バンダナ
「テオは現実的な提案をするなー。あんまり大勝すると会場から出してくれないんじゃないかな?」
ああ、聞いた事がありますぞ。
あまりにも大勝ちすると何か大きな買い物をするまで出させてもらえないそうですな。
これを避けるにはゼルトブルでも有名な商人とのコネクションなどが必要になるそうですぞ。
まあそうなると警戒されるのでそこまで稼げないかもしれなせんが。
今までのループでは色々な商人と知り合ったり、お義父さん自身が有名な商人になったりしたのですぞ。
と、俺とお義父さん、そして奴隷たちと一緒にゼルトブルにある支部へと帰ろうとしている路地裏でのことですぞ。
「……どうやら妙な追っ手がついてきてるようだ」
「ああ、さっきからついてきてますな」
ワニ男が路地裏の奥まで来たところでため息交じりに言いますな。
「ついてくる足音がしましたね」
「ヴァウウ……」
「やっぱりそうなんだ? 何となく付けられてるなって気はしてたんだけどね」
みんな揃って意見は同じだったようですぞ。
「ラーサさんやエルメロさんが気をつけろとは言ってたけどさ。まさかいきなり来るとはね。シオンが暴れすぎたかな?」
「さてな」
ワニ男が今回参加したコロシアムはゾウが問題なく参加できるだろうとの斡旋による裏コロシアムだったそうですぞ。
ゾウの紹介で一発参加させて貰えるのはやはりゾウの発言力がある証拠ですぞ。
それくらいじゃないとワニ男に張り合える相手がいないとの判断だったのでしょうな。
「こういう時はどうしたらよいのでしたっけ?」
「返り討ちで良いそうです。あっちも人目を避けて襲撃しようとしてるみたいですし……ご丁寧に囲っていますね」
「場所が場所故に覚悟はしていたが何処でも卑劣な奴はいるものだ」
ワニ男が吐き捨てるように言い切りましたぞ。
「シオン、確かに悪い人ってのはたくさんいるけどそれ以上に善良な人はいると思うから……ね?」
「わかっている。そこまで自分は世を嘆いていない」
お義父さんの懸念に気にするなとばかりにワニ男は斧を取り出して構えましたぞ。
最初の世界のお義父さんは悪人ばかりと嘆いていた気がしますな。
世を嘆いていましたぞ。
「ウウウ……!?」
ヴォルフは逆に落ち着きなく周囲を見渡しているようでしたな。
どうしたのでしょうか?
今までになく落ち着かない様子にお義父さんもなだめようとしてますぞ。
「何時まで隠れているんです? もうわかってますから出てきなさい。じゃないとこっちも帰れないじゃないですか」
ウサギ男が近づいてきた連中へと声を掛けますぞ。
「ブブ……」
「ブブブビヒー」
するとぞろぞろと現れたのは見覚えがあるような気がする豚共が現れたのですぞ。
「はん! ズルして試合に勝った癖に調子に乗ってるのかしら」
おや? 豚共の中に言葉が出来るのが混ざっていますぞ。
あー……その姿からしてタクトの取り巻きにいた正体がグリフィンですぞ。
という事は……ゲ! タクトの竜帝までいますぞ。
これ以上近づかれるとライバルが憑依しかねないので距離を取りつつ問答無用でぶち殺さねばなりませんな。
「ヴォ……ヴォウウウウウウウ! ガアアアアア!」
「ヴォルフ!? どうしたの? 落ち着いて!」
ヴォルフが何やら豚共を見て興奮したように雄叫びを上げたのでお義父さんが抑えますぞ。
「お前らは……試合を観戦して騒いでいた女共か……応援していた男が自分にやられたからと襲撃とは随分と過激な奴らだな」
ああ、なるほどですぞ。
タクトがボールセブンとかなんかのリングネームで参加していたのですがワニ男にやられたという事ですな。
ふむ……そこそこ強化しましたがタクトに勝てる程度には能力値が上がっているという事ですな。
中々の成長具合ですぞ。
「怪我をしたくなかったら帰れ。いつまでもみっともない」
「ブブブヒ! ブッブ!」
豚の一匹が喚きました。
「なんじゃと! 我らのタクトを会場を買収して最大限弱体化させて勝った程度で何を抜かすか!」
そんな事してませんぞ。飛び込み参加のワニ男が裏工作をしていない裏コロシアムで補助を施して貰えるはずはありませんからな。
むしろそのあたりの裏工作を込みで試合に参加したくらいですぞ。
タクトの場合は自身の強さにうぬぼれているので裏工作なしでデバフを受けても優勝できると調子に乗っていたのでしょう。
ちなみにあのループのタクトは最後近くは金に物言わせて強化魔法をかけて俺に挑んでましたな。
ザッザ……と豚共の背後、建物の陰からタクトが相変わらず調子に乗った面で現れましたぞ。
「ふん。卑怯な雑魚共が……なんだこいつら、揃いも揃って野郎ばかりじゃねえか。むさ苦しい」
そして現れたタクト。
見るだけで反吐が出ますな。
ですが飛んで火にいる夏の虫。ここで出会えるのですから丁度いいとも言えますな。
しかし、むさ苦しいとは……お前は豚しか居ませんがな。
そういえばどこかの世界のお義父さんが『女ばかり連れていてうぜぇ野郎だ』と豚ばかり連れていた奴に言われた事があると言っていましたな。
フフフ……タクト、今回のループではどのようにお前を苦しめてやるか考えてはいたのですぞ。
並大抵の苦しみでは俺は満足できませんからなぁ?
お前の苦しむ声がフィロリアル様達への鎮魂歌になるのですぞぉおおおおおお……ふふふふふふふ。
「あの……そこの人がとんでもなく邪悪そうな殺気をこれでもかと放ってるのが気になるのですが」
「ああ……自分もアイツらより後ろから漂うアイツの気配の方が恐ろしい。何があるのか聞きたくない」
「元康くん? その……」
お義父さん達がそんな俺の気配を察しているのか心配そうにこちらを見てますぞ。
俺よりもタクト連中に意識を向けなければいけませんぞ?
一匹たりとて容易く殺してはいけません。
あいつらが壊したフィロリアル様の卵の分だけ、むごたらしく苦しめてから殺さねばいけないのですからな。
「ヴァウ! ガアアアアア!」
「ヴォルフ! 落ち着くんだ! 聞け!」
お義父さんが制止するように何度も命じますがヴォルフは落ち着く様子がありませんぞ。
今はそんなことよりタクトをどう惨たらしく処分するかを考えねばいけませんぞ。
「ブブヒ? ブブブブブヒャーブブブ!」
そんな落ち着きの無いヴォルフを混じった赤い頭巾をかぶった豚が見て何やら鳴きましたぞ。
「ああん? ああ、そんな奴がいたな。臆病に俺を前にブルブルと震えていた根性なしの駄犬が」
何やら肯定とばかりにタクトがヴォルフを舐め切った目で見ますぞ。
「まさか卑怯な連中の中に駄犬が混じってるとはな。お似合いだぜ」
「お前ら……ヴォルフの知り合いか」
「ヴォルフー? 随分な名前を与えられてるみたいじゃねえか。臆病にもぶるぶると震えてるだけが取り柄の駄犬がよー」
「ガアアアアアアア!」
タクトの挑発にヴォルフが雄叫びを上げてますぞ。
「ブブヒ、ブブブ、ブヒャー」
赤ずきん豚がベラベラと何やら発してますが全く分かりませんぞ。
お義父さん達の話ではどうやらこの豚とヴォルフは何やら因縁があったようですな。
後にわかるのは人体改造の実験で使い物にならなくなった腰抜けの狼がこんな所で何をしてるの? っといったような挑発をしていたそうですぞ。
確かヴォルフの予後不良になる前のリングネームがカゥワード。
タクトが付けたリングネームだったという事ですかな?
「そんな……ヴォルフがこいつらに……」
唖然とするお義父さんと奴らの態度に不快に思ったワニ男たちが殺気を放ち、構えますぞ。
「ガアアアアア!」
「あ! ヴォルフ!」
お義父さんの制止を振り払ってヴォルフがタクトに向かって駆けだしました。