第23回家族より「献金が大事」、自宅も事務所も売却 母をなじった山上被告

仙道洸 遠藤美波 黒田陸離 堀之内健史 阪田隼人

 安倍晋三元首相銃撃事件の第7回公判が13日、奈良地裁(田中伸一裁判長)であった。弁護側立証のスタートとなったこの日、山上徹也被告(45)=殺人や銃刀法違反などの罪で起訴=の母親が証人として出廷。信仰にのめり込んでいった経緯を語った。

 証言台と傍聴席の間にはついたてが置かれた。母親が入廷すると、被告はみけんにしわを寄せ、証言台のほうへ鋭い視線を向けた。

 母親は冒頭、声をうわずらせながら「次男の徹也が起こしたことについて安倍元首相、昭恵夫人、そしてご遺族に心よりおわび申し上げます」と謝罪した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を今も信仰していると答え、淡々と語り始めた。

 母親によると、被告が4歳だった1984年、仕事の影響でアルコール依存やうつ病の症状があった夫が自殺した。「私がもっと優しくしていれば」と後悔したという。

 長男は生まれつき脳に腫瘍(しゅよう)があり、小学2年の時に右目を失明した。しばらく経った91年7月ごろ、若い女性が自宅を訪ねてきたという。

 「家族お元気ですか?」。長男の話をすると「すぐに姓名判断しましょう」と言われ、教団施設に行った。家系図に親族の病歴などを書き込まれて「色々ありますね」と言われ、翌月に入信したという。

 それから数カ月で5千万円を献金した。そうすれば「長男が助かるかもしれないと思った」という。

 その後も、数十万円のつぼや絵画を買って教団への献金を続けた。献金をとがめていた母親の実父が亡くなると、実父の会社の事務所や、自宅の土地も献金にあてた。

 実父との衝突のもう一つの要因が、子どもを日本に残して教団本部のある韓国に行ったことだ。この日に弁護側が示した渡航記録によると、少なくとも93年ごろから2020年にかけて30回以上。長男と被告、長女の3人が10代のときも年に数回は通った。

 弁護人から「子どもたちから行かないでとお願いされたことは」と問われ、「私は行くことに一生懸命だったので覚えていない」と答えた。

 子どもたちの進学時期にも献金は続き、母親は「申し訳ないと思うが、当時はそこまで頭が働かなかった」などと、弱々しく語った。

 弁護人はこの日、被告が30歳の頃に母親やきょうだいと交わしたメールも紹介した。

 「また韓国に行くつもりか。金はどうするつもりだ」となじる被告に対し、母親は「ごめんね」。長女は被告に「韓国に行かないと死んでしまうから30万貸してと母に言われた」と相談していた。

 被告宛てとみられる長男のメールには「もう母を止める手立てはない」とも書かれていた。

 裁判官は刑事訴訟法上、証人の体調などを考慮して、傍聴席からの視界を遮ることができる。

 次回は18日。母親に対する尋問の続きと、長女の証人尋問が予定されている。

証人尋問での弁護人と母親の主なやりとり

 ――最初に言いたいことがあると。

 本来はすぐにでも謝罪しなければならなかったのですが、なかなかそうはいきませんでした。今日はその謝罪をしたい。ここに安倍元首相が来ているかもしれない。次男の徹也が起こしたことについて安倍元首相、昭恵夫人、そしてご遺族に心よりおわび申し上げます。

 ――現在の信仰は。

 いまも世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を信仰しております。

 ――被告が4歳のときの出来事を。

 夫が自殺しました。仕事の関係でアルコール中毒とうつ病のようになっていた。腹立たしいし、私がもっと優しくしていればこんなことにならなかったという後悔もある。

 ――長男の健康状態は。

 脳に腫瘍(しゅよう)があり、目が痛くなる。小学2年の時に友達とサッカーをして、ボールが右目に当たった。頭にばい菌が入ると命が危ないとなり、開頭手術をしたが、右目を失明した。

 ――入信の経緯は。

 (教団の)若い女性が家に訪ねてきて、長男の話をしたら「ビデオセンター」に3日以内に来るよう言われた。行くと「家系図を見ましょう」と言われ、家族の命日や病気などを書き込まれた。「色々あります」「病気も全人類の堕落によって引き起こされる」と言われた。

 ――すぐに2千万円を献金した。

 心を痛めており、2千万円くらい献金しませんかと。自分も「それくらいだ」と思っていたので、神様が電話で伝えたのかなと不思議に思った。

 ――直後に3千万円も。

 おそれや震えがあった。

 ――実父との衝突について。

 1回目は(教団本部のある)韓国に行ったとき、もう1回は絵画を買って床の間に置いたら「出て行け」と。

 ――子どもたちから韓国に行かないでというお願いは。

 記憶がありません。私は行くことに一生懸命だったので。

 ――実父が亡くなった後は何を。

 (実父の)会社の事務所と、自宅を売ってできた4千万円を献金した。長男が死にたいと言い始めたので。

 ――子どもたちの進学のことは考えなかった。

 何か道があるだろうと。とにかくそれよりも献金することが大事と思っていた。

昭恵氏の上申書 山上被告は身動きせず、資料に視線

 検察官はこの日、事件の約1年後に安倍氏の妻昭恵氏が書いたという上申書を読み上げた。

 安倍氏は事件当日の朝に自宅を出た。昭恵氏は数時間後、安倍氏の事務所から「撃たれた」と電話を受けたという。新幹線で奈良の病院へ。安倍氏の耳元で「しんちゃん、しんちゃん」と呼ぶと、「少し手を握りかえしてくれたような感じがした」という。

 「あまりにも突然で、全てが夢の中のような感覚で悲しい、つらいという気持ちがわく余地もない。涙も出なかった」

 「夫は家族であり友人であり、かけがえのない人」「(首相を辞めて)二人で過ごす時間が続くと思っていた」とし、「夫を失った悲しみは今も昇華することはない。長生きしてほしかった」と結んだ。

 読み上げられている間、山上被告は身動きせず、机の上の資料に視線を落としていた。法廷に昭恵氏の姿はなく、代理人弁護士が被害者参加制度を使って出廷している。

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この記事を書いた人
仙道洸
ネットワーク報道本部|西成・動物園担当
専門・関心分野
在日コリアン、在日外国人、司法
黒田陸離
大阪社会部|府警担当
専門・関心分野
地方取材、スポーツ、平和、人権
安倍晋三元首相銃撃事件

安倍晋三元首相銃撃事件

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