「会えない」って泣く君と

　　《呼び出し音》
　　（デートの日。
　　　さて、そろそろ…と出かける準備をしていた彼の電話が鳴る）

もしもし…？

どうしたの。

　　（「ごめんね…今日のデート…行けない…」）

「デート行けない」って何かあったの？

具合…悪いの？
風邪？

　　（「風邪じゃないんだけど…」）

違うの？
頭痛？それともお腹壊したりとか？

　　（「とにかく具合悪いの…だからごめんなさい…」
　　　彼女の声の様子から「もしかして」と思い切って質問してみる彼）

…あの、さ。

んー…。

もしかして…生理？

あ、ぁぁ…もし嫌な気分にさせたのならごめんね？
デリケートな話だから、言いたくないなら何も言わなくていいよ。

　　（「生理、って聞いて…嫌じゃない…？」）

ん？
なんで？別に嫌じゃないけど。

　　（「前…生理…理由に約束断って…嫌がられたから…」）

前…って、僕と付き合う前の人？
なんか言われたの？

　　（「言われたし…それで喧嘩になったの…」）

喧嘩？

そっか…。

ね…症状どんな風か訊いてもいい？

　　（「…お腹痛いの。それに眠い」）

お腹痛くて眠いのか。
今辛い？
どこで電話してる？
横になれるならなって、あったかくして？

それとデートはまた今度すればいいよ。
こうして電話してるのだって立派なデートでしょ？
声聞けてるからさ…嬉しいよ。
気にしないで？

　　（彼女電話の向こうで泣きだす…）

ん？
辛くなってきたの？
違う？
…じゃあどうして泣いちゃってるの？

この時期特有の…なんだっけPSMだっけ…そのせい？

　（「会いたいよ…」）

ん？会いたい？

そっち行こうか？

　　（「ううん…駄目…会えないよ…」）

なんで駄目？…なんか理由あったりする？

言うの嫌じゃなかったらさ…。
今後の為に知りたいなって思うんだけど、聞かせてもらえそう？

　　（「『汚い』って…」）

汚い？
何が？

生理の？

なんで？

　　（彼女、以前の彼の家で自分のスカートと彼の家のソファを汚してしまい
　　　ひどく元カレに詰られた事を説明）

…スカートとソファね。
そんなの君のせいじゃないでしょ。

でも…？

うん…。

それで僕とも会いたくないんだね…？

そっか…。
嫌だったよな…。
君が悪い訳じゃないのにね…。

「でも」なんて言わなくていい。
そう言う事言える人は一緒に生活なんて出来ない相手だから…言われた事もされた事もみんな忘れていいよ。

だって生きて生活してれば、なんだって少しずつ汚れるもんだよ？
例えば僕が今ノロに罹ってさ、急な吐き気に間に合わなきゃ床やパジャマ…汚すと思うんだよね。
吐瀉物か経血かの違いだよ。
具合が悪くて、辛くて、どうしようもなくて起きた事なのに、それを一々叱責してくる相手となんて、やってられないだろ？
そんなの運命の相手じゃない。
だからその人の事も言われた事も、忘れていいんだよ。

僕？
僕はそう言うの案外平気。
これでもヤングケアラーだったし。
爺ちゃん婆ちゃんや姪っ子まで、一通り経験あるんだよね。

それにさ…経血って汚いものじゃないよ？
あれって使われなかった赤ちゃんのベッドじゃない。
学校で習わなかった？
いつか自分の子供を宿してくれるお腹の中にあった尊い物でしょ。
それで服や家具が汚れて慌てたとして、怒って喧嘩は僕からしたら子供だな…と思うけどね。

さて…所々毒吐きながら僕の見解を伝えたつもりなんだけど、「会いたいのに会えない」ってメソメソ泣いてる彼女のとこに僕は会いに行ってもいいのかな…？

会いたい？

会ってくれる？

じゃあ、楽な姿勢でリラックスして、ゆったりした気分で待ってて？
これからそっちに行くよ。

君の好きなプリン、買っていくね。

今日はずっとそばにいるよ。
うんと甘えな？
受け止めるから。

安心していいよ…。

じゃあ、後でね。

【fin】