『狩人を恨んでない』
肉が裂け皮が破れ血が吹き出す。
『むしろ感謝している』
骨が軋みヒビが入り折れる。
『マリアを、』
頭痛により眼前の景色が滲み瞳から血涙が溢れる。
『ロマを、』
鼻の粘膜が爛れて血が噴き出す。
『ローレンスを、』
手足の腱がちぎれて動けなくなる。
『ゲールマンを、』
体中から体温が抜けて強烈な寒気が襲う。
『ウィレームを殺してくれたから』
糞便を垂れ流し内臓が悲鳴を上げた。
ゴースの遺子が一言発するごとに、私の体が壊れていく。発狂した方が楽だと叫びたいほどの破壊が、体中で起こっている。
だが私は発狂できない。痛みを感じ、体の破壊を自覚し、不調の全てを脳が認識し続ける。無限に続くような地獄。
発狂できないまま、明瞭な思考で考える。
おかしい、これはいくらなんでも上位者としてもおかしすぎる!!
私は多くの上位者と戦ってきた。
戦ってきたからこそ、脳の中に啓蒙を得る感覚があったのは知ってる。一つ一つ数値が積み重なるようにだ。
初めて聖職者の獣と相対したとき、私は脳に新たな視点を得たのを感じた。その後、人形が動き、彼女の言葉を理解できるようになった。
だからこそ、上位者の啓蒙とは新たな視点により人が知るべきでない世界と知識を知覚できるようになるモノ、と思っていたのだ。
なのに、これはなんだ!?
確かに私の脳に、啓蒙が積み重なる感覚はある。
だが、それが急激に高まり過ぎてる!
いつもは上位者一体につき1つだけ啓蒙が高まっているのに対して、遺子が一言発するごとに啓蒙が2つも3つも、最悪だと10は高まってるんだ!
急激な啓蒙の蓄積によって、私の体が保たないというのか!?
それもありえない!
啓蒙にそんなものはないはずだ!
だが、そうとしか説明できない!
私の体が破壊されるのを見て、遺子は言葉を止めた。
そして、
『興奮した。許してほしい』
次の言葉は、私の体を破壊しなかった。
同時に破壊の連鎖が止まり、息も絶え絶えになりつつ落ち着く。
遺子は私を見て、続けた。
『だが感謝している。殺してくれたおかげで、僕は門番に出会い、母と再会し、門番を取り込んでここに母と共にいることができる。夢を操る力によって、認識を逸らして穏やかに過ごせた』
門番? なんのことだ?
『悪夢で殺された僕が死と生と夢の狭間にて門番に認識された。このまま消えそうなとき、同じく狭間にて死の前に立っていた母と再会した。門番は僕と母の元に夢によって模造品を作ろうとしていた。だから、思った。その夢を奪えば、ビルゲンワースのいないところで穏やかに過ごせるだろう、と』
夢……まさか、狩人の悪夢と狩人の夢、ヤーナム全体を包む月の魔物の夢という三者の夢の狭間で、こいつはゴースと再会した、と!?
そして、門番とやらの力を奪い、ここに!?
『狩人の思った通りだ。僕は、夢の狭間で夢を操るものと出会い、力を奪い、門番が元いた世界で、ひっそりと穏やかに、僕たちの眷属と過ごす』
眷属と過ごす……だから、ここで眷属を増やしたのか!
漁村でやったように、ここでも!!
『そのとおり。漁村の眷属たちは、僕たちを受け入れて穏やかに暮らしていた。なのに、ビルゲンワースが襲撃して眷属たちを陵辱し冒涜し殺して弄んだ。僕も死に、母も死んだ。生まれることができなかった。
だが、僕たちはようやく安寧の地を手に入れた。母も生きている。僕も生まれた。あとはここで、認識されないものたちを眷属として生まれ変わらせ、穏やかに過ごそう』
それは、それだけは、
『僕が夢見た、穏やかな暮らしを』
それだけは認めてたまるか!!!
私は腱と肉と骨が切れて裂けて折れた腕を無理矢理動かし、手の中に握っていた輸血液を太股に刺す。
一目見て、最初の体の激痛を感じてから咄嗟に握っていた輸血液、貴重な一本を使う!
体に血が巡り、傷ついた体が癒えていく。脳も、骨も、肉も、内臓も修復されていった。
だが、足りない! もう一本、もう一本。三本使用して、ようやく私は体を動かせた。
落とした武器を拾い、別の武器を持ち出す。仕込み杖と大砲だ。
戦闘態勢に移った私だったが、遺子は動かない。こっちの殺気に対して反応はない。
舐め腐ってるのかこいつ!!
「ならば何故、何故私はここにいる!? 何故に、他の上位者がいる!?」
『上位者がいるのは、僕が夢を渡ってこの世界に来たとき、相乗りで来ただけだ。僕としても、鬱陶しいと思っていた。彼らが暴れると、僕たちの存在にも気づかれる。穏やかな暮らしができなくなるだろう』
「相乗りだと……!? ふざけるな、オドンや乳母、ルドウイークまでいるのか!?」
私の言葉に遺子は僅かに、不機嫌そうに眉をしかめた。
『オドンなど、こっちに相乗りしようとしたときに殺したとも。あんなのがこっちに来たら、僕の眷属たちにまで被害が及ぶかもしれないだろう? あんな強姦魔、一緒にいたくない。
乳母も同様だ。そも、乳母がメルゴーを女王から奪ったことが、あの地の混乱に拍車を掛けたんだろう? あんな誘拐魔など、僕が子を得たときに面倒なことをするに決まってる。
しかし、他のものはこっちに来てしまった。僕は対処したくない。だから』
遺子は眉を穏やかに曲げる。表情は微笑そのものだ。
『君を呼んだ』
ゾワッ。
私の背中に寒気が奔る。
『君は、血に狂い血を求め、獣を狩り上位者を狩る。他の上位者や紛れ込んだ獣どものを狩るのに最適だ。何よりも』
遺子は一度、言葉を切ってから答えた。
『
体から、体温が抜ける感覚がした。先ほどの遺子の言葉によるものではなく、錯覚だが。
『他の道が三つあるが、君はゲールマンから介錯を受けることだけは絶対に拒んでいる。その選択肢を絶対に選ばない。
その数、7回。
血を求める狩人らしさに死への恐怖もあった。夢として生き返れないだろうこの世界で、最も戦いに適した狩人が君だった。
だから、僕が呼んだ。最後、月の魔物を狩り、再び上位者の眷属になるだろうその直前の、最も強い君を夢を介してここに呼んだ。
他の上位者を殺してくれるだろうと思って。
狙い通り、君はアメンドーズを殺した。
ありがとう』
私は、私は上位者によって、都合良く使われただけ、だったのか??
上位者を、獣を、狂った狩人どもを狩ってきた私が、上位者によって操られ手駒にされる。
なんという屈辱、なんという恐怖っ。
だが、屈辱と恐怖が私の脳を活性化させる。
そうだ、私は夢を繰り返した。
最初は、何がなんだかわからないままにヤーナムを彷徨い、旅路の果てにゲールマンの介錯を拒んだ。そうして、ゲールマンの代わりになった。
気が付いたら再びヤーナムの、ヨセフカ診療所で目覚めた。装備はそのまま、時期は最初の頃に。
ヤーナムを彷徨い、様々な資料を見て、三本目のへその緒を奪って月の魔物を狩り、上位者の赤子となった。
気が付いたらまたヤーナムで、
気が付いたらまたヤーナムで、
気が付いたらまたヤーナムで、気が付いたらまたヤーナムで、気が付いたらまたヤーナムで、気が付いたらまたヤーナムで、気が付いたらまたヤーナムで目覚めた。
何度も何度も繰り返したのに、私は、私は何故か。
ゲールマンの介錯だけは、受け入れられなかった。
そのせいで夢との繋がりが強くなり、こいつに呼ばれる隙を作ったのか。
だが、ここまでのことを考えて、はっきりとわかったことがある。
仕込み杖と大砲を強く握り、遺子を睨んだ。
「ふざけるな。どこまで嘘を吐く。
あのヤーナムの秘密が、上位者の言葉が、私の
そして、お前は誰だ?
本来の形で遺子、お前が生まれたなら……どうあっても老いた赤子のはずだ。
まともな赤子の形から青年に育つものか!!」
こいつは、嘘を吐いている。
この後のエピソードでNIKKEのサブイベントを盛り込んでも良いかどうか?
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サブイベントも書いていい
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メインストーリーだけ進行して欲しい