奴隷達の提案
「久しぶり、店の調子はどう?」
「波が近づいてるって話でぼちぼちだぜ」
「それは何より」
「で、アンちゃんたちの噂を耳にしたんだが……」
武器屋の親父はお義父さんの後ろにいる雑種のリザードマンとウサギ男、ヴォルフへと視線を向けますぞ。
「ああ……色々とあって奴隷商人の元で小間使いにサーカス業の管理さ。お陰で戦力として奴隷を支給してもらえたよ」
自嘲気味にお義父さんは答えますぞ。
「槍のアンちゃんがいるのにか?」
「まあ、そこも色々とね。事情がある感じだよ」
「あんまり関心しねえ仕事してんな」
眉を寄せる武器屋の親父にウサギ男がムッとした表情で一歩前に出ますぞ。
「いえ、悪い仕事ではありません。お陰でボクはこうして岩谷様と出会えた訳ですし環境はかなり良いです」
「お、おう」
「その目は言わされてるか疑っていますね。全然違いますよ。岩谷様のお陰でボクの腕はずいぶんとよくなりましたし学も戦う術も何もかも学ばせてもらっています。無茶な命令はまず無いですね」
「ちょっと、テオ」
ウサギ男は何やら俺がするような手の動きでカウンターに手を置きますぞ。
「それで岩谷様、本日はこの武器屋……で何を所望するおつもりだったのですか?」
「えーっと……なんでテオが購入するものを気にするのか判断しかねるのだけど……」
そんな様子に武器屋の親父は笑い始めましたぞ。
「ははは! ずいぶんと元気な仲間じゃねえか。奴隷って言われないと全く分からねえぜ?」
「ええ、まったくその通り」
「……ほどほどにしておけ。緊張感が失われて困ってるぞ」
ため息交じりに雑種のリザードマンがウサギ男に注意しますぞ。
「ヴァウ」
そんな様子をヴォルフが後ろ足で毛を掻いてリラックスしてますな。
「で、何を購入するつもりだ?」
雑種のリザードマンが店内の武器のコーナーで斧などを手に取って確認しながらお義父さんに尋ねますぞ。
「そうだなーみんなの武器と防具を一式揃えたい所だね」
「お前は?」
「岩谷様は?」
「くーん?」
奴隷たちが揃ってお義父さんに視線を向けましたぞ。
「俺はとりあえず手に入れた革製の鎧で良いかなと思ってるけど」
メルロマルクで使える装備は限られてますな。三勇教の盗賊から奪った品を着まわすという事ですな。
ちなみに三勇教の盗賊共の行方がしれないためによく監査が来ますが奴らはシルトヴェルトで奴隷化していて連絡できませんぞ。
身勝手な正義の報いですな。
「却下、おい。こいつに軍資金で一番いいのを用意してくれ」
「同感です。ボク達の武器防具よりも最優先でお願いします」
「ヴァウヴァウ」
雑種のリザードマンがお義父さんを背後から肩をつかんでカウンターに連れて行き、ウサギ男とヴォルフが後ろに続きましたぞ。
「ちょっと、どっちが主人かわかってるの?」
「関係ない。前々から思っていたが幾ら頑丈だからと言っても蔑ろにして良いもんじゃないのを理解しろ」
「ええ、岩谷様は勇者でみんなを指揮する方なんですよ? もう少し自身を大事にしないと波でどうなるか分かったもんじゃないです」
何やらお姉さんがお義父さんに注意しそうな事を言ってますな。
「本来はお前が一番良いものを装備するもんだ。代表が自身を……自らの身を盾にして死なれれば守られた者が困ることになるんだ」
どうも重い言い方で雑種のリザードマンはお義父さんに強めの口調で注意してましたぞ。
お義父さんはそこでなんとなく雑種のリザードマンが何を思って言ったのかを悟ったそうですな。
エクレアの親が波の時に先頭に立って領民の避難の為に戦って戦死したそうですな。
そのことを言っているのだろうとのことでしたぞ。
「だから何があってもお前が死ぬような真似はしてはいけない。だからまずはお前の装備を決めてからにするぞ」
「わう!」
「……はいはい分かったよ。まったく……」
呆れた様子でお義父さんはニヤニヤしている武器屋の親父に軽く咳をしながら装備を頼むことになりましたぞ。
「仲がいいのは良い事だぜ?」
「どうにも威厳が保てなくて困ってるよ」
「アンちゃんらしくて良いじゃねえか。盾の勇者ってのは役割的に仲間が大事なんだし、大切に思われてるのが一番良いと思うぜ」
「そうだと良いんだけどね……んじゃ俺の装備を優先して貰うとしてどうしたもんかな」
お義父さんの苦笑が止まりませんな。
そんなやり取りをしり目にユキちゃんとクロちゃんを確認ですぞ。
「わー闇の剣士ー……闇夜に煌めく一筋の斬撃」
と、クロちゃんが棚に飾ってある剣を握ってポーズをとってますぞ。
「んー……」
どうにもクロちゃんではしっくりと来てないようですな。
そういえばまだ錬を紹介出来てませんぞ。忘れていたわけではないですぞ。
「慕われるリーダーというのは大事ですわ。ユキもみんなに慕われて提案されるリーダーというのを目指すべきかと思うのですが難しいですわね」
「フィロリアルのみんなはのんきで楽しいのが好きだもんね。みんなユキちゃんを慕ってると思うよ。頼れるリーダーって、ね? 元康くん」
「そうですな。ユキちゃんのお陰で助かってますぞ」
「もっと頑張りますわ!」
「ねーユキーこれどう思うー?」
「クロはかっこだけ拘るのは程々にするのですわ。剣を上手く使うのが難しいですわよ」
剣をどう握ったらカッコいいかをクロちゃんが研究していらっしゃるようですぞ。
「やっぱなお達みたいにズババってやった方がカッコいいと思うー旋風の翼<トルネードクッキング>みたいにで包丁挟んでやるみたいに」
旋風の翼<トルネードクッキング>というのはクロちゃんが名付けたパンダの養父のあだ名ですぞ。
お義父さんと一緒に曲芸料理をするパンダの養父の姿をクロちゃんはお目目をキラキラさせて見てましたからな。
アークとお義父さんの曲芸料理とも異なる派手な料理でそれはそれで客が集まっていましたぞ。
「資金はどんなもんなんだ?」
ここで軍資金の話ですな。
お義父さんは内緒話をしたいとばかりに指で合図をした後、俺を手招きしましたぞ。
なので俺たちの三人での内緒話となりますな。
「国内で使えるお金って意味で総額だと金貨30枚以上出せる」
おお……さすがお義父さん、軍資金としてサーカス業でいろいろと手広く稼いでいるのですな。
最近は怠け豚の提案で屋台もしてますからな。先ほどクロちゃんが言っていたことに付随しますぞ。
そっちの方が盛況で稼ぎは十分という事でしょう。
しかも手伝いとしてパンダの養父も参加していますからな。
噂を聞きつけてゼルトブルの闇の料理界の客も並んで食べに来ているそうですぞ。
屋台で行われる派手な料理におひねりが大量に飛びつつ店は大盛況ですぞ。
もしもこのループに似た時間に来ることが出来たらお義父さんに屋台をしてパンダの養父と共に活動して貰うのもいいかもしれませんぞ。
「う……なんか悪寒が」
「風邪ですかな?」
お義父さん、お疲れならしっかりと休んで欲しいですぞ。
「いや……気のせいだと思う。稼ぎすぎてるから金貨3枚くらいの範囲の装備が良いかと思ってる」
「短い期間にアンちゃん稼いでんじゃねえか」
行商をした場合は何分、薬草の調達から何まで自作でしたからな。
人材で回すサーカス業となると儲からないと言っても事情が異なるのでしょう。
奴隷たちの購入費は実は既にシルトヴェルト経由で支払い済みですからな。
盗賊売買は中々いい商売となっていますぞ。