~夢見る少女の転生録~   作:樹霜師走

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 ──Gジェネエターナルで初配布されたSP化バッジ×100は、配布直後に何も考えずSRステラに貢ぎました(盲目)

 所感としては、追加で貰えるMPアップが「エクステンデッド」のアビリティ(超強気以上で守備値&反応値各30%UP)と噛み合ってていいですね。一方の初期スキルはクリティカルブーストで、SP化でクリブLv3(30%アップ)になりました。コッチハソコマデ…
 SP化ステラは素の反応値が792とずば抜けてて、超強気以上でさらに大躍進なんですけど、どうせ突き抜けるなら他のステの方が嬉しかったなあ。ただ、素の守備値が270と余りに低すぎるので、回避できずに直撃もらう高難易度だとまぁ真っ先に溶かされてしまう(泣)オート運用だと真っ先に敵陣に突っ込んで瞬殺されるレベルで残念ですね…。
 あとは地球連合タグが単純に過疎帯で、乗り換えの選択肢が少ないのも痛いですね。ハイペリオンやフォビドゥンなど優秀層と相性のいいアウルと違って、デストロイは支援型ですし、攻撃一致のガイアはハッキリ微妙…ステラの搭乗機なのでどちらにもSP化チップ×100ずつ使いましけど(盲目)

 地球連合タグは劇場版のFREEDOMまで含めて将来性なさそうだなー。
 せめてクロスレイズみたいに、ステラ(ガイアVer)とのイラスト違いでステラ(デストロイVer)とか実装されないかしら? SSRでいいから! 強めの射撃支援特化でいいから!(妄想)
 上手なステラ運用方法など研究された物好きな方がいれば、ぜひぜひ感想でお願いします。


 ────脱線しましたが、今回もまた戦闘回ではありません。
 特に前半がカガリに優しくない話で、しかし、飛び級してもらうための回になってます。
 DESTINY時代のカガリって、前半から中盤にかけて未熟さに振り回されて不甲斐ない印象ですが、後半&FREEDOMでは割とどっしり構えるタイプに成長しましたよね? 本小説では彼女の成長過程は流石に取り扱えないので、今話で一気にFREEDOM級のカガリ『様』まで飛び級してもらうのが目的となっています。
 そして後半はマユの修行回、それではどうぞ。



『冥闇の善導師』

 

 

 戦後になって、カガリ・ユラ・アスハはオーブの代表首長に押し上げられた。それは彼女の父が『オーブの獅子』と呼ばれる傑物であり、彼女はその娘であること。また、彼女自身が第二次〝ヤキン・ドゥーエ〟攻防戦での果たした戦果を喧伝されたためでもある。

 

 けれども、彼女も当初は『器』ではなかった。

 

 依然として強大国として振る舞う大西洋連邦と、それに比肩するユーラシア連邦。一方、戦災によって国から流れた民を預けている〝プラント〟には、オーブはその件の引け目があった。

 国家、宗教、共同体──様々な利権と思惑が絡む中で、一国の舵取りを齢一〇八の少女がやろうというのだ。要は彼女が未熟なのは明らかであり、そんな彼女の進む政治の道は、今後も困難を極めるに違いなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 宇宙のオーブ領〝アメノミハシラ〟にて、アスハ家当主とサハク家当主──両氏族による会談の機会が漸く設けられた。それは大西洋連邦による【世界安全保障条約機構】の呼びかけがまだ行われるよりも前、おおよそ現在より半年ほどは以前の出来事だった。

 ────オーブが、コーディネイターが受け入れる国であることは周知の事実だ。

 だが、先の大戦における地球連合の侵攻を受け、その住居を追われた者の中で、特にコーディネイターは新たな地を求めて多くが〝プラント〟に流れた。

 宇宙に上がったオーブ国民のうち、そのさらに一部は〝プラント〟とはまた違う異郷へ流れていった。その事実が戦後になって判明し、カガリはその一件について意見交換の機を得るために、こうしてサハク家に会談を申し入れたのだ。何を隠そう、亡命してきたオーブ国民を匿ったのは〝アメノミハシラ〟──ロンド・サハクの統治する、オーブ保有の宇宙ステーションだったから。

 

「我々は再三再四、かのオーブ戦の折に流出した地上の技術と、国民を返して頂きたいと申し上げている!」

 

 地上の指導者、カガリは淀みない口調で云う。

 宇宙の指導者、ロンド・ミナがこれを受けて返す。

 

「サハク家の方々には代々、オーブの軍事を司ってきていただいた。しかし、それに託けて勝手な軍拡を進めるなど──最近の貴殿らの行動にも、目に余るものがある!」

 

 地上のモルゲンレーテ工場には及ばないものの、この〝アメノミハシラ〟も宇宙ステーションであると同時に、先の戦時以降は軍事工廠である。サハク家が、地上の政府に黙ってひそかに軍備を整えているという情報を、カガリは掴んでいたのだ。

 

「強すぎる力は、また争いを呼ぶ!」

 

 カガリが懸念するのには、相応の理由もあったのだ。

 先の大戦時、サハク家はまたも地上政府に黙って『〝G〟計画』を推し進め、その咎を受ける形として〝ヘリオポリス〟は襲撃され、崩壊したのだ。

 結果的に、あの事件で一番の迷惑を被ったのはコロニーで暮らしていた国民だった。勝手な軍拡により、またも同じ悲劇を招くのではないかと、このときのカガリは危惧していたのだ。

 

「だが、力なくば滅ぼされる」

 

 まるで女帝であるかのように、ミナは動じることもない様子で受けて立っていた。

 

「その理はそなたも良く知っているであろう? ……表現上は『流出』と云っても、彼らの実態は、地上を追われて流れついた難民だぞ? 当時の彼らを我らがあたたかく迎え入れたのは事実だが──そんな彼らがここで暮らすために、持てる技術を活かそうとするのは仕方のないことではないのか?」

 

 紡がれた相手の言葉に引っ掛かりを憶え、ミナは呟くように続ける。

 

「それに、国民を返す──『返す』………ね」

 

 意味ありげに、ミナはその言葉を反駁してみせている。

 その顔に一瞬の呆れが混じったのを、カガリは見過ごせなかった。

 ミナは取り繕ったように述べた。

 

「返すもなにも、彼らは我々の所有物(もの)になった憶えなどないと思うよ。むろん我々も、彼らをそのように扱ったことはない」

 

 脚を組み直すような無礼を働きながら、ミナは滔々と言葉を続けた。

 

「彼らは自分達の意志でここにいる。──中にはそれに従ってここを出て行った者もいるし、我らは当然に止めなかったがね──その自由な発想を奪い取るように妨げる権利は、いくら代表首長といっても無いと思うが?」

「惚けないで頂きたい。こちらは、真面目な会談のためにやって来ている」

「──では、そなたの流儀に則って、単刀直入に云わせてもらおう」

 

 ──次の瞬間。

 介錯のような言葉の鋭さを持って、ミナは次のように云って捨てていた。

 

「母国に見捨てられた棄民が、その後何を為そうとも、彼らの勝手だ」

「──!? 見捨てた……!? おとう──ウズミ前代表が、国民を見捨てたと貴方は仰るのか!?」

 

 父をそんな風に悪く云う者など、カガリは絶対に許せなかった。

 けれど、思わず激昂したカガリに対して、ミナの反応はどこまでも冷ややかだった。その温度の差までもが、カガリの気分を逆撫でする。まるで子供扱いを受けているようで。

 

「そう熱くなられても、な。──まず、そなたはなにか勘違いしておらぬか? ここで重要なのは、政治家(われわれ)がどう考えているかではなく、国民がどう感じているか、だ」

 

 魔女のようにふたたび足を組み直し、呆れたように、ひとつのため息。

 

「そして、その答えを知る方法は簡単だ」

「なんだ、それは!」

「分からないか? 彼らに直接聞いてみればいいのさ」

 

 ──物事の是非を知る方法は、世に広く問うてみることだ。

 この世に絶対の正しさなどない。ないのだが、少なくとも現代社会においては、時世のルールや価値観に沿って集められた多数説こそが、一般的に〝正しい〟とされる。正しくは、そう信じられている。

 それを知るためのまず第一歩として、ミナはとある方向に話の水を向けた。

 

「シン・アスカ──ああ、そこにいる少年などが丁度いい」

 

 ある方向を示唆され、カガリはそちらを見遣る。

 ミナの側近か、切れ長の黒髪をした、それこそカガリ自身と同輩くらいの少年がじっと立っていた。その表情は唐突に話を振られたことで一瞬唖然としていたが、しかし、その血の色をした目は鋭く、強い意志の力を感じる。成程、ミナの護衛も兼ねているのか──

 

「その者はかつてオノゴロで暮らし、ここに流れ着いた棄民のひとりだ。たった一人の感想(・・)など、物事の是非の判断材料としては不足だ、だが無価値ではない。──〝そういう意見もある〟という『現実』を、持ち上げられ、頭だけが無駄に大きくなった御姫様に知ってもらうには丁度良い機会かもしれん」

 

 促してやれば、カガリも押し黙り、そうしてようやくシンが口を開いた。

 

「──オレの家族は、アスハに殺されたんだ!」

「な……っ!」

 

 強い憎しみで曇った目。

 カガリはまるで、信じられないものを見たとばかりに目を見開いた。

 

「国を信じて、アンタ達の理想とかってのを信じて、そして最後に、オノゴロで殺された……!」

 

 少年の怒れる瞳は、復讐を望む鬼のように、赫々とした昏い光を湛えていた。忘れられるものかと、その目が訴えていた。

 血を薄めたような紅の奥に、あの日の光景がありありと浮かべられ、こびり付いていた。

 ──墜落してきたモビルスーツ。

 ──戸惑いながら、為す術もなく潰された三人の命。

 あの地獄の一瞬を、シンは絶対に忘れない。

 気圏として体中から放たれる憤怒と憎悪に、まるで直面したこともない壮絶な敵意の塊に、カガリは顔色を失って、為すすべなく後ずさるしかなかった。

 

「そ、それは──っ」

「──だから俺は、アンタ達を信じない! アンタ達が支配する、地上にだって帰らない!」

 

 だからシンは個人的に、目の前の『御姫様』を認めるつもりは決してなかった。

 

「理念で国を守るって、アンタ達だってあのとき、自分達のその言葉で誰が死ぬことになるのか! 本当に考えたのかよ!?」

 

 ──キレーゴトの正義を掲げた末に、誤った道に民を導き、手に負えなくなったら一方的に切り捨てた!

 それなのに自分達だけ生き残り、戦後は何事もなかったかのように元の地位に居座っている。一度は国を滅ぼした存在が、戦争を終わらせた英雄などと喧伝されて──

 

「オレ達の居場所は、オレ達で決める──そう謳った連中が、いま〝アメノミハシラ〟で暮らしている連中なんだ!」

 

 顔を背け、威勢を失ったカガリの様子を見て、見かねたようにミナはその先を引き取って続ける。

 

「そなたは国を追われた者らのうち、誰かの意見を聞いてきたか? 首長に押し上げられたあと、国民ひとりひとりを回って──国民を〝味方〟につける努力をしていたか?」

 

 その問いに対する答えを、カガリは持たなかった。

 ──単純に、ずっと官邸や行政府に詰めていたからだ。

 首長として数々の文書に目を通したり、閣僚達と会議の場で議論を交わしたりするばかりだった。首長であるがゆえの多忙という問題であるが、なんにしても、ここ数年の彼女の生活サイクルの中に、国民と言葉を交わす時間など何処にも無かった。

 

「良いか、カガリ・ユラ・アスハ」

 

 そのことで思わず項垂れるカガリに、ミナは云った。

 

「政治とは、小奇麗な机の上でお勉強(・・・)に励むことでも、高級な椅子のシートにふんぞり座り、似たような閣僚達と恰好だけの政治談議(グループセラピー)に勤しむことでもない。ましてや、そなたの父君の残した、小洒落た理念(イデオロギー)に心酔し続けることですらないのだよ」

 

 ──他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない?

 

「必要なのは、そこで暮らしている国民に寄り添い、尊重しようという姿勢だ。みずから足を運び、現地の者と挨拶と握手を交わし、ときに意見でもって衝突と折衝を繰り返す。民が抱える悩みや苦しみを分かち合い、その上で、彼等のために何ができるかを模索することなのだ」

 

 彼らと交わした言葉の数と、彼らのために費やした時間、かいた汗の総量こそが、政治家にとって綱となる。

 

「遠い昔、我がそなたに初めて会ったとき」

 

 カガリがウズミの子として、オーブの未来を担う者として、オーブという国に迎え入れられたとき。

 

「そなたになら、政治(それ)ができると我は思っていた──なあ(・・)、〝砂漠の女神(・・・・・)()?」

 

 何もかも見透かしたような物言いで、ミナはカガリに呼びかけていた。その呼び名に驚いて、カガリはどきりとして身を震わせる。

 ──それは、彼女の勇猛果敢を体現したようなエピソードだった。

 カガリの周りにいる信奉者達は、あの一幕を彼女の武勇伝として誇らしげに語りたがる。

 だが、政治家となった今の彼女にとって、あれは汚点ではないにしろ、間違いなく急所だった。ひとたび公表されれば、当時のザフトに対する敵対行為を掘り起こされ、外交問題に発展しうるほどの。

 

「あ……っ」

 

 ──しかし、ミナはそれを黙っていた。シンが分からないと云った顔をしたが、それはやはり、彼女が部外者に口を滑らせていない証拠でもあった。

 おおよそ、アスハとサハクが、単なる私怨でいがみ合っている政敵(ライバル)の間柄であれば、鬼の首でも取ったように触れ回るカガリの急所を、それでもミナは握り潰していた。だからこそ、一連のこれは脅迫でも嫌味でもなく、先達としての温情であるのだと、カガリが気が付くのにそう時間は必要なかったのだ。

 

「本心を云えば、我とてこのような……大人げのない物言いはしたくないのだ。サハク家とアスハ家は長年政敵で在り続けたとはいえ、それもこれも、同じ国に生きる者として、民の未来を憂いてこその衝突だった。──少なくとも、我は個人的にそう信じている。──このことを思えば、我らは同じ盟友であり、何も本心から、そなたやそなたの父を悪しざまに扱き下ろしたいわけではない」

 

 少なくとも、それがミナの本心だった。

 

「アスハの名を持ち、先の大戦で英雄視されたそなたは、周りからのそれを望む声によって代表首長に持ち上げられたに違いない。だから同情はするし、年長者としてこうして助言もしてやろう。だが──今回の振る舞いだけはやはり看過できんよ。民は貴様(キサマ)の持ち物でも、お遊びの道具でもない」

 

 無意識かどうか、その一瞬ミナの言葉遣いが崩れ、その裏に込められた嫌悪の感情の強さに、カガリは思わず怯んでいた。

 しかし、それは本当に一瞬の出来事として露と消えた。

 

「本来のそなたは、民を大切にできる人間であるはずだ」

「────」

「が、権力の椅子に座すことに慣れ、原初の思いを忘れたか? 地を這いながら狂うほどに悩み、傷つきながらも民草と手を取り合って生きていた、あの頃の己を忘れたか?」

 

 あの頃──? そう云われて、カガリは思い出す。

 ──以前、砂漠にいた頃の自分が勇猛果敢であったことなど、云わずもがなだ。

 しかし、それとはまた違う意味で、たしかにあの頃の自分は、別の意味で生き生きとしていた気がする。代表首長として方々からの圧力に揉まれ、当時の信念を見失いかけている今の自分よりは、はるかに満ち足りていた時期であったことは確かだ。

 

 ──あの頃の自分を『若気の至り』と云うのなら、反対に、今の自分は『老け過ぎ』だった。

 

 閣僚達の期待、圧力──そういったものに圧し潰され、激務の中でいささか元気を失い過ぎている。当時の自分を支えていたのは、たしかに現地の人間達であり、それらとの触れ合いだった。

 ──サイーブ、エドル、アフメド……。

 彼らがカガリを支え、だからこそカガリもまた、彼らを支えたいと思った。父の言いつけで「世界を見に行ってこい」と帝王教育を言い渡されたとき、留学などという選択肢を取らずにレジスタンスの最前線へ向かったのは、その理をいち早く識るためだった。

 

 ──そうか。私は、そのやり方を、もう知っているのか。

 

 抽斗の中に仕舞われていた鍵によって、まるで扉が開けたような思いだった。

 

「そなたが首長として築かんとする今後のオーブが、仁政の世となるか、悪政の世となるかは判らない。だが、少なくとも……そなたがオーブ国民のことを真摯に按じ、彼らの声に耳を傾ける〝味方〟で在ってくれる内は、我らサハク家も、大人しく目を瞑っていよう」

 

 それは反対に、暗君には容赦をしないという、恫喝の意味合いでもあった。

 いざとなれば簒奪の機会を狙う、それは『軍神』と呼ばれる者の鋭い炯眼だった。

 

「我の目は節穴ではなかったと、そんな夢を見せておくれよ」

 

 

 

 

 

 

 会談は、そう長くは続かなかった。

 ──あれから、半年以上の時を経た。

 カガリは開けたような思いで、今は地上に立っていた。

 大西洋連邦からの条約締結を跳ねのけ続けたのも、あの会談が無関係だったとは云えない。他国の都合に従って、国民を売り渡すような真似はできない──そんな権利は政治家にはもちろん、誰にもないから。

 カガリは改めて、宣戦布告と見られる大西洋連邦からの通告を受けた。にわか仕立ての閣僚達を総動員させ、避難指示を開始──街中のスクリーンからは、そんな彼女の真摯な演説姿が流されている。

 

〈オーブ国民に次ぐ。オーブ政府は現在、あらゆる交通機関、すべての軍用車両、艦艇、航空機を動員し、都市部に済む市民の避難を進めている。私が皆に求めることはひとつ、けっしてパニックにならないことだ。皆が落ち着いて、予定どおり行動すれば、全員の避難が間違いなく完了する。もちろん、最悪の事態を回避するために、我々は現在も大西洋連邦との交渉を続けている──〉

 

 金色の目の中に、真っすぐな光を宿して云う。

 

〈私、カガリ・ユラ・アスハは皆を守るために、あらゆる努力を惜しまない! だからどうか、私を信じ、行動して欲しい!〉

 

 ──民が信じてくれた分が、そのまま私の力にもなるから。

 

「カガリ姉さま」

 

 放送を終え、トーヤ・マシマが、一本のボトルに入ったミネラルウォーターを持って差し出してくる。カガリは受け取り、それをぐびっと喉奥まで流し込んだ。

 二人は発令所まで足を運び、警戒待機中の国防軍の映像に目を遣った。その様子から、トーヤが口を開く。

 

「もし、連合による攻撃が、このまま本当に始まったら」

「ん」

「実際のところ、今の我が陣営の戦力では、とても……」

 

 弱気がちに発された声。推理とも云えない簡単な推認だったが、しかし、正鵠は射ていたのかも知れない。

 トーヤの状況判断は、このとき正しい。カガリがみずからの後進にと彼のことを推挙するくらいには、この少年は賢く、全体を俯瞰的に見ることができていた──

 

「皆まで云うな。分かっている……」

 

 ──しかし今ほどに、彼の勘が間違いであって欲しいと願うことはなかったろう。

 マルチモニターのひとつには、オーブの領海近辺の海上の様子が映し出されている。展開中の地球連合軍艦隊は、今に滄海を覆い尽くさんとする勢いだ。

 それはまさに、前回の戦争をカガリに思い起こさせる光景だったのだが、当時とは明らかに状況が違っていた。

 今のオーブには、〝アークエンジェル〟も〝フリーダム〟も──〝クレイドル〟も不在なのだ。そして、カガリの『弟』である──今も(・・)弟だと思っている(・・・・・・・・)──例の青年も。

 そんな微妙な思考の沼に沈むカガリを、トーヤの言葉が呼び戻してくれる。

 

「スカンジナビア王に内密に託していた、件の増援は見込めないのですか?」

 

 ──王家の御厚意で、あちらに秘した『大天使』のことか。

 だが、彼女は堪えるような声で返す。

 

「あの(ふね)のことは考えるな。あそこには、艦はあっても、モビルスーツがない」

 

 その返答には、若干の嘘が混じっている。

 件の〝大天使〟には、一機のモビルスーツが搭載されている。それは実に、天使のように美しい翅翼をもつ白銀のモビルスーツだ。

 

 ──だが、誰がアレに乗れる?

 

 考えるまでもないことだ。

 いったい誰が、あのような高度な機体を動かせるというのか? 現在のオーブ軍から選り分けて候補を探したとても、おおよそ不可能であり、そしてそれは確信だった。

 実際、前回の戦争でパイロットを務めていた少女が消息不明となってからは、そのパイロット・シートは空席のまま捨て置かれている。本来の乗り手が〝いつか戻る〟という、ささやかな願掛けの意図を籠めなかったわけでもないが……少なくともカガリはあの機体を、本当に次世代への過渡(アグレッサー)機と割り切って修復させたつもりだった。

 

「ならばサハク──『天空(アメノミハシラ)』からの応援は?」

 

 トーヤは、一縷の望みにかけて訴えかける。

 カガリは歯噛みして答えた。

 

「──もしも、今の我らが正当なオーブの主に足ると考えてくれているなら、あるいは」

 

 連絡は取れていない。結局のところ、サハク家の出方は読み切れないままだ。

 そんなとき、閣僚の一人が扉を開けて声を掛けてきた。車の用意ができたとの連絡だ。

 

「私は国防本部へ移る。トーヤ、ここは後は任せたぞ」

「はっ」

 

 そうしてカガリが発令所から出ていった。

 残されたトーヤは、改めてモニターの中、領海外に展開中の地球軍艦隊を見た。

 

(しかし……)

 

 その戦力の数、徹底された配置──

 まさに、南国の海を鋼色で埋め尽くさんばかりだ。

 

「ジブラルタルへ攻め入ったという艦隊の規模と、よく似ている」

 

 開戦と同時に巻き起こった戦闘──特にジブラルタル基地で繰り広げられた激闘は、その映像を見たが凄まじいものだった。

 連合軍からは、空を飛ぶ得体の知れない巨大モビルアーマーが複数機出撃し、〝ミネルバ〟から出撃した一機のモビルスーツ──〝インパルス〟──が、ソレらをまとめて撃墜。そのあと標的を変え、ソレは展開中の連合軍艦隊を悉く叩き斬る勢いで暴れ回ったのだ。

 

 ──そんな〝鬼〟みたいなパイロットが、自軍(こちら)にも居てくれたら……。

 

 そう、思わないでもないが。

 結局、これも無いものねだりでしかない。

 

「でもいったい、どんな人間が、そんな芸当をやってのけたっていうんだ?」

 

 ──ザフトは〝鬼〟の子を抱えている。

 けれども今のトーヤにとっては、やはり目の前の連合軍艦隊こそが脅威だと、改めて思い直していた。

 

 

 

 

 

 

 マリューによる〝アークエンジェル〟の出航命令が下されてから、工廠では急ピッチの出航準備が進められていた。メカニック達があちこちを駆けずり回り、最後のチェック作業を全力で行っている。

 驚くべきことに、今の〝アークエンジェル〟には潜水機能が追加されていた。

 これはマユも云われるまで気付かなかった。つまり、海底を移動する航路を取れば、ほとんどタイムロスなく太平洋を横切ってオーブに辿り着けるということだ。

 

 ──オーブの回答期限まで、まだ猶予はある。

 

 しかし、見立てでは「到着はギリギリになるかもしれない」とのことで、マユはもどかしく思ったという。

 そんな彼女だが、当面できる作業や仕事というのはなかった。搭乗機である〝アリアドネ〟をモビルスーツ・デッキに積み終え、それ以降は手持無沙汰なのであり──焦りのせいか、そんな彼女はここしばらく、まるで落ち着きがない様子で艦内をうろつき回っていたという。

 それで何を思ったか、このときのマユは、艦内備え付けのシミュレーターでの修練に明け暮れていた。

 訓練用コンピュータであり、新兵が攻略するには不可能な難易度設定になっている。だが『こういうの』に関しては、マユもアカデミー時代によく励んだものだ。彼女は、与えられた課題を次々にこなしていった。

 

「──居ても立ってもいられない。そういう顔だな」

 

 そんなときに脇から声を掛けられ、マユも驚いて、咄嗟に専念中のシミュレーションを中断させる。

 振り返ろうとするマユであったが、そうして頭を向けた先に『黒い仮面』──を認識すると、露骨にイヤな顔を返していた。

 

「うえっ」

 

 反応として最悪であり、さすがに失礼だったと後で自省はしたものの、漏れ出た声はもう呑み込めない。

 マユは頭を前に戻す。シミュレーターは再開させた。

 

「なにか用ですか?」

 

 ながら聞きする程度の雑さと軽さが、案外気を揉まずにいられる男との適性距離だったのは事実だ。そして、そのような応対をいまさら気にするネオでもない。

 

「いろいろやることがあって、忙しいんでしょう、あなたは? こんなところで油を売っていて、よろしいんでありますか?」

「……本当に突っかかる云い方しかしないヤツだな、きみは。毎度丁寧に私に肩をぶつけて歩くのは愉しいか?」

「前半は遺伝ですし、後半は自業自得だと思いますけどね」

 

 ため息と共に云う。

 ネオは切り出すように口を開いた。

 

「〝アークエンジェル〟が発てば、しばらくきみ達とは連絡が付かなくなる。私が多忙なのは事実だが……その前に、聞くべきことを聞いておこうと思ってな」

 

 どうにも、ネオは何らかの質問があってマユの許を訪れたようだった。

 本題を切り出す前に、彼はマユの様子を見ながら、見かねたのか、次のように漏らした。

 

「……きみの方は、大いに暇を持て余しているようだな」

 

 呆れた口調で云い放つ。

 ──いったい何が悲しくて、このタイミングでシミュレータなどに居座っているのか。

 指摘され、マユは機嫌を損ねたように返す。

 

「暇ではないですよ。何かしていないと落ち着かないから、こうやって訓練に集中して、気を紛らわせようと努力しているんじゃないですか」

「……しかし私の目には、きみが集中できているようにはとても見えないが」

「誰かさんがそうやって話しかけてくるからじゃないですか?」

 

 またも突っかかるような反応で、マユはネオを見た。が、そこから返ってきた対応は、彼女にとっては想定外のものだった。

 

「──違うな。きみはもっと、別のことに焦っているからそうなのだ」

 

 非常に見透かしたような物言いで、マユは図星を突かれるよりも前に、すっかり虚を突かれたという。

 

「どっ、どうして、そんなこと」

「その気の張りようと、根の詰め方を見れば一目瞭然……と云いたいところだが、これでも私は、きみのような新兵を数多く指導してきた身の上でね」

 

 ザフトのアカデミーだって出ているし、経歴的には、純然たるマユの先輩に当たる。もっとも、その後輩であるはずの彼女からは敬意など微塵にも感じられないし、それはそれで痛快だと感じている性癖も自認するところだが。

 

「私には、きみの焦りの原因が手に取るように分かる。──ああ、解り易いというのは結構なことだな。その人間の心の動きを読み切ってしまえば、それ以上に制御(コントロール)し易い存在も他に無いのだから」

「……私には、あなたが何を云っているのかが分かりません」

「そうか? おそらくその悩み(・・・・)にも直接関連することだから、ここいらで尋ねるとしよう」

 

 そうしてネオは、改めて本題を切り出した。

 

 

 

「──ZGMF-X56S(インパルス)のパイロットとは、どういう人間だ?」

 

 

 

 その瞬間、マユの中では世界が止まったような静寂が訪れた。

 思ってもいない、考えてもいなかった質問だった。

 

「えっ……?」

 

 ネオは何かを確信づいているように、淡々と説き明かして云った。

 

「アレの戦闘(たたかい)を、私は見た。とても新兵(ルーキー)とは思えない技量に、ジブラルタルでは、連合軍艦隊をほとんど単騎で叩き潰したと噂されているくらいだ」

 

 噂は噂であり、ザフトによる政治的に誇張された喧伝(プロパガンダ)の可能性もあるから現時点では半信半疑だが、仮にも事実なら「イカれている」と、ネオは評定する。

 

「実際宇宙でも、あのパイロットは、たった一人で(・・・・・・)レムレース(・・・・・)と渡り合ってみせた(・・・・・・・・・)。──その意味が、分からないきみではないだろう?」

 

 このときの彼は、彼にしては珍しく本気で訊ねてきている気配があった。わざわざ自分のところを訪ねてきたのが、真実その解答如何によってチェスで云う盤面を図ろうとしているのが瞬時に理解できるほどで、マユはいつの間にかシミュレーターを止め、彼の仮面をまじまじと見つめ返していた。

 ──たしかに……。

 そこで改めて、マユも整理を付けたという。

 これまで当たり前のように考えてきた……深く考えもしなかったのだが、なんだかんだ〝インパルス〟のパイロットは、いつだって戦場から平然と帰ってきた。デブリベルトでの戦闘にしたって、彼女はずっと──マユの目標でもある──ステラと本気で殺し合っていたはずなのに?

 

「順当に考えれば、そんな芸当(こと)が出来るのは歴戦のパイロットくらいだ。だが生憎、私には心当たりがない」

 

 ザフトにおいても。

 ──大体の猛者は、前の戦争で死んだのだ。

 そしてよもや、生き延びた彼のかつての部下達(イザークやディアッカ)でもあるまい。

 

「……残念ながら新兵ですよ。私とルームメイトだった──私と同じ、今期のアカデミーの修了生です」

「そうか……やはりな」

 

 予想はしていたようで、しかし、この予想が当たったところで、ネオは素直に喜びなどしなかった。

 ──たかだか新兵の分際で、ステラと互角に戦えるというのか?

 その時点で超大型新人(スーパールーキー)の路線は確定しているのであり、ネオの視点からは相手の素性も分からない以上、その人物の思想や信条、そこから導かれる今後の行動の一切も読み切れない──

 

「アトラ・デンソンと云います。……彼女が、なにか?」

「なに、急を要することではないが。ただ、だからと云ってそのまま放置しておくには、あまりに危険すぎる駒だ」

「…………!」

 

 それだけは厳然たる事実であり、それがザフト陣営の手中──それどころか中核に組み込まれているなら尚の事だ。

 デンソンというのは、およそ〝プラント〟の高官に連なる名前ではない。そのようなファミリーネームは、ラウも聞いたことがない。であれば、本当に在野から現れた少女──ギルバートは、道端に落ちていた宝石を拾ったと見るのが妥当か。

 納得したように、ネオは「それだけ聞ければ充分だ」と、そう云って締め括った。

 

「アレの強さは〝異常〟だ。きみの機体……〝アリアドネ〟のログとデータも先ほど拝見させて貰ったが、おおよそ──いや間違いなく、今のきみでは足元にも及ばないだろうな?」

 

 皮肉を返すようにして、ネオは相手の痛みを味わうように付け加える。

 なるほど、そのような人間が、今後のザフトの旗頭(フラッグシップ)機のパイロットとして抜擢されたのも道理だった。推挙したのは間違いなく遺伝子学を敬虔している人間(ギルバート・デュランダル)だろうが、そんな彼が、そのような鬼才を持つ人間に目を付けた事にも納得しかなかった。

 

「っ……! そんなこと、云われなくても分かってます!」

 

 マユは逆上したように、怒って返していた。

 おおよそ二年間、アカデミーで寝食を共にした事実など関係ない。寧ろその期間でもって、同時にザフト兵としてスタートを切ったはずの二人の力は、確実に押し開かれていったのだ。

 ──私とアトラの間には、残酷なまでの才能の壁がある……。

 それは完璧に図星だったのだが、ラウは、そうしたマユの忸怩の反応を愉快がるように続けた。

 

「要は、きみには自信がないのだろう? ──だから気を張るし、手頃な私に安易に噛み付く」

「────」

「パイロットとして、この先も戦場を生き抜き、そして勝ち残ってゆく自信が……?」

 

 このままオーブへ向かっても、実はそこで生き残る確信すら持てない不安。だがそれは無理からぬ話で、ガルナハンでは己の力不足を痛感し、他者によって痛烈に批判されたばかりだった。

 戦場に出てしまえば、死のリスクなど平等に振り分けられる。だが少なくとも、マユは、アトラやステラのような〝例外〟とは違うのだ。

 ──特別な才能も、遺伝子もない。

 まるで神様に愛された物語の主人公のように、補正された勝利を積み重ねていけるような存在ではなく──そうなっている将来の自分が、彼女自身、どうしたって見えてきやしない。

 

「そんな不安を誤魔化すために、そこに座ったのではないか? 付け焼き刃の訓練で〝自分は強くなった〟と信じ込んでいたいのか──なかなか卑屈な発想で、その凡人らしい(こじ)らせ方は、実に私好みだな」

 

 酷い云われようであるが、図星を突かれていたために、マユも咄嗟には反論できなかったという。

 ……しかし、酷さで云えば、この男だって大概ではないか。もはや矯正不能なまでに歪んでいる己の性格の悪さを、彼はよくここまで堂々と自白できるものだ。

 

「強さとは相対的なもので、実際の戦場では、それまでどれだけ努力をしたか、どれほど鍛錬を積んだかの過程など無価値だ。他者より強く、他者より先へ、他者より上へ──単にそれが出来た者から生き残るのであり……きみも頭では理解しているようだな。『こんなことをしていても強くはなれない』と、そう顔に書いてある」

 

 迂遠に紡がれる言葉は独白めいていたが、まるで教えを授けるもののようにも聞こえる。軍学校の教導官が説く言葉とは重みが違う。彼自身の壮絶なる実体験に裏打ちされたような、現実主義的で残酷な教えだった。

 

「……でも、私には、他に方法がありません……っ!」

 

 決して遊んでいたわけではない。強くなるために、あらゆる手を尽くしたつもりだ。

 ──でも、どれも劇的な結果には結びつかなかった。

 であれば、たとえ悲しかろうと、マユは自分で自分を試し続ける他にないのだ。

 

「さっきステラお姉ちゃんには、どうすれば強くなれるか、いっぱい質問してきました」

「そうか。で、彼女はなんと云っていた?」

「──『よく分かんないけど、一生懸命がんばればいいよ』って、そう云われました!」

「…………」

 

 教える気がゼロなのか、教えたくても言葉を持たないだけなのか。

 たぶん、後者なのだろうが。

 

「だから、私は諦めません! ステラお姉ちゃんみたいに(・・・・・・・・・・・・)強くなるためには、私は、どんなことだって試し」

「──これは、新兵がよく陥る罠なのだがな」

 

 あまりの惨状を見かねたのか、言葉を遮ったネオは、そんなマユに呆れた声音で云ったのだ。

 

彼女(アレ)を目標にするから、きみはまず駄目なのだ」

「……えっ……?」

「──考えてもみれば、スティングとアウルもそう(・・)だったな。そしてきみもまた、事あるごとに彼女(ステラ)のようになりたいと口にする」

 

 独白のあと、ネオは続けた。

 

「はっきり云って、アレは凡人が参考にするには毒だ。彼女の力と戦い方は、真っ当な人間が再現可能なようにはできていない」

 

 それでも憧れてしまう人間が続出するのは、その劇的に見映えするインパクト故に、見る者の記憶をよく奪うからか──?

 そんなステラの戦い方は、戦場におけるセオリーを無視している。高速機動で敵を弄し、隙を見せた相手へ強引に噛み付き、とどめを刺すまで噛むことをやめない野生動物のようなストロングスタイル。一見雑把で出鱈目な暴れっぷりにも思えるが、それは先の大戦中、彼女が独自に培ってきたスピード感と戦闘勘に裏付けされた、彼女にだけ許された我流なのだ。

 考えてもみれば、ステラは正規の軍学校など出ていないのだから、マユやラウ──たとえばアスランのように、戦場における正道、基本的なセオリーが身に付いているはずもない。

 

「歪な実戦教育の下地がそうさせるのか。単に生まれもったセンスなのか──? いずれにしても、戦闘中のアレは感覚で戦っているし、それで戦えてしまう」

 

 感覚でやっているから、可愛い後輩のために、まともな助言(アドバイス)のひとつもしてやれない。

 勿論、ステラの言語化能力にも原因はあるのだろうが。

 

「──王道を往かないそのスタイルは、まるで漫画のダークヒーローのようだな」

 

 勿論、ラウはそれを批判しているのではなかった。

 だが、その件については若干の不都合も感じてはいたのだ。彼にとっての不都合は、そんなステラの戦い方を間近で見続けたスティングとアウルが、完璧に毒された──「影響されてしまった」点にある。

 

「あの二人はな、そんなステラの乱暴な戦い方ばかりに憧れ、私の話を一向に聞こうとしない」

「意外と身内にも信任されてないじゃないですか……」

「……まあ、それはそれとして、だ」

 

 少年というのは面倒な生き物で、光よりも闇が好きなオトシゴロ(・・・・・)はあるものだ。地道で退屈な王道より、反則的で煌びやかな邪道に惹かれる時期はあるものだ。その点、メーテルは隊の中でも唯一ネオの教えを素直に吸収してくれる忠犬らしいが。

 ──ああ、たしかに、彼女の〝ガイア〟は別格で(・・・)強かったな。

 つまるところ、スティングとアウルがパイロットとして弱いままなのは、ステラという悪しき手本が原因だろうとネオは踏んでいた。裏を返せば、あの二人にもまだまだ伸び代が残されている──ということなのだろうが。

 

「彼らにとってはステラこそが到達点で──しかし決して、断じて、至れはしないだろう」

 

 こればかりは自分の腕を賭けてもいい。

 ──彼らはそこまで〝特別〟な存在ではない。

 にも拘わらず、最も基礎的な初歩の教えを蔑ろにしたまま、我流という美称すら付けるに値しない形無しの戦法を採択し続ける。果たして彼らはいつになったら、自分達の成長の遅さが、不親切で不適切な教本に依るものだと理解してくれるだろうか?

 

「きみがステラに憧れた経緯は微妙に違うらしい──が、私から見れば然程(さほど)変わらん。少なくとも、誤った理想を追いかけ、努力の方向性を間違え続けているという意味では」

「ちょ、ちょっと──っ!」

 

 そう云うと突然──そう突然、ネオはシートの後ろに回って、その腕を伸ばしてきた。操縦桿を握るマユの手に男の手が被せられ、まるで男に上から操作される……いや、体ごと支配されたような恰好になる。

 と、男の反対の手でスイッチが押され、シミュレーションが再開された。

 撃墜される寸前かと思われた、そのステージの模擬戦は、しかし、それきり見違えたような自機の動きで危機を免れ、マユはぎょっとした。それらは全て、男の手によって操作され、しかしながら、間違いなくマユの体が為したものだった。

 

「戦場では視野を広く持つことは重要だ。だが、だからと云って意識を分散させすぎては、注意が紛れて己の照準も甘くなる。だからこそ、照準を付ける際は絶対に標的から目を逸らすな、墜とせる敵は確実に墜とせ」

 

 まったくの不本意でありながら、そうして紡がれた彼の『指導』は──全体で見ればほんの一部にしかなかったにしろ──マユの動きを、このとき劇的に改善するには充分すぎる内容だったという。

 マユは改めて、この男がザフトのアカデミーを出た、己の偉大な先達であることを認識してしまった。男が紡ぐ一言一句が、本当に、どこまでも基礎に忠実な正道だったから。彼の言質どおり、意識から改善してしまえば、たとえ凡人であっても充分に再現可能な技術(スキル)だったから。

 

 ──ザフトの中で(・・・・・・)たったひとりナチュラルだった彼が(・・・・・・・・・・・・・・・・)、その熾烈な競争社会を制覇するために編み出した、命賭けの努力の賜物だったから。

 

 人類への復讐心からコーディネイター達の巣窟に身を投じた当時の彼は、しかし、そんな彼らと同じように振る舞ってゆくために、一体どれほど血の滲む研鑽を積み重ねてきたというのか──?

 男の辿ってきた道のり。その人生が並大抵のものではなかったことを、マユはこのとき追体験でもするように痛感させられた。決して認めたくはなかった真実……だが、その点に関して云えば、目の前の男はたしかに、マユが心からの敬意を払うに値する先人であったのだ。

 

「……凄い」

 

 持たざる者。なんら特別ではない存在が、その身ひとつで、異次元の天才達に挑もうという。

 ──であるなら、少女の目指すべき真髄は、努力を極めた『彼』にあるはずで。

 ──決して、断じて、生まれたときから〝特別〟である少女達ではない。

 その現実を、しかし、それでもマユは複雑そうな面持ちで受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

 オーブ沖に展開中の大西洋連邦の水上艦船──〝スヴォーロフ〟は、今回のオーブ解放に差し当たって、連合の軍本部が置かれた旗艦だった。その艦船のモビルスーツ・デッキの中に、アクタイオン・プロジェクトの余波を受けた、最新鋭モビルスーツ群が秘匿されていた。

 それらは先の大戦時に実戦投入された、後期GATシリーズ──そのさらなる上位発展機だ。〝カラミティ〟、〝レイダー〟、〝フォビドゥン〟──それらの系譜を汲んでいる機体の初披露が、またしてもオーブ解放戦になろうというのは、多くの連合士官にとって皮肉な話だったが。

 これらの機体は、離反が確実視された第八十一独立機動群(ファントムペイン)のロアノーク隊の後継部隊として実戦配備されたものであり、それぞれのパイロットもまた、〝ロゴス〟を母体とするジブリールの采配で選ばれ大西洋連邦の隠し玉であった。

 そこには四名のパイロットがいるが、いずれの者も、不吉さを漂わせる得体の知れない黒いマスクで頭を覆われている。そんな彼らが乗り込もうとするモビルスーツには、それぞれ宇宙の衛星の名が冠され、以下は、そんな機体群の紹介である。

 

 ──GAT-X131B〝イオ・カラミティ〟

 ベース機であるカラミティに、追加砲門を加えて砲撃力に特化させた機体。部隊の中では「攻撃」の役割を担当する。

 

 ──GAT-X252R〝エラ・フォビドゥン〟

 ベース機であるフォビドゥンに、スラスター増設やビーム偏向能力の向上など、機動力および防御力強化を施した機体。部隊の中では「防御」の役割を担当する。

 

 ──GAT-X370JJ〝レダ・レイダ―〟

 ベース機であるレイダーに、火力と推力の底上げが為された機体。部隊の中では「攪乱」の役割を担当する。

 

 そして、最後の一機について、この開発に携わったメカニック達が談笑していた。

 

「GAT-X444F〝ダイモス・レムレース〟──」

 

 それは四機目──立ち並ぶ部隊の、最後の一機の名称だった。

 他の機体と同じく、不吉な悪魔を思わせる面妖な顔部。しかし、そのボディは〝レムレース〟系譜らしい、害獣から特徴を取ったような複合獣(キメラ)的外観となっており、特に腰部から臀部にかけて垂れ下がった大型のリアスカートは、スズメバチの蜜胃(みっそう)や毒腺器官を思わせる膨らんだ作りになっている。全長よりも巨大な戦斧を掲げ、その機体はさながら、無慈悲な処刑執行人(エクスキューショナー)のようだ。

 キャットウォークの上、若い技術士官の男が口を開く。

 

「前々から疑問だったんスけど。アクタイオン・プロジェクトってのは、連合が以前の〝G〟系統を再製造して、最新のカスタマイズをすることが目的だったんでしょ?」

「ああ、そうだな」

「その意味じゃ、〝レムレース〟のリバイバル機はもう造られたじゃないッスか」

 

 云わずもがな、離反したロアノーク隊が持ち去った〝フォボス・レムレース〟のことだ。噂によると、その機体は初めから、そこの副長をやっている女性士官のためだけに製造された専用機だったという話だが。

 

「──なんでもう一機(コイツ)が造られたんスか?」

 

 若い士官は知らないのだろう。

 貫禄のある、年配の技術士は即座に云って返していた。

 

「オレも〝フォボス〟の製造には携わったクチでな。だからってわけじゃないが、あんな機体、オレぁ〝レムレース〟とは認めねェ」

「カスタマイズを重ねてくうち、敵国の造ったライバル機(クレイドル)に似ていったから──っスか?」

 

 それこそ界隈では有名になっている話を持ち出す。

 男は「ああそうだ!」と、憤るように首肯して返した。

 

「オレたち技術班はアレを、もっと違うアプローチを試したモビルスーツに仕上げていきたかったんだ──なのに、パイロットが邪魔をした! 小娘がヘンな注文ばっか付けやがって、おかげで〝フォボス〟はあのザマだ」

「まー、実際動かすのはパイロットですし」

「だからコイツぁ、云ってしまえばアクタイオン社の完全趣味(シュミ)で造られた機体だな。オレと同じで、あの機体の仕上がりに不満を持ってる開発関係者ってのはごまんといた」

 

 〝フォボス・レムレース〟というのは「恐怖の亡霊」を意味するが、同時に「忌避すべき亡霊」というダブルミーニングにもなっている。字義どおり連合のメカニック達は、あの機体を忌避したい思いで、最大限の皮肉を込めてその名を贈ったのだ。

 アクタイオン社は、このように内部が抱えていたフラストレーションのガス抜きを目的として、〝フォボス・レムレース〟の双子機の製造を後発で開始した。こちらは先発で造られた〝フォボス〟と大きく違い、よりベース機の特性を踏襲した『正当なる強化機』をコンセプトとして開発され、だからこそ、同じ系列機でありながら、一見して明らかに特徴が違っていた。

 ──〝レムレース〟の正当な後継機はどちらか?

 余人がそう訊ねられたとき、〝フォボス〟と〝ダイモス〟を比較して誰もが後者を選択できる程度には、その機体は変形機構も持たず、真っ当な〝レムレース〟の進化を遂げた機体になっていたのだ。

 

「その、パイロット達ってのが──あれか?」

「いやー、オレ感激ッス! まさか、この目で〝ファントムペイン〟を拝める日が来るなんて」

「そういうもんかよ……」

 

 ブルーコスモスの直接の意を受けて動く特殊部隊が存在するという噂は、若い士官も聞いていた。

 

「──ケドなんか、不気味な連中っスね」

 

 若い士官は、ちょっと幻滅したような口調で云った。

 ちょうど彼らの前を通りすぎて機体へと乗り込んでいくパイロット達からは、まるで生気を感じられなかったからだ。異様なマスクで表情が見えず、雁首揃って何を考えているのかも分からない集団だというのはあるが、それにしたって、人間らしい感情が欠如しているようにも見える。

 まるで薬漬けにされた傷病者のようだと、そのとき彼は思ったのだ。

 

「噂じゃあ、死刑囚を取り急ぎ取り立てたっつー話だ。前の戦争でも、お偉いさんがよく使った手口さ」

「? ひとりはガキでしたけど?」

 

 一番最後に連なった人物。その体格や背格好から見るに、まだ年端もいかない少年ではないのか。

 そんな彼は、強制されたマスクの下に、水色の髪が覗いていた。

 

「そりゃ〝ダイモス〟のパイロットだな。なんでも、後から急遽編入させられたって話だ」

 

 士官はイヤな笑みを浮かべて云った。

 非人道的な『性能試験』で、当初の四人目を上回る戦績を叩き出したから、ソイツに代わって編入させられた秘蔵っ子であるらしい。本来の四人目は『廃棄処分』となり、二度と光を浴びることはなくなったのだが──そのような事情を、このときの彼らが知る術はない。

 

「なんにしても、今度こそオーブはおしまいさ。まったく敵ながら同情するぜ、あの怪物どもに一斉に攻められるなんてよ──だが、今度こそ叩き潰してもらわにゃあ、こっちとしても割に合わねェ」

 

 先の戦争経験者として、年配の技術士はそう云った。

 ──連合はかの国に、大いに苦しめられた過去がある。

 その負債を払ってもらう。

 男達は自分達が造り出したモビルスーツ──『作品』に対しては、絶対的な自信を持っていたのだ。

 ──彼らが考えた、今度こそ最強のモビルスーツ部隊。

 約束された勝利の祝杯でもって、今度こそ、大いに溜飲を下げさせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 まるで見たこともない戦績が、目の前のシミュレータから叩き出された。

 それは補助輪を外した後とでも云おうか、教導者の手が完璧に離れ、少女の実力と意識のみによって刷新されたスコアでもあった。

 

「わぁ……っ」

 

 今までに、感じたこともない高揚感──

 こちらも道が開けたような心持ちでいるそのときになって、艦内にアナウンスが流れた。ついに〝アークエンジェル〟が、出航準備を整えたというのだ。

 ネオ・ロアノークは教導を終え、そっと少女から身を離す。

 

「今回はこの程度──。では失礼しよう」

 

 用事は済ませた、もしくは、本来の用事に戻らなければという風に、そそくさとその場から去っていく背中。

 しかし、単なる気紛れかと思われた彼の指導は、「今回は」という表現から考慮するに、次回以降も開催して構わないという意志表示のように感じられた。

 だからマユは、そうして去っていく男に、純粋な疑問を投げかけていた。

 

「どうして、ここまで私に良くしてくれるんです?」

 

 頭が上がらないとまでは云わなくとも、このときの少女は、目の前の男の存在を自然と仰ぎ見ていた。真っ向から対峙することをやめ、彼の下に就くことを許容してしまっていた。

 ──ゼッタイに、認めないと思っていた。

 ──でも、きっとコレこそが、彼女(ステラ)も云っていた恩だった。

 質問を投げかけたマユは、次の瞬間には、衝撃を受ける。真相は分からないが、その半分しか伺えないでいる男の顔が、寂しげに笑ったように見えたから。

 

「……実際、私にはもう、あまり寿命が残されていない」

 

 独白のように紡がれた言葉に、マユの表情が凍てついた。男はまるで興味深いものでも観察するかのように、みずからの掌を見つめながら、自嘲気味にそう云ったのだ。

 ──これから起こる戦争の、最期まで立っていられるかも分からない。

 マユは愕然としたままだった。さっきまで全然気付かなかった──いや、男の意志で隠し通していたとでも云うのか? 見せつけるようにして挙げられた手は、まるで今にも寂滅の時を控える老人のように震えていた。

 そんな男は、深い諦念と共に云い放つ。

 

「私の戦場は既に前線にはない。なら、老兵として後進を育てるのも悪くはない──殊にそれが、運命に抗う者なら猶更な」

 

 やはり見透かしたような口調で、男は語った。

 ──特別な才も持たず、他者の前ではどんなに気丈に振る舞おうと、心の裡では、常に周囲への劣等感で塗れている。

 そんなマユ・アスカの本質を、ネオは読み切ってしまっていた。だが、それとて自然の摂理であり、そこら中にありふれた事象なのだ。正しく特筆にも値しない不幸のひとつでしかないと、男は考えてしまう。

 

 ──誰がなんと云おうと、現実は既に、遺伝子様が王となって人間の貴賤を決定づけている。

 

 この呪われて腐った業の世界──

 正義と信じ、判らぬと逃げ、知らず、聞かず、妄信や怠慢から責任逃れし続けた者達の終局の世界で、それでも純粋な心根で〝夢〟を見て、理想を追い続ける人間の方こそ、余程狂気的だとは云えやしないだろうか。

 手を貸す理由など、差し当たっては……それで充分だったのだ。

 

「命運など、とうに使い切ったさ。あのとき──きみたちによって滅ぼされた、あの日にな」

「……あなたという人は……っ」

「それから、私も『彼女』には──実に多くを貰ったクチでね」

 

 ──人間として不完全も甚だしい、この体。

 ──薄汚れ、老人めいた醜い皺の走ったこの体にも、彼女はやさしく触れてくれた。

 ──星の名を持つ少女は、それだけ多くの光をくれた。

 

「ならば、その分を多少は後輩達に返しても、罰は当たるまい?」

 

 男は多くを語らなかった。

 短く云い残し、ふたたびマユに背を向ける。

 それきり振り返ることなく、言を残して去っていった。 

 

修練()の続きを受けたいと、もしきみが願うならば、私はいつでも受け容れよう」

 

 世界樹攻防戦──

 グリマルディ戦線──

 そして、マユもよく知る〝ヤキン・ドゥーエ〟攻防戦──

 

 ──数々の戦闘で武功を上げ、ネビュラ勲章をも手にした、戦犯にして英雄、ラウ・ル・クルーゼ。

 

 持たざる者が、いつしか比類なきザフトのトップガンとまで呼ばれるに至った本物の力。

 伝説的名将の成功体験と智謀でもって、才なき少女を、いずれは世界を掻き乱す叛逆の徒へと仕立ててみせよう。

 

「受けるかどうかは、やはりきみ次第だ」

 

 その甘美な誘惑に、マユは思わず考え込んでしまっていた。

 しかし、考えている時点で既に結論が出ているような物ではないか。

 答えなど、とうに男には見透かされているような気がした。

 

「兎も角──まずはオーブだ。その戦いに無事に勝ち、生きて私の許へ帰ってくることだ」

 

 





【セイラン家】
 本小説では、原作ネームドの「ユウナ・ロマ」と「ウナト・エマ」を台詞付きキャラクターとして出す予定はありません。彼らについては地の文でちらっと出てくる程度の存在感で収める予定で、もともと原作で連合寄りだった彼らが、こちらでは保守派に再調教されている関係でストーリー的に登場させる意義が薄いと判断しました。
 これに伴って、原作であったユウナとカガリの許嫁設定もスルーします。むしろ、触れてしまうと本当に実現します、破談になる理由がなくて。


 ※2025/11/13 本話掲載時点
 運命篇の『メカニック設定』に、新たにモビルスーツ紹介を追記しました。

 GAT-X131B 『イオ・カラミティ』
 GAT-X252R 『エラ・フォビドゥン』
 GAT-X370JJ 『レダ・レイダ―』
 GAT-X444F 『ダイモス・レムレース』

 上記の四機の設定分が追加されています。
 次回こそは戦闘回! に突入する予定。

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