ちゃおさんとの全て
結局死ねませんでした。こんなことを繰り返して僕はそのうち本当に死んでしまうだろうから、その前に僕とちゃおさんとの間にあった全部を記録に残しておきたいと思います。
きっかけは去年の秋、たまたまTLに流れてきた一本のnoteでした。『平成二十五年のバレンタイン・イブ』と題された俺ガイルの二次創作は僕を後にも先にも経験のない大恋愛に引き摺り込んでしまいます。
戸塚彩加がトランスジェンダーで八幡に恋してるって前提で書かれたそのnoteは自身そうである僕には一目で「これ書いたやつトランスだ」とわかるもので、シンパシーを感じたし、なにより内容が面白くて、それで僕は執筆者のツイートを見漁ったのでした。これがちゃお@ci4o_neko との出会いです。
ツイートを読めば読むほど面白い人だと思いました。ユーモアも知性もあるし、哲学とアニメとヒップホップに詳しくて加藤純一が好きでトランスジェンダー。こんな属性盛りだくさんのやつっていない。
何年も前のツイートまで遡った。すごい頻度でバズってた。真面目なツイートだったりネタツイだったり、いろいろ。
こんな面白い人間がいるってもっと早く知りたかったと思った。この時点で僕はまだ自分の気持ちに気付いていなかったけど、毎日ちゃおのことを考えるようになってました。
そんなある日のこと、僕は中野ブロードウェイを散歩していて、近くにいるので会いたいと申し出てきたFFと会ったらそれはもうすっごい壊滅的な容姿の人で、その壊滅さんとブロードウェイを歩きながらTLを見てたらちゃおさんが「神保町で会える人募集」ってツイートをしてた。
この機を逃すな!僕は当時まだフォロバもしてもらってなかったのに「会いたいです!」ってリプして会ってくれることになった。
壊滅さんとのエンカをさっさと切り上げて電車に乗り込み、指定された東京堂書店に向かう。
3階の哲学コーナーに姫カットのやつがいる、それが僕だってちゃおさんは言った。
僕はドキドキしながら3階を歩き回って、見つけた。長くて綺麗な髪、サブカル君って感じのジャージを着たちゃおさんを。
僕はもうずっとテンションが上がってて、とにかくいろんなことを喋り倒した。
お互いのセクシャリティのこと、哲学のこと(僕は知ってる哲学者が西田幾多郎しかいなくて、それを言ったら後日裏でバカにされた)、ヒップホップは神でTwitterのサブカルがロックばっか聴いてるのはシャバいってこと。
ちゃおさんは神保町で一番お気に入りの長島書店に連れてってくれた。それで自分が売った本が書棚に並んでるのを指して本が循環してるとかなんとか言って、変なやつだな、可愛いなって思った。
とにかく面白くて、Twitterで学問の話なんかしてるやつの印象に反して明るい陽キャで、一緒にいて楽しくて。この時点で僕はまだ恋してたってわけじゃないけど、なんか気持ちが浮ついてたのは確かでした。
それで神保町から歩いていける東京ドームシティの観覧車になぜか乗ろうって流れになって、ちゃおさんは観覧車を奢ってくれて、乗る前にスタッフの人が写真撮影してるやつあるじゃん、あれで僕ら恥ずかしい〜とか言いながらツーショ撮られて、そんで乗った。
観覧車の中でちゃおさんはちゅーしようって言い出して、僕はまあキスなんて何度もしてきたけど男の子(というのが酷いことなのはわかってるけどこの時点で僕の脳はちゃおさんを女って確信できてはなかった)とするのは初めてだったからすごく緊張した。
だからあんまり上手くできなくて、ちゃおさんに「もっと舌入れろよザコ」とか言われてすごい恥ずかしかった。
さらに僕らは互いの性器が去勢済みであることを目視で確認して、ちゃおさんはそれを「魂の確認」とか意味不明なこと言ってはしゃいでいたし、服をめくったらカルバンクラインのスポブラをつけててバカエロかった上、乳首が弱くて死ぬほど可愛かったのだ。下着なんかつけて僕よりちゃんと女の子やってる姿にすごく惹かれたのを覚えている。
降りたら乗る前に撮られたツーショが千円で売られていて、僕は普通に欲しくなっちゃって購入。ちゃおさんも買ってくれたのが嬉しかった。
そのあとは確か新宿だったかな?のアニメショップに行ったんだけど、そこでもエレベーターの中で首舐めながら乳首触ったり多目的トイレでイチャついたり、初対面ですることではないようなことをした。僕はもともと貞操がバグっていて道端ですれ違った子と5分でホテル入ってるような感じだったから、ちゃおさんも同じくらいバグってることが気楽だった。10代から体を売ってきた人間同士の性に対する特有の距離感みたいなものがあって、そういう感覚において分かり合えた気がして嬉しかった。
ちゃおさんはアニメのポスターとか見ながら「萌え萌え〜」とか言ってふざけていて、それがなんか可愛くて、アニメとかのネットノリに真っ直ぐ染まって育ってきた人なんだろうなって気がして羨ましかった。
あの人は歩いている間ずっと手を握っていてくれたり、方向転換する時に僕の袖をひょいって引っ張ったり、頭をわしゃわしゃ撫でてくるから本当にドキドキしちゃったし幸せだったんだ。
今度セックスしようって約束して、僕はすごいにっこにこな気持ちで家に帰って買った写真をどかーんって部屋に飾った。当時僕はおばあちゃんと住んでて、「この子超可愛くない!?男なんだぜ、すごい楽しかった」とかっておばあちゃんに熱弁していた。
帰りがけ初めて読む哲学書は何がいいか聞いてサルトルって言われたから、僕は次の日もう一度一人で東京堂に行って『実存主義とは何か』を買って読破した。振り向いてほしかったから。
それ以降LINEしたりTwitterのリプで絡んだりしてるときゅんきゅんして、褒めてもらえたり思わせぶりなことを言われた時には本当に舞い上がってしまうようになって、毎日一日中ちゃおさんのことを考えるようになっていて、それで恋しちゃってることに気付いた。僕ってこの人のこと大好きだ。
本当にびっくりした。僕は性転換済みのトランスジェンダーだったとはいえはっきり男性に恋したことはなくて、ずっと女性が好きだったしこれからもそうなんだと思ってた。
だからmtfとはいえ正直男性として認識してる相手を好きになったことが衝撃だったし、嬉しかった。
それで僕は完全に女の子になってしまった。女性として男性に恋したのだ。
ちゃおさんのことが好きで好きで壊れちゃいそうだったから、ちゃおさんへの気持ちだけをツイートする鍵垢を作った。
大好き、大好き、大好き、二人でいろんなことしたいの、お話するとどきどきするの、とかツイートしてたと思う。
この時期の僕とちゃおさんのリプでのいちゃつきようはすごくて、知らない人に「付き合ってるのかと思ってた」とか言われるほどだった。
それである日僕がスペースで恋バナしていて、その場にいた人に僕の好きな人当ててみてって聞いたら「ちゃおって人でしょ?」とか言われてしまって横転した。リプで会話してる時のおまえの様子がちゃおとの時だけ他と違うって言われてしまって恥ずかしかった。
なおやばいことにはそのスペースをちゃおさんが匿名で聞いてて全部バレた。
付き合ってくれる様子はなかったし、最初はいい感じだったのに段々ちゃおさんは僕のこと冷笑するようになっていて、ヤケクソになった僕は例の鍵垢にちゃおさんを通して毎日毎日届かない想いをツイートしまくった。
ちゃおさんに鬼ラインしまくったり泣きながら電話かけたりしてキレられて、やっぱ僕は好きな人と付き合ったりはできないんだなって思った。
その頃僕はバズってちゃおさんに追いつきたいあまり暴走して、スペースでなるくんを障害者って罵倒して炎上して心底ちゃおさんに呆れられちゃったのだけど、それはそれとして元々セクアポの約束してた日に横浜デートすることになった。ちゃおさんが風邪ひいてセックスは無しになったけど。
ちゃおさんはなんかすごい景色のいい高台みたいな場所を知ってて、二人で住宅街の階段を走りまくって登った。
その時遠くに見えたヤシの木にテキトーに歩き続けてたら辿り着いて、遠くに見えたものが現実にちゃんとあるのがゲームと違くて面白いよなみたいなことをちゃおさん言ってた気がする。フェリス女学院とかある高級住宅街を通って、フェリス見るとGIDが刺激される話とか、昔あの辺の高級住宅から出てきたヘッドホンつけた可愛い女の子にちゃおさんがゴミを見る目で睨まれた話とかを聞いた。
キリスト教の解禁後初めて出来たカトリック教会に行ったり、近代文学館に行ったら閉館日だったりした。文学館で知らないお年寄りに突然「頑張って」と謎の声かけをされて、ちゃおさんは「頑張ります!泉鏡花越えるぞ!」とかふざけた返答してて可愛かった。
中華街でご飯食べたらちゃおさんトイレで吐いちゃって、お会計の時に「ご馳走様です!おいしかったです!」とかわざとらしく言うものだから人間のふりすんなって言ってやった。
あー、苦しいな。そういうこと言い合ってるのがなんだかんだ幸せだったんだ。
結局夜景の綺麗な場所でなるくんの件を謝って和解して、いちゃついて解散して。
それからしばらくして僕はまたたまたま目の前で起きた飛び降り自殺未遂を撮影してツイートして炎上してちゃおさんにリムられて。
ちゃおさんは僕を批判するnoteを書いた。『口さがない友人への手紙』っていうのがそれだ。
僕はなんか返答にもなってない返答のnoteを書いて、それはもう消したのだけど、とにかくそういうやり取りがあった。
そのあとは長いことたまにしか連絡を取らない時期が続いたのだけど、5月の文フリに誘われて久々のエンカをした。
ちゃおさんは髪を切ってボブになっていて、僕はボブが好きだからもう本当に鼻血が出ちゃいそうなぐらい可愛かった。ちゃおさんは会うなり駒木〜!って頭を撫で回してくれた。
ちゃおさんは『マッキントッシュ』っていう同人誌に四万文字くらいの論稿を載せていて、それが100部売り切れるのを僕は見ていた。
東浩紀に献本するのについていって、ちゃおさんが献本した後に僕が他のmtfのやつと一緒にサインもらいに行ったら「君たちはさっきの子の仲間?髪型とか寄せてるの?」って聞かれて「トランスジェンダーの集団です!」と答えておいた。
その日のちゃおさんはいちゃつきようがすごくて一日中手を繋いでくれたから、一緒にいた人が「あの二人付き合ってるの?」って噂してたらしい。
ちゃおさんは途中から自分の文章の出来が気に入らないっていうので病み出して、帰りの電車の中でずっと僕の膝に泣きついていた。
それでもう僕は一生この人のことが好きだって確信してしまった。
だってさ、哲学の専門的な教育を受けたわけでもない同い年の人間があれだけの文章を書いてしかも100部売り切った時点で相当痺れてしまうのに、それで調子に乗るどころかまだまだだって病んでる姿をかっこいいと思わない人がいる?
僕はずっと頭撫でながら、お前が頑張ってたの知ってるよとかって声をかけてた気がする。
結局そのあとは渋谷で耳舐めたり首絞めあったりめちゃくちゃにイチャついて解散した。
渋谷で歩いてたらヤリラフィに「可愛いね!」って声をかけられて(僕に言ってたのかちゃおさんに言ってたのか未だに謎)ちゃおさんが「うるせえ殺すぞ!」とか謎に食ってかかったから向こうもキレてきて二人でガンダして逃げたりした。楽しかった。
それからしばらくして、吉野うごくくん主催の飲み会でちゃおさんと再会した。
一軒目で既に泥酔して騒ぎまくってた僕にちゃおさんがうるせえよってキレてきたから、僕も頭に来て一触即発になった。もともと僕があの人に抱えていた劣等感やフラストレーションをぶつけてやりたくて僕は殴り合いしようぜとか言ったんだけど、その場にいた人が制止してそうはならずに済んだ。
二軒目の水サーで泥酔したちゃおさんを駅まで送り届ける途中、「俺ちゃんと強いふりできてたかな?」とか泣き始めた。
それでまた僕は頭に来てしまって新宿東口に向かう大通りでちゃおさんを地面に押し倒して「俺には弱み見せろよ!」って絶叫した。
すれ違った地雷系の女が盗撮してきて、とってんじゃねーよ!って怒鳴ったらうるせえブス黙れ!って怒鳴り返された。
そのあとちゃおさんから「いつもごめん、頼りにしてる」みたいなLINEが来て、他にも内容は覚えてないんだけどほぼ告白みたいなLINEが来た。「今一人?話したい」とか言われた気がする。
それで僕はまだ他の人たちと一緒にいたけど一人だよって嘘ついて、その場にいた人に返信の助言を受けながらちゃおさんといろいろ話した。
それで「僕と付き合ってほしい」って改めて伝えたんだけど、「おまえと付き合う必然性がない」って振られてしまって、は?たった今告白みたいなLINEしてきただろってゲロ病みして吉野うごくの家の近くの展望台で叫び散らした。
そのあと僕は家で自殺しようと思ってレスタミンをODして半狂乱になって病みツイを連発した。翌日薬が抜けてから当時働いてた男の娘風俗のパネルの撮影に行った。
その時撮ったこの写真が万バズして、その前後に繰り返してた病みツイも飛び火するようにバズってあるツイートには12万いいねがついた。
それで700フォロワーから一気に2600フォロワーにまで増えて僕はいきなり有名人になってしまった。後になって薬の後遺症で動悸や眩暈がしたので救急車を呼んで東大病院に連れてかれた。そしたら水を2リットル飲まされただけだったので家で出来たじゃんって横転した。
まあそれはいいんだけど、それからしばらくしてまた吉野うごく界隈の大規模エンカがあった。
なぜかドゥルーズ研究者の檜垣立哉が来ていて、僕がちゃおさんに「檜垣立哉いるぞ!」ってdmしたらちゃおさん来てくれた。
その日はもうめちゃくちゃだった!参院選だか衆院選だかの開票速報を見ながらモモンガの肉とか食いながら馬鹿騒ぎする回だった。
一人一人自己紹介している間、僕とちゃおさんは「みんなつまんないから面白くなるまでちゅーしようぜ」とか言ってずっとちゅーしていた。
僕がちゃおさんのこと押し倒して「おまえと一緒にいれたら俺は幸せなんだよ!」とか叫んでた時隣にホリィ・センさんとか学対さんとかいた気がする。
ちゃおさん泥酔してゲロ吐くし、僕は僕でナツボルの旗をマントみたいに羽織りながら他の男の娘のアナルに指突っ込んで遊んでいたし、その男の娘と僕とちゃおさんが全員髪長くてサブカル地雷みたいな格好だからおまえら服変えろってみんなに茶化されていた。その三人で帰る間ちゃおさんはまた「一人になりたくない!」とかなんとか喚いていた。僕がいるだろ、って何回も伝えた気がするけど、僕じゃだめらしい。
そのちょっと後のこと。僕は福岡の女の子と一週間くらい遊んでいた。
手首切り合ったり福岡のホスクラに連れてってもらったりしてすごい楽しかった。で、福岡から東京に帰るちょうどその日に東京で花火大会があって、ちゃおさんと二人で行こうってことになったんだけど僕が遅刻して花火に間に合わなかった上、飛行機の中では電波が使えないせいで遅刻の連絡すら出来なかった。
東京について急いで渋谷でちゃおさんと会ったんだけど当然ブチギレられて、喫茶店で詰められた。
抹茶のかき氷かなんかつつきながら僕に無言の圧をかけてくるちゃおさんは超怖かった。
それもそのはずだったのだ。ちゃおさんは僕と会うためにおめかししてくれていたし、お土産まで用意してくれていた。僕は、なんか、謝りはしたものの謝る論点がおかしかったりしたと思う。
それでもなんとか丸く納めてくれて、僕はこのまま解散なんて嫌だったのでお泊まりしたいと申し出た。それでホテルを探し回ってる途中、僕が「お前なんか恵まれてるくせに僕の気持ちがわかるかよ」みたいなことを言ってキレられてしまってボコボコに殴られた。ちゃおさんはぷるぷる震えてた。殴られるのは正直気持ちよかった気がする。
結局ネバランの目の前にあるラブホに入った。
二人とも女みたいな格好をしていたからホテル入る時に知らない男に「どっちがどっち?」って笑われた。
とにかく大好きな人との初めてのお泊まりだ。僕はシャワーに入ろうとして「恥ずかしいから裸見ないでね!」と言ったんだけど、ちゃおさんに「どうせこの後見るじゃん」って言われてキュン死しそうになってしまった。
そりゃ確かにホテルに入った時点でそういうことするのは暗黙理に同意済みではあるけど、はっきり言葉にされるとドキっとしてしまう。
それで二人ともシャワーを終えて、ベッドに入っていろんなことした。初めて裸を見た。会話の流れで僕がちゃおさんの首を絞めて後で怖かったって言われたりもした。その前にこっちが殴られてるんですけど。
そんなこんなした後、ちゃおさんは「駒木と二人で幸せになる道も真剣に考えたんだよ、でも駒木は女の子として恋愛したいんだろ、僕もそうしたいからおまえとは付き合えないんだよ」みたいなことを言った。
確かに僕はmtfで、僕が女の子として、ちゃおさんを男の子として好きだった。でもそんなことが理由に付き合えないってなら、僕はちゃおさんと一緒にいるためなら自分のジェンダーなんて捻じ曲げていいと思った。
「だったら俺が男やるから付き合おうよ!」僕はそう言った。ちゃおさんは承諾した。
え?一応確認した。「俺らってもう付き合ってるってこと?」
ちゃおさんは頷いた。
僕は、僕はもう現実感がなくてふわふわ空に飛んでいきそうになってしまった。
ちゃおさんは今までずっと王子様として僕をエスコートしてくれてた。それはすごくかっこよくて、そんな姿が好きだった。でもこれからはちゃおさんが女の子として僕に甘えてくるようになる。
白馬の王子様が実は女の子でしたなんて言われたら、しかも女の子としての姿も超可愛かったら、もう頭がおかしくなってしまう。
僕らは裸で添い寝していた。
仰向けの僕の横にちゃおさんがきゅっと縋り付いている。その細くて小さな肩を僕は左手で抱いて、僕の胸に乗せられたちゃおさんの手を、僕のより一回り小さいその手を右手で握りしめた。
ちゃおさんのふわふわの髪の毛が顔の近くに来て、こいつはこんなにか弱い体でずっと戦ってきたんだって思った。ずっと僕の前で強いふりをしていて、本当はずっと甘えたかったんだって思ったら死ぬほど可愛くて愛おしくて、俺が守らなきゃとか思っちゃって、たまらなくなってちゃおさんをひっくり返して覆い被さって体にキスをした。そしたらお母さんみたいな優しい声で「そのままでいいよ」とか言われてしまって、僕は大興奮しちゃってその夜は原義で寝かせてあげなかった。
付き合ってからのちゃおさんは頻繁に寝落ち通話をかけてきた。ちゃおさんは普段からサッカー少年みたいなイケボのくせに、女の子の声を出すとショタボみたいで死ぬほど可愛い。僕のこと「螢くん」って呼ぶようになって、螢くん、さみしい、好きだよとか泣きそうな声で縋りつかれたらこっちは寝れなくなってしまう。
アスカが布団に入ってきた時のシンジ状態。
付き合っていた期間、僕は「おまえを守れるようにおまえの言ってることわかるようになりたい」とか言って哲学の勉強するって宣言して、木田元とかを読んでいた。木田はまだ読めたけどそのあと読んだ『フーコーの系譜学』ってのが難しくて、それで僕は病んでしまって「おまえのこと守れなきゃいけないのに弱くてごめん」とか喚いていた。
僕はあの人に好きになってもらえるはずがないと思っていたし、トランスジェンダーとしてもあの人ほど可愛い顔や声はしていないし、マーチ以上のあの人と高卒の僕では天地の差がある。頭も悪いし人間としての成熟度でも劣っていた僕は劣等感や不安で病みまくって何度も喧嘩を起こした。
結局僕に男は務まらないからちゃおさんが男やるみたいなことも言わせてしまった。
ある日ちゃおさんが風邪を引いて突然今から家に来てほしいって呼び出されて、僕はまあまあな時間をかけて家に行った。
ちゃおさんの部屋は本がたくさんあってペットボトルだらけで、でもインテリアなんかはおしゃれでアニメグッズやガリレオ温度計があった。
ちゃおさんは熱で火照った体でいきなり抱きついてきて、あったかくてドキドキした。
頭撫でてって何度も言われてたくさん撫でた。撫でてる最中にももっと撫でてって言ってくるんだ。
近くの病院を調べて連れてってあげて、薬をもらってきてちゃおさんの家に戻った。
ベッドの上で耳触ってきて僕がふええってなってたら耳弱いとか言ってきたから、僕も触り返したらふええってなってて君も弱いじゃんってなった。それで風邪引いてるのに耳舐めたり首にキスしたり色々して、ちゃおさんの親が帰ってきたタイミングで僕も帰った。
「いっぱいいちゃついたね」「今日来てくれて本当に嬉しかったの」とかLINEしてくるから可愛すぎて鼻血出そうだった。
そのあともケンカしたり仲直りしたりを繰り返して、ある日ちゃおさんが行きたがってたケーキ屋さんに行った。
縦向きになっちゃった
ちゃおさんはケーキを見て「可愛い〜!」とかはしゃいでいたんだけど、僕はほとんど喋らずに「うん」とか「そうだね」とかだけ返してケーキにも手をつけずにいた。これには理由があった。
ちゃおさんに「どうしたの?」って聞かれて僕はその理由を答えた。
「正直言うとおまえが可愛すぎてケーキどころじゃないし、口を開いたら可愛いとか好きとか連呼しちゃいそうだから黙ってる」
そのあとは僕の家に行ってセックスした。
今まで何十人と何百回セックスしたかわからないけどこの時のセックスが人生で一番幸せだったな。ていうかもうめちゃくちゃなことしたんだよ、手首切りあって血とか飲んだし。僕の傷にちゃおさんの舌当たったらほんのりあたたかくて、ちゃおさんも怖いよ〜って言いながら自分の手首切ってくれて、舐めたら鉄の味がした。このときちゃおさんが飲んだ缶を僕はずっと取っておいてたまに飲み口のとこちゅってしたりしてて、同居人にいい加減捨てろって言われてもだめ!って死守してた。
そのあとカラオケに行って、ちゃおさんは愛とUとかアジカンとかヒップホップとかいろいろ歌ってるんだけどあまりにもイケボすぎてかっこよすぎて、女の子として扱おうとしてるのに王子様すぎて僕本当に膣キュンしそうになっちゃってずっと動画回してた。今でもちゃおさんの歌ってる横顔見返してかっこよさに震えてる。カラオケであんなふうにしたら女の子は全員落ちるよ、ああやってちゃおさんに好きにさせられちゃった女の子いっぱいいるんだろうな。
この時期はもう別れるか別れないかみたいな感じになっていて、もともと付き合う前からキスとかしまくってた僕らだから別れる瀬戸際でセックスやら何やらするのも僕らにとっては自然なことだった。
秋葉原駅のホームで僕は人生の一冊と言っても過言じゃないケルアックの『オン・ザ・ロード』を、ちゃおさんは『バスカヴィル家の犬』をそれぞれ交換して、ちゃおさんは電車に乗り込む直前に「別れよっか」って言った。キスをして、僕らは別れた。
別れたあともずっと友達でいようって誓い合ったのだし寂しくはなかったけど、それは嘘で普通に寂しかったから翌朝僕はFFの男性を家に呼んでセックスした。
で、僕は本格的に精神を病み始めて自殺しようとし出した。
ツイートがみるみる荒れて遺書とか載せたからみんな心配してくれて、質問箱には早く死ねとかもたくさん来たし、長文で自殺を止めてくれたり僕への愛を告白してくれる人も同じくらいたくさんいた。
ちゃおさんは僕が死のうとする理由を全部わかってくれて、他の人が僕にちょっとズレた慰めとかしてるとキレ気味に「駒木の問題はそうじゃない」ってリプしたりしてた。なんか僕のこと守ってくれてるみたいで嬉しかった。
駒木が死んじゃうって泣いてくれて、僕も「僕が死んだらちゃおさんが悲しむ」って家で泣きじゃくってた。
いよいよ死のうって時にちゃおさんが警察に通報して、最初は誰が通報したのかわからなかったんだけど警察に「通報した方とは友達ですか?」って聞かれて教えられた名前や住所がちゃおさんのものだったから僕は本当に嬉しくて、「僕のこと大事に思ってくれてるんだね」ってLINEした。
そのあともアポ無しでケーキ携えて僕んちに来てくれて、僕が大学生になって生きる希望持てるように奨学金のもらい方とか調べてくれた。
えっちしようとしたらもうそういう関係じゃないでしょって止められたけど、僕の顔を両手で持ってキスしてくれた。二人でステーキ食べに行って、駅で別れる時にもちゅーされた。
ステーキ食べた後の口でするのが恥ずかしくて躊躇ったら、え?しないの?みたいな反応されて、うぅ〜ってなりながらちゅーした。
この時期の僕はやっぱり幸せだった。そんなに誰かに大事にしてもらえて、理解してもらえたのって初めてだったし、しかも一番大好きな人にそうしてもらえた。その時点で僕は、本来僕って人間には許されてないくらいの幸せを与えてもらったんだと思う。ちゃおさんはずっと幸せをくれる人だった。
そのあとの僕は女の子の家に住んだりいろいろしていたんだけど、ある時期ちゃおさんと復縁した。
僕はずっとちゃおさんのことを好きでい続けたし、ちゃおさんもやっぱり寂しかったんだと思う。なんだかんだ通話でいちゃついたりしてるうちに一緒に住もうって話になって、いつのまにか復縁していた。
それで僕はボブだった髪をマッシュに切って、就職してお金を貯めることにした。
ずっとニートだった僕にとって就職は並大抵のことじゃなかったし、女を捨てて男を引き受けるのも大変なことだった。でも僕はちゃおさんと一緒にいたかったし、僕なりにあの人を幸せにしてあげたいって思ったのも嘘じゃない。
それで風俗の内勤の仕事を見つけて、ミスばっかしてどやされながらもなんとか続けていた。
毎日ちゃおさんがよしよししてくれるし、好きな女の子のために頑張って働く自分はかっこいいって思ったから続けられた。
喧嘩も何度もしたけどその度に仲直りした。くっついて離れてを繰り返してたから周りからはあいつらなにやってんだよって思われてたと思う。
職場でお金貯めて何したいか聞かれて「結婚っす!あの人のためならなんでもできるんで!」とか僕は言っていた。クリスマスにデートしようって話になって、今まではちゃおさんがリードする側だったから、今度は僕がお店調べて高いディナーとホテル予約して財布出させないでエスコートしようと思った。ちゃおさんはかっこいいって言ってくれたし、自分でも正直かっこよかったと思う。
でも結局取り返しのつかない喧嘩をして、働く理由も気力もなくなった僕は仕事を飛んでしまった。
それでまた僕は自殺を考えるようになった。
何日か前また仲直りして寝落ち通話とかしたけど、昨日の今日くらいにちゃおさんは「一人にならないと弱くなる」とか言って僕のことを捨ててしまった。
あの人はいま作家を目指していて、そのために自分を追い込みたいんだと思う。
人のこと言えないけど最近のちゃおさんのメンタルはやばかったし、メンヘラ同士で付き合ってたらいつかこうなるのは必然だっただろう。
僕はあの人と一緒じゃなきゃ生きていけない。僕を犠牲にしてでも作家になる覚悟を決めたなら頑張ってほしいし、あの人ならやれるって信じてる。本当に西尾維新や米澤穂信を越えてくれるって。
だったら犠牲にされた人間の怨念は引き受けるべきだ。
だからこのnoteはあの人にとって不快なものだろうけど公開するし、消さない。
あの人が作家になるために僕を捨てなきゃならないなら、僕という傷を一生背負って作家になってほしい。
君は僕の胸に刻まれた一番深い傷痕だし、一番あたたかった思い出でもある。人生でこんなに人を好きになったのは初めて、誰かのために頑張ろうとか誰かを本気で幸せにしたいとか思ったのも、ありがとうとかごめんねって本気で思ったのも初めて、初めての気持ちたくさん教えてくれた、僕を一番成長させてくれた人。
僕も君の傷痕になりたい。そうしたらずっと一緒にいられるから。そういう形でしか一緒にいられない運命だったから。
さようなら、僕の宇宙の全てだった人。
世界中の誰よりも憎んでいるし、誰よりも愛しています。
p.s.僕とあまくちゃん共作の同人誌『衒娼』が11月24日のコミティアで販売予定です。
読み方は「げんしょう」。
中身はあまくちゃんの教師もののBL漫画に、映画オタクの男子中学生がホームレスを追跡する僕のBL小説。衒学娼婦の現象学です。
僕も売り子する予定だったんだけど行けそうにないな。みんなに会いたかったし脳震盪ほしのオフ会行きたかったんだけど。
遺作になると思います。買ってください。
