セガ・エンタープライゼスの マーケティング戦略_Number68 ⅚ 【注釈U - m】
【( 8½ )総目次 】
(68⅚)【注釈U-m】セガ・エンタープライゼスのマーケティング戦略 続
(68⅚)【注釈U-f】鋳型化【注釈U-e】白川総裁発言。【注釈U-d】IVRC2015。ケルズの書 /(68⅚)【注釈U-c】日加豪同盟。先住民族の知恵。ユリシーズ入口 /【注釈U-b_Pollux】死傷者ゼロ。レオ12世。なでしこの花 /【注釈U-b】シモネッタ。日本文化の波動つづき。八雲とブレイク
【注釈U-a】安全論証。← シラバス カナダの量子コンピュータ。一条天皇の辞世 /【注釈T】上宮法皇の e パレード 。『ユリシーズ』 ← シラバス /【注釈S】高松塚古墳 。← シラバス / ・・・【注釈L】「e五節の舞」 VRデジタル復元 / マニエリスム年表(重要!)
□ 急成長を続ける セガ・エンタープライゼスの マーケティング 続
○女性客獲得に向けての試み
ところで、お手元の資料で女性客が増えていることをご確認下さい。
30代の男性がこの5年間で 3倍に増えているという数字が出ていますが、しかし それよりも女性の増加が、このように著しいのです。昔はアミューズメント施設の来場客のうち、女性は 5%以下だと言われていたのですが、最近では、3人に1人が女性です。「UFOキャッチャー」(85年)と「テトリス」(88年)という二つのゲーム機の導入によって、女性をアミューズメントセンターの店内に誘い込むことに成功しました。
以前であれば、男性がシューティングゲーム機やメダルゲーム機で遊んでいる、というのがこうした施設の光景だったのですが、例えば、UFOキャッチャーの人形は、おもちゃ屋では買えません。100円玉をつぎ込んで取るしかないのです。こうして、人形を取ろうとする女性客が、増加しました。
そして、「テトリス」。
これはロシア人の考えたゲームですが、女性に非常に受けが良いのです。セガは逸早くこのゲームのライセンスを取得して、業務用機をお店に置きました。最初は外から目に付くように 店頭に設置し、そして、だんだん店の中の方にマシンを移動させた。お店の内装は、もちろん綺麗にする。それまで無かった女性用のトイレを作りました、といったことを地道にやって、女性の割合がずいぶんと増えたのです。
大阪の「シネセット」(90年開業)や上野の「パセラ」(92年開業)というお店、そして六本木の「GIGO」(92年開業)などのお店に来て頂きますと、特にGIGOは、若い女性に好まれるような明るい内装で、フロア毎に変えた雰囲気が特徴になっているのですが、こちらに夜の10時くらいに来て頂くと、若いお嬢さんたちが全体の6割くらいを占めていて、溜まり場にして遊んでいらっしゃる。アミューズメント施設が 社会的に「認知」されたなぁ、と感じている次第です。六本木のGIGOは、朝の5時までやっています。(テレビ朝日で収録中の歌手、アイドルたちが よく来られています。)
ところで、セガでは今、横浜の山下公園の少し先にアミューズメント・テーマパークというコンセプトの新しい遊びの空間を創ろうとしています。70億円を投資する、全く新しいエンターティメント施設で、VR技術を使ったアトラクションを6つ備えています。ファミリー向け、そして若い男女のためのデートコースとして来て頂くことを、考えています。われわれの部署は、AS-1の開発をしたことで社外の企業との共同開発の経験を持っていますので、2つのアトラクションの開発と、施設開発全体の進行を担当しています。
○新しいファミリー向け目玉機器の開発
ところで、われわれのいる「研究開発部」という部署は、やはり一番重要な部署ですので 社内でも非常に大切にされています。結局のところ、お客様の好まれるゲームを研究開発部がどれだけ効率よく生み出せるかにセガの業績は掛かっているわけですから、新しい ヒットするゲームの開発が、もちろん一番大事な仕事になるわけです。それで、試作機を開発して、実際にゲームができる状態にまで完成させ、それをAM施設(ロケーション)に設置して既存のマシンと一緒に並べて稼働させてみるのです。これを「ロケテスト」と呼びます。そして、ロケテストのインカム(売上高)を調べてみて、実際にプレイされたプレイヤーの方々から評価を聞いて手直しをして、完成版を作る。ここまでが、弊社の研究開発部の仕事です。
こうして完成したゲーム機の製造図面を われわれが作って、それが 次に 製造部に引渡されます。そうしますと、運営部や販売部が、「このゲーム機を何万台作って欲しい」という発注を製造部に出して、製造部はその数だけの機械を生産します。それを、運営部と販売部が市場に供給する。このようにゲーム機を社内で製造していますので、その機械は「原価」で自社の運営するアミューズメント施設に置ける ことになり、これが弊社の収益性を 最も大きくしているポイントです。
さて、郊外型施設に関するゲーム機の開発ノウハウについてですが、来場客の、ヤングアダルト、高校生、それから可処分所得を持つ女性に対しては、セガは、それまでにノウハウを持っていました。ですから既存のゲーム機を並べれば、その範囲のお客様に対しての品揃えはできたのです。しかし、幼児向けのキディライドや、カーニバルゲーム(ゴリラの口にボールを放り込むと得点に応じて人形が貰えるようなゲーム)については、(89年ころは)全く経験がありません。まして、ファミリー向け郊外型施設の目玉機器に関しては、実績が 全く 無かったのです。それで、郊外型の店舗を開発している部署(店舗の開設を契約して、内装や顧客導線、ゲーム機器の配置などを設計する運営部署)では、担当者が直接、専門の業者から「くまさん のミニミニ電車」や「メリーゴーラウンド」を購入して、郊外型施設の目玉機器にしていました。そこで、われわれの研究開発部では「キディライド」の開発に取り組んで、その様子を見ることにしました。この開発は大変に成功して、この分野では大きなヒット作を何機種も生みました。次に、満を持して取り組んだのが、郊外型施設の目玉機器の開発です。
そんなとき、これは非常にラッキーだったのですが、ダグラス・トランブル氏という方が、セガ・アメリカにコンタクトしてこられました。『バックトゥザフューチャー・ザ・ライド』を開発された方です。この作品は、ユニバーサル・スタジオの一番人気のアトラクションで、休日には2時間待ちの行列ができます。実はトランブルさんは、体感劇場(ムービーライド)の発明者で、74年から開発を始められたという、この分野での第一人者でもありました。VRの分野でも重要な意味を持つ内容の体感劇場の特許を、85年に取得されてもいます。ところで、『バックトゥザフューチャー・ザ・ライド』は、70億円の製作費で開発されたのですが、その同じチームが、一本、セガの AS-1のための作品を作ってくれました。しかも、(公開できる期間を限定したので)価格は、その百分の一以下という非常に有難い条件で契約できました。
この開発チームの紹介ビデオ((c)Ridefilm社)がありますので、ここでご覧下さい。
ビデオ上映:『バックトゥザフューチャー・ザ・ライド』メーキング。
こちらの写真の方が、ダグラス・トランブルさんです。『2001年宇宙の旅』『未知との遭遇』『ブレードランナー』・・・、こういった画期的な作品の特殊撮影の監督をされました。つぎの写真は、フロリダのユニバーサル・スタジオにある『バックトゥザフューチャー・ザ・ライド』の建物の外観です。AS-1の作品開発の打ち合わせに行ったとき撮りました。この作品のスクリーンは直径80フィート(24 m)という大型の円形のもので、8人乗りのデロリアンという車(12台)に乗った96人が、いちどに乗車できます。悪役であるビフが新型のデロリアンに乗って逃げたので、みんなで試作機に乗ってそれを追いかける、というストーリーです。そのトランブルさんが、セガのAS-1のために作って下さった新作は『マゴー!ザ・ライド』というタイトルですが、その予告編のビデオを見て頂きます。
ビデオ上映:『マゴー!ザ・ライド』プレショー。
実は先週、東大で 先生方の定例の VR関連の研究会があり、セガのVR技術について講演をさせて頂きました。本当は、ここからVRの話に移って行きたいんですが、それについては、もしご質問があれば答えさせて頂くことにして(注)、最後に、マルチメディアの話に簡単に触れておきます。
(注)筆者の「VRの三要素」を参考までに書いておく。(1)「大画面による深い没入感」(2)「マルチセンソリーな現実感」(3)「インタラクティブ性」。東大 舘暲 教授にお招き頂いて工学部で行われた VR産業研究開発推進委員会の場で 紹介した。
○コンシューマ市場について
こちらは最近5年間の、セガ全社の売上高です。93年3月の3千469億円は、対前年比60%の伸びでした。その前年は、2千133億円。更に91年3月が、1千066億円(但し11ヶ月決算)でしたから、92年3月の対前年比は、ちょうど100%の増加(2倍になった)になります。
どうしてそんなに売れたのか、ということを説明するために、簡単にコンシューマ市場を含めて表を作ってみました。国内には(セガや他社のゲーム機を設置して)アミューズメントセンターの運営を担当している部署(運営部)と、業務用のゲーム機器を(施設のオーナーの方に)販売している部署(販売部)がある とお話しました。が、その二つの部署の売上を合計したものが 国内のAM施設市場に対するセガの売上になります。一方で、(国内の)コンシューマ市場の売上を見てみると、93年3月期でマイナス 23%の伸びですから、ここ(国内向けの家庭用ゲーム)は(我が社 唯一の弱点で)伸びていない。
一方で、海外のコンシューマ市場(注)が2千100億円の売上で、91%増加しています。
この2千100億円の内訳を見ると、特にアメリカと欧州の市場が大きく伸びているのです。
(注)海外のコンシューマ市場は O形専務が 中山社長に一任され、「直営のAM施設に 自社のゲーム機を多く導入して得られた 100円玉の莫大な利益」を 欧州に向けて ドーンとつぎ込むことで 形成されたもので、このお金を ヴァージン・グループが運用して コンシューマ販売ネットワークの「核」をイギリスに作り、そこから 欧州全域に 人脈を広げ セガ・エンタープライゼスの 海外の評価を高めるに至る 販売網を作った。この頃、欧州のロックバンドのミュージシャンたちは、ツアーで来日すると 本社の外観を あこがれの目で眺めて帰ったそうだ。 このやり方を米国でも行ない コンシューマの売上金額が この頃に ここまで伸びていた。ところが、ある新聞社の役員が 中山社長との電話で(言うはずがないのに)「中山社長が 大川会長がゲームに素人だ、と会長を馬鹿にする発言をした」と錯覚して 直ぐに 大川会長にご注進の電話を入れ、九州のコンベンション会場で 私やタイトー、ナムコの招待講演者の前で 自分が ご注進したと自慢までして その日から 会長と社長の信頼関係を壊したことが原因で、中山社長が 我が社を去られたとき、「なんで、中山さんを辞めさせるんですか」と O形専務が 会長に怒って ご自身も 一緒にやめてしまわれたことで 我が社の 海外コンシューマ・ネットワークは崩壊した。なお、中山社長の電話での発言については、CSKによる 我が社の買収の記者会見で 大川会長が「私はゲームに素人だから 中山君に すべて任せる」と発言したことを伝える内容に過ぎず(YouTubeで確認できる)本当に口を出すことなく 中山社長に一任されたことが、中山社長にとっての誇りであり、経営のモチベーションでもあったことを電話で自慢したもので( だからこそ 会長が CSKグループ売上1兆円の中長期目標を発表された時に セガ単独で 6千億円の売上を口にされた。会長を それだけ信頼しておられたからだ )、この新聞社の役員は 自分が何をしたのか 今も気づいておられないと考えられるが、どんな言い方で ご注進したのか 新聞に公表していただきたい気持ちだ。
アメリカの場合は、次にお見せする、ニンテンドーのゲーム機とセガのGENESIS(メガドライブ)の比較広告が成功したことで大きく伸びました。欧州については、バージン・グループが 家庭用ゲーム機の販売代理店をしてくれたことで(正確には、ヴァージン・マスタートロニック社をセガが91年に買収しましたので、講演時にはセガ・ヨーロッパ社になっていましたが)、ここがいろいろな仕掛けを考えてくださったことが上手く当たって、欧州ではこんな数字になりました。
それでは、アメリカで成功した比較広告のCM(91年6月)をご覧下さい。
それでは、アメリカで成功した比較広告のCM(91年6月)をご覧下さい。
ビデオ上映:セガGENESISの米国でのCM。(ゲーム機を買いに来られたお客様に、店主がマリオの動く「ニンテンドー」を薦めるのだが、『ソニック・ザ・ヘッジホック』のデモを見たお客様は、ワオー!早い!と喜んで GENESISを購入した。画面には、トホホな顔をした店主が。。。)
この比較広告は非常に効果があって、ニンテンドーを抑えました。ただ、やはりお客様は正直ですから、ゲーム自体が面白くなければ説得力はありません。ここで広告されたのは『ソニック・ザ・ヘッジホック』というゲームソフトで、アメリカでは爆発的に当たりました。これを『フォーブス』誌(91年9月)が特集記事にして、ハリネズミがマリオを打ち負かした、と書いてくれました。ハリネズミがものすごいスピードで走り回るんですが、空中にお金のゴールド・リングがぶら下がっており、それを、要するに勢いをつけて何個取るか、を競って点数が上がるゲームです。こちらの写真は、『ソニック・ザ・ヘッジホック2』で、きつねが出てきます。しっぽが二つに分かれています。そのしっぽをヘリコプターみたいに使って、きつねは 空を飛びます。
この間の日米通商交渉のときに、あるアメリカの高官が 細川氏と 小沢氏のイメージについて聞かれたのですが、「細川さんはハリネズミで、小沢さんが きつねみたいだ」とソニックのゲームに例えて「こんな人です」という説明をしていました。画面を、しばらくご覧下さい。
ビデオ上映:『ソニック・ザ・ヘッジホック』のデモ画面と、欧州市場の紹介ビデオ。
たしか、ソニックは、発売初日に全世界で 200万本を売り切った と記憶していますが、ロンドンではバージン・メガストアで販売しました。これは、ロンドンでの販売方法を紹介するビデオです。2階建てバスにソニックの絵をペイントして街を流し、子供たちは、特別のバス停から このバスに乗り込みます。バスに乗ったら ゲーム機が満載しており 自由にゲームができます。アメリカでもフランスでも、売り出し日の販売店には長蛇の列ができました。世界中で、同じ現象が起きていたのです。
○まとめ
要約しますと、アミューズメント施設の売上の伸びというのは、女性に好まれるゲーム機の開発と、郊外型施設の増加によってもたらされた。そうした郊外型の施設の真中には、目玉機器としてファミリー向けの機器を置く必要がありました。ファミリー向けの機器はセガでは殆ど作ったことがありませんでしたが、非常にラッキーだったことに、ダグラス・トランブルさんと仕事をしたことで必要なノウハウを得ました。このときトランブルさんのチームから学んだ開発のための技法は、次の3つです。
第1番目は、揺動の技術(注)です。どういう具合に AS-1を揺らせばお客様が喜んで下さるかを、AS-1のチームは『バックトゥザフューチャー・ザ・ライド』のチームと一緒に開発をしたことで学ぶことができた。これは、非常にラッキーだったと思います。
(付け加えますと、これは「技術移転」と呼べます。技術移転は、単なる物真似では ありません。同等の高度な技法が 自ら開発できるようになり、実際、セガが独自に開発した揺動の技法も加わり、この後、多数の体感型アトラクションが生み出されました。)
(注)揺動の技法は「モーション・デザイン」と呼ばれる。感性デザインの技術である。
第2番目に、ファミリー向けのエンターティメントとして 映画産業には100年という歴史があるわけですが、実は、ゲーム機の映像制作には映画の制作に似ている部分が非常に多くあるということを、AS-1の開発を通して知ることが出来ました。(注)
それから第3番目に、AS-1のような大きな機械を開発できたことで、社外の有力企業との(対等な)共同開発を、セガでは始めて経験しました。それで 例えば 油圧機器のメーカと共同開発するための守秘契約書は 私が作りました(笑)。また、トランブルさんの会社の契約担当者から英文で A4版数十頁の長文の契約書を送りつけられたために、契約書の文言の確定に 私と法務部が 2ヶ月も掛かり、けっこう大変だったのですが、ともあれこうした経験を経て、社外の一流企業のノウハウをフルに活用できる共同開発を初めて行なうことができました。
以上の3つが、トランブルさんとお仕事をして 新しく学んだことです。
以上の3つが、トランブルさんとお仕事をして 新しく学んだことです。
Luxor Las Vegas wiki
余談ですが、最近のトランブルさんたちのお仕事を、少し「宣伝」させて頂きます。ラスベガスに「ルクソール」というテーマホテルが、93年10月15日にオープンしました。ラスベガスにいらっしゃったら、是非お立ち寄り頂きたいのですが、ホテルのピラミッド型の外壁がすべて客室(4千室)です。すると、中央が空いています。そこに目玉施設としてトランブルさんは、体感劇場を3つ作りました。過去、現在、未来の地球環境の保護を訴える作品です。VR技術を応用したエンタテインメント作品に関心のある方には、その最高水準が体験できますので、是非お越し下さい。
それから、最後にコンシューマの市場について、少しだけですが触れました。
説明の足りないところがあったかと思いますので、質疑応答の中でご説明をして行きます。
(注)映画とゲームは同じか、違うか という議論は、以前からあった。筆者は、観客が映画の画面の中に見ている世界とプレイヤーがゲームの画面の中に見ている世界は、同じものだと考える。その世界は、背景、キャラクター、音楽、シナリオなどで構成されている。ただし映画の世界を変えられるのは監督と制作者で、観客は監督が影響を与えた結果を見ているのだが、ゲームの世界では、プレイヤーが直接その世界に影響を与えられる。本講演では述べなかったが、「プレイヤーが、ゲームの世界に、リアルタイムに影響を与える」ことが、「インタラクティブ」という言葉の正しい意味になる。
司会者:ありがとうございました。それでは、質疑に入りたいと思います。
○質疑応答
以下は次号。
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フェロー武田 (68⅚)【注釈U-m】
セガ。エンタープライゼスのマーケティング戦略。2025.09.18
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