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おやこ/Novel by ツノ

おやこ

2,233 character(s)4 mins

男で一つで一人娘を育てるお話。

愛をうまく伝えられない父、義和。

そんな父の些細な愛を上手く受け取る娘、幸菜。

ある日2人は、母、菜々子の残した手紙を見つける。

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「今日も帰り遅いの?」
「うん。悪いな。」
「夕飯は?」
「帰って食べるよ。」
「わかった。いってらっしゃい」
「お前も気を付けて行けよ。」
いつもと変わらない会話。
朝、七時三十分。
いつもと変わらない時間に、俺は家を出た。


うちは、娘の幸菜が生まれて二年後に、妻の菜々子を亡くしてから父子家庭だ。
十四年間、男で一つで、一人娘の幸菜を育ててきた。
「男が育てるなんて。」
「不安すぎる」
と、親戚や菜々子の両親から散々反対された。
それでも、俺は一人でも幸菜を育てると決めた。
菜々子の残した、俺と菜々子の大切な娘。
真面目で友達も多くて、誰にでも優しくて賢い。
字も綺麗で、動物が好きで、歌が上手い。
優しい目元も、綺麗な鼻も、サラサラの髪も、優しい性格も、菜々子そっくりに育った。
大袈裟に「男で一つで育てた」なんて言っているが、昔から残業だのなんだのと、仕事ばかりして幸菜には苦労をかけてしまっている。
小学六年生になると、幸菜は既に料理を作った。
玄関を開けるといい匂いがして、急いで台所に行くと、幸菜が「おかえりなさい」とエプロン姿で立っていた。
その日の初めての幸菜の手料理は、ハンバーグだった。
お味噌汁も付いていて、それがあまりにも美味しくて泣きながら食べたこと。菜々子の仏壇の前で泣きながらその事を話したことは、忘れない。
それからは、俺が休みの日以外は、幸菜が毎日晩御飯を用意してくれていた。
洗濯物もいつのまにか、「幸菜、この匂い気に入ったの」と笑いながら新しい洗剤で済ましていた。
幸菜は毎日宿題も完璧にこなし、成績もキープし、家事もこなしてくれる。
そんな幸菜と、土日はのんびり過ごしていた。
時には、買い物に付き合ったり、映画を見たり。
家でテレビを見ながらゴロゴロしたり。

幸菜はいつも笑顔だった。
いつも俺に、なんの不満も言わず、菜々子によく似た笑顔を向けてくれた。
「おかえり」
「ただいま」
「あ。」
幸菜は目を大きくして、俺が右手に持つ袋を指さした。
「はっは。駅前のケーキ屋さんのだ。」
「やったー!ありがとう!」
嬉しそうに幸菜は、ケーキを受け取って冷蔵庫に入れた。
「今日は唐揚げだよ」
「おぉ。ちょうど食べたかったんだよな」
「お風呂入ってきてね〜」
タイミングぴったりで風呂が沸いた。
「おう」
さすが。この完璧っぷりには、何年経っても舌を巻く。
暖かい湯船に浸かり、いつもと同じ優しい匂いのタオルで体を拭いて風呂を出た。
ご飯の炊ける音が聞こえて、俺は茶碗を取った。
「あ。私お米いらない」
「なんで?」
心配して聞くと、幸菜は「いや、その……ダイエット的な?」と言うので、俺は思わず「えぇ?」と間抜けな声を出してしまった。
「最近太ったからね…」
「どこかだよ。大丈夫だから食っとけ。」
「いいの!」
口を尖らせて言うものだから、俺は押されて「そうか」と幸菜のご飯をつぐのをやめた。
こういうとき、母親なら分かってやれるのだろうか。
菜々子。
なんど「菜々子がいれば。」と思っただろう。
女の子特有の、月経が始まった時。
俺はどうしていいのかわからず、とりあえず母親に電話をした。
「ゆ、幸菜が……」
「なんだぁい。生理だろ?そんなに焦らなくても。あんたがしっかりしなきゃあ幸菜ちゃんもびっくりするだろう。」
母親にそう言われても、俺にはわかってあげられないと思うと、仕方ないと思いつつ少し寂しくなった。
幸菜も慣れると、自分で買いに行って、自分で生理痛の薬も飲んでいた。
そんなことを思い出していると、「なに?上の空で。なにか悩んでるの?」と幸菜は顔を覗き込んできた。
「いや。別に何でもないよ。」
「そう?疲れてるなら早く寝なね」
まるで母親のように、優しい目をして言うものだから、ふっ、と口元が緩んだ。
「なにー??何がおかしいのー??早く食べないとお父さんの分も食べちゃうよ!?」
「あっ、こらっ」
二人で大皿の唐揚げを食べ尽くした。

「娘にそんなこと言われたもんだから、笑っちゃったよ」
自分は、無愛想だと、昔からよく言われていた。
それが最近は「目元優しくなりました?」なんて部下に言われるもんだから、面白いもんだ。
「菜々子、俺はちゃんと幸菜を育てられてるかな」
幸菜とは、一度も菜々子の話をしたことがなかった。
幸菜も、何も聞いてこなかった。
小学生にあがるとき、一度だけ幸菜に「なんでうちにはお母さんいないの?」と聞かれた。
俺はその時、何も答えなかった。
何も、答えられなかった。
なんと言えばいいのかわからなかった。
なんと言えば正解なのか。
今でもたまに、ふと、その時のことを考える。
それから、幸菜が一度も母親のことを口にすることはなかった。
幸菜は賢い子だから、察してくれているのだろう。
菜々子が亡くなって十四年経った今でも、たまに菜々子を探してしまう。
サラサラの長い髪を見かけると、「菜々子」と声をかけそうになる。
いつまでも前を向けていない俺を、気遣ってくれているのだろう。
仏壇からは、今にも「しゃんとしなさい」と聞こえてきそうだった。
「俺、大丈夫かな」
写真を指でなぞった。

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