ラジオから流れる懐メロが、トレーナーの心を揺らす午後。
壊れないように走ってきたウマ娘・メジロアルダンが、静かに告白を始める
――視線と言葉が交差する、甘く繊細な関係の物語。

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おはこんばんにちは
初めまして
どうも峠のシェルパでございます。

今回はpixivのみならず
お試し出張版
メジロアルダンでございます。どしどしリクエストくださいませ。
中の人のやる気が出ます!!

高校三年生の設定らしいので、少し背伸びというより、身の丈位のシチュエーションにしました。
シナリオ読み返したら強火というか、この人しかいないオーラ満載で驚きましたね。

こっちはトレーナーが花嫁のアルダンをちょっと待ったーって止めに行きそう。
でもさ、アルダンがみすみすアプリのトレーナーを、見逃がすのも考えにくくはあるんですよね……
水族館デート回については、要望あれば描きます。
リクエストはコメント等でお待ちしてますのでよろしくお願いいたします。

この二人は隣を片寄せ合って歩いているのが似合うんや。異論は認める。
甘々しろ。

投稿が月末からずれたのはチャンミとリグヒと被るからですね。
フツーに育成間に合わなくなるので、ご容赦ください。
※投稿一週間後にシリーズに入れていきます。

作品リクエストがありましたら、受付いたします!!どしどしどうぞ!


==以下共通情報==
元ツイートはすだち様のツイートとなります。
「彼女がさ…」ステークスとは!
トレーナーによる「彼女がさ…」と「欲しくてさ…」発言の間及び前後の担当ウマ娘の反応を想像し出力するステークスである!
https://twitter.com/sudatimark2/status/1744978022565032059
==
リクエストご感想はこちらからでも結構です。
〈マシュマロ〉
https://marshmallow-qa.com/e220316c334849d?t=qjtr4f&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
==


#メジロアルダン _トレーナーさん、告白させてください--にらめっこはタイマーの音とともに

 

「トレーナーさん、告白させてください」

 

その声は、窓辺の光を切り取るように澄んでいた。

 

彼女は一歩、すっと身を寄せる。息が触れそうな距離で、静かに笑った。

 

紫紺の牡丹のような瞳が、まっすぐに男を見据えて離さない。花弁の奥に潜む毒のようで――見返すことすらためらわれるほど、艶やかだった。

 

男は、その瞬間、胸の奥が微かに疼くのを感じた。そして、前に何気なく口にした軽口を思い出し、ひどく後悔した。

 

きっかけは、昼下がりのトレーナー室だった。

 

机の上には、処理を待つ申請書の山。紙の匂いと冷めたコーヒーの苦み。ため息をひとつ落として、男は椅子にもたれた。

 

「申請の処理がこんなにあるとは……いやはや、まいったな。」

 

書類の中身はトレーニング器具の貸し出し申請。種目ごとに時間が区切られ、数字が並ぶ。やる気の出ない単純作業――それでも当番制なら逃げられない。

 

「こんな時は……あれでも流すか。」

 

そう呟いて、携帯のラジオアプリを開いた。流れるのは、見知らぬパーソナリティたちの穏やかな雑談。軽妙な笑い声が、部屋の静けさにほどよく溶けていく。

 

――でね、最近は若い人がレコードを聴くんですって。「レトロブーム」言うらしいですよ。

――へぇ?時代は巡るもんですね。

 

――私たちの青春の曲が“懐メロ”になるとは、いやはや。

 

――ではそんな世代の懐古をそこそこに、一曲いきましょう。

――ペンネーム「さよなら来光さん」からのリクエスト。チェッカーズで――「ジュリアに傷心」。

 

イントロのギターが、軽く弾むように鳴った。昼の陽光がカーテンを透かして、机の上に薄く影を落とす。書類の白さがまぶしくて、彼は思わず目を細めた。

 

キャンドルの灯り、ガラスのピアス、Saturday Night――ラジオの中で、若い声が恋の終わりを歌っている。明るいはずの旋律なのに、胸の奥がじわりと痛んだ。

 

“俺たち都会で、大事な何かを失くしちまったね。”

 

その一節が流れた瞬間、男の指が止まった。書類をめくる音も、ペンの走る音も消えて、ただ声だけが部屋に満ちていく。

 

懐メロというには少し早い気がする。けれど――この歌に漂う『喪失の温度』が、胸の奥へそっと染み込む。部屋の空気まで、少し冷たく感じられた。」

 

大事な何かを、か……男は息を吐き、天井を仰ぐ。

 

“二人で聴いたね ヒットパレード”

 

歌詞が流れ、ふっと笑みがこぼれた。ラジオの向こうの声は、若い恋人たちの甘く切ない時間を歌っている。だが、自分にはそんな時間を割く余裕も、思い出す相手がいるわけでもない。

 

「……彼女、かぁ。」

 

ぽつりと漏れた言葉は、思考よりも先に口を出ていた。書類の束に手を伸ばそうとして、止まる。呟いた言葉と口にした自分に、苦笑いする。

 

「……ま、関係ないか。」

 

男はそう呟いて、逸れていた思考を仕事へ傾けようとした。そのときだった。

 

コン、コン。

 

控えめなノックが響いた。トレーナー室の扉が、わずかに揺れる。開いた隙間から、昼の光が細く差し込み、その中に、見慣れた影が立っていた。

 

「トレーナーさん、いらっしゃいますか?」

「メジロアルダンです……少し、お時間よろしいでしょうか?」

 

男は、胸の奥が不意に跳ねるのを感じた。現実の彼女と重なっていく。

 

ラジオはまだ小さく鳴っていた。さっきまで流れていた歌の余韻――歌われた"ジュリア"の面影。「Heartbreak… oh’ my my my my ジュリア」のリフレインを、自分の声で掻き消した。

 

「あ、うんごめん。いいよ。」

 

「失礼いたします」

 

ガラガラと引き戸を開けたのは、彼が担当しているウマ娘――メジロアルダンだった。

 

カチューシャ編みに結われた透き通る水色のロングヘア。光を受けるたびに淡くきらめき、風に揺れるたび花弁のようにさらりと舞う。

 

長いまつげの奥に覗く瞳は、澄んだ湖のように静かで、見つめられた者の心を不思議と穏やかにしてしまう。その立ち姿は、儚げでありながら気品に満ち、まるで白百合のように清楚で、しかし芯には凛とした強さを宿していた。

 

メジロアルダンは音もなく引き戸を閉め、静かに会釈して来客用のソファへ腰を下ろした。

 

「トレーナーさん、何かお聞きになっていたのですか?」

 

「あぁ、これ? 最近ちょっとね……でも今はアルダンの声の方が聞きたいからいいや」

 

トレーナーはそう言い、ラジオのつまみをそっと回す。

 

「こんにちは、アルダン。今日はどうしたのかな?」

 

穏やかに問いかける声に、メジロアルダンは小さく頷く。少し迷うように視線を落とし、膝の上で指を重ねる。白い手が、午後の陽射しを受けて薄く透けているかのようだ。

 

「トレーナーさんは、分かっていると思います。最近の適正距離での計測記録についてです。」

 

「えっと、詳しいタイムまでは分からないけど…確か更新はしてなかったよね?」

 

極端に調子を崩したわけでもないが、かといって好調ではない。メジロアルダンは昨日も同じラップタイムを刻み、少し険しい顔をして走っていた。

 

「はい。トレーナーさんにお尋ねしたいですが…。」

 

深刻な面持ちで、メジロアルダンはトレーナーに視線を向ける。

 

「いいよ、アルダン。なんでも言って」

 

男も書類から手を離し、真っ直ぐに担当ウマ娘を見つめる。

 

「あの…必死に走る以外に、どの様に走ったら良いのでしょうか?」

 

男は瞬きをした。その言葉の意味を理解するまでに少し時間がかかった。

 

「……どう、というのは?」

 

メジロアルダンは、ほんの少し視線を伏せた。まつげの影が頬に落ちる。

 

「私は…ご存知の通り、身体は強くありません。全力で踏み込める程の脚も。なので強くなるための知識は、全て本で学びました。フォームも、スタートも、スパートまで。理屈は掴んでいるはずです。」

 

メジロアルダンは視線を自身の脚に移す。

 

「けれど、何分その場その場を必死になって、慎重にガラスを突き破らない様に走って来ましたから。“壊れないように走る”ことだけは、誰よりも上手くなったと思います。」

 

小さな笑みが浮かんだが、どこか痛々しい。

 

「でも……気づいたんです。その走り方では、いくら理屈を積んでも、どこかで心が“止まってしまう”瞬間があると。」

 

拳を軽く握った。白く繊細な指先に、わずかに力が宿る。

 

「積み上げて、積み上げて。その先で…がしゃんと、粉々に、あの甲高い音を上げて崩れ去ってしまうのではないかと…」

 

メジロアルダンは視線を上げた。紫紺の瞳が、真っ直ぐにトレーナーを射抜く。

 

「その為、試行錯誤しながら走っています。手の振り方や、フォーム、重心の取り方なども、低くなりがちなので…負担のかからない走法を模索しています。」

 

静かな告白だった。努力を怠った者の悩みではない。次へと進めるだけの確証を、彼女はすでに手にしていた。

 

トレーナーは黙って頷く。言葉のひとつひとつに積み重ねた時間の重みがあった。

 

「そうか……」

 

短い相槌のあと、少しだけ息を整える。目の前の少女は、痛みを抱えながらも立ち止まらない。“壊れないように”ではなく、“走り続けるために”思考し続けている。

 

「……それなら尚のこと、トレーナーが君の理想を体現できるように、考え抜いてやらないとな。」

 

その声音には、静かな熱が宿っていた。

 

メジロアルダンはわずかに目を瞬かせる。紫紺の瞳が、ためらうように、けれど確かに輝きを増す。

 

「……私の理想を?」

 

「そうだ。君が目指している走りを、言葉だけでなく、姿で示せるように。君が積み上げてきた“理論”を、現実に変える手助けをしたい。」

 

トレーナーは書類から目を離し、真っ直ぐにメジロアルダンを見つめる。

 

「そう。必死になるってのは、一時的な炎なんだ。燃やせば確かに速い。けれど、長くは持たない。なら競技者のマインドってのは何か? それは“火を絶やさず灯し続ける”方法を知っていることだ。」

 

机の上のボールペンを指で転がす。

 

「呼吸と同じだよ。意識しても、意識しなくても、身体の奥で同じリズムを刻めるようにする。それが、コンスタントに全力を出すってことだ。加えて意識的に、感情的な衝動を取り出して使うんだ。もっとも、君達は感情によって力を発揮するって研究結果もあるから一概には言えないけどね?」

 

メジロアルダンは小さく息を呑んだ。知識では理解していた言葉が、この瞬間、心の中に“感覚”として落ちた気がした。

 

しばしの沈黙。やがて、唇に小さな笑みが浮かぶ。それはどこか頼りなくも、確かな光を含んだ微笑だった。

 

「……ふふ。そう言われると、少し心が軽くなりますね。」

 

彼女の声は柔らかく、けれど芯があった。努力を知る者が、それでもなお前へ進もうとする者の声音だった。

 

「それと、もう一つ。先程のトレーナーさんの呟きを聞いてしまってですね……。」

 

「……呟き?」

 

トレーナーは一瞬、きょとんとした。小さな溜息混じりの独り言――“彼女かぁ……”――が脳裏に蘇る。

 

「……聞こえてたのか、それ。」

 

メジロアルダンは少しだけ唇を緩める。けれど瞳には、からかいではなく、静かな探りの光が宿っていた。

 

「ええ。ふと耳に入ってしまって。意外でした……そういうことも、考える方なんだと。」

 

「そ、そりゃあ……人間だからな。四六時中トレーニングとスケジュールのことだけ考えている訳じゃないよ。あー、そんなに意外かな? あはは……」

 

自嘲気味の笑い。だがメジロアルダンは首を横に振った。

 

「ふふ、いいえ、違います。それを“意外”と感じたのは……私が、トレーナーさんをそういう存在として、見ていなかったからです。」

 

少しの沈黙。視線を落とし、指先でスカートの裾をそっと摘む。

 

「でも……先ほどの呟きで、なんとなく分かりました。トレーナーさんも、“誰かと歩む”ことを考える方なんだって。」

 

顔を上げた表情は穏やかだった。奥にある揺らめきは隠せない。

 

「けれど、執務室に入って来た時のトレーナーさんは、少しだけ……“寂しそう”に見えました。」

 

その声は柔らかく、問いかけながら、観察する眼差しを含んでいた。

 

「彼女がさ…欲しくてさ。いや待てよ。それよりも理解者が欲しいのかもしれないな。」

 

メジロアルダンは静かに頷き、わずかにまぶたを伏せる。

 

「……理解者、ですか。」

 

小さな声なのに、不思議と確かな響きがあった。

 

「誰かに自分のことをちゃんと理解してもらえる――それがどれだけ大切か、私も分かります。」

 

トレーナーは、ふっと息をつき、肩の力を抜いた。口元に淡い笑み。

 

「ところで、契約しているウマ娘。彼女とは、良い理解者であり……良き隣人であり……そして、パートナーだと。トレーナーさんは、そう思われますか?」

 

「え、君のならそうだな。」トレーナーは一瞬だけ視線を泳がせ、すぐに笑ってみせる。

 

「それでは――」メジロアルダンはそっと一歩近づき、静かに息を整えた。

 

「今度は、私が知りたいのです。教えて下さいますか――貴方のことを。」

 

トレーナーは視線を落とし、少しだけ笑った。

 

「そうだなぁ。……そんな大した話はないよ。」

 

仕事のこと、日常のこと――いくつか言葉を並べて、興味津々に聞き耳を立てるメジロアルダンに話していく。

 

「とまぁ、こんな感じかな? ね? この学園の中じゃ割とありふれている気がするけれど。」

 

「……ふふっ。」メジロアルダンが、そっと微笑む。

 

「やはり、トレーナーさんは素晴らしいです。

日常の中にある“考え方”まで、丁寧に見ておられるのですね。」

 

トレーナーは少し肩をすくめて笑った。

「お嬢様からしたら、少し退屈かもしれないけどね」

 

「いいえ。違います。

その丁寧な思考が根付いているからこそ、このガラスの脚は磨かれて、光を反射して輝けるのです」

 

「……ガラスの脚、か。」

トレーナーは目を細め、メジロアルダンの足元に一瞬だけ視線を落とす。

 

「ふふ、トレーナーさん。目線、気づいてますよ?」

 

トレーナーは、わずかに肩を揺らして息を呑んだ。

「……っと。いや、悪い。そんなつもりじゃ――」

 

メジロアルダンは唇に指を添えて、やんわりと微笑む。

 

「ええ、分かっています。責めているわけではありませんよ。

けれどどうか、触れる時は慎重にお願いしますね?」

 

「そうだな、マッサージの時には慎重にだね」

 

向かい合いながら座る二人の間に、言葉にできない静けさが落ちていた。

 

メジロアルダンは、膝の上で指を重ねながら小さく息を吐く。

その仕草さえも、まるで舞台の一幕のように整っている。

 

「そうでした! トレーナーさん、私と――ゲームをしませんか?」

 

手を合わせる仕草には、どこか可憐な照れが混じっている。

友人たちと読んだ漫画の中の“とある場面”を、思い出していた。

 

「ゲーム? いいけど、どんなやつ?」

トレーナーは笑いながらも、即座に了承した。

 

メジロアルダンはぱっと表情を明るくし、身を乗り出す。

 

「それではご一緒に、遊んでいただけますね? “見つめ合いゲーム”を!」

 

「見つめ合いゲーム……?」

トレーナーは首をかしげながら問い返す。

「それって、ただ見つめ合うだけのやつ?」

 

「ええ、そうです。」

メジロアルダンは頷きながら、どこか楽しげに笑みを浮かべる。

「お互い、目を逸らした方が負け――という単純なルールです。」

 

「なるほどね。あっさりしているな。」

 

「……では。」

メジロアルダンは少し考え込み、顎に指を添えてからぱっと微笑んだ。

 

「新しいルールを加えましょう。

攻め側と守り側を決めて――十五秒間、攻め側はお喋りしても構いません。

その間に、守り側が目を逸らしたら攻め側の勝ち。

そして――勝った方は、負けた方にひとつだけ命令できる、というのはいかがでしょう?」

 

「命令、……命令!?」

トレーナーは少し目を丸くして笑う。

「それ、なんか一気にハードル上がった気がするんだけど。」

 

「ふふっ。ですが、勝負事というものは“ご褒美”があってこそ燃えるものです。」

メジロアルダンは涼やかに微笑みながら、視線を絡める。

「さあ――どちらが先に目を逸らすか、試してみましょうか? 先に三回目を逸らした方の負けです!!」

 

メジロアルダンはゆるやかに髪を揺らし、椅子を少し前に引いた。

 

「では――私から、参りますね」

その声は穏やかで、柔らかな響きを含んでいる。

 

「トレーナーさん、最近の私はどう見えていますか?」

見つめ合ったまま、微笑を浮かべたまま。

「以前よりも……少し、表情が柔らかくなったと感じませんか?」

 

「……そうかもな」

トレーナーも思わず相槌を打ちながら、まっすぐ見返す。

 

「トレーナーさんのお陰で私は、この脚でもトゥインクルシリーズに歩みを進めています」

 

「ふふっ、けれども私は――」

メジロアルダンは小さく息を吸い、瞳を細めた。

「とても臆病になってしまいました。」

真っ直ぐに、愛おしいものを見るような眼差し。

 

「ヤエノさんにチヨノオーさん……競い合えるライバルがいて、偉大すぎる姉様もいて――」

 

「ピピピッ」

 

「思ったより、あっという間でしたね?」

言葉をタイマーに遮られ、メジロアルダンは小さく不満げに漏らす。

「むむむ……」

 

トレーナーは目を逸らさず、ふぅと息を吐いた。

「アルダン。君はあのまま、なんと言おうとしていたのかな?」

 

「ふふ、気になりますか? それなら私の視線を逸らせてみてくださいね」

 

悪戯っぽく笑う彼女に、トレーナーはどう勝つか思考を巡らせる。

 

「私の意思は砕けませんよ! 今度はトレーナーさんの番です、準備はよろしいでしょうか?」

 

トレーナーが頷く。

「それでは行きますよ~、よ~い、どん!!」

 

可愛らしい掛け声と共に、携帯のタイマーがスタートする。

 

「アルダン、君に謝らなくちゃいけない事があるんだ……」

 

眉を顰めて前振りを仕込むトレーナー。

「……謝る?」

メジロアルダンは瞬きをひとつ、視線を逸らさない。

「それは一体、なんのことですか?」

 

じっと見つめ合いながら、トレーナーはさらりと口にする。

「君を見てると、時々……言葉を失うくらいに、綺麗だなって思うんだ。」

 

メジロアルダンの表情が一瞬、固まる。

息をするのを忘れたように、言葉を受け止めようとする。

しかし頬が、ゆっくりと桜色に染まる。

 

トレーナーの視線が、まるで熱線のように肌を撫でた。

その眼差しから逃げられない。

逃げてはいけないのに、逃げたい、その優しげな瞳から。

 

心臓が音を立てて暴れるたびに、頬の熱が増していく。

 

「ピピピッ」

無情に鳴るタイマーの音。

 

最後の最後で、メジロアルダンの視線が逸れてしまった。

肩を落とし、照れ隠しの微笑みを浮かべる。

それでも、声の震えが隠しきれない。

 

「……私の負け、ですね。勝負はトレーナーさんが先行する形です。」

 

メジロアルダンはタイマーを止め、画面を伏せたまま小さく息を吐く。

 

「……ずるいですよ、トレーナーさん。あんな真っ直ぐな言葉、反則です」

 

瞳の奥には、まだ少し熱が残っている。

 

「思ったことをそのまま口にしただけだよ。ゲームだし、少しはハメを外そうと思ってね」

冗談のつもりなのだとしたら、少しタチが悪い。

 

「では――最後の勝負ですね」

 

メジロアルダンは指先でタイマーを操作し、静かに微笑む。

 

「本心を込めて」

 

その言葉に、トレーナーは息を呑む。

言葉を探そうとして、どれも軽すぎる気がして、何も言えなかった。

 

「今度こそ、負けませんよ?」

 

「望むところだ」

 

スタートの電子音が鳴る。

 

ふたりの視線が、再び重なった。

 

メジロアルダンはしばらく何も言わず、ただ静かに見つめていた。

風のように静かで、光のように柔らかい眼差し。

トレーナーはたった3文字で担当バを褒めた事を後悔する。

 

「それではよーい、スタート!」

スタートの電子音が再び鳴った。

 

再び、ふたりの視線が重なり合う。

 

メジロアルダンは何も言わず、ただ数秒だけじっと見つめた。

その瞳は静謐で、けれど確かに熱を帯びている。

 

「トレーナーさん。告白させて下さい。」

 

名前を呼ぶ声は、少しだけ甘く震えていた。

 

「私……ヤエノさんやチヨノオーさん、そして姉様のように、誰かに“強く在る姿”を見せられるようになりたいんです。」

 

彼女の表情は真剣そのものだった。

けれどその奥に、微かに揺れるものがある。

 

「でも、強くなりたいと思うほど――時々、怖くなるんです。」

 

静かに息を吸って、吐く。

 

「この脚も、心も、全部壊れてしまうんじゃないかって。」

 

「アルダン……」

 

思わず名を呼ぶトレーナー。

 

メジロアルダンはふっと微笑んだ。

 

「けれど、そんなとき、思い浮かぶのは――あなたなのです。」

 

一瞬、空気が止まる。

 

「貴方が傍にいてくれるから、私は立っていられる。

それが、私にとって……掛け替えのないものなのです。信じております、貴方を。」

 

その言葉に、トレーナーの喉が詰まる。

息をするのも忘れて、ただ見つめ返す。

 

だが、その温かな眼差しに射抜かれるように――

トレーナーの方が、ふと目を逸らしてしまった。

 

「……っ」

 

ピピピ、とタイマーが鳴る。

 

メジロアルダンが勝者の微笑みを浮かべた。

 

「ふふ……どうやら、私の勝ちのようですね?」

 

「……反則だよ、それは。」

 

顔を覆ったままのトレーナーの声には、苦笑が混じっている。

 

「反則ではありません。」

 

メジロアルダンは目を細め、静かに言葉を重ねた。

 

「反則ではありません」

アルダンは目を細め、静かに言葉を重ねる。

「ただ、正直に……今の気持ちを言葉にしただけです」

 

やがて、頬を少し染め、柔らかく笑う。

「さて……これで、勝負は一勝一敗ですね」

 

「そうだな」

 

ふたりの間に、まだ残る熱がゆっくり溶けていく。

 

「勝者が敗者の言うことを聞くルールでしたが……」

アルダンは指先でタイマーを弄びながら視線を上げる。

「結局、三戦して結果は一勝一敗一分け。つまり引き分けですね」

 

「そうなるな」

穏やかな笑みがこぼれる。

 

「ですから――」

アルダンは少し間を置き、柔らかく続けた。

「今度は、“お互いにしたいこと”をする、というのはどうでしょう?」

 

「いい提案だな」

トレーナーは笑って頷く。

 

「お互いに、ですから……」

アルダンは視線を少し伏せる。

「トレーナーさんは、私と“したいこと”はありますか?」

 

「……それは、どんなお願いでもいいのかな?」

 

アルダンは唇に指を添え、くすりと笑う。

「ふふ、貴方様の良識を期待しておりますね?」

 

「そっか……せっかくのお願いなのに」

意味ありげに返すトレーナー。

 

アルダンは肩をすくめ、楽しそうに目を細める。

「えぇ。トレーナーさんは残念ながら――一挙手一投足が試されていますよ。」

 

トレーナーは考え、静かに向き直った。

「それなら……アルダン。ここ最近、練習に少し身を入れすぎているからね。お休みをしよう」

 

アルダンは一瞬、きょとんとした。

「……お休み、を?」

 

「うん。身体も心も休ませないとね。でも――休みの日までトレーナーと一緒は……嫌かな?」

 

アルダンの瞳がわずかに揺れる。

「……それは、トレーナーさんの“したいこと”ですか?」

 

「もちろん」

 

小さな沈黙。ふっと笑みがこぼれる。

「ふふ……喜んでお付き合いします」

アルダンは視線を落とし、照れ隠しに小さく笑った。

 

「では、トレーナーさんはお仕事を調節してお休みを開けてもらうとして…今度は私の番ですね?」

 

「実は、私もトレーナーさんとお出掛け出来たらと思っていました。なので、それは叶ってしまいました」

 

そして、先ほどの話を思い出し、アルダンは少し微笑む。

「実はライアンやダイワスカーレットさんと、とある本を読んでおりまして……そのワンシーンを再現して頂きたいのです」

 

「ワンシーン?」

「いえ、ただの興味本位です」

 

アルダンは少し息を整え、視線を合わせる。

「そのワンシーンは――膝枕なのです」

 

トレーナーの顔に、わずかな戸惑い。

「え、膝枕……?」

 

「はい。頭を置いて、少しマッサージして頂きたいのです」

トレーナーは思わず一歩下がり、赤らんだ頬を手で押さえた。

「そ、それは……する側が男でいいのかな……?」

 

向かいに座っていたメジロアルダンは、すっと立ち上がる。

どうしたのだろうとトレーナーが思う間もなく、

彼の隣のソファへ、どんと音を立てて座り込んだ。

 

「トレーナーさんだからこそ……トレーナーさんだからこそして頂きたいのです!」

 

一気に距離を詰めてくる担当バ。

紫水晶の瞳と空色の髪が間近に迫り、この距離なら睫毛の数さえ数えられそうだ。

 

「困ったなぁ……」

トレーナーは赤らんだ頬を押さえ、深呼吸。

「……分かった。ただし節度は守るからね」

 

アルダンの表情がぱっと明るくなる。

「もちろんです。信じています」

 

トレーナーはそっと膝を差し出す。

「じゃあ……ここに頭を乗せてごらん」

 

アルダンは恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに頭を膝へ預けた。

紫水晶の瞳が潤み、口元に柔らかな笑み。

 

トレーナーは緊張しつつ髪を撫でる。

「痛くないかな?」

「はい……とても心地良いです」

 

指先が頭皮をなぞるたび、アルダンの吐息が漏れる。

「……こうしてもらうと、本の中のワンシーンみたいです」

 

トレーナーは微笑みながら、少し安心した。

思ったより緊張するけれど……アルダンが喜んでくれるなら、それでいいか。

 

静かな時間が、二人の間に柔らかく流れる。

 

「アルダンの髪って、いつ見ても整えているね。

これだけ艶を出すのは大変じゃないか?」

 

「ふふ……ええ、少し手間はかかりますが、毎日のケアは欠かせませんから」

 

メジロアルダンは小さく息を吐き、トレーナーの膝に頭を預けたまま視線を上げる。

「でも、こうして触れてもらうと、なんだか少しむずがゆいですね」

 

心地よさそうに目を閉じ、なすがままのメジロアルダン。

 

トレーナーもぎこちなさはあるものの、指先はそっと耳を避け、毛先をなぞる。

 

メジロアルダンは小さく身をよじり、吐息と一緒にかすかな笑い声を漏らす。

「……ふふ、くすぐったいけれど、悪くないです」

 

トレーナーは少し照れながらも、ゆっくりとした動きを崩さず、彼女の髪を撫で続ける。

 

メジロアルダンは目を閉じ、安心したように微笑みながらつぶやいた。

「……トレーナーさんの手、温かいですね」

 

髪を撫でながら、トレーナーは軽く冗談めかす。

「手が温かい人は、心が冷たい人だと言うけどね。気をつけないと?」

 

その言葉に、アルダンは小さく笑みを漏らす。

「トレーナーさんはそんなことを言って――」

 

そして、愛おしそうに顔を上げる。

「……貴方が、私をここまで諦めずにいてくれたから、今のメジロアルダンはあるのです。

例えこの脚が砕けて、トレーナーさんが世間から何と言われようと……

私は、トレーナーさんを信じます」

 

「……少し、眠くなってきました」

メジロアルダンは瞼を半分閉じ、吐息に微かな甘さを混ぜながらそう告げる。

肩を預ける角度が、ほんのわずかに深くなる。

 

「無理もないよ。最近はメニューもきつかったから。」

トレーナーは笑みを含んだ声で答えるが、表情には慈しみがこもっている。

彼女は確かに、今を生きている。走ることを、恐れずに。

 

「……でも、もう少しだけ、このままで」

メジロアルダンの声が耳元でかすかに震える。

その響きに、トレーナーは動きを止め、指先を髪の流れの上でそっと留めた。

 

柔らかく整えられた銀の髪が、指の間をすべる。

ほんのり香るシャンプーの匂いと、運動後の体温が混じり合い、

部屋の空気がひとつの“ぬくもり”として形を持つようだった。

 

「トレーナーさん……私、走ることが怖くなくなったのです」

メジロアルダンは閉じた瞼の奥で何かを見つめるように言う。

「以前は……痛みも未来も、全部が不安で。

けれど、今は少し違います。

こうして貴方がいてくださると思うと、勇気が出るのです」

 

柔らかな午後の日差しがブラインド越しに差し込み、

書類の上に長い影を落としていた。

 

 

トレーナーは答えを探しながら、その頬を静かに見つめた。

彼女の言葉は、感謝ではなく“信頼”の告白だった。

 

それがどれほど重いものかを理解しているからこそ、簡単な返事を口にできない。

 

「……ありがとう、アルダン」

絞り出すように言うと、メジロアルダンは目を細め、薄く笑った。

 

「ふふ……それは私の台詞ですよ。

私がここまで来られたのは、トレーナーさんが――

私という“不完全”を諦めなかったからです」

 

小さな沈黙。

 

午後の光がカーテンの隙間から入り込み、二人の間を柔らかく揺らす。

 

やがてメジロアルダンの指先が、トレーナーの袖口をそっと掴んだ。

「この手は……温かいですね」

「……そうかな」

「はい。とても」

 

そのまま手が緩み、静かに離れていく。

彼女の呼吸は次第に深く、ゆったりとしたものに変わる。

長い睫毛が小さく震え、唇の端に夢の余韻のような微笑が残る。

 

しばらくして、膝の上の御姫様は安心したのか、目を閉じたまま深い呼吸して、眠りに落ちた。

 

「……おやすみ、アルダン」

トレーナーはその頭に手を置き、そっと髪を撫でた。

 

時計の針の音が、静かな執務室にぽつりぽつりと落ちていく。

その音がひときわ大きく聞こえたとき――

 

「……失礼いたします、あら?」

控えめなノック音と共に、扉の隙間から艶やかな黒髪が覗いた。

「メジロラモーヌさん?」

 

振り返ったトレーナーが小声で問いかけると、そこには

メジロアルダンの姉で、トレセン学園に所属する

メジロラモーヌの姿があった。

 

「アルダンの姿が見えないから、どこにいるかと思えば……」

彼女は一歩だけ中に入り、眠るメジロアルダンへ視線を向けた。

 

「やっぱり、ここにいたのね」

その声は叱るでも、咎めるでもない。

むしろどこか懐かしさを含んだ、静かな響きだった。

 

「すみません、これには事情が……!」

トレーナーが慌てて立ち上がろうとすると、ラモーヌに制止される。

 

「構わないわ。それにしても随分、穏やかな顔をしているわね……」

ラモーヌは膝を折り、眠る妹の頬に手を伸ばしかけて――止めた。

 

代わりに、そっとその手を胸の前で組み、短く息をついた。

 

「貴方が、支えてくださっているのですね」

小さく微笑むラモーヌに、トレーナーは言葉を探した。

 

「……俺は、ただ見守っているだけですよ」

「それでも、楽しげに走るこの子を見たのは久しぶり」

 

ラモーヌは立ち上がり、午後の光を背に受ける。

その瞳には、妹を見守る姉の情が、ほんのりと滲んでいた。

 

「……あの子はね」

静かに言葉を紡ぐラモーヌ。

 

「怯えるように走っていたわ。

私に似てしまって、身体も脚も弱くて縮こまっていた。

それでも、今こうして笑って眠れるのは

??貴方が、傍にいるからよ」

 

トレーナーは返す言葉を見つけられず、ただ深く息を吐いた。

ラモーヌはその様子を見て、ふっと微笑む。

 

「買い被りですよ。私はこの子の思いに乗っかっているに過ぎません。

最後はこの子のことを信じて送り出すしかないのです。

むしろ感謝しているのは、メジロ家の方と貴方です。

……貴方の“優しさ”が、あの子を立たせているのだから」

 

トレーナーの表情には、真摯な光が宿っていた。

だが次の瞬間、ラモーヌは少しだけ唇を緩める。

 

「??ただし」

と、いたずらっぽく眉を上げた。

 

「“優しさ”は時に罪となりますわ。我が家の珠玉をうっかり落とされたら、困りますもの」

 

トレーナーが息を呑むと、ラモーヌはすぐに口元を指で押さえ、笑いを漏らす。

「冗談ですわ」

 

それだけ言い残し、ラモーヌはそっと扉へ向かった。

最後にもう一度だけメジロアルダンを見やり、柔らかく微笑む。

「おやすみなさい、アルダン。言伝は??またの機会にいたしましょう」

カチャ、と扉が静かに閉じられ、部屋には再び穏やかな呼吸音だけが残る。

 

……が。

カチャリ、と控えめな音を立てて、扉がもう一度だけ開いた。

顔を覗かせたのは、やはりラモーヌだった。

 

急にトレーナーへ近づき、耳元で囁く。

「この娘ね、寝たふりをしているのよ?」

 

その声に、トレーナーが思わず視線を向けると、メジロアルダンのまつげがかすかに震えた。

 

ラモーヌは小さく息を吐き、囁き続ける。

「そんなに鼓動を早くして、寝られるものなのかしらね?」

 

その声音には、咎める色も呆れる気配もなく――

ただ姉としての優しさと、少しのからかいが混じっていた。

 

「ふふ……まったく、可愛い妹ですこと」

そう呟き、唇に指を当ててウィンクを残す。

 

「それではまたお会いいたしましょう。ご機嫌よう」

軽やかにそう言い残し、ラモーヌは扉を静かに閉めた。

 

再び訪れる静寂。

残されたトレーナーは思わず苦笑いを浮かべる。

 

一方メジロアルダンは、頬が気のせいかほんのり赤い。

少しして目を開け、膝の上から口を開く。

 

「……トレーナーさん」

「お、起きたのか?」

「はい、何かありましたか?」

 

トレーナーは姉(メジロラモーヌ)が部屋に来たことをメジロアルダンに伝える。

 

「そうでしたか……姉は何か言っておられましたか?」

「うん。何か伝えたかったみたいだけど、また後にするってさ」

「姉には謝らなければなりませんね」とメジロアルダンは膝枕されたまま答える。

 

「そしたらアルダン、もう起き上がれる?」

トレーナーの問いにアルダンは遠慮がちに答える。

 

「え……はい、できます……けれど、もう少しだけ、このままで……よろしいでしょうか?」

膝の上に顔を預けたまま、少し甘えるようにお願いする。

 

トレーナーは微笑み、そっと頭を撫でる。

「……わかった。もう少しだけでいいぞ」

「ありがとうございます……」

メジロアルダンは安心したように膝の上で小さく身を寄せる。

 

「トレーナーさん、勝負のご褒美のお出かけですが、どこに行きたいと思っていますか?」

膝の上で顔を上げ、真剣な目で尋ねるメジロアルダン。

 

「そうだな……静かに過ごせるところがいいかもしれない」

「静かに……ですか」

「例えば水族館とか、時間を気にせずゆっくり魚を見る感じで」

 

メジロアルダンの瞳が膝の上でぱっと輝く。

「ふふ、今から……楽しみです。静かに魚たちを眺めながら、のんびり過ごせますね」

「そうだね、きっと楽しい時間になるだろう」

 

トレーナーは微笑みながら、膝の上のメジロアルダンの頭をそっと撫でる。

「ふふ……私も、とても楽しみです」

 

メジロアルダンは膝の上で少し身を寄せ、安心したように小さく息を吐く。

 

二人はしばらく、そのまま静かな時間を共有した。

こうして、静かな午後と、水族館への小さな約束が二人の間で結ばれるのだった。

 

シャチのパジャマとターコイズのネックレスを買ってもらった水族館へのお出かけについては、また次の機会に。

 




※お試しの為、作者が巡回しない場合がございますのでご了承ください。


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