狩人さんはアーク暮らしを夢見たい   作:風袮悠介

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15話-上位者狩りをするらしい

「本当に、本当に何を考えてる!? 中央司令部の、しかも副司令官を相手に何をしてるんだ!? 私の上官ってことだぞ、問題を起こしてどうする!?」

「いや、すまない、本当にすまない。私はよかれと思ってやったんだ。アルフレートのために」

「アルフレートって誰だよ!? 相手はドバン副司令官だよ!!」

 

 私の行ったことを知ってどこかに連絡を取った指揮官は、興奮のあまり椅子から立ち上がって説教を始めた。

 どうもアルフレート……じゃない、ドバンはあれから研究施設に送られ、検査されているとのことだ。何も問題はないのに。

 

「それで……ドバンは今どうなってる? 大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないよ! 研究所で隔離治療だ! 君が渡した武器に寄生虫や軟体生物がびっしりついてて封印措置になった!」

「なに!? あの武器に寄生虫と軟体生物だと!? ……あ、私も散々使ったからか。私の血も、血族の血も、上位者の体液も付いてるし……なに心配はない。軟体生物と寄生虫を同時に摂取すれば発狂のリスクは抑えられるぞ」

「その寄生虫と軟体生物を摂取することそのものがリスクだろうが!!!」

 

 指揮官は顔を真っ赤にしながら説教を続ける。

 た、確かに……私も少し反省した。

 

「そ、そうだな……精霊だけだと啓蒙を得られるけど発狂するし、獣血だけだと理性を刺激して人の血を求める獣に変えてしまうからな……この天秤を合わせるのは非常に難しい、すまなかった……」

「ちょっと待って! 知らない単語が続々出てきたけど、もしかして寄生虫と軟体生物ってそんな危ないものなのか!?」

「ああ、寄生虫ってのは獣血に含まれてるもの。精霊ってのは軟体生物のことだ」

「ちょっと待ってろその話をもう一度連絡して伝えるから詳しく話せ今すぐ!!」

 

 指揮官は何か箱のようなもの-連絡を取るためのものかな-を手にしたまま、私に詰め寄った。

 なので、私は懐からトニトルスを取り出し、先っぽの丸い部分を布で磨きながら話した。

 獣血とはトゥメルの血族が持っていたもので、寄生虫を含んだ特別な血。

 精霊というのは上位者こと生物として進化した神秘の存在と接触したときに体内に宿る軟体生物のこと。

 その昔、トゥメルの一族は神秘の存在と接触し、神秘を得る代わりに女王は上位者との間に子供を産んでいたことを簡単に話した。

 

 私自身、全てを知ってるわけではなく調べた範囲や聞いた範囲でしか語れぬところが申し訳ない。

 

 が、指揮官は顔を真っ青にして口をパクパクさせてた。黒獣パールみたいだ。違うか。

 

「つ、まり、あの寄生虫と軟体生物を体に宿したら」

「こっちの世界にはいないだろうけど、上位者との間に赤子を授かるかもな。いや、その前に獣に墜ちるか発狂するか。あるいは極々低い可能性で不死者となって死ねなくなるか、上位者の眷属となって生物として進化するかだな。上手くいけばラプチャーなんて敵じゃないぞ!」

「聞いたかイングリッド!!! 今すぐそれらを封印措置じゃなくて焼却処分、滅却処分だ!!! アークが滅びる、え、ドバンがすでに見えないものを見てる?? え、嘘だろ!!」

 

 指揮官の口ぶりは慌てるばかり……ちょっと待て。私は立ち上がり、真剣な顔で指揮官に問うた。

 

「指揮官。質問がある」

「なんだ!!!!」

「見えないものとはなんだ? 具体的にどういうものだ?」

「なんか腕がたくさんある奇妙な巨大人形だそうだ!!! 知ってるのか!!?」

「え、嘘だろ……こっちにも上位者いたのか……しかもアメンドーズじゃん……」

「知ってる奴かよ!!!?」

 

 知ってるも何も……私はトニトルスをしまい、代わりに別の武器を取り出す。

 

「コレの本体」

 

 取り出したのは小アメンの腕。

 骨の塊のように見える硬い鈍器で、先端はまだ生きてるように蠢いてる。

 私の持っているものを見た指揮官は私から後ずさった。

 

「コレは小さい個体の奴なんだけど、巨大って事は大きい個体だな。いや、こっちの巨大の区分は私の認識と違うかも……やったぞ、腕があと何本か手に入るかもしれん。戦力増強だ!」

「ふざけるな!!!! さっさと討伐に行ってこい!!!!」

 

 私は指揮官にケツを蹴られて部屋から追い出された。

 

 

 

 

 その後、ラピたちが私に銃を向けつつ、ともにエレベーターに乗った。

 狭い部屋の中、ラピたちの冷たい目線と銃口から放たれる殺気で、和やかな雰囲気になってるね。旧市街に比べたら天国だよ。

 

「指揮官、コードネーム狩人がエレベーターに乗りました。はい、はい……エレベーター前にシージペリラスとアブソルート、A.C.P.U、アンダーワールドクイーン、エクスターナー、トライアングルが控えてると……」

「大丈夫なの? 本当に大丈夫なの? アタシたち、発狂しない??」

「アニス……その場合は私の火力で! このエレベーターを爆破します! ゴッデスフォールのように!」

 

 三人は和気藹々と会話してるなぁ。正直、私もワクワクしてる。

 アメン腕を何本か確保して彼女たちに渡せば、きっと戦力増強間違いなし。血石はあんまり持ってきてないからそんなに強化はできないけど、まぁいいだろう。

 私は手に持った狩人の短銃とトニトルスを握り直した。あるいは別の武器でもいいが、それは実際に対峙してから考えてもいいだろう。

 

「ラピ、アニス、ネオン。大丈夫だ、アメンドーズなら狩った経験がある」

「狩ったことがあるんだ!?」

「そうだぞアニス。あいつは足が硬くて顔面と腕を殴って殺す。それでいい」

「……一つ、聞いていい?」

 

 ラピが私に銃を向けつつ、その顔には緊張が滲んでいる。

 

「なんだ?」

「私たちにはアメンドーズとやらは見えない。見えないものはいないものとほぼ同じ、妄想か幽霊の類いだと思うんだけど……そんな存在が暴れても存在しないんだからアークに被害がない可能性は?」

「おかしなことを言う」

 

 私はラピを横目で見ながら言った。手に持った短銃を握る手が、強くなる。

 

「見えないだけだ。奴らは、見えないだけなんだ。私たちとは存在の格が違う。啓蒙を得て思考の次元を上げ瞳を得なければならない。これはウィレームの言葉ではあるが、あいつらはそういう存在なんだ」

「あなたは……正気なの?」

 

 ラピは私の言葉に顔を恐怖で引きつらせていた。私の言葉が理解できてないってことなんだろう。

 それもまた、仕方がない。

 

「正気だとも。少なくとも、今はな」

 

 ぐ、と腕に力を込める。私自身が獣に墜ちておらず、発狂してない以上は正気であることの証明だ。

 証明のはず、だ。

 ガコン、とエレベーターが止まる。エレベーターの扉が開くと、そこには十人近くの女性達が一斉に私に銃を向けてる状況だ。

 全員が緊張で体を強張らせ、一切の油断なく私の挙動を観察してる。

 私がエレベーターから出ると、後ろで扉が閉まる。アークの空は相変わらず青く、太陽は輝いている。

 地下であるがゆえ偽物だろうが、偽物であろうとも美しく素晴らしい。私はにやり、と笑う。

 

「それで? 私が狩るべき上位者はどこにいる?」

「meが案内しマース!」

 

 女性達の後ろから現れたのは、あの特徴的な服を来た……えっと、確かマスタングという男か。あと侍っているのはカフェ・スウィーティーの面々だ。

 

「よ」

「よ。久しぶり、かな」

「ん」

 

 カフェ・スウィーティーたちは私に銃を向けていない。それどころかプリムは私に親しげに片腕を上げた。なので、私も同様に返事を返す。

 次にミルクが頭を掻きながら、呆れつつ言った。

 

「全くよぉ……アークにとんでもないもんを引き入れてくれたな、お前」

「すまない。私と一緒に来たのか、それとも元々この世界に居たのか……責任を持って狩ろう。大丈夫だ」

「まぁ、あの強さを見たからな。オレは信じることにする」

 

 ミルクの次に、シュガーがバイクに乗ったまま私に話しかけてくる。

 

「パートナーは大丈夫?」

「パートナーというのが指揮官のことなら、彼は大丈夫だ。私が全力で守る。私がここに来たのは、きっと彼を守るためだ」

「なら信じる」

 

 どうやらカフェ・スウィーティーのみんなは他の女性達のように、私に悪感情はない、のかもしれない。少なくとも殺気は向けられてない。

 考えてるうちに、マスタングが私の前に立った。そして、私の瞳を覗くように見つめてくる。

 

「Hunter、YouはGhost、もしくはMonsterを倒せると?」

「余裕だ。私はもともと獣狩りの狩人、そして上位者を狩るものだ。そして、すまなかった」

 

 私はマスタングに頭を下げた。周りからザワ、と空気が揺らぐ様子がわかる。動揺、と言えるかもしれない。

 

「私はドバンに対して危害を加えるつもりはなかった。ただ、彼が私の知り合いの生まれ変わりか姿を変えているのかと思って、元々彼が持っていたものを返すつもりだっただけだ。

 そして、上位者がまさかこの世界にいるとは思ってなかった。私が連れてきたのか、私が刺激したが故に現れたのか。あいつらは私が狩る」

 

 私の独白と謝罪に、マスタングは何も答えない。

 上位者の存在を聞いたとき、私の胸はざわめいた。人として獣を狩り、獣に墜ちた狩人を狩り、人を利用する上位者を狩ってきた。

 その過程で人としての常識や思考とはズレていくのは自覚してた。

 そして、瞳のひもを使って月の魔物を狩ってその血を浴びたことで、私は別の何かになりつつあるのも。

 こんな私が人としてこの世界に来て、彼女たちに出会ったことで、私がするべきことを確信した。

 

 指揮官の願いを叶え、彼女たちを守り、人として残された時間を使い、ラプチャーに地上を支配されたこの世界の悪夢を晴らすこと。

 

 だが、この世界に上位者が現れた。

 この世界を、アークを、ヤーナムのようにはさせない。

 私が狂う前に、あいつらを殺し尽くす。

 

「OKデース! meはHunterを信じマース!」

 

 顔を上げたら、マスタングが唐突に奇妙なダンスを踊り出した。

 呆気に取られたまま見ていると、マスタングが私の胸に指さしてきた。

 

「YouにBadな考えはないと! meたちの味方だと! もともとmeはYouにこのアークでのAdviceを授けるために来ましたが、後回しDESU! Youに任せMASU!」

「ああ、任せておけ」

 

 私はトニトルスを肩に担いで答えた。

 

「問題なく、狩ってみせよう」

 

 

 

 

 

 マスタングは私に上位者狩りを任せると、シュガーの乗り物に乗るように促してきた。彼女の乗り物ことバイクなら、すぐに到着するとのことだ。

 彼女の後ろの座席に乗り、目的地へと向かっていた。

 

「それでシュガー、研究所とやらはどうなってる?」

「狩人の話を聞いたイングリッド社長の指示のもと、研究所からすぐに避難活動が行われたわ。シュエンも、研究員も、みんな避難完了してる。ただ……殿を務めたニケが数体、犠牲になった」

「犠牲……殺されたのか……」

「ちょっと違うわ」

 

 背中越しのシュガーの肩が、少しだけ強張った。

 

「……妊娠したのよ」

「なに?」

「私たちニケは妊娠することができない。なのに、避難完了してから数体のニケが苦しみだしたの。ペッパーたちがリペアセンターで検査したら……子供を授かってたのよ……」

 

 私は驚きのあまり目を見張っていた。

 聞いたことに、自身の耳の異常を疑うほどだったからだ。

 ニケは妊娠できない。彼女たちは、そういう存在だと。

 なのに妊娠した。

 

「……そうか」

「あまりにも……恐ろしい状況よ」

「恐ろしい、か」

 

 恐ろしい、か。私は目を伏せた。少し悲しい気持ちになったから。

 おそらく彼女たちは、上位者の赤子を授かった。私がもたらした獣血と精霊を得たことによってだ。

 

 トゥメルの女王、アンナリーゼ様が為せなかった悲願。

 上位者の赤子を授かり、その手に抱くこと。

 

 異なる世界でそれが為されるとは……これを聞いたらアンナリーゼ様はどう思われるだろうか。トゥメルの女王はどう思うだろうか。

 下手したら“乳母”が現れるか?

 心配事は尽きないが……今は目の前のことに集中しよう。

 




ちゃんとシリアスなバトルもするんやで。
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