結論から言うと、私は油断していたのだと思う。
侮っていたのだと思う。
甘く見ていた。
何がだと?
私は人混みに紛れる形で、指揮官とサクラの護衛をしている。
表立って護衛している、割と目立つ格好の清明会組員たちを隠れ蓑に、影ながらだ。
桜祭りは実に好評のようで、アークの公園には花見を楽しむ大勢の人々でごった返している。
その中で、指揮官たちを睨む清明会組員を睨んでいる姿もあるのだが。
……今日は良い天気なのになぁ。指揮官の周りだけ、剣呑な空気になっている。
平和に見えるはずの、アークの公園で行われている桜祭り。
「指揮官は、本当に……」
私は人混みに紛れながら、悪態を吐く。誰かに見られないよう、いつも被っている帽子を深く直した。
指揮官に近づく女がいる。
大勢居る。
まず近づいたのは……なんか黒い皮製で扇情的な服を来た黒髪で内側を紫に染めた長髪をしている美女。体の肉付きが良く、それでいて体型は整っていた。
もう一人は可愛らしい桃色の服装かつ、スカートは短めのもので整えている美少女だ。こちらは細身ではあるものの露出した太股の美白さが眩しい。
どうやらこの美女と美少女、指揮官の知り合いらしく……指揮官を見つけて呼びかけたところ、指揮官は思わず手を振りかえしてしまった。
瞬間、鋭くなる清明会組員。
スッと下ろされる、指揮官の手。
「お前……お前……!」
耐えきれず、呻き声のように糾弾する言葉が漏れたのは、仕方が無いことだと思ってる。
遠くで聞くところによると二人はミハラとユニという名前らしい、二人が指揮官に近づき、サクラと何かを話している。
ミハラの顔、察しているな。
サクラと指揮官の事情を、二人の様子から見抜いたミハラがからかうものの、指揮官の必死な断りで離れた。ユニはわかってなかったらしく、ミハラに連れられて去って行った。
一難去ったか、と思ったらまた一難。
今度は黄色い服に黒い上着を羽織った、どこか異国情緒漂う少女が指揮官に近づいた。背中には銃を背負っている。黒髪の長髪で内側を赤く染めていて、こちらも美少女だ、しかも体型がまたしても良い。魅力的なもの。
指揮官。君はどれだけの女性を引っかけてるんだ?
遠目から護衛してた私でも、もう呆れかえるしかない。
しかも「その結婚反対だ!」だの、「桜祭りの担当はそっちだがこれは春祭りだから俺の担当だろ?」とか、「間違えたけど二人居ればいいとか」、「そんなことはどうでもいい! お前ら結婚するんだろ!」とか騒いでいる。
どうしよう、止めようかな。思わずノコ鉈に手を伸ばした私を誰が責められようか。
さらにこの美少女……モランと呼ばれた少女は、指揮官を弟と呼び、姉の許しなく結婚するなど認められないと騒ぎ出した。
「指揮官……君に姉が居るという話は聞いてないのだが……いや、モランが勝手に呼んでるだけか……」
ここでふと、私に銃を向けてきたサクラの隣にいたのがモランだったな、と思い出す。
ということは、同じ部隊か。
どうにも見ていると、サクラは「桜祭りは清明会の担当」とか「モラン、何故結婚するのにキミの許可がいるんですか?」と理論で封じ込めてる。
モランは口が回る方ではなく、なんやかんやとやり込められて……。
同じ部隊に所属する二人が、指揮官を取り合っている図になるのか。
帰って良いかな。
心の中で、そんな疑問が湧き上がる。
ここまで私が見る限り思ったのが、「指揮官には女難の相が浮かんでいる」ことだ。
女性から言い寄られることは良いことだ。それだけ彼が魅力的であることの証左なのだから、悪いなどということは決してない。
ただし、上手く女性側の気持ちを捌ければ、の話だ。
指揮官は優しすぎて、誰でも受け入れてる。
「フフフ……まさに女難の相……相手の方が腕力からして強いから……捌くのも一苦労、か……やはぁ」
「ママー、あの人あっちの人を見て変な笑い方してるー」
「こら! 指さして言うんじゃありません……っ! ……危ない人みたいだから、近寄っちゃダメ……!!」
ん? 何か言われたような気がしたが……気のせいか?
少し目を離した隙に、サクラと指揮官がモランと言い争っているところに、今度は別の美少女が話しに参加していた。
褐色肌で青色の美しい瞳をしており、黒色と金色が混じった長髪、白く美しく扇情的な服装を身に纏った美少女だ。
「どういうこと? 結婚? プロデューサーが?」
「……ノイズ?」
指揮官が困惑した様子で美少女……ノイズを見ていた。ノイズは悲しそうというか困惑したままで、指揮官に詰め寄っている。
「わ、私の聞き間違いだよね? プロデューサーが結婚だなんて……はは。最近ストレスが溜まり過ぎてるのかな……? 聞き間違いがひどいな……」
「聞き間違いじゃない……とりあえずは」
「聞き間違いじゃない? じゃあ、本当にプロデューサーが結婚するの?」
私はもう限界になって、視線を逸らして帽子を深く被り直した。
私は何をしてるんだろうと思った。
私は何故ここに居るんだろうと迷った。
私はここで帰ってはダメだろうかと思案した。
帰っちゃダメだよな。
遠くで清明会組員が私の方を見てる。指揮官へ向けていた鋭い目線ではない。
なんというか……私と同じで呆れかえってるようだ。
『苦労なされるな……そちらも……』
『えぇ……ご当主様はなにゆえ、こんな軽薄な男をお相手になされたのか……』
『友人ではあるが……さすがの私も、指揮官の手の広さには呆れかえってるよ……』
『足を撃つくらい許されませんかね?』
『待つことをオススメする……指揮官が決定的にやらかしたところで頬を殴り飛ばした方が、その、ご当主どのも納得されるかと……』
『ではそのように』
なんとなく会釈したところ、私と清明会組員の彼との間でこんな会話があったような気がした。脳みその中での想像だが。向こうも会釈しながら同じ事を考えているのかもしれない。
帰りてぇ~。
「みなさん、聞いてください」
ん? と思ったときには、サクラの号令であることに気づいた組員たちが、
「はい。ご当主様!」
と、駆けつける。
「命令です。夫が戸惑っているようですから、道を整理して邪魔が入らないようにしてください」
彼女の命令は、単純明快で、至極冷静で、冷たすぎるものだ。
瞬時に組員たちは動き、モランとノイズは指揮官たちから離される。
私はどうすべきだ? ここで彼らとともに、モランとノイズを止めるべきか?
止めたくねぇ~な~。
これ以上、サクラの我が儘に付き合いたくねぇ~。
という心の声に従い、人混みに紛れたまま手を出さないことにした。
私はそもそも組員を囮にする形で影ながら護衛するのが役目だ。表に出ることはしない。
そうこうしているうちに、サクラと指揮官は離れていく。
先回りして追うか。
すぐに私は人混みに紛れる形で指揮官たちの進行方向と目的地を予測し、彼らよりも早く進む。
「この先の桜が目的地か……?」
「あー、ったく!」
先に進もうとしたところ、何やら騒ぎが目に映る。
男女の連れ合いの前に、荒々しい雰囲気をした男たちが立っていた。
「人の土地を使うなら金払えよ!」
「ここが誰かの私有地だなんて話、聞いたことありませんよ!」
「だから今親切に教えてやってるだろ? 俺たちの土地だって」
「そんなバカな……!」
ふむ、どうやら通せんぼをしているのか。
横目で確認すれば、指揮官たちも騒ぎに気づいた様子。
仕方が無い、雇われた以上は、任された以上は、仕事をしてやろう。
私はガラシャの拳を装備しながら、男女の連れ合いの横に立った。
「人に扮した獣を殴る感触は久しぶりだぁ……!」
口の端に涎を垂らし、肉を殴り潰す感触を味わえることに脳を震わせ歓喜する。
体の外に喜びが出ないようにするので、私は頑張ったよ。
この後のエピソードでNIKKEのサブイベントを盛り込んでも良いかどうか?
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サブイベントも書いていい
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メインストーリーだけ進行して欲しい