崩壊した建物、消えた人々、灰色の街 初めてのガザに記者が見た惨状

ガザ市近郊=石原孝
【動画】パレスチナ自治区ガザ市近郊に、イスラエル軍の同行で記者が入った。2年にわたる戦闘の影響で、多くの建物が破壊され、住民の姿も確認できなかった=石原孝、根本晃撮影

 パレスチナ自治区ガザ北部ガザ市近郊。透き通った青空の下には、一面に灰色の廃虚が広がっていた。住民の姿は1人も見えず、生活音も聞こえない。イスラエル軍のドローンがうなりをあげる音だけが常に耳に響いた。

 朝日新聞記者は12日、イスラエル軍に同行し、現地を約2時間取材した。軍によると、10月のガザの停戦発効後、日本メディアの記者がガザに入ったのは初めて。

崩壊した建物 消えたにぎわい

 イスラエル南部のガザ境界近くから、軍の輸送車両に乗り、砂煙を巻き上げながらデコボコの道を進んだ。体が何度も揺さぶられるなか、空爆などで破壊されたがれきの山がいたるところで目に入り、思わず息をのんだ。

 15分ほどして、軍の拠点があるガザ市近郊のシュジャイヤ地区に到着した。イスラエル国旗がはためいている。銃を持って警戒にあたっていた兵士や拠点そのものの取材や撮影は禁じられた。

 高台に案内されると、目の前にはドミノ倒しのように崩壊した建物や、むき出しになった柱が並んでいた。がれきのなかに「UN」(国連)という文字もあった。

 ぽつんと置かれたいすが見え、建物の屋上にはパレスチナの旗も掲げられている。黒く焼け焦げた家屋のそばに、緑のある木が1本立ち、かろうじて生命の息吹を感じさせた。

 15歳未満の子どもが人口の約4割を占めていたガザでは戦闘前、子どもらの通学風景があちこちで見られた。イスラエルに周囲を壁やフェンスで封鎖され、「天井のない監獄」と言われても、商店街はにぎわいを見せていた。だが、取材した場所には跡形もなかった。

 アフガニスタンや南スーダンなど、情勢が不安定な国で何度も取材してきたが、これほどまでに被害が広範囲に及んでいる光景を見るのは初めてだった。

イエローラインはどこに

 ガザ最大都市のガザ市には、多いときで約100万人が住んでいたと言われるが、自宅を失った人は多く、ガザ各地でテントでの避難生活を余儀なくされている。周囲では、イスラエル軍の装甲車などが時折、砂煙をあげて走行していた。

 ガザでの戦闘は2023年10月に始まり、ガザの保健省によると、6万9千人以上が亡くなった。イスラエルとイスラム組織ハマスは10月10日から停戦に入ったが、その後も散発的な衝突が続き、ガザでは240人以上が死亡した。イスラエル側も複数の死傷者が出た。

 イスラエル軍は、10月の停戦合意に基づき、「イエローライン」と呼ばれる撤退ラインまで下がり、拠点を設けた。停戦後、軍はパレスチナ人がこのラインを越えたとして、砲撃を繰り返している。12日も「ガザ南部でイエローラインを越えて、軍に接近するテロリストが確認された」として、殺害したと発表した。

 軍のショシャニ報道官は取材に、「ハマスは制服を着用せず、場合によっては武装した状態で(ラインのイスラエル側に)侵入してくる」と主張した。

 さらに、「私たちがいるところのすぐ前方がイエローラインだ。ガザの住民が明確に見えるように黄色い線を入れる作業を進めている」と答えた。だが、取材した場所からはラインを目視で容易には確認できなかった。

 トランプ米大統領が主導した和平案の第1段階に定められたハマスによる人質解放は、4人の遺体がまだ返還されていない。人道支援物資の搬入も合意されたが、検問所の一部閉鎖は続き、搬入は制限されたままだ。

 和平案の第2段階以降として、ハマスの武装解除や、ガザの治安維持にあたる「国際安定化部隊」の展開も盛り込まれたが、具体的な展望は見えていない。停戦が維持されるかどうかも不透明な状況が続いている。

現地取材の経緯

 イスラエルはガザ戦闘開始以降、外国メディアのガザ入域について、軍の同行取材を除いて認めていません。10月の停戦を受けて、英BBCや米CNNなど複数のメディアが同行取材しています。朝日新聞は12日にフランスやイタリアのテレビ局など約10社とともに同行を認められました。

 戦闘開始以降、ガザ在住の通信員らが取材を担ってきたなか、記者が初めて現地に入り、その現状を読者に伝える意義は大きいと考え、参加を決めました。軍事機密に関わるものを撮影しないなどの制約が設けられ、記事や写真、動画の事前提出を条件とされましたが、修正などは求められず、客観的な報道を保てると判断し、記事化しました。

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この記事を書いた人
石原孝
エルサレム支局長
専門・関心分野
アジアや中東、アフリカの新興国・途上国の情勢
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    越智萌
    (立命館大学国際関係研究科准教授)
    2025年11月14日10時30分 投稿
    【視点】

    改めて廃墟化したガザをこのような形で見ると、街を廃墟にする以外の効果的な手段はいまだにないのかと思います。戦闘能力の異なる当事者の間での紛争は非対称紛争と呼ばれますが、ベトナム戦争では森林が、現代では都市が、視界を遮る障害物として、焼き付くされ破壊されてきました。世界中が都市化していく中で、イラク戦争などを通じて、戦闘が市街地で行われ、戦闘員は建物の中に隠れ、民間人にまぎれる現代の市街戦の困難が指摘され続けてきました。シリア内戦では絨毯爆撃の手法が使われ、都市を破壊することが選択されました。こうした戦場においては、均衡性といった従来の武力紛争法では、それをたとえ守っていてもこのような廃墟に街を変えてしまいます。これが法の在り方として正しいのかは問い直さねばならないのだろうと思います。また、このがれきを片付け、復興を目指すことは、東日本大震災の被害後を思い出させます。戦争後の制度整備の必要性も強く実感させられる光景でした。

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    村山祐介
    (ジャーナリスト)
    2025年11月14日12時4分 投稿
    【提案】

    ガザ攻撃の目的が、ネタニヤフ首相が繰り返す「ハマス壊滅」にとどまらず、パレスチナそのものの「壊滅」へと向かっていたことを物語る光景です。イスラエル財務相がガザを「不動産の宝庫」と呼び、トランプ米大統領が「中東のリビエラにする」と語ったことを思い起こすと、破壊の先に何を見据えているのか、考えざるを得ません。がれきを撤去した先に見据えるべきは不動産開発ではなく、奪われたパレスチナの人々の営みです。 親族32人を失い、エジプトに避難したガザの少女が私に見せてくれた絵には、伝統の窯から立ち上るパン焼きの煙や、子どもたちが踊る伝統舞踊の姿が描かれていました。その当たり前の暮らしをガザの地で再び取り戻せるようにする責任が、国際社会にはあると感じます。

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イスラエル・パレスチナ問題

イスラエル・パレスチナ問題

2023年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエル領内を奇襲攻撃。報復としてイスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区への空爆や地上侵攻を始め、6万7000人以上の犠牲者が出ています。25年10月、トランプ米大統領の停戦案に双方が合意しました。最新のニュースや解説をお届けします。[もっと見る]