「泣ける」の評価に「失敗だった」 戦後世代がガンダムで描いたもの
1989年の「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」(日本サンライズ〈現・バンダイナムコフィルムワークス〉)はシリーズで初めて、原作者の富野由悠季さん以外が監督した作品だ。戦争のリアルを描いたロボットアニメの金字塔となったガンダム。高山文彦監督は、その後継作を手がけるにあたって、「かっこいいで終わらせたくなかった」と振り返ります。戦後世代の監督が、戦争の描写を通して見る人に残したかった感情とは。
高山文彦監督インタビュー
機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争
初代ガンダムで描かれた「一年戦争」末期の中立コロニーが舞台。新型ガンダムを開発する地球連邦軍と、奪取のために潜入したジオン公国軍の特殊部隊の攻防が、民間人の少年アルの視点から描かれる。連邦のテストパイロットのクリスとジオンの新兵バーニィは、アルを通じて出会い、ひかれあいながらも、互いの素性を知らぬまま戦うことになる。1989年発売のオリジナルビデオアニメ(全6話)。
――「ポケットの中の戦争」はガンダムシリーズで、初めて富野さん以外の方、かつ戦後生まれの世代にバトンタッチされた象徴的な作品です。2020年にもブルーレイ版が発売されるなど、根強い人気作になりました。
アニメ監督として初めての仕事でした。今では「ガンダムシリーズ」と言われていますが、あの当時は富野さんがずっとガンダムをやるものだと思っていましたから、驚きました。
――発表当初の世間からの反応はどのように受け止めましたか。
僕が知る限り、あまり芳しくなかったです。富野さん以外がガンダムを手がけることへの反発がまずあって。ロボットの戦闘シーンが少ないということでも、評価は高くなかったと思います。
――舞台は、ガンダムの「一年戦争」末期のスペースコロニー。兵士ではなく、民間人の少年(小学生のアル)を主人公にして描かれる物語は斬新でした。
僕は戦争体験があるわけではないので、どうしても、今まで読んだ戦争小説や映画のイメージに頼って、となってしまう。ですから物語を作る時はブレーンストーミングだといって、スタッフのみんなにやりたいことをプロットにして出してくれと。その中で一番汎用(はんよう)性があったのがプロデューサーの内田健二さんのプロットでした。
アムロに渡すための新型ガンダムがコロニー内で造られているのを、ジオンの特殊部隊が奪取しに行くという、いわゆるミッションもの。ただ、遂行する目的がはっきりしているだけに、それだけだとまずいなと。主人公を少年にしてその視点から描いたらどうだろうと僕が提案したんです。
下敷きになった物語の一つが、ジョン・ブアマン監督の「戦場の小さな天使たち」(1987年)。第2次世界大戦で空襲にさらされたロンドンの少年の日常を描いた映画でした。
主人公の少年が、世界に取り残されたような感じで物語を終わらせようと考えていました。結果、観客に苦い印象が残っても構わないか、と。
――戦争の悲惨さを伝える、といった意図でしょうか。
兵器がかっこいい、ということへの反発がなんとなくあったんです。
子どもの頃はプラモデルを作…
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