愚者の決闘
「ふん! そんな条件を許可などするはずもなかろう! あの重罪人の元騎士は自らの立場をわきまえもせずに国の宝である兵士たちを傷つけ、波のドサクサに殺人衝動を抑えきれず罪を犯したのだ! その罪で奴は処刑を待つ身なのだ! 亜人共を助けたのではない!」
「ふざけるな! お前らがセーアエット様が死ぬと同時に好き勝手を始めたんだろう!」
雑種のリザードマンが怒声を上げました。
「オルトクレイ……それが貴様の考えか!」
殺気を放ちながら雑種のリザードマンはクズへと鋭い眼光を向けますぞ。
ふむ……個人的な恨みというやつですな。
「さあ! イツキ殿! そのような戯言に付き合う必要などない! そいつの言っていることに真実など何もないのじゃ!」
「……」
さすがの樹もクズ共の様子に戸惑いにも似た表情を浮かべてますな。
錬が決闘をさせられるループの時の様な、疑問で頭がいっぱいと言った感じですぞ。
「ねーねー闇聖勇者ー闇の決闘<デュエル>が始まりそうだよー」
「うぐ……な、なにをしてるんだ」
やっとの事、錬がクロちゃんに支えられてやってきました。
体調が悪いとはいえ、さすがに騒ぎを聞きつけてきた様ですな。
「おお! レン殿! 丁度いい! そこに居る盾の勇者は事もあろうにわざわざ我が娘の傷口を抉り、身勝手な理屈を捏ねてワシらの命令に逆らおうとしたのじゃ! イツキ殿が決闘をするので是非とも力を合わせ懲らしめてほしいのじゃ!」
共に力を合わせてお義父さんを甚振ろうと提案したようですぞ。
馬鹿ですかな?
「……くだらん、あの茶番をまたもする気か。勝手にやっていろ」
「な――」
「愚者の決闘<フールデュエル>?」
「そこまで露骨に差別感情を剥き出しにされてはな……悪いがお前等は度が過ぎている。で? 尚文、何を考えているんだ」
「別に? ただ罪ではない罪で捕らえられている人を決闘で解放しようとしてるだけさ」
「そうか……お前がやりたいなら好きにやれば良いだろう。だが、俺は興味が無い」
だから……助けて、と何故か錬はクロちゃんへと視線を向けつつお義父さんに救いを求めるような顔をしていたそうですぞ。
「わかったよ。錬はもう少し休んで見てれば良いさ」
「ふん、わかってやっているなら俺は、休ませてもらウプ――」
と、錬は吐きに行きました。
クロちゃんが後を追いますぞ。
錬、フィロリアル様の優雅な酔いを存分に楽しむのですぞ。
「錬は不参加っと。樹……まだ続けるかい?」
「え……? え、ええ! あなたが言っていることが真実とは限りません! 尋常に勝負です」
ここまで話を聞いて尚、クズ側の肩を持つのですな。
お義父さん曰く、このまま俺の方を信じる訳にもいかない状態になっているのが樹側の理由らしいですぞ。
何かおかしいけれど、かと言ってお義父さんの態度も気に入らない、と言った状態にしたとかなんとか。
「で、樹……君と俺の一騎打ち? それとも君のパーティーメンバーも一緒かな?」
ちょいちょいっとお義父さんが挑発的な視線で樹に視線を向けました。
樹はそれを見て、不快そうにな表情になりました。
しかし、今回の決闘は色々と状況が違いますな。
事情を知っているからわかるのですが、お義父さんが意図的に決闘になる流れへ進ませていますぞ。
「イツキ様! お任せ下さい! 私がその気になれば盾の勇者など簡単に倒して見せます!」
鎧……ああ、忘れがちでしたが燻製がチャンスとばかりに斧を手に下劣な笑みを浮かべてますぞ。
HAHAHA、お前では話になりませんな。
精々お義父さんの活躍に花を添える係が相応しいですぞ。
「盾の勇者一人、対イツキ殿一行の勝負じゃ! ワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまで」
「――!」
「落ち着けですぞ」
額に青筋を浮かべた沈黙のウサギ男が飛び出そうとするので更に追い打ちのパラライズランスをして痺れさせてやりましたぞ。
ビクンビクンと痙攣してますがそれでもウサギ男が立ち上がろうとしますな。
結構根性が出てますな。
お姉さんほどではありませんが、見どころはありますぞ。
ですがウサギの可愛さは維持しなくてはいけないのでそんな野蛮な顔をお義父さんに見せてはいけませんぞ?
「……黙って聞いていれば何処までも卑劣な……貴様! 許さん!」
ブワッと殺気が噴出し雑種のリザードマンの怒りが限界を突破してしまったようですぞ。
ゴキゴキと音がしたかと思うと雑種のリザードマンだけを購入したループ時の変身を完了させました。
「オルトクレイィイイイ!」
ガアアアア! っと雑種のリザードマン改めワニ男がクズに向かって拳を振り上げて駆けだしました。
「ブヒィイイイ!?」
赤豚がワニ男の怒気に悲鳴を上げてクズの後ろに隠れましたぞ。
「正体を現しおったな! 皆の者! 迎え撃つのじゃ!」
クズは一歩も引かずに兵士共に命令を下しましたな。
兵士たちが揃って陣形を組み、クズを守ろうと立ちますぞ。
「シオン」
そうして駆けだしたワニ男の侵攻を遮るようにお義父さんが立ちはだかりました。
ガシっとお義父さんに受け止められて尚、ワニ男はクズへと殴りかかろうと足を踏み出していました。
「落ち着け。今ここで暴れても望む結果は得られない」
「離せ! あいつが、あいつがセーアエットと女王のようにしっかりと統治をしていれば領地の皆は――」
「大事なエクレールさんを一時の感情で見捨てるのか?」
「ッ! クッ……」
お義父さんの制止を受けてワニ男は振り上げたこぶしを降ろして冷静になったようですぞ。
「……」
「本当、余計な騒ぎばかりが起こって話が全くまとまる気配が無いよ。預かった主人としてもう少し落ち着くように命令すべきかな?」
「自分は……」
「まあ、ちょっと驚いたけど結果的に得るものはあったと思う事にするよ。シオン、随分と勇ましい姿じゃないか」
お義父さんの言葉にワニ男は自分の体の変化に気づいたようですぞ。
「これは……」
それは喜びとも何とも言えない複雑な表情をしているようですな。
「血の力に目覚めた……のでしょう」
「それは何より、とにかく今は怒りを抑えて下がっていろ。俺がやらなければならない事だ」
お義父さんの言葉にワニ男は敬礼をして頭を下げましたぞ。
「承知した。偉大なる盾の勇者様」
ワニ男はそこで我慢をする腹積もりのようですぞ。
「さて……俺が預かっている奴隷が余計な騒ぎを起こしたね。樹、決闘をしようじゃないか。一対多数という卑劣な勝負、勝てば官軍の正義かな?」
「そんな卑怯な事をする訳ないじゃないですか! 王様! あなたもいい加減にしてください!」
樹が怒りの形相でクズと赤豚をにらみました。
「娘を辱められ、数々の問題に悩んでいるのは理解しているつもりです。ですがそんな感情的では何が正義かわかりません! あなたの品格の為に、僕は尚文と一対一の決闘をするんです。マルド、あなたもいい加減にしてください」
「ハ! ……出すぎた真似をして申し訳ありません」
心の底から思ってない言葉を燻製はぶちかましてますぞ。
しかし本当、ここまで来て決闘を続行しようというのは何なのですかな?
謎の力でも働いているのか疑いたくなる次元ですぞ。
樹も頑固が極まっていて馬鹿としか言いようがないですな。
鉄は熱いうちに打てないとどこまでも意固地で面倒くさすぎますぞ。