「な、に、を、考えてるんですかぁあなたはぁ!?」
「いや、その、なんでもないんだ……なんでもないわけじゃないが、大したことじゃないんだ」
私は前哨基地へ向かうエレベーターの中で、ポリから説教を受けていた。
アルフレート……と言ったらミランダから訂正を受けた……ドバンへ施したカレル文字と武器の供与を酷く責められてしまっていた。
悪くない、私は当たり前のことをしたまでだ、と説明したのだが「人違いなんだから当たり前のことじゃありません!」とミランダから反論されてしまった。もっともである。正論でぐうの音も出ねぇ。
散々ポリとミランダから説教を受けて、エレベーターの隅でしょんぼりしている私を尻目にポリとミランダはギロチンとメイデンを相手に相談をしていた。暇なので私は隅っこでロスマリヌスの調整をしていた。いざという時のために、ね。
「それで……どうしましょうかぁ……? 狩人さんがしたこと、一応報告した方が……」
「遠目なのでわかりませんでしたが、何かを渡していました! あと悲鳴をあげてました!」
「あの……なんか頭に押し当ててませんでしたか?」
「うむ。我の目にも同類が手に何かを持っていたのは見えていた」
どうやら4人の相談内容はアルフレート……ではない、ドバンの心配と言ったところか。
私はロスマリヌスの調整から視線を外さないまま、4人に言った。
「心配はいらないぞ。私がドバンに渡したのは丸薬と武器、あとカレル文字だ」
「が、丸薬!? なんてものを……! あと、武器とカレル文字? なんですかそれはぁ?」
「武器はローゲリウスの車輪。普段は車裂きの刑に用いるような重量の処刑武器で、叩きつけて相手を殺す武器だ。
その真価は仕掛けを起動することで、素晴らしき本性を見せるところだろうな」
「本性とはなんでしょうか!? あと、カレル文字ってなんですか?!」
「ミランダ、君は自分よりも上位の存在を信じるか? 肉体的や精神的、在り方そのものが人間よりも遥かに高位の存在ってやつを」
「すみません何を言ってるかわかりません!」
やれやれ……そこから説明しないとダメか。これだから脳に瞳を得てないものは……。
とはいえ私もまだまだ知らぬことの多い未熟な身の上。偉そうにするものではないな。
私はロスマリヌスの最終調整から手を離さず、口を開いた。
「まずローゲリウスの車輪だが、あれは血族……敵側勢力を殺し尽くすために使われた仕掛け武器で、仕掛けを使うと染み込んだ血と情念が怨念となり、攻撃力を上げる。ただし使いすぎると呪われて使用者は死ぬ。その代わり、あらゆる敵を一撃で殺せるだろうさ。
カレル文字は研究者カレルが上位者の声を録音し、それを文字にしたものだ。これを脳裏に焼き付けてさまざまな効果を付与する。ドバンに刻んだのは『獣』で、獣性を上げることができて、あと高いところから落ちてもそんなに痛くない。
彼に相応しい武器と文字だ。これに獣血の丸薬を渡したから大丈夫」
「ミランダ!! すぐにメアリーとペッパーに、いや、ミシリスのエーテルとマナにも連絡ぅ!! ミシリスの病院で隔離、治療の用意と道中の緊急防疫の手配!!
メイデンは社長に連絡してドバン副司令官の確保、いや、すぐに緊急確保を急いで!! トライアングルでもアブソルートでもカフェ・スウィーティーでもいいのでありったけの戦力を投入してくださいぃ!!
下手したらパンデミック、サイコブレイクみたいな大災害で大量の死人が出ますぅ!!」
ポリが半狂乱しながら指示を飛ばし、ミランダとメイデンが真っ青な顔で連絡を始めた。ポリも連絡をしていて「プリバティ、すぐにエニックに繋いで報告を、そんな権限がないとかの問題じゃないですぅ! 超緊急事態なんですぅ!」と泣きながら報告してた。
そんなに慌てることじゃないのに。
溜め息を吐いていた私に、ギロチンが横に座って私の手元を覗いてきた。
「同類よ、何をしているのだそれは?」
「これか。これはロスマリヌスという武器でな。火炎放射器のように水銀弾に含まれる水銀を神秘の霧に変えて噴霧する武器だ」
「す、水銀を霧のようにばら撒く!?!? ……同類よ、それは仲間と一緒に戦う時は、使わない方が良いぞ」
「ん? あ、まぁ、そうだな」
ギロチンからドン引きされてるのがわかった。なぜだ。
前哨基地についた瞬間、私はポリにエレベーターから蹴り出されてさっさとコマンドセンターに行けと怒鳴られた。
なんか「あなたのしたことの後始末ですぅ! 下手したらアークが滅びますからねぇ!」と慌ててた。滅びないのに。
私が降りてポリに怒鳴られたあと、すぐにエレベーターは閉じてアークに向けて出発した。1人で行けと。困った。
「うむ……前に来た事もあるし、遠目に見えるし、行けるな」
とはいえども、私はすでに前哨基地に一度は来た身だ。ヤーナムでは通った道を覚えてないと、すぐに迷子になるからな。
土地勘把握能力には自信がある。なんなら近道を見つけるのも得意だ。そこらの壁を壊すかはしごをおろすか扉を開いておけば大丈夫。
行くか、とコマンドセンターが見える方向に向かって歩き出す。
「ちょっと待って!」
が、横から話しかけられた。
誰だ、と思うと、そこには私が善人判定した指揮官と呼ばれる男性がいた。
体中に包帯を巻いており、痛々しい様子のままだが、彼の眩しさに衰えはない。
「貴公は……指揮官?」
「よかった……どこかに行く前に合流できた……! ラピ達に任せると、何が起こるかわからないから……」
どうやら指揮官は痛む体に鞭打ち、私がここに来るのを出迎えてくれたらしい。体の痛さと疲れで、額から汗を流している。
私は感動した。この指揮官は、善性がある。私が見た輝きは、嘘ではないのだ。
思わず私はそれを仰いで涙を流した。美しい、これこそ人よ。
「ど、どうしたの?? なんで泣いてるの??」
「貴公は良き人なのだな」
「良き人……そうでもないさ」
指揮官は自嘲した。
「取り戻したいものも取り戻せず、仲間を死地に向かわせ、私は……」
「貴公!」
私は指揮官の両肩を掴んだ。
「止めるんだ。それは、貴公を信じて共に死地に向かったもの達への侮辱である」
「でも……私は……」
「謙虚は美徳である。しかし、卑屈は失礼にあたる。貴公は貴公にできる最善と、仲間たちができる最高を持って事に当たったのだろう。私は知ってる。カフェ・スウィーティーの面々を見ればわかる。彼女達は強い。そして、彼女達に信頼される貴公も強い。
誇れ。貴公は人として強いのだ」
私は見てきた。上位者に近づこうと、精霊の力を得ようと、獣性を制御しようと醜い活動をしてきたものを。
あの、漁村を。
それに比べて指揮官の行いはなんと尊いことか。貴いことか。人々のために戦う。
文字にすればそれだけだか、指揮官は文字通り命をかけてことを成している。
私は、それを賞賛したい。
「ありがとう……えっと……」
「狩人と呼んでくれ。私に名前はない」
「じゃあ、私もそれに倣って指揮官と呼んでほしい」
「わかった、指揮官殿」
「早速だけど、コマンドセンターに行こう。これからの事について話し合いたい」
ようやく、私は彼と話ができるらしいな。