天慈颶雅之毘売

 この和深かずみ大陸において、荒神と呼ばれる神は多い。無論、それ以上に豊穣神や食神、戦神などもいるのだが。

 このどこか無頼で無法者めいた荒神という響きは、戦乱の世においてはどこか英雄的にも映るのか、その威光にあやからんとする妖怪は多い。


 山岳郷の天嵐神社は、そんな荒神──女神・天慈颶雅之毘売あまじくがのひめを祀る。


 時に神とは、多面的である。人がそうであるように、常に荒ぶっているわけではない。

 天慈颶雅之毘売は天嵐が示す通り、嵐の女神である。ゆえに荒神とされるのだが、当然、それだけでは終わらない。

 雨風が吹き、雷が落ちれば、土壌は豊かになるもの。このことから天慈颶雅之毘売には地母神、豊穣神の側面もあり、また天より雷を落とす龍神の性格もある。


 事実、五十年ばかり前──戦廻暦四年の大戦おおいくさではこの天慈颶雅之毘売の逆鱗に触れた井筒国の主だった軍勢、およそ六千を雷の槍で消し飛ばしている。

 妖怪狩りという不当な理由で己の神域を荒らしたのだ。人の世の神がそうであるように、妖神あやかしがみもまた、これに怒るのは道理。


 時に今、戦廻暦五十七年。

 戦の気は山岳郷に迫っているが、これに際し天嵐神社総本社におわす天慈颶雅之毘売は、「まことに学ばぬやつらよ」と言い、不機嫌に鼻を鳴らしているという──。

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