ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロトインタビュー②「ステージに出て音を聴くとああなっちゃう。暴れたくなる」
【前編】から続く
――色々なことに触発されて音楽が生まれていくと思いますが、最近の世界情勢や日本の社会に思うことも曲作りには大きく関係してきますか?
甲本 関係なくはないんですよ。さっきも言ったように何かしらの高揚感が曲になるとすれば、そういう思いも絶対曲を進めていく、作り上げていく、何かのきっかけにはなっているはずなんですよ。僕はそれでいいと思う。そのことを直接歌わなくても。
「“怒り”は曲ができるための燃料だけど材料じゃない。それをそのまま曲にすると人をぶん殴るくらいつまらないものになるような気がする」
――例えば壮絶な怒りも、高揚感に繋がっていきますか?
甲本 そういうことはもちろんあると思う。だけどそれはただのきっかけで、曲ができる原動力、燃料みたいなものだと思う。燃料だけど、材料じゃない。それをそのままやると、人をぶん殴るくらいつまらないものになるような気がする。
――そうですね。ヒロトさんが書いた曲もマーシーさんが書いた曲も、聴いた人がそれぞれ色々なことを感じると思いますが、今の世界情勢や日本の社会情勢を憂いでいるという映り方もします。
甲本 もちろん憂うこともありますよ。それは誰だってあるじゃないですか。その感情には逆らえないし、その感情を抱えたまま曲を作るわけだから、曲を聴いた人が何かを感じるのは当然じゃないかな。逆に、事実を直接歌詞の材料にするパターンもあって、僕は古いブルースが好きでよく聴いていますが、そういう音楽を聴いているとそこで歌われている歌詞もそう。当時の雰囲気の中で、自由にやってるだけなんだけど、バラッドっていうのは江戸時代の瓦版みたいなもんなんです。例えばそこで戦争があったら戦争のことを、文字が読めない人たちに歌って聴かせるということもあるわけですよね。バラッドってストーリーなんです。例えば「ミシシッピの綿花畑でゾウ虫がいっぱい出て困った」とか、「川が氾濫してみんな大変だった」とか。そういう実際に起きた事件を自分なりに脚色して面白く歌ったんです。殺人事件なんて起こったらもう最高に盛り上がるネタですよ。「スタッガリーが友達を殺した後に死体がかぶってた帽子をかぶって行っちゃった」とか、面白おかしく伝える。そういうバラッドがたくさんあって、そんなのが大好きだった。ボブ・ディランがやったのもそういうことなんじゃないかな。
「ボブ・ディランがバラッドを歌って、それを聴いた人には反戦歌に聴こえたとしても、ボブ・ディラン本人に『反戦歌か?』と聞くのは野暮」
――そうですね。
甲本 ボブ・ディランがバラッドを歌ったら、当時を生きている人達にはそれが反戦歌に聴こえる。でもボブ・ディラン本人にこれは反戦歌か?って聞くのは野暮ですよ。それよりも聴く人によっていろんな感動がある。
――そういうことをラブソングに昇華させるアーティストもいます。
甲本 形は何でもいいんですよ。でもそれをそのまんま歌ったらつまらないじゃないですか。せっかく面白い歌にしたいのに、それを面白がれないんだったらニュースを観てればいいし、新聞を読めばいい。そうじゃなくてそれを面白おかしく語るからバラッドになって、それこそ近松門左衛門ですよ、日本でいうと。
「バラッドは直接何かに抗議するというより、面白くしたかったんだと思う。聴く人たちがそれを広義に解釈するのは自由。それが作者の意図と違っててもいいと思う」
――浄瑠璃「曽根崎心中」の作者の。
甲本 あれがバラッドです。どこかで起きた心中事件を面白おかしく物語形式にして語って聴かせ、それが「Stagger Lee」だしボブ・ディランもそうだと思う。だから当時の雰囲気をすごく纏った曲を歌ったんだと思うし、直接何かに抗議するというより、面白くしたかったんだと思う。
――それをどう音楽にするかがそれぞれのアーティストの個性、特性ですよね。
甲本 聴く人たちがそれを広義に解釈するのは自由で、それが作者の意図と違っててもいいんじゃないかな。
「最近はハーモニカを上手に吹こうと思わなくて、後でどんな風に聴こえてもいいから吹いてる瞬間を楽しもうと」
――アルバム収録曲についてお聞きしますが1曲目の「キャブレターにひとしずく」ではMUSIC VIDEOもそうですが、音源を聴いただけでヒロトさんがハーモニカをすごく楽しそうに吹いている姿が想像できました。たぶんそれは去年のブギ連のライヴで、内田勘太郎さんと一緒にヒロトさんが本当に楽しそうにパフォーマンスしている姿とオーバーラップしたのだと思います。
甲本 うんうん。最近は上手に吹こうと思わなくなって。後でどんな風に聴こえてもいいから、吹いてる瞬間を楽しもうと。「キャブレターにひとしずく」のイントロに関してもそうです。僕が今までやってきたハーモニカのイントロの曲って、実は自分の中の「ツィゴイネルワイゼン」で、自分でも練習するんです。
――超絶技巧が求められる曲ですね。
甲本 あくまでも自分にとってのです。口笛みたいに雰囲気だけで吹けてしまうフレーズじゃなくて、自分でも練習しなきゃ吹けないフレーズを作るんです。わざとヘンテコなフレーズを。気持ちだけで吹けないフレーズを作って、あえて難しくするんです。それをやり始めた一番最初がハイロウズのときの「ミサイルマン」で、あのスピードであのフレーズを吹くのは難しかったんです。
――なるほど。
甲本 「ブカブカブーツ」もそう。あれも初心者には大変だと思います。ハイロウズの頃はそういうのをやりたくて、それをクリアするのが面白かったんです。でも今はもっとシンプルで「キャブレターにひとしずく」は誰でも吹ける。今まで自分が作ったブルースマナーのイントロの中で、一番簡単です。
――あえてそういうふうにしたんですね。
甲本 今回はそうしました、誰でも吹けるように。
「ボーカリストって真ん中にいるイメージがあると思う。でもハーモニカを吹いた瞬間に4人が並列な感じがして、それが僕の中では最高の時間」
――ヒロトさんはボーカリストですが、ハーモニカを吹いてるときはよりバンドの一員になったような感覚ですか?
甲本 もうその一言一句その通りです。
――だからより楽しそうに見えるんでしょうか?
甲本 ボーカリストってどうしてもフロントマンというイメージがあって、もちろんそんなこと思わなくていいし、後ろで歌ってもいいんだけど、なんか真ん中にいるイメージがあるじゃないですか。でもハーモニカを吹いた瞬間に何か4人並列な感じがして。僕の中では最高の時間なんです。
――去年インタビューさせていただいた際も、年齢や体力、気力の話になって、例えばこの夏は酷暑の中で様々ステージに立ちましたが、体力の変化を感じたりしましたか?
甲本 どうだろう。体力についてはあんまり気にしてないです。スポーツマンじゃないから。
――確かに。
甲本 例えばスポーツマンやダンサーだったら、疲れてていつものパフォーマンスができないとかあると思う。若い時はできたけどもう無理とか。でも僕はスポーツマンでもダンサーでもないから。
「ステージでは動かなきゃいけないと思ってないし、動きたいとも思わないし、ただステージに出るとああなる。暴れたくなるんです」
――歌を思うように歌うだけといえばそうなりますが、ヒロトさんの激しいステージを観るとすごい体力だなっていつも思います。
甲本 動く必要は全くないんですよ。動かなきゃいけないと思ってないし、動きたいとも思わないし。ただステージに出るとああなっちゃうんですよ。暴れたくなっちゃうんですね。 だから僕が自分のステージのことを説明する時よく例えるのが、反抗期の子供です。ちょっと引きこもり気味で、親とも疎遠になって口答えしかしない子供が、ある日突然ブチキレて、台所でテーブルをひっくり返す。そういうことです。反抗期の子供がテーブルをひっくり返すためにわざわざ腕立て伏せ、トレーニングをするかって話なんです。
――衝動ですよね。
甲本 「よーし、テーブルひっくり返すぞ」って腕立てして準備して、ひっくり返す練習を何回もやるのかって話です。
――腑に落ちました。
甲本 あれ、急にああなっちゃうんですよ。そのための練習もなければ、上手なやり方もないんです。ブチ切れてるだけ。その時の気分でその時の暴れ方がある。疲れてれば疲れてるなりのテーブルのひっくり返し方がある。ひっくり返らなかったらテーブルをごつんと小突けばいいんですよ(笑)。「あ――っ!」って叫ぶだけでもいいし。
「ステージでは生のあの音、ひとかたまりのサウンドを僕は特等席で聴いていて、僕に降ってくる。そうするとじっとはしていられない」
――爆発だから練習しようがないですよね。
甲本 そうなんです。だから爆発してなければ何もない、自分の部屋でレコードを聴いている時も一人で爆裂してますよ。じっと座ったまんま(笑)。僕のスイッチは僕が入れるん じゃなくて、入れられちゃうんです。背中を押されちゃうんです。それはバンドだとバンドのメンバーなんです。(桐田)勝治がカウントを入れてドラムが入って、コビー(小林勝)のベースきてマーシーがギターをかき鳴らして……生のあの音、ひとかたまりのサウンドを僕は特等席で聴いていて、僕に降ってくるんです。もう最高なんですよ。そうするとじっとはしていられないんです。
――お客さんも一緒に体を動かしていますよね。
甲本 そういうことです。だからその波紋がどんどん広がっていって、客席が盛り上がるとしたら、僕はその波紋のひとつ目の波です。
――このアルバムを引っ提げてのツアー『ザ・クロマニヨンズ ツアー JAMBO JAPAN 2025-2026』が、11月13日の鹿児島公演からスタートします。約6か月間、全56公演というものすごい本数のツアーになっています。
甲本 すごいのは、ロックンロールがすごいんですよ。僕らはそうさせられてしまうという、言ってみたら言葉は悪いかもしれないけど、中毒です。
――毎年続けるのが凄いです。
甲本 褒められると困惑します。やめられないだけですから。
「大好きなものもあるしあれやりたい、こんなふうにやってみたいと思うイメージもある。でもそれを実現できないのは自分の足りなさ、人としてもふがいなさ」
――松重さんとのスペシャル対談の中で「何か足りないという気持ちがいつもある」というお話をされていましたが、足りないものの正体はなんだと思いますか?
甲本 それは多分自分自身だと思う。大好きなものもあるし、あれやりたい、こんなふうにやってみたいと思うイメージもあるのに、それを実現できない自分の足りなさだと思う。人としてのふがいなさ。 最もこの世の中で足りないのは自分だと思う。
――それは例えば年齢を重ねても自分が足りないと思う量というか熱量は変わらないですか。
甲本 ずっと毎日最高のつもりでやってるし、やったつもりだし、できたつもりになった瞬間はいっぱいあるんだけど、一瞬のうちに足らなかったと思う。
――日々ですか。
甲本 もう日々、瞬間瞬間です。だから昨日の自分はもう恥ずかしい。今こうしてインタビューを受けている自分だって、もう既に恥ずかしい。何言ってんだ俺って今思ってるもん (笑)。こんなことを感じながら生きるのってね、どうなんだろう?(笑)
――最初に中学時代にロックンロールに毒された瞬間から、ヒロトさんの人生が始まって、 足りない、まだ足りないって追いかけ続けているんですね。
甲本 毒が体中にまわっちゃってますから。
――でも12歳とかで生涯かけてというか、命をかけて楽しもうって思えるものと出会えたのってラッキーですよね。
甲本 本当にラッキーです。何の文句もない、この世界に。
「ロックンロールに出会うまで、空っぽだった自分に感謝したい。ばっちりなタイミングでロックに出会えた」
――多感な時期にそんなに夢中になれるものと出会えてこんな幸せなことはないですよね。
甲本 それもそうだし、もうひとつ感謝したことは、それまで空っぽだったこと。それまで何にも僕に好きなものを与えてくれなくてよかった。ばっちりなタイミングでロックに出会えた。だから「お前はいいよな」て言われたら「いいでしょ」ってためらわず言える。
――話は全然変わるんですけど、年を重ねると故郷って恋しくなりませんか?
甲本 それがないんですよ。これあんまり言うとなんか嫌な奴と思われるかもしれないけど、でもよく言ってます。今のところはあんまりないかな。たぶん子供の頃、空っぽだったからだと思う。レコードを聴くようになるまでは、本当に無気力だった。よく子供の頃が懐かしいっていうけど、そういうのがないんです。クラスメイトはいたけど友達はいなかった…… あ、でもいい思い出があった。思い出したよ。
――よかった(笑)
甲本 これはレコードを聴くようになってからだけど、山陽放送というラジオ局から流れてくる音楽番組を聴くのが楽しかった。それから岡山市民会館で観たクラッシュのフィルムコンサートは今でもよく覚えています。シーナ&ロケッツやプラスティックス、ARBやP MODEL、色々なアーティストのライヴもそこで観て感動したことを思い出しました。クロマニヨンズで岡山市民会館のステージに立つときは、その時のことを思い出します。
――忘れられない故郷の思い出ですね。
甲本 そうですね。失礼しました、故郷愛がないと言ったことを撤回します。
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