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【台湾有事は存立危機事態か?】 「台湾有事」が日本にとって「存立危機事態」(=限定的な集団的自衛権の行使が可能となる事態)に該当するかどうかが、国会やメディアでも話題になっていますので、少し整理しておきます。 ◾️存立危機事態の定義 事態の認定は、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」第2条第1項第4号の定義に基づいて、政府がその都度、判断することになります。 「存立危機事態」の法律上の定義は以下のとおりです。 ①我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより ②我が国の存立が脅かされ、 ③国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある 事態です。 ◾️「密接な関係にある他国」への攻撃が条件 よって、「存立危機事態」が認定されるためには、例えば、以下のような条件が満たされることが必要です。 ①「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃 → 日本は台湾を「国家承認」していないため、台湾への攻撃のみをもって日本が集団的自衛権を行使することはできません。法律上は、「密接な関係にある他国」が攻撃を受けることが条件で、この「密接な関係にある他国」には米国が想定されています。その上で、 ②「我が国の存立が脅かされる」 → 例えば、台湾周辺海域での戦闘が拡大し、日本のシーレーンや離島の防衛、在沖米軍基地の機能に直接影響が及ぶような「我が国の存立が脅かされる」ことが条件です。さらに、それだけではなく ③「国民の権利が根底から覆される明白な危険」 → 例えば、日本本土や在日米軍基地が攻撃対象となったり、エネルギー・食料供給が遮断されて、国民生活に致命的な打撃を受けるといった「国民の権利が根底から覆される明白な危険」が発生することが条件です。 ◾️台湾への攻撃だけでは、存立危機事態を認定できない 要は、台湾への攻撃があっただけでは、存立危機事態を認定できません。そして、仮に、米国への攻撃があった場合であっても、それだけで認定できるものでもなく、我が国や国民への地理的、機能的影響の有無について冷静に見極めなければなりません。 そして、先日のトランプ大統領の発言からも分かるように、米国は、台湾有事の際に米国が介入するかどうかについては明言せず、「あいまい戦略」を取り続けています。仮に、米国の介入がないのであれば、「存立危機事態」の認定はできません。 よって、「台湾有事は日本にとって存立危機事態か?」と問われれば、「すべての情報を総合的に勘案してケースバイケースで判断」としか言えません。それは歴代の総理も防衛大臣も同様に答弁してきました。 ◾️武力行使の「新3要件」 加えて、存立危機事態と認定されただけでは、「武力行使」はできません。 武力を行使するためには、いわゆる「新3要件」を満たす必要があり、 (1)「存立危機事態」であることに加え、 (2)「他に適当な手段がない」こと、 (3)「必要最小限の実力行使」にとどまること との要件も満たさなければなりません。 憲法上の制約に起因するハードルが設けられています。 ◾️政治家もメディアも慎重で正確な情報発信を 安全保障の問題はすべての国民に関わることです。 法律上の要件や定義などについて、政治家やメディアは慎重かつ正確な情報を発信することが重要です。また、日中国交正常化の際、田中角栄総理、大平正芳外相が署名した「日中共同声明」をはじめとした歴史的経緯への理解も不可欠です。少なくとも、TVなどのメディアが、「台湾有事は存立危機事態か?」といった“雑な“設問をすることには、ことの重要性と複雑性を考えれば、慎重になるべきです。誰の利益にもなりません。