狩人さんはアーク暮らしを夢見たい   作:風袮悠介

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14話-これからの任務について話をするらしい

 案内されたコマンドセンターの、指揮官の部屋。私は改めて内装を確認しつつ、椅子に座る指揮官の動向を観察した。

 ていうか指揮官の部屋、だいぶ殺風景にも思えるな。私も人のことを言えないが、部屋の中は仕事に必要なものしかない。私も拠点には獣や上位者を殺せる設備以外のものは置いてなかったのだが。

 にしたって、アークのあの煌びやかな街並みを見れば、もう少し調度品を置いてもよかろうに。あのアンダーソンとかい胡散臭い副司令官と他の面々と会った部屋だって、ここよりも華やかだったろうに。

 

「そこに座ってくれ」

 

 指揮官が用意したもう一つの椅子に、私は大人しく座る。

 私が姿勢を正したのを見てから、指揮官は大きく深呼吸をした。

 

「さて、自己紹介は終わったから、改めてようこそ。アーク、というか前哨基地へ」

「すまない指揮官殿。私はこれから、ここにやっかいになるということか?」

「その通り。君はこれから、私たちカウンターズ所属の人間になる。あと、殿なんて名称はいらないよ」

 

 ふむ、真剣な表情の指揮官から語られるカウンターズ、という言葉。

 

「カウンターズ、とは指揮官が率いる部隊と認識してもいいんだな?」

「そうだ。私たちは主に地上で活動をしている。ラプチャーに勝ち、地上を取り戻すために、だ」

 

 指揮官の顔に険が浮かぶ。なるほど、よほどの怒りを胸の内に秘めているのだろう。

 膝の上に置かれた拳に、僅かながら力が籠もっているところを見ると相当だ。

 わかるぞ、その怒り。私にも覚えがある。ヤーナムにいれば、いくらでも感じる怒りだ。

 

「了解した。……それで、指揮官は体を治す方が先、ということか?」

 

 私が指揮官の体を指で示して言う。なんだかんだ言ったって、彼の体は重傷だ。私の目から見ても、何故こうして椅子に座って対応ができるのかが不思議なほどに、な。

 治療のための機材だって山盛りのこの部屋で、点滴と包帯だけで動けているのが異常は話。

 私の指摘に、指揮官は顔を歪めて答えた。

 

「そうだ……悔しいが、私の体はまだ万全じゃない。体の治療を最優先しないといけないんだ」

「こういってはなんだか指揮官、君はこの場にいて他の娘たち……カウンターズのみんなを地上に向かわせ、遠隔で指示を出すということも可能だろう。ここに来るまでに、ポリ? とかいう娘がそういう真似をしているのを見た。交信の一種だろう? 何故そうしない?」

「できないからだ」

 

 きっぱりと指揮官は答えた。

 

「彼女たち……ニケは、人間の指揮官に絶対服従の立場だ。脳に埋め込まれたNIMPH(ニンフ)によって、そういう命令でしか動けないように操作されている。地上に向かう時は、必ず人間の指揮官と一緒じゃないといけない」

「……」

 

 私は思わず懐からノコギリ鉈を取り出そうとして……止めた。脳みそをいじくるような真似をする外道をどうしてくれようとかと思ったが。

 

 目の前の指揮官の、私以上の怒りを浮かべた表情を見て冷静になったからだ。

 

 ああ、素晴らしいよ指揮官。君はどこまでも私の想像通りだ。

 自分の体を動かない悔しさより、彼女たちの脳に仕込まれたNIMPH(ニンフ)の方が許せないとは。

 感動するね、全くっ。

 

「そして、地上に出ると通信は難しい。地上は今、エブラ粒子に溢れているからだ」

「エブラ粒子?」

「通信を遮断する物質だ。元々は昔あった第一次ラプチャー侵攻のとき、ラプチャーの通信能力を阻害するためにバラまかれたんだけど、効果が強すぎて今も地上に残存したままなんだ。浄化しないと、地下と地上での相互通信ができない。これは中央政府司令部と情報部以外にはできない。指揮官が地上に上がり、申請しないと」

「なんともまぁ……昔の人間のやらかしに振り回されるのは、どこも一緒なわけか」

 

 過去のビルゲンワースを見ているようだ。さりとて、嘆いているばかりでもいられない。

 

「して……一つ聞きたい。それまで私は何をすればいい?」

「できればシミュレーションルームで、ラピたちとの連携を訓練して欲しい。私はその間……体の治療と、マリアンの教育と訓練を行いたいんだ。彼女の側に、少しでも長くいてやりたい」

「おおおぉぉぉ……っ!」

「なに? どうしたの? なんで泣いてる?」

「構うな……君の思いの深さに……胸を打たれただけだ……っ!」

 

 涙が溢れてしまうねぇ……!

 

「思いの深さ、か……」

 

 指揮官は視線を逸らし、微笑んだ。

 

「彼女は、私が初めて地上に上がったときに共に居た、最初の人なんだ。大切な、仲間だよ」

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉ……!!」

「本当になんなの、なんの涙なのそれ??」

「構うな……それほどまでの繋がりの深さだとは……私は情けない、そんな君たちの絆を察してやることができなかったなんて! 詫びとして腹を斬ろう!」

「斬らなくていいっ」

 

 涙を流しながら千景で腹を切ろうとする私に、指揮官は慌てて止めようとしてきた。

 

「ええい止めるな、私は恥ずかしい生きておられん!」

「生きてていいから! 君は現在、地上で唯一の生還者だ! そんな人に目の前で腹を斬られて死なれたら、私は大変な処罰を受けるよ!」

「本当? 生きてていい? 詫びとして貴重な寄生虫、いる?」

「いらない」

 

 そっかぁ……この指揮官なら、苗床のカレル文字とゴースの寄生虫を渡してもいいと思ったんだけどな……。

 私は懐から出していた寄生虫と秘文字の工房道具をしまう。

 是非とも私からの好意を受け取って欲しかったんだけどな。残念。

 

「ちなみに聞くけど……それは、なに?」

「これか? これはゴースの寄生虫と呼ばれる武器でな」

「武器じゃない」

「武器だよ。これを握って敵を殴るし」

「寄生虫を握って殴るの???」

 

 ふふん、一見するとそうだろうな。しかし、こいつは凄いぞ。

 

「これに苗床のカレル文字を脳みそに刻むと真価を発揮するんだ。体から生えた触手で敵を殴打し、口からも触手を吐き出す。ナメクジを撒き散らして範囲攻撃もできるぞ。遅効性の毒を持つ液体も出せるうえに衝撃波を出すことができるようになるんだ。戦力が増強するぞ」

「今すぐにそれを焼却処分しなさい!!!」

「なんてことを言うんだ! これを指揮官、君が扱うようにすれば間違いなくラプチャーなんて敵じゃないぞ!」

「私にそんな気遣いはいらないからすぐに焼却処分しろ!!!!」

 

 やだよぉ。あいつ手強くてこれを手に入れるのにめちゃくちゃ苦労したんだよ。

 私が渋っていると、指揮官がハッとした顔を浮かべた。

 

「ちょっと待て。狩人」

「なに?」

「それ、まさかとは思うけど他の誰かにした……?」

「ドバンとかいう副司令官に獣のカレル文字を刻んで武器をあげたよ。ポリが慌ててたな」

「ちょ、イングリッド!! 聞こえるか!! 今すぐにドバン副司令官の身柄を拘束し、え、もうした!? アブソルート部隊が出撃して!? 狩人から渡された武器は!? 車輪?? 車輪を持った他のニケが発狂した!? すぐに封印措置を!!」

 

 なんだよぉ、指揮官まで慌ててよぉ。

 私は慌てふためくままに通信しまくる指揮官を見ながら、この階の下にあるだろう部屋へ視線を向け、夢想する。

 

 

 

 

 さっきから上位者並の気配がするんだよなぁ。なんだコレ?

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