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ブロムスト・サガ ─ 竜ヲ征スル者 ─

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7分

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ACT2 魔物

「ミス! ミス・ジュラー! 逃げるんだ、魔物がっ──」 「落ち着け青年、ゆっくり息をしろ」  まろぶように入ってきたのは、若い男だった。  ノルトはすぐに立ち上がって、腰の皮袋から水を飲ませてやる。 「ぷはっ、すみません。……あんたたちも逃げてくれ。トロール族だった! スノウトロールだ!」 「なに、本当か?」ノルトはライヴェンとフィノーラを見る。  ライヴェンは頷いた。 「放ってはおけない。数は覚えてますか」 「二体はいた……鉄砲で威嚇したら、一体は下がったけど、流れ弾で一体が興奮しちまって、村に……!」  頷いて、ライヴェンはマフラーを巻いた。  フィノーラはカッフェをぐいっと呷ってから椅子に引っ掛けていた毛皮張りのコートに袖を通す。 「ジュラーさん、この方を頼みます。俺たちはスノウトロールをどうにかします。ノルト、フィノーラ」 「ま、腹ごなしの運動には悪くねえな」 「構わない。鈍りそうで困ってた」  ジュラーはふっと微笑む。 「頼んだ。食事の勘定は、トロールの毛皮で頼むよ」 「おいおい、法外じゃあないか」ノルトは冗談めかしていって、ライヴェンの肩を叩く。「油断するなよ。フィノーラも」 「もちろんだ」「任せろ」  三人は外に出た。  吹き付ける寒風が肌を軋ませる。幻冬季は命眠季より冷えるのが通例で、今日は年明け初日なのに特に冷えていた。  手が悴んで、使い物にならなくなる──なんてこともあるから、一行は常に指を閉じたり開いたりして温めていた。  もちろん、毛皮の暖かい手袋をしている。  と、ズドン、と銃声がした。  東から火薬の焦げたようなにおいと、そして血の香りがした。  ライヴェンは足を風車のように素早く動かし、駆ける。  背負っていた鞘を左肩に跳ね上げてから抜剣、刃渡りだけで一アーム(およそ一〇五センチ)はある大剣(クレイモア)を肩に担ぎ、走った。 (抜き身の剣を背負ってあの速力?)フィノーラは舌を巻いた。(ファゴット族の中でも一等優れた戦士だな)  見えた──上背、ゆうに三アーム(二四五センチ)もの巨体を誇るスノウトロールが、フリントロック式の鉄砲を構えた男と睨み合っている。  鉄砲は──本体は手に入っても、質の良い火薬はなかなか市井には出回らない。あれは村の虎の子の武器なのだろう。  周りには五人の若い男らがパイクを構えて槍衾を作っている。ハリネズミ戦術という、歩兵で騎兵を落とす、戦場革命の一つとなった対騎馬戦術を取っていた。  が──。トロールに、たかだか粗悪な鋳鉄の穂先が効くはずもない。  パイクは容易くへし折られ、男らは退散。銃を構える農兵が一発撃つが、弾丸は肩を抉りこそすれ致命傷になっていない。  怒り狂ったスノウトロールが、雄叫びを上げて村を囲う木柵を殴り飛ばした。  とんできた木片が、逃げ遅れた少年の背中に迫る! ──が、それをライヴェンが割って入り、大剣で弾き飛ばした。 「行け、逃げるんだ!」 「わっ、わかった!」  サキフラガ・ハヴボルグ──ユキノシタの花の家紋を背負う大剣、その銘は「ブロムボルグ」。すなわち、花の波。  ライヴェンはブロムボルグをタウルスの構えで握り、雄叫びと共に刺突を放った。  スノウトロールはそれに気づいて左腕を振るう。  がり、と剣先が剛腕に阻まれた。血が白い怪我にじわっと滲むのが見える。  わずかな拮抗、すぐに剣は跳ね除けられる。体が泳いで、ライヴェンは後ろに二歩下がり、そこで抵抗をやめて雪の大地に後ろへ倒れた。  そのすんでのところを、トロールの右腕が掠めていく。 「危ねえ!」  かわしたところでライヴェンは転んだ勢いを利用して後転、起き上がる。  剣を鉄扉の構えで握り直す。刀身を正中線に沿って構える基本形の一つだ。愚直なまでに基本の構え。  そこへ、フィノーラが胸元から抜いた錐のような棒手裏剣──銑鋧(せんけん)を手挟み、放った。  ビィッと空気を切り裂いて迫るそれが、トロールの脇腹と鳩尾、それから左腕の甲に刺さる。  鋭さもさることながら、深くねじ込む投擲力も凄い──。ライヴェンは牽制が効いているうちに駆け出す。  トロールが左腕で落ちていた木の杭を握り、それを、ライヴェンへ投げようと振りかぶった。 「突っ込めライヴェン!」ノルトが怒鳴る。  信じる──ライヴェンはそう決めていた。投げ飛ばされる木片が、強弓に粉砕されたのを見ても驚かない。そうなることをわかっていたからだ。  すかさず、トロールは右手で石を掴むが、これをフィノーラの鉤縄が封じる。  彼女は森猫族の優れた筋力で腕を引き、さらにノルトが協力して引っ張る。  たまらず石を落としたトロール。ライヴェンは岩で盛り上がっている段差を利用して跳躍し、大上段から大剣を振り下ろした。  命そのものを燃やすような怒号、そして、斬撃。  スノウトロールの真っ白な毛皮が、吹き出した鮮血で真っ赤に染まった。  頭を、頭蓋骨と脳味噌もろとも叩き割られたトロールはたまらず前のめりに昏倒。  積もった雪を赤々と染め上げて、末期の痙攣を残して、絶命した。 「ロップス爺さん、凄い剣を打ったな……」  言いながらライヴェンは血を払って、サキフラガ・ハヴボルグの家紋が縫い付けられている鞘に剣を収める。  凄いのはお前だろ、とノルトは思った。  ──騎士に成りたての十六歳が、一刀の元にトロールを討つ? どこの英雄譚だ、それは。  呆れ半分、関心半分。ノルトはしかし、嬉しくもあったし、誇らしさもあった。  そしてフィノーラの投擲術といい、縄術──これも並ではない。  剣や槍とは違う独特な技法をモノにしている。聞けば彼女は現在十八歳だそうだが、この歳でこれほどの技量とは……。 「ノルト、凄い弓だったな」  そのフィノーラが、ノルトの弓術を指して言った。 「ああ。混合弓(コンパウンドボウ)さ。色々な魔物素材を複合的に使った長弓でな、かなりの威力が出る。スケイルワームの鱗もぶち抜けるくらいだ。  弓術自体はバッケン・エルフ式だよ」  一行はまずトロールの解体に取り掛かった。  倒した魔物からは素材を剥ぎ取らねばならないという法があるわけではないが、命をみだりに奪わない戒めとしても、そして命への感謝の観点からも、討った以上は素材を回収するのが慣わしである。  ライヴェンたちは皮を剥いで、牙と爪を抉り取り、腹を割って脂肪をくり抜く。  それらを袋やら瓶に詰めると、集まってきた村人の若衆に手渡し「ジュラーに届けてくれ」と言った。 「あんたたちはこれからどうするんだ?」 「トロールはもう一体いたって話だが?」ライヴェンが問うと、若者の一人が南東を指差した。 「きっと洞穴だ。前々からあそこにはゴブリンが集まってたんだ」  なるほど、トロールはそこを牛耳ったらしい。  魔物は時々、上位のモノが下位のモノを従える「群れ」を築く。彼らの社会構造はシンプルで、各々の種族に生態系はあるものの、基本は強者が上に立つという仕組みで成り立っている。  トロールならばゴブリンを従えることくらい容易だろうし、実際、こうした群れの被害は多い。  放っておけばゲート村はもちろん、上の城も被害を受ける。  ライヴェンは仲間の二人を見た。  彼らは頷いて、ライヴェンも頷き返す。 「俺たちが討伐してくる。あんたたちは万が一に備えて、頑丈な家に隠れていてくれ」 「わ、わかった! あんたらも気をつけてな! みんな、村長さんの家か、鍛治工房に逃げるんだ!」  そうして一行は、洞穴へと歩き始めた。  その様子を眺める一つの影があることに、一行は気づいていなかった。 「先生」  隣に立つ妙齢の女を先生と呼んだのは、齢十四ばかりの少女である。枯葉色の髪の毛を陽光にさらせば、それは複雑な色彩を示し、彼女の中にある多様な知識を物語るように煌めいた。  先生と呼ばれた女は、魔女帽子を深く被り直し、高い木の枝に腰を下ろして、若い三人組──一人はエルフだから、人間よりはずっと老いているだろうが──を見下ろす。 「ふぅん、農奴上がりの放浪騎士に、魔女に因縁を持つ盗賊、そして一族を追放された不良騎士……」 「そろそろ“契約者”決めないと、手遅れになります」 「そうね。……彼らにしましょう」  “先生”はそう言って、微笑んだ。紫色と赤色のグラデーションを描く、独特な髪を雪にまぶしながら──。

 ストック構築が著しく悪いため、またまたしばらくお時間をいただきます。ご了承ください(うまいこと文章を練れなかったりしています)

初回投稿日時:2025年11月7日 18:43

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  • アヌビス

    Lance

    ♡1,000pt 2025年11月7日 18時50分

     相変わらずの読み応え、迫力、素晴らしいです。よくここまで書けるものです、本当に凄いです^^

    ※ 注意!このコメントには
    ネタバレが含まれています

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    ▼▼

    Lance

    2025年11月7日 18時50分

    アヌビス
  • 男戦士

    夢河蕾花

    2025年11月7日 20時37分

    ありがとうございます! 一話あたりのカロリーがこっていしていて高いので、読んでいて疲れさせてしまわないか時々不安です( ˘ω˘ )

    ※ 注意!この返信には
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    夢河蕾花

    2025年11月7日 20時37分

    男戦士

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