「満州国」か「偽満州国」か “ギリギリ”探った残留孤児の記録 日中共同製作「名無しの子」
日本と中国で活動する竹内亮監督が、新作ドキュメンタリー「名無しの子」を完成させた。中国で交流サイト(SNS)のフォロワーが1000万人超えの人気インフルエンサーの顔も持つ竹内監督。自身で企画して開催中の「中国ドキュメンタリー映画祭 In Japan」で上映後、劇場公開する。
「名無しの子」は日中共同製作で、中国残留孤児の戦後80年を描く。2023年から2年間、日本に帰国した残留孤児とその家族ら、3世代約100人を取材した。
今取材しないと聞けなくなる
日本に帰国した孤児に加え、日本で残留孤児専門の老人介護施設を営む2世の女性や、同じく2世で準暴力団「チャイニーズドラゴン」の初代総長などに密着。日本人と中国人、その間で生きる人々の苦悩を追った。
孤児と言われる彼らも80歳を超える。1980年代には「残留孤児の帰国」のニュースがテレビでよく流れていたが、最近はその存在を知らない若者も多い。
竹内監督は「残留孤児が老人ホームに入る年齢になったことに衝撃を受け、今取材しないと話が聞けなくなると思った」と話す。そして「テーマそのものがアイデンティティーを問い直す。戦争は大変とか反戦とか、それだけではないものを作りたかった」と語る。
互いのことを知らない
中国人の副監督と歴史認識の違いで何度もけんかしたと明かす。
例えば「満州国」の表記について、副監督は「それは日本人が勝手に言っているだけで『偽満州国』でしょ」と主張したが、映画で「偽満州国」としても日本人には理解できない。最終的に柳条湖事件と説明することで落ち着いた。「両方が見てギリギリ許せる範囲の表現にした」
日中を行き来する中で「互いに日本人のこと、中国人のことを知らない」と感じる。今回の取材を通し「敵国だった民族の子どもを無償で育てた中国人の懐の深さを日本人に知ってもらいたい」と言う。
一方で「中国では中国人視点で描かれた日中戦争の話しかない。日本人の視点で撮った物語を見てもらいたい」。
常識覆された「猿の惑星」
千葉県生まれ。高校時代に映画漬けの日々を送り、監督を志した。専門学校でドキュメンタリー制作を学び、制作会社で「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)などの番組を手掛けた。
13年に中国人の妻と南京へ移住。現地で映像制作会社を設立し、番組制作をしている。
学生時代、最初に影響を受けたのは68年公開のSF映画「猿の惑星」。「自分の常識が覆された。僕も『中国ってこうだよね』みたいに思っている人の中国像を破壊するような映画を作りたい」。そんな思いを持つ。
10年前と全然違うことを見てほしい
映画祭は、前作「再会長江」が大きな反響を呼んだことを機に企画。「名無しの子」のほか、中国の“今”を伝える中国製ドキュメンタリー4本を上映する。東京・角川シネマ有楽町で開催中だ。
11月6日の開幕イベントでは「日本のみなさんの中には10年前、15年前の中国のイメージで止まっている人が多い。今は全然違うということを、見てもらいたい」とあいさつした。
上映作品は、香港アクション映画の最盛期のスタントマンの物語「カンフースタントマン」▽中国ではマイナースポーツである野球に人生をかけた子どもたちを映す「出稼ぎ野球少年」▽路上で屋台を営み生計を立てるおじさんとそれを取り締まる人を撮った「武漢の嵐」▽北京のエリート女性の生き様を描く「北京女子婚活戦争」。
将来的には日本のドキュメンタリーを集めた映画祭を中国で開きたい。「中国で上映される日本の映画はほとんどがアニメ。ドキュメンタリーを通じて交流するイベントを実現できたら」と夢を抱く。
映画祭は20日まで。「名無しの子」は、大分・シネマ5で公開中。東京・池袋シネマ・ロサ、アップリンク京都(いずれも21日から)など全国で順次公開。【諸隈美紗稀】