反LGBTQ色を強めるトランプ政権はなぜ同性婚を受け入れるのか?
反LGBTQ(性的マイノリティー)色を強める米社会。トランプ大統領もトランスジェンダーの米軍への入隊を禁じるなど反LGBTQ色を鮮明にしている。しかし、なぜか同性婚にだけは寛大だ。少数派の権利拡大に慎重な保守派の判事が支配する米最高裁も10日、同性婚を合憲とする過去の判断を維持する姿勢を明らかにした。マイノリティー全体に強烈な逆風が吹く中、なぜ同性婚は受け入れられるのか。
最高裁が憲法上の権利を確認
最高裁は10日、同性婚を「憲法上の権利」と認めた2015年の判決を覆すよう求めていたケンタッキー州の元郡職員による審理の申し立てを却下した。
最高裁での審理は判事9人のうち4人が賛成すれば開くことができる。現在の最高裁は9人中6人が保守派。実際に審理が開かれ、最終的に2015年の判決が覆されるのではないかとの懸念がLGBTQの団体やその支持者の一部から出ていた。
2016年の大統領選でトランプ氏に敗れたクリントン元国務長官は今年8月、妊娠中絶の憲法上の権利を認めた1973年の判決を最高裁が2022年6月に覆した例を挙げ、「私の予想では最高裁は同性婚についても同じことをする」と懸念を露わにした。しかし、それはとりあえず杞憂に終わった。
審理が開かれなかったのは、保守派の判事の中にも2015年の判決を覆すことに慎重な考えが多いからと専門家は指摘する。
例えば、トランプ大統領に任命された保守派のバレット判事は最近のインタビューや出版した自叙伝などで、多くの同性愛者が法的に婚姻関係を結んでいる現実を鑑みれば同性婚の権利の否定は米社会に即、大混乱をもたらすという趣旨のことを述べている。報道によると、同じく保守派のゴーサッチ判事も同様の考えという。
党綱領を書き換え
LGBTQに関する調査研究を行っているカルフォルニア大学ロサンゼルス校ウィリアムズ・インスティテュートによると、米国内には法的に婚姻関係を結んでいる同性カップルが80万組以上いる。
トランプ氏も以前から同性婚を支持する立場を貫いている。2016年の大統領選の時にも同性婚の憲法上の権利を認める発言を繰り返ししていたが、共和党内での影響力を増した2024年の大統領選の時には自らの意向で、党の綱領から、結婚は「一人の男性と一人の女性の間の関係」という従来の文言を削除した。
トランプ大統領の岩盤支持層、いわゆるMAGAの中には、宗教保守派を中心に同性婚に反対する人たちが非常に多い。にもかかわらずトランプ大統領が同性婚を支持するのはなぜか。
数の力、無視できず
トランプ氏自身は「憲法が認めていることだから」と述べている。だが、トランプ色の強い最高裁が中絶の憲法上の権利を覆した事実を踏まえれば、その答えは説得力に欠ける。
考えられる理由の一つは「票」だ。各種の世論調査によれば、米国の有権者の約3人に2人は同性婚を支持している。この中には選挙結果の鍵を握る無党派層も多く含まれており、トランプ大統領としても無視できない数だ。
LGBTQは民主党支持者が多いイメージだが、共和党支持者も少なくない。
トランプ大統領のメラニア夫人は2024年の大統領選期間中、共和党系のLGBT団体「ログ・キャビン・リパブリカンズ」のために2度にわたって資金集めパーティーを開いた。それも1度目はフロリダ州のトランプ氏の邸宅マール・ア・ラーゴ、2度目はニューヨーク市マンハッタンのトランプタワー内にあるペントハウスという超豪華な“ホームパーティー”だった。
2度のパーティーで集めた資金は日本円換算で約3億6000万円。メンバーの一人はトランプ氏への感謝の意を込めて「われわれの目標は、同性愛者の少なくとも半分がトランプ氏に投票するようにすることだ」とXに投稿した。
政治家としての言動とは別に、トランプ氏個人はLGBTQの理解者だとの見方もある。実際、トランプ氏の周りにはLGBTQが少なくない。
例えば、トランプ氏の信頼が厚いベッセント財務長官は同性愛者であることを公言している。先日、トランプ大統領が来日した際に駐日米大使公邸で開かれた夕食会に招かれるなどトランプ氏と親密なアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)も、同性愛者だ。
真意をいぶかる声も
一方で、トランプ大統領が同性婚を支持する真意を疑い、警戒する人たちも少なくない。
同性婚合法化の実現に取り組んできた団体「フリーダム・トゥー・マリー」の創設者で弁護士のエヴァン・ウォルフソンさんは10月に来日した際に、筆者の取材にこう語った。
「同性婚の問題に限らずトランプ大統領は言っていることがコロコロ変わる。トランプ氏が何と言おうと、トランプ政権は(LGBTQに)敵対的な判事の任命を含む、数多くの敵対的な行動をとってきた。発言ではなく行動で判断することが重要だ」
同性婚には理解を示す半面トランスジェンダーには厳しい姿勢をとっている理由は何だと思うか聞くと、「マイノリティーを悪者扱いし、国民を分断し、不安や不満を煽ることは、権威主義的な戦略から出てくる古典的な戦術だ」と指摘。LGBTQ社会の分断を狙っていたとしても「驚きはない」と答えた。
最高裁は6日、パスポートに記載する性別表記は生まれた時の性に限定し、トランスジェンダーが求める「X」の表記や自ら選択した性の表記は認めないとするトランプ政権の政策の施行を認める判断を下した。トランプ政権や最高裁による、同性愛者とトランスジェンダーに対する扱いの違いが一段と鮮明になった格好だ。
日本でも司法の判断に注目集まる
それでも米国では、司法、立法、行政が同性愛者の権利向上に大きな役割を果たしてきたのは事実。
日本でも、同性婚を認めていない現行法の違憲性を問う訴訟が各地で起こされている。これまでに、札幌、東京1次、名古屋、大阪、福岡の5訴訟の控訴審すべてで違憲判決が下された。今月28日には東京2次訴訟の控訴審判決が予定されている。