ツメの勇者の弟
「さて、殲滅完了ですぞ」
「……」
攻撃が空を切った事でパクパクとしゃべり始めたヴォルフが不満そうにこちらに口を何度も開けてましたが知りませんな。
「あそこで横から入ってやることか?」
「普通あの流れはやらせてあげる感じですよね」
「えええぇぇ……元康くん?」
「というか……遠くで見てましたけど戦いの最中、みんなの意識がヴォルフとその相手に向いている時に三名、いきなり頭をぶち抜いてましたよあの人」
むくむくと、仕留めた竜帝とグリフィンが魔物の姿に戻って行ってますな。
路地裏故に通路を塞ぐように大きくなっていき、しかも血なまぐさくなってしまってますぞ。
しょうがないので片方で出した槍でタクトの竜帝とグリフィン、そしてキツネの死体を切り刻んで通りやすいように転がしてやりますぞ。
「「「――!!」」」
ビクンビクンとそんな周囲の豚と魔物どもを処分されたタクト共が視線だけはしっかりとこちらを睨んでいますな。
ああ、タクトの血がダラダラと出ている片腕は火の魔法でしっかりと焼いて止めておいてやりました。
「!? ――!? !!!!」
今死なれたら苦しませられませんからな。タクトが痺れても親の仇のような目を向けてますが知りませんな。
もっと苦しめですぞ?
見苦しい三色団子のタクト共ですな。
「皆殺しにしちゃったようなもんだけど……こいつらは一体?」
「こいつは――」
ヴォルフがお義父さんに説明しようとしますがそれは俺がやりますぞ。
「こいつはタクト。表向きはフォーブレイ所属の鞭の七聖勇者ですが、その裏ではいろんな悪事に身を染めたこの世界のゴミですぞ。更に転生者で前世持ち、波の先兵なんだそうですぞ」
飛んで火にいるタクトですぞ。
さて、生け捕りにしてやりましたな。
これからお前は存分に苦しめてやりますぞ。
楽に死ねると思ったら大間違いですな。
「未来では様々な七星勇者を殺し、七聖武器を奪って手にしてましたが俺たちに敗れるのですぞ」
「複数の七星武器を所持する、ですか? そんな事ありえませんよ」
「そのありえないをするのがタクトであり波の先兵、転生者なのですぞ」
「テンセイシャという波の先兵と言う事らしいが……」
ウサギ男があり得ないと言ってますが事実なのですぞ。
「こいつは今までのループで事もあろうにフィロリアル様の卵を無数に割ったのですぞ。ですからその罰をどのループでもしてやらねばなりませんぞぉおおお?」
ですからヴォルフ、お前がタクトを仕留めるのは見過ごすわけにはいきませんなぁ?
こいつを苦しめる様を存分に見せつけてやるから我慢しろですぞ?
と、暗に伝えてやろうと思って笑顔を見せるとビクっと何やらヴォルフは震えて引いたように尻尾を股の下に入れましたぞ。
「キャイン!?」
さらにそこからなぜかお義父さんの後ろに隠れるように回り込みました。
体躯が大きくなったので隠れ切れてないですぞ。
「端折りすぎててわからない所はあるけれどループで恨まれるような真似をしたのかそこの馬鹿は」
お義父さんがそんな様子にため息をしつつ呟きましたぞ。
そうですぞ。タクトはこの世に生まれた事を後悔させるほどの拷問をどんなループでもしないといけない生き物の名前ですぞ。
「エルメロさんはあの方に多大な恩を与えて良い意味で覚えられていますが、アイツは逆というのは嫌ですね。ボクも覚えられないように注意しないと」
「上手く利用するのも手ではあるとは自分は思うぞ? アイツが行く次の世界にいる自分がまた盾の勇者様と出会いたいと思わないか?」
「なるほど、そういう考えもありますか、シオン。あなたも策士ですね」
ウサギ男たちが何やら言ってますが出来るものならやってみろですぞ。
ゾウは良いゾウですぞう。
パンダがダメならゾウに頼みますかな?
お義父さんなら上手く行くかもしれないですぞ。なにせお義父さんの愛は外見ではないのですからな。
「何はともあれ……言葉をしゃべれるようになったという事は自分を、記憶を取り戻したのかな? どうやら随分と大変な記憶と人体実験をされていたようだけど」
お義父さんがヴォルフの方を向いて尋ねますぞ。
人体実験で頭を弄られて獣に成り下がっていたという事のようですな。
ヴォルフは我に返ってコクリと武骨な感じにうなずきましたぞ。
ま、タクトをボコボコにする権利を奪ってしまったので少し助け船を出してやりましょうかな?
「お義父さんは最初から人語を介さない者は喋らない方が好みですぞ。喋ったら少し評価が落ちますな」
「元康くん、何を言ってるの?」
だってヒヨちゃんが仰ってましたぞ。
ほかに雄の方のライバルもそれを理由に人語を覚えないようにしたらしいですな。
ライバルはしっかりとしゃべり始めましたがな。その所為で距離は取られていましたぞ。
「……ヴァウ」
どうやらヴォルフは人の言葉で喋るのをやめるようですぞ。
「元康くんの話は気にしなくて良いから!」
コホンとお義父さんは軽く咳をしてヴォルフを再度見つめますぞ。
「んで、その手に収まったのは……タクトが奪ったツメの七星武器って事で良いのかな?」
「そうですな。ツメは本来フィーロたんのものですぞ!」
だから後でフィーロたんに渡せですぞヴォルフ! と睨みますがヴォルフはツメを凝視して俺の視線を無視しましたぞ。
「……これは兄の……ルハバート=ワーバルトが選ばれたツメの七星武器、シルトヴェルトの宝」
「お兄さん?」
「はい。俺は……兄と一緒に修行した弟でマガルム……だ」
まだ拙い所はありましたが徐々にマガルムと名乗ったヴォルフは続けますぞ。
「アイツが人気のない所に兄と俺を呼び出し、取り囲んで兄のツメを奪い、踏みにじり殺した。俺はあの女の機嫌を取りながらあざ笑うアイツの姿に戦慄し怯えて捕まった……その後は……」
ぽつりぽつりとタクトのやらかした悪行が語られて行きますぞ。
どうやらツメの勇者の弟だったこ奴はタクトがツメを奪ったその場に遭遇し生け捕りにされ、その後タクトの実験施設で人体実験の材料として体を弄られて頭も弄られた所為で完全に記憶を失い、資金稼ぎの闘士としてゼルトブルで実験投入されたようですぞ。
「俺は……あの時、怯えて何もできなかった……だけど、今度こそ逃げないと」
ツメのついた手を強く握りしめてマガルムと名乗ったヴォルフはお義父さんに向けて胸を張りましたな。
するとパァっと獣人姿から亜人姿になりましたぞ。
どことなくタクトのキツネ豚が化けたツメの勇者に似た面影のある外見ですな。
若干ボサボサなショートの髪型で、年齢は20代後半くらいの筋肉質な男ですぞ。
体中に継ぎ接ぎのような痛ましい傷跡がありますがこれはタクトが付けた実験の痕でしょうな。
そういえば遠吠えをして一回り大きくなってから色合いが濃いめの青の混じった銀色になりましたな。
やはり30代に近い経験豊富で渋みのある男性といった様子で、ワニ男とカテゴリーは非常に近い印象を覚えますな。
そんな奴がシルトヴェルト式の敬礼をして頭を垂れますぞ。
「何もかも忘れ、すべてに怯える獣であった俺を手厚く面倒を見てくれた偉大なる盾の勇者様、この力と意志はすべて盾の勇者様に捧げる。それこそが震えて何もできず失ってしまった兄への贖罪であり、恩返しだ」
「そう……か。それは何よりだよ。えっとマガルムさん?」
お義父さんは守ってくれるタイプに弱いですから、こういった人物との相性は良いでしょう。
そんな状況でマガルムと名乗ったヴォルフはお義父さんに名を呼ばれて少しばかり切なそうな顔をしましたな。
「その名は……恐怖に震えていた頃の俺の名です。あの頃の俺はもういない。ですから盾の勇者様、ナオフミ様。あなたが名付けたヴォルフと……今まで通り呼んで欲しい」
「……うん。わかったよ。これからもどうかよろしくね。ヴォルフ」
「はい」
と、答えた後にヴォルフは両手を合わせてお義父さんに忠誠を誓うとばかりに深々と頭を下げましたぞ。
うーむ……シルトヴェルトに向かった時の出来事からツメの勇者捜索の任務がこうして正式に達成したような気がしますが今はタクトの処分方法ですぞ。