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254 水竜艦の実力

 向かって来る海賊船がシードランの水竜艦だと確認したフランたちは、モルドレッドを交えて対応策を話し合っていた。


「取り巻きの船に関しては、フランに任せていいと言う事だな?」

「ん。まかせて」

「では、問題は水竜艦か……」


 モルドレッドも、水竜とは戦った経験が無いらしい。


「フランが竜狩りのフェルムスに勝った試合を見た。あの時の凄まじい雷……。あれであれば、水竜を倒すことが可能かもしれない。放つことは可能か?」

「使える」

「そうか。問題は仕留めきれなかった時だな」


 カンナカムイと黒雷招来の合わせ技を水竜に撃てば、確実に船も巻き込むだろう。もし水竜を仕留めきれていなければ、水竜が解き放たれることになる。


 なら、水竜だけを攻撃出来ればいいんだろ? 船を巻き込まず、かつ水竜を倒すことが出来るだけの威力がある攻撃ね……。


(念動カタパルト?)

『フランもそう思うか?』

(ん。それしかない)


 船に繋がれているぶん動きは制限されているし、狙いは付けやすいだろう。あとは水竜の防御力次第だが、急所を狙えば倒すことは出来ると思う。


 むしろ船を巻き込む様な反撃が出来ない分、野生の水竜よりも倒しやすいはずだ。


「水竜だけを攻撃出来ればいい?」

「そうだな……。だが、そんな攻撃方法などあるか?」

「ん。ある」

「そうか、ならばやはりフランに任せるしかないと言う事だな……情けない」


 護衛として雇われているのに、年下のフランばかりを働かせることに無力感を感じているらしい。いや、これは得意な距離の問題だしな。それに、彼の溶鉄魔術は砲弾を防いだりと、防御面では優秀らしいし、そのうち働く場面もあるだろう。


 そう言えば、水竜を倒して船を沈めるのは構わないが、国際問題とかにならないのか? 一応、王族なわけだし。


「ねえ、沈めるのは平気なの?」

「どういうことだ?」

「王族がやられて、国同士が喧嘩にならないの?」

「はは、それはないな。たとえ相手がシードランの海軍だったとしても、海賊旗を掲げている相手を沈めたことで罪にはならない。むしろ、そんな真似をした方が非難されるだろう」

「海賊旗は、戦闘力が無い船舶に対して、荷を置いていかなければ殺すぞという脅しの意味があるからな。海賊旗を掲げる相手に対して問答無用で攻撃するのは、海の常識だ」


 となると、後の問題は沈める順番かな? 水竜艦を先にするか、後にするかだ。取り巻きの船を沈めている間に、水竜艦にアルギエバ号が襲われたら危険だ。だが、水竜艦にどれだけ時間が掛かるかもわからないし……。


 悩んでいたら、先に水竜艦を攻撃して欲しいと言う事だった。そもそも、水竜艦さえいなくなれば、他の艦は逃げるだろうとジェロームたちは予測していた。


「水竜艦を沈める様な化け物相手に、戦い続けるなど自殺行為だからな」


 なら、さっさと水竜を倒そう。俺たちは皆に見送られながら水竜艦へと飛び立った。


『ウルシは回避に専念しろ』

「オン!」

『フランは水竜を挑発して、頭を海中から上げさせるんだ』

「わかった」


 水中じゃ水の抵抗で威力が下がるからね。ウルシの背に乗ったまま、フランが弱い魔術を水竜に向かって放ち始める。


 船からも時おり砲弾や矢が飛んでくるが、ウルシに当るはずもない。そもそも、小さい的を最初から外している攻撃ばかりだし。下位の魔術も混じっているので、複数の魔術師を乗せている様だ。やはり、そんじょそこらの海賊ではないんだろう。


 その間もフランの挑発行為は続いていた。海中に見える水竜めがけて、魔術を放ち続けている。ダメージはないだろうが、やはり鬱陶しい様だ。


 5分ほど挑発し続けると、遂に水竜が怒りの表情で海面から顔を出した。


 水竜と言うと、表面がツルツルの肌をしたプレシオサウルス型を思い描くが、想像とはかなり違っている。


 フォルムこそプレシオサウルス風なのだが、ごつごつとした鱗がびっしりと全身を覆い、頭には鋭い角が生え、背中には翼が退化したと思しき巨大なヒレが生えていた。また、尾が非常に長く、手足はヒレと手の中間くらいだ。アシカの前足に似ているな。多分、地上でも活動できるだろう。


 さらに体の表面に纏っているのは海水だろうか? 魔力で操って、全身を水で覆っている様だ。乾燥防止か?


「師匠!」

『おう!』


 考えていてもしょうがない。フランがやる気満々の表情で俺を振りかぶる。既に俺の準備は万端だぜ!


「はぁぁ!」

『ひゃっはー!』


 フランによって放たれた俺は、念動を爆発させて一気に突き進んだ。狙うは奴の顔面だ。さすがの水竜も、この距離でも反応できていない。超高速で突進した俺が、無防備な水竜の顔面を捉えた。


「おりゃぁぁ――なにぃ!」


 ボバン! という凄まじい炸裂音が響き渡る。だが、それは俺が期待してた水竜の頭が爆ぜた音でも、頭蓋を貫通して突き抜けた時の音でもなかった。


 それは水竜が纏っている水の膜が弾け飛んだ音だった。だが、それだけだ。水の膜が俺の突進の威力を弱めてしまった上、水の膜の下には魔力の障壁の様な物まで存在していた。ただでさえ威力を減衰させられた俺は、水竜に僅かに傷を付けることしかできない。


 念動カタパルトでこいつを倒そうと思ったら、何百発撃てば良いかもわからんな。


『なら、こいつでどうだ! ライトニング・ブラスト!』


 Lv5雷鳴魔術ライトニング・ブラスト。射程は短いが、威力が高い術だ。とっさにこの術を使ったのは、水棲生物は電撃に弱そうだと言う単純な理由からだ。


『接触状態でなら防ぎようもないだろ!』


 水竜の頭部を雷撃が包み、激しい雷光が周囲を照らす。だが、水竜にダメージを受けた様子が全くなかった。なぜだ? 水竜に雷鳴耐性なんかないのに!


「グロオオオオォォォォォ!」

『くそっ!』


 噛み付かれそうになった俺は、慌てて転移を行ってフランの下に逃げ戻る。


「だいじょうぶ?」

『ああ、間一髪な。しかし、あの固さは何だ? 水の壁に魔力障壁に、竜の鱗? まさか念動カタパルトでほとんどダメージが通らないとは思いもよらなかったぞ。しかも雷鳴魔術が効いてないし』


 いくら相手が脅威度Bの魔獣であっても、ダメージくらいは通ると思っていた。だが、無傷とは。


「離れて見てたから気が付いた」

『何にだ?』

「水竜に船から魔力が供給されている」

『なるほど……。気づかなかったぜ』

「師匠が魔術を使った時に、一番多く魔力が流れてた」

『水竜の防御力を強化する装置を船に積んでいるってことか!』


 だが、それも当然か? 世の中、強力な冒険者や魔術師は俺たちだけじゃない訳だし。対策はしてあるよな。


 あの巨大な船ならばかなり巨大な魔導装置でも積めるだろう。しかも、元は一国の旗艦として君臨していた船だ。俺たちの想像を超える様な凄まじい能力の魔導装置であっても不思議はなかった。


『厄介だな……。船を潰せば水竜が解き放たれるが、船を沈めなきゃ水竜は倒せない』

「船を先に沈めて、その後すぐに水竜をやっつけたら?」

『それだとリスクが大きいんだよな』


 もし水竜がこちらに向かってこず、海中へと逃げられたら? 相手に有利な深海にまで追って行って、倒すことは俺にも難しいだろう。


 そのまま逃げてくれればいいが、その後復讐目的で襲われでもしたら、防ぎようがない。なにせ、相手は海中からやってくるのだから。


「竜が復讐なんてする?」

『分からんが、脅威度Bの魔獣だぞ? 最低でもウルシ並みに賢い可能性はある』


 それだけ頭が良ければ、復讐や報復をする程度の知恵は回るだろう。


「なるほど、厄介」

『となると、あとはもう船に乗り込むしかないか……』


 どうやって水竜を操っているのかは分からないが、白兵戦でその大本を押えるしかない。テイマーなのか、魔道具かは分からないが。


『仕方ない、一度アルギエバ号に戻るぞ』


 あの大きな船の中から人や魔道具を探し出すのは、俺たちだけでは時間がかかってしまうだろう。ここはモルドレッドたちの力を借りるべきだった。


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