもせず下らない陳腐なものを作り始める。あの時もそうだったぞ」
「なんだ貴様! この無礼者がぁあああああ!」
「おやおや、つれないではないか。私は貴様の事を小さなころから知っているぞ?」
ふふん。とラフミは固めた盗賊の親に向けて勝気な笑みで語りかけました。
「親の存命中は逆らえずしっかりとチョコレートの木を育てるのに取り組み、実ったチョコレートを笑顔で私に捧げていたのにな。まあ……そこそこな代物を作り周囲に評価されていた。そのまま堅実に生きていれば良いものを……親がいなくなった途端これだ」
ずいぶんと見知った関係に見えますぞ。
まあ、ラフミはチョコレートモンスターが大本らしいですからな。
……錬に改造されているのは何とも思っていないのですかな?
よくわからない基準で奴は存在しているのですぞ。
「うるさいうるさい! やっと古臭い方法に固執する権力だけの老害が居なくなったのだ。新時代の先駆者であるワシが新たなチョコを生み出すのじゃ!」
「ラフラフラフ……お前、自分が若いつもりなのか? これは笑わせてくれる」
まあ確かに若くはありませんな。
「それとも精神の事を言っているのか? それなら納得だ。実に幼稚! そういえば8歳の頃に入賞した記憶が一番の思い出だったなぁ。ラフラフラフ」
「なあああぁぁぁぁにいいいいぃぃぃぃ!?」
最初の世界のお義父さんが話していましたが、声の大きいジジイですぞ。
お義父さんがうんざりする気持ちもわかりますな。