奴隷と主人の境界線
そんな訳で俺もヴォルフを相手に演舞をしました。
派手な演出をしながら縦横無尽に飛びかかってくるヴォルフを赤子を捻り倒すように戦ってみせました。
パチパチと観客が拍手をしておりましたぞ。
そうして初めてのサーカスの演目は全て終わった頃には観客達は満足したのか非常に楽しげにしておりました。
お義父さんを初めとした人間のスタッフが舞台に出て両手を挙げてからの一礼で終わったのですぞ。
客がテントから全員出た後に幕を下ろして一安心と言った様子でお義父さんは息を吐きました。
「よーし、みんなお疲れー興行は上手く行ったね。よく頑張った」
「やりましたぞー!」
「「「わーい!」」」
「サーカスー!」
「カーニバルだよー!」
「暗黒舞踏だよ!」
俺とフィロリアル様がお義父さんの言葉に続いてテンション良く声を上げますぞ。
「クエー!」
「クエー!」
演目に参加していたユキちゃん達も楽しげな声を上げてますぞ。
もう少しで天使のお姿になって下さるでしょう。
「皆さん頑張りましたね」
ゾウもフィロリアル様達を褒めてますぞ。
「もう少し派手な演目にしたくなりますね。最初だからと遠慮していましたがもっと力を入れたくなりました」
「エルメロさんはこう言ったのが得意みたいだからね」
「そ、そこまででは無いかと……」
「ゾウは上手なのですぞ。最終的にはフィロリアル様の歌唱指導も出来る程ですな」
「何処かでエルメロさんの歌とかも演目で入れられると良いな。出来れば見世物興行は廃止したいね」
お義父さんが心の底から嫌だとばかりに拍手に参加している雑種のリザードマンとウサギ男を見て言いましたぞ。
奴隷達が苦笑してましたぞ。
「収益はそこそこですね。客達の満足度は良かったので明日は更に客が来るかと思われます。ただの見世物小屋かと思ったけど安くて色々と見れて良かった。明日も来ようと言う声を聞きましたよ」
シルトヴェルトの使者が帳簿を確認しながら言いますぞ。
「初回公演で客は少ないかと思っただろうけどここから口コミで人が増えていくと思うから諦めずにやっていこうね」
お義父さん曰く、サーカスは本来の仕事ではなく表の仕事なので実の所は売れても売れなくても関係はないのですぞ。
ですがこれはこれで楽しませるのが大事だそうですな。
「それじゃ報酬としてみんなに料理を振る舞うから楽しみにしててね」
「「「おおー!」」」
「んじゃ清掃作業をよろしくねー!」
「ワウー!」
と言った感じに掃除を行いつつお義父さんは料理をしてみんなのテンションを上げて行ったのですぞ。
そうしてみんなが寝静まった時間……奴隷商の配下とシルトヴェルトの使者の案内でお義父さんが街の貴族の所へ奴隷売買に出かける様でしたぞ。
「それじゃ行ってくるね」
「いってらっしゃいですぞ」
「……あまり和やかな顔をすると舐められるから注意してくれよ」
「いってらっしゃいませ」
「くーん……」
俺以外に雑種のリザードマンとウサギ男、それとヴォルフがお義父さんを見送りますぞ。
「ちょっと……どうしてシオン達が俺の保護者みたいな注意してくる訳? こう言った時の態度は弁えてるよ」
確かに商売時のお義父さんはちゃんと演技出来ますぞ。
迫真の演技でしっかりと値引きが可能なお義父さんの得意とする出来事なのですぞ。
どうにも慣れられてしまったとお義父さんは愚痴ってましたぞ。
ちなみにフィロリアル様達はサーカスの裏手で思い思いに就寝してますぞ。
サーカスが終わった頃、街の子供達が裏手でフィロリアル様たちを見に来ていたようですな。
「そもそもテオドール、君は演技が過剰で買いたいって人が来ちゃったんだからね。断るのも中々大変だよ。それとも引き取られたいかい?」
「……そ、それは勘弁を、演技は努力します」
どうやらウサギ男を拷問したいと貴族が所望したようですぞ。
このようにして奴隷売買が行われる事もあるのですな。
売らないとお義父さんは言ってましたな。その代わりの交渉も行うとの話で魔物商の配下が何やら手配をしていた様ですぞ。
「まあ、口先で別の商品を売りつけてやろうとは思ってるけどね。今回は……謝罪の挨拶みたいなものだからラフタリアちゃん達は居なくて大丈夫だけど……」
ふと魔物商がそんなお義父さんの交渉術に対して楽しげだったのを思い出しますぞ。
配下も報告用に映像水晶を準備してましたな。
何を売ったのかはよく分かりませんが交渉は上手く行くようですぞ。
「教育した奴隷を売る……か。中々奴隷商人って職業も大変なんだろうね。出来れば奴隷売買ではなくサーカスだけを楽しくやっていきたいね」
お義父さんはサーカスをみんなでやるのは楽しいんだよと苦笑しましたぞ。
「まあ……いや、気にしなくて良い」
「――自己満足ではないですよ。ここ数日のやりとりでボクも思っています」
「うむ。自分も悪くないと感じている」
ウサギ男と雑種のリザードマンがお義父さんが飲み込んだ言葉の続きを言いましたぞ。
奴隷と主人はどれだけ仲が良くなっても何処かで境界線があり、親しくても翌日には主人を殺すなんて話があるとお義父さんは自嘲気味に仰っている事がありました。
これは全てのお義父さんが共通して認識している事のようですぞ。
本来、お義父さんはお優しい方ですからな。
奴隷を使役する事は負担になっているのでしょう。
ですが、その悩みを奴隷達は察しているのですな。
「お義父さん、暗い話はこの程度にしてお出かけ前に見て欲しいものがありますぞ!」
「何? 元康くん」
「ユキちゃんとコウ!」
「「クエ?」」
既に大きく成長してきているユキちゃん達をお呼びしますぞ。
テントの裏手でお休み中でしたが来てくださいました。
コウの世話をしていたゾウもやってきましたな。
「あの小さかった子達が僅かな時間ですぐに大きくなりましたね」
「エルメロさんも来たのね」
「はい」
「フィロリアル様方、そろそろ他の天使の方々と同じく、天使の姿になられるかと思います。その御姿を見せてくださいですぞ」
俺の言葉にユキちゃん達が変身を始めましたぞ。
そしてユキちゃんとコウは見覚えのある幼いお姿になってくださいました。
ユキちゃんは大人のお姿になる可能性がありましたが問題無かったようですぞ。
「元康様ー」
「わーい」
「天使のお姿を見せて頂き、ありがとうございますですぞ!」
服の準備をこの後しなくてはいけませんな。
「わーユキちゃん達も天使姿になったね」
もはやサーカスに居る者たちはフィロリアル様のお姿に見慣れているので驚く姿はないですぞ。
「どう? エルメロー」
「人の姿になれるのですね」
「うん」
ちなみに呼ぶ前にコウはゾウを相手に少しお喋りをしていたようですぞ。
すぐにコウはボフっとフィロリアル様のお姿に戻ってしまいました。
「どうですか元康様ー? ユキはちゃんとリーダーらしいお姿になれましたか?」
「バッチリですぞ」
「ありがとうございますわ! ではユキがこの群れの誰が長であるかをフィロリアル達に教えて行きますわよ!」
「あんまり肩に力を入れすぎないようにね。逆効果になりかねないから」
「もちろんですわ」
お義父さんの注意にユキちゃんは頷きましたぞ。
ちなみに昼間の休憩時間の追いかけっこの段階でユキちゃんは足が速いのをアピールしておりました。
他のフィロリアル様は期待の新人という認識でしたが徐々に信用はしているようでしたぞ。
しばらくすればユキちゃんをみんな頼るようになるでしょう。