強すぎひんか、あの人?
これから数日……ローレンスくんにぶっ殺されながら挑める楽しい日々の始まりだぁ……!
千景引っ提げていきまーす!
まるで隠し街ヤハグルへ連れ去る大男、人さらいの如き強制力で連れ去られてる私。
この美女……もとい、メアリーと名乗る糸目の女性は、私の首根っこを掴んで連行していく。
とは行っても、私は目隠しされてしまっているわけだが。あと暴れられても制圧できるように、途中からもう一人、誰かが近くにいる。
「ペッパー、指揮官の方は?」
「機械の扱いは大丈夫でした! ……でも、その……マリアンについては……言葉も喋れない彼女を前にして大丈夫でしょうか……」
「信じましょう。あの人は、奇跡を起こした人ですから」
ペッパー、と呼ばれた少女? の心配するような声と、メアリーの確信染みた力強い返答。
そうか。やはり、彼は良い人であるのだな。
奇跡を起こしてマリアンを助け、脳をいじくられたマリアンを前にして尚、挫けぬ。
私は、私が何故ここにいるのかを理解した。
きっと、私は彼を助けるためにここにいるのだろう。
そのために、私がやることは一つ。彼の元に帰り、事情を聞くことだな。
この場で今できるのは、状況を確認することだろう
「もし、その……メアリーという人」
「はい? なんでしょうか」
「私はこれから、どこへ連れて行かれるのだろうか? 脳をいじくるようなもののところに連れて行かれ、脳をすすられるのだろうか?」
「の、脳をすする、とは??」
「違うのか? 脳を洗浄する、という言葉を聞いたのでな。私のいたところに闊歩してたようなバケモノがいると思ったのだが」
目は塞がれて周りの様子は見れないが、メアリーからは困惑の雰囲気が伝わってきた。
しまった、これでは不信感を抱かせるだけだ。落ち着こう、ここは会話の内容を変えるべきか。
私はペッパーと呼ばれた少女の居る方へ顔を向けた。
「ひっ」
「すまない、ペッパーさん、でいいだろうか?」
「な、なんでしょうか」
「怖がらせて申し訳なかった。私自身も……これからどうなるのかわからなくて、あらぬことを聞いてしまった」
「そ、そうですか」
よし、掴みはいいな。
「声だけでわかる。君は可憐な少女のようだな」
「え? そ、そうですか?」
「恋人とかいるのだろうか? 君のような年代の少女は、恋愛を楽しむこともあるだろう」
「そ、それは……い、いない、です」
「君のような人をほっとくとは、男は見る目がないな」
「そうでしょうか?」
「もちろん。私も男女の睦まじい仲を見たことがある。君にはそんな相手がいると思っていたのだが……」
「その人達は、ど、どんな感じだったんですか?!」
ふ、やはりな。こういう声からして幼いというか若い女の子は、恋愛の話に良く食いつく。
興味深そうにこっちの話に耳を傾けるペッパーに、私は自信満々に答えた。
「彼氏の死体を持った長い髪のバケモノみたいな女性だ」
「……なんですって?」
「彼氏の死体を持った長い髪のバケモノみたいな女性だ。あれはまさに一心同体だったな。私が殺しにかかると、手に持った彼氏の死体を武器にして応戦してきた。返り討ちにして殺したが、あれはまさに愛がなせる技だろう。君にもきっと、そんな素敵な彼氏が」
「先輩! この人、すぐに精神病棟で檻に繋いだ方がいいと思います! 何を言ってるかわかりません!」
「ペッパー、耳を傾けるのは止めなさい。彼の話を真面目に聞くのは、その、思考転換を起こす危険があります」
思考転換、という気になる単語がでてきたものの、今は聞くのは止めておこう。
というより、気にしてはいられん。私は未だに目隠しされた状態で、どこに連れて行かれるのかすらわからない。行き先すら知らされてない。
さて、そろそろ聞こうかな。その辺り。
私が口を開こうとしたとき、唐突に地面の震動が止まる。
この感覚……あれか。医療協会の工房へ向かうために乗った昇降機が止まったような感覚。どうやら、地下に向かっていたらしい。
そして、目隠しの布の間から漏れる、明るい光。
当分の間忘れていた、澄み渡る青天から降り注ぐ太陽光。
赤い月から放たれる邪悪極まりない光とは決して違う、心が洗われるような。
「あ、あぁ……これが、光、偽りのものでもなく赤いものでもない、なによりも月光ではない太陽光……素晴らしい……!!」
「……わかりましたよん、ここからは、A.C.P.Uが引き継ぎますから。それで、その、そちらの人はなんで太陽の光に恍惚な表情で涎を……?」
「ポリ! この人、変です!」
「ミランダ、失礼ですよ」
「いえ、私もこの人は変だと思います! カップルの話を聞いたら死体を振り回して襲いかかってくるバケモノの話をされました!」
「私も、いきなり指揮官に懐いてる様子を見てますので、その……変な人なのはまちがいありません」
「……ペッパーとメアリーが言うなら、間違いないんですね……」
なんだ、また別の声が聞こえてくるぞ? そちらの方へ視線を向けるものの、なんか怖がられてる気がする。目が見えないけど「ヒュッ」という恐怖から出てくる呼吸音が聞こえた。
なんでだ。
「と、とりあえず連れて行きますね! 何か引き継ぎ事項や注意事項はありますか?」
「……会話はしないことですね」
「私たちは本当に人間を連行するところなんですかぁ?」
まるで人を珍獣みたいに扱うんじゃない。
……珍獣? 獣!?
「わ、私は獣じゃない、狩人だぁ!」
「うわっ! ミランダ、取り押さえますよぉ!」
「え? ほ、本当にやるんですか!?」
びたんびたんと痙攣してしまった。四人がかりで取り押さえられた。ごめんな。
手を拘束され、目隠しされ、何かに乗せられ、どこかに運ばれ、何処かの建物に入り、最後には部屋の前に立たされている状況。
ここに来て、ようやく私の目隠しは外された。何故か手の拘束は外してもらえない。
「……すまない。君たちには苦労をかけた。これをあげよう」
「……」
困ったな。背の小さな、ベテランっぽい子が何も答えてくれない。確かポリ、だったか? 声の感じからしてそういう名前のはずだ。
仕方が無い、手枷を嵌められたまま懐に手を入れ、とあるものを取り出した。
「ほら、美味しそうだろ? ディーゼルに飴をもらったからな、私も同じように飴をあげようと思うんだ……世話になったお礼をしたいし、彼女のような優しさを見習ってね」
「それ、なんですか? 美味しいんですか?」
「ミランダっ」
ミランダという、新人っぽい女性が私が取り出したものを興味深そうに覗き込む。ポリが止める。
ふふ、微笑ましい子だ……こんな微笑ましいものは、血石の塊を複数個落とすさまよう悪夢というグネグネした奴を見た以来か……。
「これはな、獣血の丸薬だ。なに、ちょっとしょっぱいが獣の力が湧いてくるぞ。攻撃するほど物理攻撃力が上がるんだ。獣の血を固めた禁忌の薬物だが、肉と返り血によって快楽とさらなる力をもたらして」
「ふん!!」
ポリが憤怒の表情で私の手から丸薬をたたき落とした。あ! これ結構大事な道具なのに!
「何をするんだ! 食べ物を粗末にしてはいけない!」
「何を言ってるんですかぁ! 丸薬ってことは薬でしょお! 食べ物じゃない! しかも危険薬物! 原材料のわからない薬物なんて渡すものではないですよん!」
「じゃあ何を食べる? 咄嗟に出せるとしたら白い丸薬ならあるぞ。灰血病を抑える効果がある」
「薬から離れるというか結局食べ物じゃないですか! ポリ、この人は変です!」
「ペッパーたちが話すなって言ってたのは、こういうことだったのですねぇ……」
ミランダが騒ぎ、ポリが嘆く。困ったな、この子たちを困らせるつもりはなかったのだが……。
ようやく落ち着いた二人が、部屋の扉を叩いた。ウヒヒ、という返事が来ないか警戒したが、普通に「入りたまえ」という返事が来る。
よかった……。
「この扉は下から持ち上げる方式か? それとも両手で左右に開く方式?」
「下から持ち上げる扉は扉とは言わないのです! シャッターか隔壁なのです!」
そうか……あれは扉ではないのか……聖杯の向こう側の遺跡で、良い血晶石がこの先にあるぞ! という希望を抱きながら持ち上げたものだが……。
ポリは丁寧に扉を開くと、私の方を嫌悪感丸出しの顔で振り向き、とっとと入れと首で示す。
ほんの僅かな時間だったが、この子と仲良くできなかったのが悔やまれる。
私が中に入ると、四人男女がいた。二人の男と二人の女。
女性側は、一人は大人の女性だ。まるでマリアの狩人服のような、戦場で着る服に似た意匠のものを着ている。堂々と立つ姿は、さながら歴戦の女傑といった感じだ。
もう一人の女性……女の子か。小さく幼い子だ。しかし立ち振る舞いは、大人の世界を生きてきた独特の達観を悟らせる。椅子に座ったまま、こちらをニヤニヤと見てくるのは、少し苛立つ。
男性側の一人は、なんとも不思議な格好だ。肌に吸い付くような服を来ている。四角上の模様が目に痛い。あと背中に担いでいる輝く大きな球はなんだ? 目元を黒い眼鏡で隠しているし、髪型も奇妙だ。
残る一人。この男、どこかおかしい。
一見すると、コマンドセンターであった指揮官と似た雰囲気がある。服装や役職? みたいなものが被っているからか。
だが、私の目は誤魔化せない。この男は何かを隠している。変身前のエミーリアを見ているような気分だ、内側に何を隠している?
「ご苦労だった。二人はもう戻って良し」
「はい!」
「では、これで失礼しますよん!」
後ろにいたミランダとポリが腕を額の前に持ち上げてから、踵を返して去って行く。扉が閉まり、ここには四人の男女と私だけになった。
ここは……ビルゲンワースで見た、個室のような感じか。ここで私と話したいということだな。しかし、あれだ。
「さて、君に話を」
「その前に。部屋の隅や天井に隠れてる四人の女性。誰だ?」
私の言葉に、四人の男女が驚いた顔を浮かべた。
「私の眼は誤魔化せないぞ。姿を表せ。隠れているということは」
手枷を力任せに引きちぎり、私は懐から武器を取り出し、構える。
シモンの弓剣。
かつて、悪夢の向こう側。漁村にて絶望のまま死んだ、罪人の末裔。
彼の死体から受け継いだ武器を変形させ、弓を番えて天井に向けた。
「お前も獣だな……!? ああ、お前たちが銃器で私を攻撃する方が早いな。私は死に、夢として再び目覚める嵌めになるだろう。しかし、一人か二人は道連れにするぞ。私の弓から逃れられると思うな!」
私の怒号が響く。部屋の中が緊張感で満たされた。
数秒だけ時が流れ、そして。
「わかった。……イングリッド、構わないな」
「仕方が無い。まさか気づかれるとはな。報告からタクティカルな男だとは思っていたが……ここまでとは。試したのか? マスタング」
「oh! そんなわけありまSEN! MeのGoddessたち、カフェ・スウィーティーの話をlistenしても、まさかここまでとは思ってなかっただけDESU! シュエンだって、そうでHA?」
「私はなんとなく思ってたわよ? こいつはイカれ野郎だって。面白そうだから黙ってただけ。それで? ここからはどうするの? アンダーソン副司令官?」
大人の女性がイングリッド、幼い女の子がシュエン、変な格好をしたのがマスタング、そして薄気味悪い男がアンダーソン、か。把握した。
イングリッドが手を上げると、天井や部屋の隅に感じていた気配が消えた。もう部屋のどこにも、あの臭いはしないな。
私はシモンの弓剣の矢を外し、変形させてから懐にしまう。その様子を、シュエンが興味深そうに見ていた。
「あなた、随分と面白い武器を持っているのね?」
「ん? あ、あぁ。これは獣を狩るための仕掛け武器だ。獣はいろんな種類がいるから、これを二種類の形態に変形させ、リーチと威力を変幻自在に操って戦う」
「普通に銃で撃ち殺せば良いじゃない」
「ダメだ。獣は銃ごときでは仕留められない。それに、これで狩ることはある種の葬送、弔いの意味を持つ。……狩りの意味は、随分と変わったがな……」
ゲールマン……私は彼の思いを裏切ったのだが……。
「ふぅん、あっそ。随分と非効率的な考えね。それで殺されたら、意味ないじゃない」
「それはそうだ。その通りだからこそ、仕掛け武器を鍛え上げて一気に獣を狩り殺さねばならん」
「戦い方は?」
イングリッドが私に聞いてきた。
「お前はそういう戦い方を誰から学んだ? 報告を見る限り、一朝一夕で身につくものではないはずだが」
「それは私にもわからん。武器を握り、獣や上位者、敵を前にすれば自ずと戦い方が頭に浮かんで体が自然と動く」
「……ある意味ではベテランの領域ってことか?」
イングリッドがブツブツと呟いている。「考えずとも動く……タクティカルの極地か……」という言葉が聞こえたが、意味はわからない。彼女は頭がおかしいのか?
「Entertainment!!」
「うわ」
唐突にマスタングが私の前に立って騒ぎ出した。後ろにある輝く球が眩しいっ。
「MeのGoddessたちをRescueしてくれたようDESUね!」
「ご、ごっです? もしかして、ミルクたちのことか?」
「Exactly! YOUのおかげDESU!」
「それは違う」
私はハッキリと言った。
「あの子たちは、私がいなくてもなんとかしてただろう。あの子たちは、強い。私はそこに少しだけ手助けをしただけだ。ミルクたちは立派だ」
瞬間、マスタングの表情が消える。黒い眼鏡の下にある眼が見えた
星のように輝く、何かがある。
精霊を身に宿した、柔らかいものではない。別種の何かの輝きだ。
それも一瞬だけ。すぐにマスタングが破顔した。
「Entertainment!! YOUの気持ち、伝えておきMASUね!」
「あ、ああ……」
「話は終わったかね?」
マスタングが離れると同時に、アンダーソンが私に話しかけてくる。
「じゃあ、話をしようか。君について、聞きたい」
その顔はどこかうさんくさく、ヤーナムにいた頃に出会った奴らを思い起こさせた。
タクティカルと呟く女性、こちらの武器を観察する女の子、えんたーなんちゃらと叫ぶ男、正体がわからない雰囲気を持つ男。
怪しい奴は、どこにでもいるらしい。
ローレンスくんを撃破しました。
ただし、千景だけでは無理だったのでシモンの弓剣とエヴェリンも使って遠くから灰エヴェと弓剣でペチペチ削りローレンスくんの体力をギリギリまで削り、水銀弾がなくなり体力削りができなくなり撃てなくなったら千景L1玉砕特攻でなんとかです。
恥を知れ恥を……これが狩人の姿か……?
千景一本で倒せぬとは……くそぅ!
本当は昨晩書き上がったけど、ハーメルンが落ちたので今になりました。