「子どもの性的消費許さぬ」12歳が人身取引被害 フランスの視点は
東京の「マッサージ店」で性的サービスを強いられていたとして、タイ国籍の12歳の少女が人身取引の被害者として保護された事件。33日間で約60人の客が少女に相手をさせていたと報じられています。「少女を置き去り」「(店と母親側で)売り上げを折半」など母親を問題視する報道が過熱していますが、フランスで子ども家庭福祉を研究する安發(あわ)明子さんは「批判されるべきは誰なのか」と疑問を投げかけます。
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――事件をどう見ますか。
母親が店に少女を置き去りにしても、店が少女を雇わずに支援につなげば、60人の客がサービスを受けることを断れば、少女は守られた。少女は被害に遭わずに済んだはずです。実際に少女に加害行為をおこなったのは母親ではなく、店と客です。周囲の大人がなぜ少女を守る行動をせず、搾取し続けたのかを問うべきだと思います。
――安發さんは日本で自治体職員として生活保護を担当し、2011年からパリを拠点に、社会福祉政策を研究しています。日本とどう違うのでしょうか。
フランスの社会福祉の基本として「誰もが常に考えうる限りの最善の選択をしている」という考えがあります。周囲から「問題」と見られる行動は、その人にとって「生き延びるための戦略」なのです。その人の背景、経験の中で、その方法が最善だと思って行動しているので、なぜそれが起きたのかを考えます。
母親もフランスでは「被害者」
貧困や孤立、支配や搾取、暴力などがある中で暮らしている人は、生き延びることに精いっぱいで、長期的な視点で物事を考えることが難しいことがあります。
今回の事件では、少女の母親も性産業で働いていたと報じられています。フランスでは2016年、売春の状況にある人を被害者ととらえ、買春者を罰する買春処罰法をつくりました。未成年や障害のある人、妊娠中など弱い立場にある人に買春行為をすればさらに厳しい罰が適用されます。あっせん者への罰金は日本円で4億円にものぼります。
実態調査で、売春の状況にある人のほとんどが暴力の被害を経験していて、不安定な暮らしをしていることがわかったためです。母親が性産業で働いていたとすれば、フランスの法律では母親も「被害者」です。
――フランスはどのように子どもを守っているのでしょう。
女性や子どもを性的消費の対象にしない社会をつくろうとしており、特に子どもを守る動きは強いです。
子どもを守るための「市民の当然の行動」
実在の人物か漫画やアニメに描かれたものかを問わず、子どもを性の対象として描くことは違法です。23年には未成年者への暴力防止を専門に扱う「OFMIN(オフミン)」という警察組織ができ、小児に対して性犯罪をした者の捜査や、動画や画像内の未成年を見つけ出し保護することを専門としています。
――日本サッカー協会の技術委員長だった男性がフランスに向かう航空機内で児童ポルノを閲覧したなどとしてフランスの裁判所で有罪判決を受けた事件もありました。
タブレット端末で児童ポルノを見ていた男性に声をかけ、警察に通報したのはフランスの航空会社の客室乗務員でした。市民としての行動です。フランスでは学校教育のなかで、自分が社会を構成する市民としてどう行動すべきか、ということを学びます。不幸な人がいたら、社会を担う自分にも責任がある、と考えます。
フランス政府は、中国のネット販売「SHEIN(シーイン)」で少女のような見た目の成人用玩具(セックスドール)が販売されているとして、国内での販売を規制しました。市民は抗議行動をし、署名活動がおこなわれ、買った客の対応も警察に求めています。
日本のSNSでは、保護者が未成年の娘の下着を売ったり、太ももの写真とともに撮影会を告知したりする投稿が出てきます。お金を稼ぎたい人が子どもを売り物にできるという社会なのです。子どもが性的に搾取されようとしている状況を黙認し、困った状況にいることを「自己責任(で仕方がない)」とする社会をやめ、大人たちが子どもを守るための行動をし、「子どもたちが安全に育つ社会をつくりたい」という点で連帯していく流れを築きたいです。
あわ・あきこ 1981年生まれ。一橋大学卒業後、首都圏の市役所職員として生活保護を担当。2011年に渡仏し、社会福祉政策を研究している。著書に「一人ひとりに届ける福祉が支えるフランスの子どもの育ちと家族」(かもがわ出版)など。
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国は11月12日から25日まで「女性に対する暴力をなくす運動」を実施している。
●配偶者暴力相談支援センター ☎#8008(はれれば)
●性暴力・性犯罪被害者のためのワンストップ支援センター ☎#8891(はやくワンストップ)
年齢や性別を問わず相談できる。
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