DNAの二重らせん構造を発見したワトソン氏が死去、その光と影

1962年にノーベル賞を受賞した分子遺伝学の草分け、人種・性差別的発言に批判も

2025.11.15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
DNAの構造を共同で発見したジェームズ・ワトソン氏。(Photograph by Max S. Gerber, Redux)
DNAの構造を共同で発見したジェームズ・ワトソン氏。(Photograph by Max S. Gerber, Redux)

 DNAの二重らせん構造をフランシス・クリックと共同で発見し、ヒトゲノムの塩基配列決定に貢献した米国人分子生物学者のジェームズ・ワトソン氏が2025年11月6日、97歳で死去した。

 ワトソン氏は1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、遺伝学の草分けとして高く評価されていた。だがその一方で、研究に貢献した人物の名を出さなかったことや、差別的で論争を呼ぶ発言を行ったことなどで、自らの名声に傷をつけた。

生命の秘密を発見

 ワトソン氏と研究仲間の分子生物学者フランシス・クリックは、1953年春、デオキシリボ核酸の二重らせん構造を明らかにした論文を学術誌「ネイチャー」に発表した。ねじれた梯子のような形は今でこそおなじみだが、人間を含むあらゆる有機体の遺伝情報を持つDNAの分子を人類が目にしたのは、このときが初めてだった。そしてこれが、進化の起源から遺伝性疾患に至るまで、あらゆる概念に革命をもたらした。

「私は世紀の発見をしました」と、ワトソン氏は数十年後に語っている。「遺伝の要因であり、人間の存在を可能にする分子がある日突然見られるようになったことは、人間が自分自身を理解するうえで非常に大きな一歩でした。人間という種は固定的ではなく、変化しているのだとダーウィンが理解していたように。これが全てに対するものの見方に影響を与えることになります」

人種差別的・性差別的な発言も

 自分たちの発見について回想した著書『二重らせん』の冒頭で、ワトソン氏が「謙虚になったフランシス・クリックを見たことがない」と記していることは有名だが、そのワトソン氏も、謙虚さや気配りで知られていたわけではない。

 それどころか、人種差別や性差別的な見解を示したり、「愚かさ」を排除し「すべての女子をかわいらしくする」ための遺伝子操作に肯定的な発言をしたりして、非難を浴びた。

1953年5月、英ケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所で、DNA分子の一部分を再現した模型を見るワトソン氏(左)とフランシス・クリック(右)。(A. BARRINGTON BROWN, © GONVILLE & CAIUS COLLEGE / SCIENCE PHOTO LIBRARY)
1953年5月、英ケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所で、DNA分子の一部分を再現した模型を見るワトソン氏(左)とフランシス・クリック(右)。(A. BARRINGTON BROWN, © GONVILLE & CAIUS COLLEGE / SCIENCE PHOTO LIBRARY)

「ほとんどの科学者とは違ってワトソン氏の場合、50年間にわたって本、記事、インタビュー、講演で公に物議をかもした発言に色付けられるでしょう」と、米ジョージア州立大学の法律学教授で生命倫理を専門とするポール・ロンバード氏は言う。

 とはいっても、研究室でのワトソン氏の功績がほかの科学者たちによるDNAの塩基配列決定への道を切り開いたことは確かだ。それがひいては、ワトソン氏の協力もあって米国立衛生研究所でのヒトゲノム計画の立ち上げへとつながった。

 人間のDNAを作り上げる遺伝子の地図を作成するという国際的な取り組みは、ワトソン氏とクリックの発見から半世紀後の2003年に完了した。それから5年後、ワトソン氏はJ・クレイグ・ベンター氏に続いて、60億塩基対のDNAを解析された2番目の人間になった。(参考記事:「ヒトゲノム解読から10周年」

生い立ち

 ジェームズ・デューイー・ワトソン氏は、1928年4月6日に、実業家の父ジェームズ・ワトソンとその妻ジーンの一人息子として、米イリノイ州シカゴで誕生した。子どもの頃に、父親とよく一緒に楽しんでいたバードウォッチングがきっかけで、遺伝学に興味を持つようになった。

 15歳で奨学生としてシカゴ大学に入学し、1947年に動物学の学士号を、3年後にインディアナ大学で博士号を取得する。博士論文のテーマは、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージへのX線の影響だった。これがDNAへの興味をさらに高めることになる。(参考記事:「私たちはウイルスの世界に生きている」

次ページ:本人曰く、科学界では「抹殺」

おすすめ関連書籍

ジェネシス・マシン

合成生物学が開く人類第2の創世記

DNAを操作して生命体を改変する合成生物学。医療や農業に画期的な進歩をもたらす一方、人類に大きな倫理的課題を突き付けている。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕〔電子版あり〕

定価:2,640円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加