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【虎+楓】おとうさんとわたし【T&B】/Novel by 琥珀

【虎+楓】おとうさんとわたし【T&B】

9,014 character(s)18 mins

鏑木親子です。珍しくCP要素なし。父子家庭で、娘に二次性徴が来たらお互いいろいろ気まずいだろうなーとか思って、ただその勢いだけで書きました。鏑木親子大好きです■いつも大体キャラクターの日常の一片程度の雰囲気小説しか書けませんが、お気に召していただけると幸いです。■前回の腐男子バニーちゃん、評価ブクマ頂き、R18DR45位いただきましてありがとうございました!■評価ブクマに加え、タグありがとうございます!めっちゃうれしいです!

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「・・・・・どうしよう」
 それは6年生の夏休みも迫った、暑い日の放課後の事。トイレの中でぽつりと楓が呟いて困惑気味に視線を落としたのは、用を足そうとついさっきおろした下着の中だった。
 ちょうど股の当たる部分には、チョコレート色の染みが付着している。先日授業を受けたから、それが何か楓には理解できた。
 ―――初潮だ。
 女の子が大人になった証拠だから、慌てたり心配したりする必要はないのよ。
 大人の準備ができたら、女の子には月経が来るの。これが来ると、女の子は赤ちゃんを宿せるからだになるのよ。
 学年の女の子だけ集められた教室で、スクリーンに映像を映しながら女教師がそうみんなに告げた。
 ぼんやりと教師の話を聞きながら、それでも楓はどこか自分とはまだ関係のない話のような気がしていた。なのに。
「もう、来るものなの・・・?」
 ハッキリ言って、中学生とか高校生とか、それくらいから来るものだと思っていた。楓はクラスでもさして大柄なほうでもない。大柄な子は早く来ることもあるけれど、小柄な子は遅いこともある。個人差があるのだと聞いてはいたけれど。まだ周りに始まったという声を聞かないだけに、楓は焦燥を隠しきれなかった。
 本来の目的であった用を足すのも忘れ、じっとりと汗の滲む蒸し暑い校舎のトイレのなかで、楓はしばらく立ち尽くした。




「おかえり楓。おやつ冷蔵庫にあるぞー」
 帰宅した楓を、虎徹がにこやかに迎える。今日のおやつはおまえの好きなプリンだぞ、といわれても、楓の表情はなんだか浮かない。虎徹は首を傾げた。
「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
 心配そうに問われる声に、楓は首を横に振った。
「ううん、なんでもないの。ランドセル、置いてくるね」
 サイドに束ねた栗色の髪を揺らし、楓はそそくさと自室へ駆けていった。
 その後ろ姿を見つめつつ虎徹は首をかしげたが、それ以上詮索することもなく、点けっ放されていたテレビに再び向き直った。


 もし初潮がきたら、先生かお母さんに知らせてね。
 学校では保健室に、きちんと準備がしてあるから、大丈夫。
 おうちでもきっと、お母さんが準備してくれているはずよ。


 教師の言葉が蘇る。
 さっきは学校だったし、楓の担任は不幸にも男教諭だったので、保健室へ直接いってナプキンをもらって当てておいた。なんだか股にあたった綿花のそれが、ゴソゴソと違和感があって気持ちが悪い。楓はもぞりと内股を擦り合わせ、違和感に抗った。
 お母さんが、準備しておいてくれる。
 普通の家庭ではそうだろう。けれど。
 現在、楓は虎徹と二人暮らしをしていた。ヒーローであったことを告げられた後はその境遇に理解を示し、ヒーロー復活を果たした虎徹とともに同居すべく、シュテルンビルトへと引っ越したのは春のこと。
 いつ出動がかかって一人で留守番させることになるかもわからないと心配されたが、戸じまりも家事もできるのだから心配ないと強引についてきたのは楓自身だった。
 以前のブロンズのアパートより少し部屋数が多くて、治安のよさそうな場所に選んだシルバーのアパートは日当たりも良く、楓も気に入っていた。
 小さく部屋の扉を開けて、リビングのソファでくつろぐ虎徹を伺うと、何事もないようにテレビ番組に腹を抱えて笑っている。…実際、今彼には「何事も」起きていないのだが。
 何食わぬ顔で自室を出て、用意されたおやつのプリンを冷蔵庫から取り出しながら、楓は時折虎徹を横目で様子を窺う。
「あ、楓。そのプリンな、バニーが買ってきてくれたやつなんだぞ。ゴールドの、なんか有名なケーキ屋のやつなんだとさ」
 その言葉に、楓の背筋がピンと伸びた。
「えっ、バーナビーさん来たの?」
「ああ、急ぎの書類があったらしくてな。また夜来るんじゃねえかな。飯食いに来いって言っといたし。」
 今日は虎徹はオフだがバーナビーは仕事だった。バディとはいえ、互いの休みが合わない日もある。楓は「また夜に来る」という言葉に榛色の瞳を輝かせた。バーナビーのお土産だとわかると、普段でも大好物のプリンの味がより一層美味しく感じる。頬を緩めて大事そうに掬ったプリンを味わった。
「どうだ?うまい?」
「うん!カスタードがすっごく濃厚!」
「そっかそっか。バニーもそこのプリン、好物なんだとさ」
 嬉しげな娘の顔を肩越しに見やり、虎徹も満足そうに微笑む。
「お父さんは食べないの?」
「おれは甘いもんはあんまりな。まだあと2つあっただろ?夜にバニーが来たら、二人で食っちまえよ」
「はぁい」
 酒飲みの虎徹は、甘いものをあまり得意としない。そんな虎徹の家への手土産にこんなものを持ってきたということは、十中八九自分のためだろう。そう思うと自然楓の心は浮足立った。
 けれど、現実はそうもいかない。この能天気な父親に初潮が来たことを告げるべきか否か、楓はひっそり頭を悩ませていた。
 お父さん、準備なんかしてくれてないだろうなあ・・・。
 空になったプリンケースに視線を落しながら、楓はそっと溜息をついた。この父は頼れない。早急に頭の中で結論付ける。時計を見れば、夕方17時半をさしていた。
 うん、やっぱ自分で、買いに行くべきだよね。
「お父さん、あたしちょっと出かけてくる」
「え、今からか?1時間もしたら暗くなるぞ」
「大丈夫、すぐ帰ってくるから」
 楓は自室から財布を押し込んだポシェットをつかみ取り、アパートを飛び出した。


 さて、買うのは良いけど、どこで買ったらいいんだろう。
 楓は玄関を出た先の通りを歩きながら、思考を巡らせた。いつもは気にせずに通り過ぎるから、どこに物が置いてあるかわからない。けれど、薬局とかスーパーに置いてあると教師が言っていた言葉を思い出す。楓は歩みを速めて2つ先の通りにある薬局を目指した。
 薬局に入ると、やや店舗の奥に陳列された目的のものを目指す。
 そこには、いろんなものが並んでいた。
 21センチのもの、30センチや38センチといった長いもの。薄っぺらいもの。羽つきのもの、羽なしのもの。昼用に夜用。パンティライナーやタンポンなど、安いのから高いのまであり、それこそ種類が多すぎてなにがなんだかわからない。
 とても基本的なところで、楓はすっかり困惑し悩んでしまった。
「あれ、鏑木さん?」
 生理用品の棚の前で立ち尽くしていると、不意に後ろから声をかけられ、びくりと体を震わせる。恐る恐る振り向くと、そこには同じクラスの女子が母親と思しき女性とともに立っていた。
「どうしたの、ひとりで買い物?」
「う、うん。まあ・・・」
「そっか、あたしはお母さんと。ほら、こないだ授業うけたじゃない?あれの準備!」
 そういうとニッコリ笑い、手を振って行ってしまった。その母親の持つかごには、生理用品が見えた。きっと二人で買いに来たのだろう。楓の胸が、チクリといたんだ。
「・・・お母さんが、生きてたらな」
 ぽつりとつぶやき、しかしその言葉を振り払うように首を振ると、楓は手近にあったナプキンの包みを一つ掴み取るとレジへと向かった。
 帰路に就く楓の手には、茶色い紙袋に入れられたあとさらにビニール袋に入れられた生理用品がひとつ。心細げにかさかさと音を立てるそれがなんであるか、周りの人がみんなその中身を知っているぞと言っているように見えて、楓は胸の前に隠すようにそれを持ち直すと足早に家路を急いだ。
「ただいま」
「おかえりなさい楓ちゃん」
「おかえりー」
 出迎えられた声に、楓はぱっと顔を輝かせる。若いテノールのそれは、バーナビーのものだ。
「バーナビーさん来てたの?」
「ええ、今着いたところです。今日は定時で仕事が片付いたので」
「プリン美味しかった!ありがとう!!」
 楓の言葉にバーナビーが、いいえ、とふんわりとほほ笑んだ。柔らかいその笑顔に思わず見とれていると、手に持った袋に気付いた虎徹が何気なく声をかけた。
「なんだ?それ角の薬局の袋?どっか具合でも悪いのか?」
 その言葉に、楓は夢見心地だったふわふわした気持から一気に現実に引き戻される。あわてて首を横に振って、袋を後ろに隠した。
「なんでもいいでしょう!!お父さんのエッチ!!」
 思わずそう言い放ち、自室へと飛び込んだ。心配して声をかけただけなのに、いきなりエッチ呼ばわりされ機嫌を損ねられ、虎徹はわけがわからない。若干傷ついた顔をしてバーナビーに助けを求めるように視線を泳がせたが、バーナビーにその理由がわかるはずもなく、肩を竦めるだけだった。
 自室に駆け込んだ楓は、買ってきた袋をベッドに放り投げるとボスリとベッドに突っ伏した。常に過保護的な虎徹は、ただ身を案じて声をかけてくれただけだということは楓も理解している。だが、慣れないものを買った気恥ずかしさと、虎徹に隠し事をしているというなんとはなしの罪の意識が、ああいう態度になったのだ。
 はあ、と溜息をつき目の前の袋から先ほど買ってきたばかりのものを取り出す。中身を確かめずに買ったそれは「30センチ多い日用」と書かれている。試しに開けてみると、薄いピンクのビニールで包装されたものが整然と並んでいた。中身を一つ取り出し、ポケットにしまうと、そっとドアの向こうの様子を窺い、気付かれないようにバスルームに移動した。別に悪いことをしているわけではない。だが、顔を合わせづらかった。
 下着から先に着けていたものを剥がし、新しく買ってきたものを代わりに貼り付ける。先のものより若干大きい気がした。さっきまで当てていた分はどうしよう。真ん中にチョコレート色の、古い血液のようなものがベトリと付いたそれを困ったように眺めていたが、思巡らせたあととりあえずそれを血液が見えないように畳み、ペーパーで包んだ。
 洗面所のゴミ箱に捨てておこう。
 そう思い、立ち上がる。さっきまでよりさらにごわついた感覚が拭えない股間に眉を顰めながら、楓はまた溜息をついた。ゴミ箱に捨てたそれの上から、見えないように念入りにもう一度紙を置いた。
 なんでこんなに気持ち悪いんだろう。何かおかしいんだろうか。当て方が悪いのか、ものを選び損なったのか。それすら思い当たらず、何となく楓はじんわりと不安に涙が滲みかけた。ぐいと瞼を腕で擦り、自分を励ますようにパンパンと軽く頬をたたく。
 大丈夫、大丈夫よ。
 バスルームから出ようと扉を開ける。前をよく見ずにいたため、そこに立っていた虎徹の腹にしたたかに鼻っ柱をぶつけてしまった。
「ふぎゃっ」
「ッだ!ビックリした!!」
 あんまり驚いて、蛙の踏み潰されたような声をあげてしまったことに、楓は鼻を押さえながらみるみる顔を赤く染めた。
「馬鹿っ!お父さんの馬鹿!何でそんなとこに立ってるのよ!!」
 完全な奴当たりだったが、さっきからイライラと募る不快感が楓の神経を逆なでた。
「ご、ごめん。入ってると思わなくって・・・」
 わけもわからず怒られ、あたふたと謝る虎徹を尻目に楓は再び自室へと籠城してしまった。
「・・・・なんだありゃ・・・・」
 あとに残された虎徹は、心底困った風体で楓の消えた扉を見つめる。学校から帰ってきてこっち、やたらと機嫌が悪い。何かしただろうかと首を傾げたが、思い当たる節はなかった。
「なんだか楓さん、今日はご機嫌斜めみたいですね」
「うん・・・前にもたまにあったけど・・・なんか今日はやたらぴりぴりしてやがるなあ」
「僕、今日はもう帰りましょうか」
「何遠慮してんだよ、構わねえよ。お前と一緒に飯くってりゃ、機嫌も直るだろ・・・」
 ほうと溜息をついて虎徹は肩越しに振りかえり、バーナビーに苦笑いを返すとバスルームの扉に手をかけた。
 用を足し終え、ふと何の気なしに視線を泳がせた先の、屑かごに捨てられたものに目を留める。不自然に捨てられたトイレットペーパー。不審に思いつまみあげると、その下から出てきたのは先ほど楓が捨てたものだった。
「・・・・・まさか」
 さすがに虎徹が男だからと言って、それが何か分からないわけではない。
「バッ、バニー!!」
 思わず相方の名前を叫んでバスルームを飛び出したものの、改めて相棒に告げる内容でもないことを口に出す前に認識し、虎徹は寸ででその口を噤んだ。
「どうしたんです?」
「う・・・いや、・・・なんでも、ない」
「・・・?変な人ですね」
 首をかしげて変な顔をするバーナビーは悪くない。
 その後の夕食は、何とも微妙な空気のなかで済まされた。さすがにバーナビーも居心地が悪かったのか、普段であればのんびりしていくのに、今日ばかりは早めに自分のマンションへと帰って行った。
「悪いな、なんか今日はうちのちびの機嫌が悪くって」
「いいえ、そういうこともあります。また日を改めて伺いますよ」
 バーナビーを玄関先まで見送った後、部屋へと虎徹が戻った時にはもう楓の姿はリビングには見当たらなかった。自室にいるのだろうか。虎徹はぼりぼりと後頭部を掻き、天井を仰ぐように首を反らす。
「んー・・・・」
 すこし思巡し、虎徹はリビングを挟み楓の部屋と対象方向に位置する自室へと足を向けた。クローゼットをあけ、上段の棚に乗せられた紙袋を取る。リビングに戻ると、テレビ台の上から友恵のスナップ写真が笑っているのが見えた。
「ともえ・・・」
 その写真を手に取り、語りかけるように虎徹はつぶやく。
 数年経っても変わらないその笑顔。友恵がこの世を去ったとき、楓はまだ4歳だった。
「友恵、楓がな、どうもその・・・・生理になったみたいなんだ。ちびだとばっか思ってたのに、いつの間にか大人になってんだなあ。それに、今日ずっとおかしかったの、そのせいなんだな。・・・おれ、母親じゃねえし、きっとあいつ話しづらかったんだろうな」
 おまえがいればな、と今更言っても仕方のないことを舌に乗せる事はしなかった。虎徹は先ほどクローゼットから取り出した紙袋の中身を確認するように、少し上から覗いた。
「これもさ、ちょっと前に母ちゃんに言われたんだ。あの子も年頃なんだから、ちゃんとその時のために用意しといてやれってさ。おれ、そんなこと言われるまで気が付きもしなかった。…ダメだよなあ」
 袋の中身はさすがに自分で買いに行くことができず、カリーナに懇願した。最初は変態呼ばわりされたが、楓のためと知ると不承不承に承諾してくれて、カリーナは用品一式とアドバイスを書いた紙をつけてくれた。どうせアンタ用意してないでしょうと、下着も選んでくれたらしい。
 知識として生理という現象を知っていても、それに何が必要か、何に注意しなくてはいけないかなんて、男の虎徹にはわからない。カリーナにはその後、礼と称してバーナビーがイメージモデルを務めた化粧品会社のマニキュアを贈ったら、甚く喜ばれた。そんなに喜ぶなら、もう数本貰っておけばよかった。
 友恵の写真に報告を終え、それをもとのように戻すと、虎徹は楓の部屋の扉をたたいた。
「楓ぇー?もう寝てるか?」
「…起きてる」
 ややもしてそっけない口調の返事が返ってくるのを確認すると、虎徹は入っていいか、と一言窺い、扉のノブを回した。
「何か用?」
「あ、うん・・・・えーっと」
 紙袋を後ろ手に隠し持ちながら、虎徹はどう切り出そうかと口の中でもごもごと言葉を探す。その様子にイライラと楓の眉間に皺が寄った。
「用がないなら、出てってくんない?あたし今日はおなか痛いから早く寝たいの」
「え、腹が?大丈夫か?」
「もう、だから構わないでって!寝てれば治るわよこれくらい!」
 イライラに加えて先ほどから下腹部に重い鈍痛があるのが、余計に楓の不機嫌に拍車をかける。このままだと追い出されそうなので、虎徹はあわてて紙袋を差し出した。
「まて、ちょ、これをな、渡そうと・・・」
「…?なに、これ」
 虎徹に差し出されたそれを受け取り、ひょいとその中身を覗き込んで確かめた楓の頬が、みるみる朱に染まる。
「ほら、お前もそろそろ、さ。準備しとけって母ちゃんに言われてさ」
 ぷるぷると顔を赤くして震える楓は、口を開かない。虎徹はさらに言い訳するように言葉を繋げた。いつになく早口でしゃべるのは、照れている証拠だ。
「あの、ほんとなら母親がすることなんだけどさ、ほら、うち…アレだろ?おれじゃ詳しいことまではわかんねえし…」
 ブルーローズに、お勧めのもの買ってきてもらったんだ。年齢も近いから、大丈夫だと思うんだけど。
 そう言ってばつの悪そうな顔をする虎徹の顔もまた、赤かった。親の仕事とはいえ、異性の性教育にかかわるのは気恥ずかしい。思春期の娘相手では、腫れ物に触る感覚だったが、けれどとても大事なことだから。
「それから、これブルーローズが、何か分からないことがあったら聞いてくれって渡された」
 カリーナのメールアドレスの書かれたそれを、楓に手渡す。黙って受け取り、楓はその文面をしげしげと見つめた。
「あんまり、パパ力になってやれなくて、ごめんなあ」
 あはは、となるべく明るく笑い、虎徹は「じゃあお休み」と背を向けた。だが、部屋から出ていく瞬間、呼び止められる。
「あの・・・ありがとう」
 消え入りそうなその声に微笑むと、虎徹は楓の部屋を後にした。
 虎徹の出て行った部屋で、楓は袋の中身を確かめるべくベッドの上に広げてみる。
 昼用の21センチが一袋。夜用の35センチが一袋。生理用サニタリーショーツが2枚。パンティライナーが一袋。それに、ほんのりと膨らみ始めたバストを覆うのに丁度いいスポーツブラが2枚。それから痛み止め薬。全部でそれだけが袋に詰められていた。それぞれに用途と説明が添えられている。それを読み、楓はようやくナプキンの種類の多さと腹の痛みに合点が行った。
 それにしても、これを頼むときの父の様子はどんなだったのだろう。
 楓は、顔を真っ赤にしながらカリーナにお願いする父を想像し、思わず噴き出した。


『おれの代わりに生理用品一式、買ってきてくんねえかな』
『はあ?!な、何言ってんの!!??アンタ変態??』
『だっ!!ちげえよ!!その・・・娘がさ、そろそろ・・・なんだよ』
『ああ・・・・』
『さすがにこっち方面は、ネイサンには頼めねえしさ・・・おれが買いに行っても、何がいいのか何が要るのかさっぱりわかんねえんだもん。お前しか頼める相手いなくてさ、頼むよ、この通り』
『そ、そう。あたししかいないの・・・。・・・そういうことなら、わかったわ。一式選んだらいいのね?あたしにパシリさせるなんて、高くつくわよ!』


 まるで目に浮かぶようだ。
 楓はぱちりと携帯を開くと、先ほど受け取ったカリーナのメールアドレスを打ち込んだ。

「ブルーローズさん、例のもの父から受け取りました。
 ありがとう(`・ω・´)
 何にもわからなかったので、説明書きとっても助かりました!
 またいろいろ教えてくださいね☆
 ブラジャーもシャーベットカラーがとっても可愛い!すごく気に入りました!!」

 礼文を打ち込み、送信する。
 4歳で母を亡くし、それでも周りの人に恵まれさみしいと感じることはなかったし、父も自らを愛してくれていることを感じていた。けれど、やはりこういう時では父親に頼れなかった。期待していなかったといってもいい。
 だが、父はきちんと考えて準備していてくれた。そのことに感謝し、楓はつっけんどんな態度をとってしまったことに今更ながら反省する。
 明日になったら、謝ろう。
 布団にもぐりこみ、夕刻とはうって変って穏やかな気持ちで楓は眠りについた。




「おはよう楓!!」
 次の日の朝。朝餉の食卓に、楓は思わず頬を引き攣らせた。
「なに・・・?これ・・・・」
「何ってお前!!女の子が大人になったときは赤飯だろ!!きのうは気付いてやれなかったからさ」
「・・・イタダキマス」
 ゴマ塩の振られた赤飯。朝っぱらから炊いたのだろうか。赤飯自体は嫌いではないけれど。楓は反論する気力もうせて、席に着くともそもそとそれをほおばり始めた。
「あのなー、えとな、昨日は気が動転しててあれしか渡せなかったんだけど」
 もそもそと言いづらそうにしながら、お年玉を入れるポチ袋を差し出される。見てみると、中には正方形をしたプラスチックの小袋が一つ入っていた。小袋にも、何か柔らかい丸い形のものが入っている感触がする。
「?…なあにこれ?」
「…使うこと前提じゃなくて、お守り代わりに持たしたほうがいいって周りのやつらが言うから…」
 使うものなの?これ。だから何に使うの?
 楓はわけがわからず、それを裏返したりしながらよくよく眺めた後、きょとんと父の顔を見返した。
「これ、何に使うの?」
「は、…え?え?」
「使い道がわからなきゃ、お守りとか言われてもわかんないよ」
 ものを知らぬ純粋な瞳で見つめられ、虎徹は居たたまれなくなってハンサムエスケープならぬオジサンエスケープしたくなってしまったが、そういうわけにもいかず。
 しばしの押し問答の末、真相を知った楓に思いっきり平手を打たれてしまうのは、数分後の話である。




表紙お借りしました:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=25538112

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