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ロビンフッドに命を救われた話

ロビンフッドを愛している。
FGO(Fate Grand Order)のロビンフッドというキャラクターを、心から愛している。
彼に命と人生を救われた、という話を今からする。

あれは今から10年前。
わたしはクソのドブ煮込みカス特盛りのっけ、という環境にいた。
読者の皆様の気分や体調を著しく害するおそれがあるため詳細は省くが、わたしは生まれてから30年にわたり両親にありとあらゆる虐待を受けていた。
初めて就職した先は8時から23時までの勤務が常態化しているリッチブラック自治体だった。
そのあとライターとして再就職し、20代半ばになってなんとか50万円貯めた。
家を出ようとしたところ父親に数時間にわたり殴る蹴るされ、警察に駆け込んだらなぜか政治家の伯父が出てきて親はお咎め無しになった。
実家からほど近い認知症の祖母の家に介護要員として放り込まれた。毎週母親がわたしを殴ったり罵ったりしにきた。
そんなとき、わたしはFGOと、ロビンフッドと出会った。

その当時、わたしは自分がおかしいのか周囲がおかしいのかもうわからなくなっていた。
自分が正しいはずだ。理屈が通っているはずだ。でも、家族も祖母も伯父も、他の親族も、全員が「お前さえ我慢すれば全て丸く収まるのに」とあきれ顔で言う。わたしは殴られたり蹴られたりしているのに。
なにか夢中になれる、動かない指針がなければ比喩ぬきで死んでしまう。
人間ではだめだ、人間であれば失望したり盲信したりしてしまう。
灯台。灯台がほしい。
真っ暗闇の人生に道を示してくれるなにかがほしい。
なにか、わたしを信じさせてくれるなにか、ないか。当時のわたしは必死でそれを探していた。
そうして、彼と出会った。
ロビンフッド。イギリスの、シャーウッドの森の義賊。
最初の印象は、「なんかイケメンの気配がするな……」である。

しかし、再臨させてビビった。とんでもないメロ男がそこにいたのである。
当時はイケメンと言ったが、「メロ男」という表現がぴったりくる。
金髪に釣った眉、垂れ目、緑色の瞳、鎖骨、手の先、脚の筋肉、なんかわからんが全てがツボに入った。絵のことはとんとわからないが、このキャラクター造形を生み出した奈須きのこ先生、ワダアルコ先生、声優の鳥海浩輔さん、全ての方に感謝の意を伝えたい。
せっかくだから育ててみた。育成アイテムを全て使い、最終再臨まで持っていった。
絆レベル5の台詞を聞いた。
落ちた。
深い深い沼だか恋だかに、自分が落ちていくのがわかった。落下しながら、わたしは活路を見いだした。
このキャラクターを心の灯台にしよう。
少なくともこの大きさのコンテンツであれば、そんなにバシバシ供給が来て死ぬこともないだろう。高校の頃から大好きな奈須きのこ先生が書いているのだ、そんなに無体なことにはならんだろう。
腹は決まった。こうして、ロビンフッドはわたしの推しになった。

その日から、わたしの生活は一変した。
職業訓練を受けた。
再就職をした。
初めて書いたエッセイは、とあるWebの賞で中間選考を突破した。
なんとかお金を貯めて、家を出ていこうと思った。
推し活、というにはささやかな、ロビンフッドに聖杯を渡してレベルを上げる作業も続けていた。家を出るためにお金を貯めないとならない。グッズなどを買う余裕はなかった。
キャラクターのレベルも、当時は100が上限だった。聖杯を捧げて金ぴかになったロビンフッドを、サポート欄においた。
その矢先だった。仕事を不当解雇された。
あまりにも突然の解雇で、「君、気にくわない。明日から来ないで」というレベルのものだった。
わたしは職場を訴えようとした。それを、「世間体が悪い」と妨害してきたのは祖母だった。
あらゆる証拠を集めたし、恫喝も録音した。弁護士さんにも相談が済んでいた。
毎日泣きながら「ここにいて、ここにいてえ」とすがりついてくる祖母に、ふと思った。
「この人、わたしがいなくなったあとどうするつもりだったんだ」
すぐに答えは出た。
「自分が死ぬまでここでわたしを使い潰す気だ」
「祖母がいなくなったら親の番がくる」
「今、出ていかないと、いずれ殺される」
そのときに思い出したのも、ロビンフッドのことだった。

彼は、マテリアルによると「故郷のために生贄になった、名前も顔もない義賊」である。
とある村のために、彼は自ら犠牲になった。
ロビンフッドの本当の名前を、誰も覚えていないのだ。
じゃあ、わたしは?
家のために生きて、家のために死んで、誰がわたしを覚えていてくれる?
――誰もいない。今ここで死んだら、誰もわたしを思い出さない。
わたしが死んだら、両親は盛大な葬儀を開いて長ったらしい戒名をつけるだろう。弔問客は9割9分が地元のよく知らない人間で、何人か大学の友人が来るだろうか。その相手に向かって両親は泣きながら言うのだ、「ほんとうに親思いのいい子でした、なんで死んだ」と。
冗談じゃない。
わたしは、逃げた。
30年家と村と地域ぐるみで搾取されてきたわたしの背中を押したのは、ロビンフッドだった。

それから一度も、両親および親族とは会っていない。
ありとあらゆる手段を講じて、一切の連絡をブロックしている。なにかあれば、弁護士さんと警察に連絡がいく。
長い年月をかけて、わたしは体調と自分の人生を少しずつ、少しずつ取り戻しつつある。不可逆的に心身が壊れているが、これでも快方に向かっている。
この7年、いろいろなことがあった。
少なくともあの頃のように搾取されることはなくなった。脳味噌に霧がかかっていた時期もあるが、今はこうして文章が書けるくらいに安定している。

今日は、弓兵の戴冠戦が開催された。ステータスは全てマックスにしてあるので、戴冠させたらすごく強くなった。あまりにダメージが出るのでちいかわみたいな声が出た。
名前もなく、顔もない義賊。村の生贄。わたしの灯台。
真っ暗闇で道を示してくれた皐月の王とともに、最後まで走り抜けたいと思う。




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ロビンフッドに命を救われた話|赤夜燈
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