狩人さんはアーク暮らしを夢見たい   作:風袮悠介

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なんとなく始めた連載ですが、読みたいって人が多くて嬉しいです。
完結まで頑張ります!
さて……禁域の森を抜けていくか……(カチャカチャ)


幕間劇1.5-やるべきことはちゃんとやってるらしい-

 軽そうな雰囲気をした男を前に、私は涎を拭って立つ。

 今からこの、人の形を扮した獣を蹂躙できるかと思うと喜悦で背中と膝が震える。

 

「なんだお前? ビビってんのかぁ正義の味方さん?」

「ビビって……? ……あぁ、少しビビッときてるなぁ……」

「は、安心しろよ。通行料を払えば大人しく通してやるからよ」

「待って! ずっとこの調子なら、A.C.P.Uを呼び……!」

 

 軽そうな男が、私の隣にいる男女の連れ合いに向けて鉄パイプを振りかざした。

 

「呼んでみろよ。政府のイヌを呼ぶのが早いか、お前の手首が折れるのが早いか、やって――」

 

 ぐしゃ。

 

「イヌ……? イヌを呼ぶ……? イヌを呼べるぅ……?? お前もイヌの、獣の味方カァ~!?」

 

 ガラシャの拳を嵌めた私の攻撃が軽そうな男の鼻っ面に叩き込まれる。

 鉄塊でできてるこの武具は、左拳に嵌めて使う特殊な狩り武器。

 銃器を使えぬ彼女は、この鉄塊で獣に殴りかかったとされている。

 拳一つで獣と戦う姿はある種の英雄的であり、彼女自身が凄まじい狩人だったと。

 

 そんな鉄塊が、普通の男の鼻っ面に、成人男性の全力の拳打によって叩き込まれる。

 鉄塊の下で鼻骨と頬骨が砕ける感触が酷く心地よい。

 

「へ、へぁ、きゃああああぁぁあ~!!」

 

 隣にいた女性が悲鳴を上げる。血しぶきを浴びてなお笑い、怯んで泣き叫ぶ男の胸ぐらを掴んで、さらに顎へガラシャの拳を叩き込んだ。

 顎の骨にヒビが入った感触と、顎関節が外れた手応え、そして歯茎を深く切ったことによる血しぶきを浴び、さらに私は昂揚する。

 

「ア~ッヒャッヒャッヒャ!! 獣が、この、人畜生の獣がぁハハハハハ!!」

 

 さらにもう一発、側頭部へ叩き込もうと振りかぶる。

 今度は頭蓋を割ってやろう。獣の脳を開き瞳があるか確かめてやろう。

 

 しかし、振りかぶった拳を、誰かが握って止める。

 

「っ!?」

「おやめなさい」

 

 驚いて振り向くと、そこにはサクラの姿があった。

 振りほどこうとしたが、振りほどけない。この細腕のどこにこんな力が……!?

 ここで私は、ようやく落ち着いた。返り血によって興奮した気持ちが萎んでいった。

 

「……」

「ここで喧嘩なんて、おやめなさい」

 

 サクラの目が、私の目を真っ直ぐ射貫く。一切怯む様子がない。

 周囲へ視線を向ければ、この騒ぎを見て恐れる人が多かった。

 ようやく冷静になった私は、ここからどう立ち回るべきかを思案する。

 

 私は雇われだ。サクラと指揮官を影ながら護衛する。

 逆に言えば、私とサクラの関係性がバレない形で、彼女にとって益となる行動をすべきだろう。

 

 どう動くべきか悟り、私はサクラの目を見る。視線で、私の意図を伝える。言葉はない。

 冷静な私の目を見て、これからどう動くか悟ったらしいサクラが、小さく頷いた。

 

「なんだ女ぁ? 通行料が欲しいなんてクソがいるんだ」

 

 私はボロボロになった軽そうな男の胸ぐらから手を離す。男は力が抜けたように膝から崩れ落ちて、座り込んだ。

 正面から向かい合った私は、興奮したフリをしてサクラに対して“右手”を振りかざした。

 

「こんなクソを殴って何が悪いんだぁ~? お前もケガしたいのか!」

 

 手を抜いた形で、サクラに向けて右拳を振るった。

 

「サクラ!」

 

 遠くから指揮官の声が聞こえる。角度良し、見栄え良し、演技、良し。

 

 パキッ。

 

 サクラは私の見え見えの拳を躱して懐に潜りつつ、

 私の顎に、見事な左の拳打を叩き込んだ。

 

「っぉ」

 

 凄まじい衝撃に、私の意識は飛びかける。脳みそが揺さぶられ、体中の力が抜けた。

 いやそうだよ? ここで通行料を取ろうとした軽そうな男をぶちのめし、喧嘩した私をサクラが見事な一撃で倒して、場を見事に収めることでサクラの威を示す一助になろうとしたよ?

 

 本気で殴り返す奴があるか!!

 

 さすがに威力が高すぎて、私は前のめりに倒れた。

 ……ギリギリ気絶はしなかったが、膝は笑うし頭が痛いし、目が回る……! 演技抜きで立ち上がれない……!

 

 頭の上で、軽そうな男と一緒にいた別の荒くれ者とサクラが話をするのが聞こえた。

 耳も遠くなった感じで、聞こえにくいのだが。

 

「……そ、そう、しょ、ショバ代払えよ……。この桜の下は、全部俺たちの……」

「……土地?」

「……払えよ」

「払わなかったら?」

「と、通さねぇよ」

 

 サクラと指揮官の前で、他の荒くれ者たちの争う声が聞こえる。ところどころぶつ切れで聞こえるから、詳しい内容はわからない。

 色んな話が聞こえるが、たった一言。

 

「ナワバリ?」

 

 サクラの口から、今までになく感情のない声が私の耳に届いた瞬間、

 

「『ルール』に反するのではありませんか?」

 

 ゾクッとした。

 恐怖だ。

 私が恐怖を抱いた。

 絶対に譲れない、許せない一線を越えたものに対する、絶対に殺すからこれ以上怒ることなく静かに事を終わらせる。

 決意を固め、覚悟を決め、決断したものの声。

 

 さすがにここらで私は半分、意識を飛ばした。回復に努めないと、これ以上無理していたら気絶する。

 ゾロゾロと大勢が集ってくる音が耳元にしたが、とにかく回復だ。

 半分目を閉じ、意識を飛ばし、揺れた脳みそと顎の痛みに耐える。

 ようやく意識が戻ってきたので、薄目を開けて僅かに首の位置を変えて、周囲を見る。

 

 ボキッ、バキッ。

 

 拷問だ。

 清明会の組員たちによって、荒くれ者たちが拷問に掛けられている。

 こんな公衆の面前で、荒くれ者以上の「怖い人」が、ただの荒くれ者を囲んで殴る蹴るの繰り返し。

 サクラが何かを話し始め、情報を抜いていく。

 ここにモランが加わって騒いでいたが、サクラから何かを聞かされて顔色を変えた。

 

 騒がしいだけの少女が、サクラと同じ空気を纏うものに。

 

(というか全力で殴りすぎじゃねぇかな……まだ意識がハッキリしないんだけど……)

 

 もうちょっとすれば頭がハッキリして立ち上がれるし聴覚も回復するんだけど、ダメだな。

 喰らった拳の威力が高すぎる。起きれん。

 

「……ご当主様、転がってる連中はどうしましょうか?」

「いつものように」

「はい」

「ああ、そこの男は別の扱いを……先に向かわせてください……」

 

 これは、サクラの指示か?

 清明会の組員に何かを命令している? そして組員は困惑してる?

 

「え……いいんですか」

「はい。……頭が回るし、荒事に慣れています。私が向かう前に、ある程度大人しくさせてください。影の護衛です、実力は保証します……」

「了解……」

 

 ぐい、と誰かに掴まれて立ち上がらせられた。

 横を見ると、他の男たちもどこかに連れ去られていく。どうやら私も、清明会組員によって連れ去られる、という形になるらしい。

 

「おい」

「?」

 

 だが、私はどうやら別扱いらしい。

 人混みを外れたところで、私は桜の木の陰に座らされる。

 ようやく目の前が晴れると、さきほど会釈した組員がいた。組員は私に、えっと、ペットボトルの水か、それを差し出してきた。

 

「大丈夫か? 飲めるか?」

「ああ……感謝する……」

 

 組員からもらった水で口をゆすいで吐き捨ててから、もう一度水を飲む。

 頭と腹がスッキリだ。

 

「お前、根性あるなぁ。あの場面でご当主様の顔を立てるために、あえて殴られるなんてなぁ」

「先に喧嘩をして、場の空気が冷え切っていたからな。そこでご当主……どのが一撃で私を倒せば、箔が付くし場の空気を操りやすいだろう。実際、荒くれ者たちは腰が引けてただろ?」

「はは、間違いねぇ! 俺たちも静かにしやすかった! ビビってたかんなぁ」

 

 組員は愉快そうに笑った。

 

「ははは……でだ、お前は影の護衛の仕事として、ご当主様から追加の指令だ」

「今日は一日、ご当主どの……に雇われている。何でもやろう」

「いいぜお前……この仕事が終わったら清明会に来いよ。頭が回るし根性もある、しかも義理堅い。俺と兄弟盃交わそうぜ。一緒に清明会を盛り立てねぇか?」

「すまない。これでも本当は地上勤務で指揮官の部下だ。雇われるならやるが、普段は地上で戦わねばならん」

 

 それは残念、と呟いてから、組員は私の前にタブレットを出す。確か、地図にもなるし書き物にもなる便利な板だ。普段イジらない道具は、ちょいちょい何なのかを忘れてしまうな。

 地図はアウターリムの中を示し、赤い点で場所を示していた。

 

「これからお前は先行して、ここでショバ代を取ろうとした『リバティ』っていうチンピラの集まりを潰してくれ。集まりはここだ。……全員倒さなくていい、ご当主様が到着するまでに暴れて、勢力を削いでくれればいい」

「ふむ……なるほど。その前に聞かせてくれ」

「いいぜ、なんだ?」

「うっすらと聞こえたが、『ルール』とはなんだ」

 

 組員の顔が真顔になった。

 

「……簡単な話だよ。ナワバリを定めていいのは、あくまでアウターリムの中でだけだ。アークのド真ん中でナワバリ定めてショバ代を稼ごうとしたり悪事を働くことなかれ」

「何故だ。というより、反社会的組織など自分勝手に領域を定める。そういうものだろう」

「俺も詳しいことはわからね。だがアーク内でナワバリ決めて悪さする奴はご当主様率いる俺たち『清明会』、マフィアである『ヘッドニア』、侠客で少数精鋭の『牡丹会』によって潰される。

 アークの闇側、三大組織が守ってる『ルール』だ」

「了解した」

 

 私は立ち上がる。左拳のガラシャの拳の握り心地を確かめた。

 

「それで? どれくらいやればいい? 殺しはなしか?」

「ああ。お前ならわかるだろうが、最後はご当主様が場をシメて終わりだ。

 こういったはぐれ者を迎えて仲間にして、いっぱしの組員にするのも俺たち清明会の役割だ」

「受け皿、というわけか」

「へ、そんなんじゃねぇよ……俺も、ご当主様に受け入れてもらった口だしな……」

 

 さっさと行ってこい、と組員は言って、サクラたちの元へ戻っていった。

 後ろ姿を見て、私は踵を返す。やる以上は、最後までやるしかあるまい。

 

 私は示された場所へ行くために、歩き出した。

 しかし、サクラの印象は陰湿な恋愛強者だと思っていたのだが……。

 どうやら、やるべきことはやっているらしいな。

 

 強い女だよ、まったく。




本日二度目の更新。フフフ

この後のエピソードでNIKKEのサブイベントを盛り込んでも良いかどうか?

  • サブイベントも書いていい
  • メインストーリーだけ進行して欲しい
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