余計な真似
「皆の者、弓の勇者殿を盾から救うのじゃ!」
更にクズが宣言すると同時に、観衆の周りにいた魔法使いが魔法の詠唱を始めました。
「はいはい。追加入るみたいだよ。樹、頑張ってね」
「うわ! な、ああああああああああ!?」
グイっとお義父さんは樹の襟首を掴んでクズの命令で放たれた魔法の雨あられの盾にしてやりました。
火に始まり、風や土、光に闇、雷と千差万別の魔法が勢ぞろいですぞ。
ドカドカと命中して樹がボッコボコになってますぞ。
「あ、あああ……」
「うわ……樹、大丈夫? 死んでないよね? ファスト・ヒールⅩ」
黒こげになりつつ所々が様々な状態異常になって痙攣している樹にお義父さんが施しを与えて下さいました。
「何をしている!」
ワニ男がここで怒鳴りました。
ああ、錬が間に入るかと思いましたが、どうやら錬はまだ戻って来て無いのですな。
ワニ男の怒気にクズは知った事では無いとばかりに侮蔑の目をワニ男たちに向けて鼻を鳴らしますぞ。
「盾の勇者は毒という卑劣な攻撃を使った。であるからしてこの勝負は弓の勇者殿の勝利に決まっているのじゃ!」
「ふざけるな! 事前の取り決めも無かっただろう! 盾の勇者様に攻撃の手段が無いのだからこれは出来る工夫だ!」
ワニ男の声が会場に響き渡ってました。
で、当のお義父さんは苦悶に呻く樹を心配しているようですぞ。
「樹、あいつらは俺の反則負けにしようとしてるみたいだけど、これでも君の勝利だと言えるかい?」
「う、うう……」
痛みのショックから立ち直りきっていない樹が涙目でクズと赤豚を睨みながらお義父さんへと視線を戻しました。
「オルトクレイ……いい加減にしないと自分が差し違えてでもその首をねじ切るぞ!」
ワニ男の筋肉が盛り上がっていきますぞ。
何やら魔法の気配がしますぞ。
確か、ワニ男の魔法資質は……シルトヴェルトの使者と同じ属性だとかですな。他に水魔法の適性があるとかなんとか。
生命力を活性化して自身の能力アップを図るのですぞ。更にこの系統……気に近い流れを感じますな。
パワートルネイドという魔法とも技とも言える凝縮された生命力を放つ攻撃が今にも飛び出そうとしていたとの話ですな。
ワニ男のあふれ出る生命力により必殺の会心攻撃になりかねなかったそうですぞ。
「シオン、まだです。岩谷様の命令に背いても良い事にはなりません!」
ウサギ男がワニ男を前に出て止めますぞ。
「止めるな! もう我慢も限界だ!」
「ではしょうがないですな」
ドスっとスリープランスⅦをワニ男に刺してやりますぞ。
「あ!? ぐううう……自分は――こんな状況で――倒れる訳には」
ふむ……中々にタフですな。
その根性に免じて三日は昏倒しかねないスリープランスⅩで再度刺してやりました。
「ぐうう……まだ――」
ヨロヨロと血走った目で数歩ほど歩きつつ斧を取り出してクズへと走ろうとした所でワニ男は動きが止まりましたな。
おお……立ったまま寝ていますぞ。
あれですな。これがしっかりと殺傷力のある攻撃だったら立ったまま死ぬというやつですぞ。
ここまで状態異常の効きが悪いのは驚きですな。それだけ意志が強いという事でしょう。
お義父さんの為に怒り、そこまで踏み出す根性は称賛に値しますな。
「シオン……貴方のその意気込み、尊敬します」
ウサギ男が涙を流しながら手を合わせていましたぞ。
やがて変身が解けたのかワニ男が雑種のリザードマン姿……とも異なる亜人姿になりましたな。
所々にあった不完全なトカゲっぽい所に統一感が出てますぞ。
まあ、ここは錬が来ないので俺が締めを務めてやりましょう。
「さてさて、樹に肩入れする余計な介入の所為で、樹側の反則負けで良いですな?」
「ブブヒ! ブブブブブ!」
何やら赤豚がそこでクズの陰から出て抗議の声を上げているようですぞ。
文句があるなら目の前でブチ殺してやっても良いのですぞ?
「卑怯にも群衆に紛れて魔法を放った時点で確信犯ですな。勇者の権限を持ってお前を断罪してやりますぞ」
「ブ、ブヒャアアアアアア!?」
槍を鋭く構えてゴミを見る目で近寄って脅してやるとクズが間に入ってきました。
ほう、自ら死にに来たのですかな?
「や、やめろ! マルティに何をする気じゃ!」
「お前も同罪ですぞ。神聖な決闘にそのような難癖と介入をした。勇者の権限を持ってここで切り捨てても各国は許すでしょうな」
盾の勇者であるお義父さんの言い分はここでは通りませんが槍の勇者である俺の言い分は敵対していても多少は権威があるのですぞ。
何よりここまで露骨に暴れたとあっては言い逃れも何も出来ないのですぞ。
「樹、どうしますかな? お前も負けで良いですな?」
「うう……い、良いでしょう……そこの方々は、余計な真似をしました。今回は、もうやめ、ましょう」
おおう。樹も痛みで素直になってくれて何よりですぞ。
ですが樹は何やらショックで意識を失ってしまったようですな。
お義父さんが手当てをしてからその場で寝かせますぞ。
「では勝負はお義父さんの勝利で良いですな」
「そのような事を許可するわけ――」
「樹は意識を失う前に敗北を認めました。これで納得できないなら錬を呼びますかな?」
「見て、いたぞ……結局決闘をして、その結果がこれか」
フラフラと錬がやってきましたな。
「お前ら……いい加減にしろ。樹は、お前等の所為で負ける以上の屈辱を受けたんだ」
「ぐぬ……」
「ブブ……」
クズと赤豚が悔しげに呻きました。
結果を見ればですがお義父さんの作戦は凄いですぞ。
赤豚の横やりを樹にぶつけ、クズの卑劣な介入も樹を盾にして大ダメージにしてやりました。
しかも樹が言い訳の出来ない確信が出来る結果ですぞ。
「とんでもない連中だ」
苛立っている錬がクズ共に侮蔑の言葉を吐き捨てました。
「……それじゃあ約束通り報酬は貰っていく」
お義父さんがにらみ合うクズと錬の所にやってきて淡々と言いましたぞ。
「ぐぬぬ……」
「ああ、騎士エクレールさんが報酬で良い。もう波の報奨金はいらないから。もう城に来る気もない。けど、次にこんな真似をしたら……俺はもう止めないからな?」
更にお義父さんは赤豚の方を軽蔑の視線を向けました。
「醜い奴だ。心根から何もかも……ここまで醜い奴は初めてだよ」
「ブ、ブヒ! ブヒャアアアアアアア!」
赤豚が激昂した声を上げましたが錬にも剣を向けられた所で我に返って何やら言い訳をしてました。
「ふん……聞く価値は無いな。いい加減俺たちの前から失せろ」
「ブ……ブヒャアアア!」
ヒステリックに叫ぶ赤豚を無視してお義父さんと錬は去りますぞ。
さすがに兵士たちもこれ以上介入しようものなら命は無いと悟ったのかクズと赤豚よりもお義父さん達を見て呆然としております。
「わー……カッコイー」
そこにクロちゃんが錬の態度に目をキラキラさせて近寄ろうとしますぞ。
ガシ! っと錬はお義父さんに隠れるように背後に回り込みました。
「あはは……クロちゃん、もう帰るから錬に挨拶ね。みんな帰るよー」
「えー……また闇が覆い尽くすその時、巡り合う定めー」
「では撤収ですわね。みんな帰りますわー!」
「「「はーい!」」」
という訳で俺たちは帰りの準備をしますぞ。
あ、亜人姿のワニ男はフィロリアル様に担いで連れて行くことにしました。
「こうしたらどうなる? って思ったけど、想像以上に険悪になったもんだ……ラフタリアちゃん達の願いを叶えられるか割と本気でわからなくなっちゃったよ」
まーた妙な勢力に変な介入されそうだけどやっていくかねーと呟きつつお義父さんは俺たちを連れて地下監獄のエクレアの牢屋までやってきました。
「ブー」
おい、怠け豚! いつまで撮影しているのですかな!
ついてくるなですぞ!