風紀委員モブの昼休み   作:ふゆうさぎ

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寝る間際に予約投稿しようとしたらメンテ中でできなかったんだ。


直前

 少し前の話だ。

 思ったより計画が当初通りに進んでいないことに、私は驚きを隠せなかった。

 トリニティ、ゲヘナ。両校への接触は順調そのものだったはず。

 聖園ミカによるファーストコンタクトから始まったエデン条約を乗っ取る作戦。マダムの助言ありきではあったが、今の今まで何の障壁も無くエデン条約直前まで来れたと思っていた。

 だが、マダムは言った。

 

 

「警察犬が紛れ込んでいるようですね」

 

 

 この言葉の意味がわからなかった。

 ゲヘナの風紀委員に所属する一年生。たった一人の生徒が私たちの計画をかき回していることに気が付いたのは、聖園ミカ率いるアリウスの部隊が先生率いるチームに返り討ちにされた時だ。

 辛うじてシスターフッドの手から逃れ戻って来た一人に状況の確認を取れば「補習授業部」とかいう四人、そして先生に加え、数人のトリニティ生が行動を共にしていたようだ。

 一般生徒であるのにも関わらず、先生の采配により私たちの部隊、そして聖園ミカは制圧されてしまった。

 予定では補習授業部の四人と先生だけだったはずなのに、何故そこに一般生徒もいたのか。

 独断行動ではあったが、その生徒たちを拘束し話を聞き出した。

 

 

「ゲヘナに捕まった時、風紀委員に言われたのよ! この日、この時間、この場所で先生を手伝ってあげてって! そうしたら何もしないって言われたから!」

 

 

 マダムが目を掛けていた風紀委員だった。

 まるで聖園ミカがアリウス部隊を率いて襲撃してくることを知っていたような……もはや予言に近い。

 たかが数人、しかし先生の手があればされど数人。

 彼女たちの加勢もあったせいで戦況を押し切ることもできず、更にはシスターフッドの増援もあって聖園ミカは敗北を喫した。

 百合園セイアのような人物が二人もいたことには衝撃を受けたし、それに厄介だとも思った。

 しかしマダムの言葉はそれを軽く上回る衝撃。

 それを聞いたとき、そんなことがありえるのかと思った。

 ありえたとして、なぜ一般人に紛れるような生活を自ら望むのか? そんな疑問が頭を支配した。

 

 

「彼女は知っているのですよ。……いえ、知っていた。そう表現すべきでしょうね」

 

 

 知っていた。百合園セイアは予知夢により「未来を知ることができる」だ。

 ではマダムが彼女を評した「知っていた」というのはどういう意味か? 

 言葉通りであれば、知識として私たちを認識していた。そう言い換えるのが正しいと思う。

 

 では彼女は私たちのこと、計画のことをどこまで知っているのか。私には想像もつかない。

 しかし一つ、マダムの言葉を聞いて直観的にわかったことがあった。

 野放しにしたら、私たちの計画が瓦解するということ。

 となれば、すべきことはただ一つ。

 彼女を潰すこと。

 

 聖園ミカの裏切りが発覚したことで、エデン条約中の護衛配置に変更が加わることになった。

 またもや計画の変更を余儀なくされたが、僥倖なこともあった。

 配置変更の打ち合わせに、彼女がトリニティに来るということ。

 空崎ヒナ。ゲヘナ最強と共に来るようだが、常に一緒に行動するわけではないと私は踏んだ。

 彼女の性格を調べた所、食に対しての興味が強く、好奇心を軸に行動することが多いと知り、それをもとに計画を練った。

 

 トリニティはゲヘナである彼女たちが下手に暴れられない場所だ。彼女を捕獲するためにも探すべきは、すぐに正義実現委員会が駆けつけられない場所

 もし反撃されたとしても「正実の目の届かない場所で暴れた」と周囲にいる市民に言わせるため。

 彼女の装備がショットガンというのも知っていたから、余計に戦闘を起こすのに躊躇うであろう市民の多い場所を探した。

 辿り着いた結論は、彼女たちがゲヘナを去る際に寄らざるを得ないトリニティ駅。

 彼女はそこで、空崎ヒナと別行動を取った。

 千載一遇のチャンスだと、ティーパーティ所属と思われる生徒を締め上げた後に彼女を捕獲した。

 

 

「お前はどこまでこの計画を知っていた?」

「知ぃーらなぁーい」

「ふざけた声色だ……どこまで続く?」

「さぁ? 私、頑丈だよん?」

「では耐久テストをしてみるか。アリウス式はハードだぞ」

「タングステン並みに硬い私は強靭! 無敵! 最強!」

 

 

 なんとなく感じた。普通ではないと。

 拘束され身動き一つ取れず、ただ暴力を振るわれるだけのこの状況で強がれる……いや、もしかしたら何とも思っていないのかもしれない。

 この展開すらもこいつの予想範囲内だとしたら、一体どこまで先手が見えているのだろう。

 

 時間が過ぎた。

 彼女は声一つ上げられない程の傷を負い、最初に合った元気は見る影も無くなっていた。

 何時間……いや何十時間だろうか? あまりに固い意志を破壊することは最後まで叶わず、迎えたのはタイムオーバー。

 彼女が苦し紛れに口角を上げたのを私は見逃さなかった。

 そこで理解した。ああ、私は負けたのだと。

 エデン条約襲撃の最終準備、やることは山積み。彼女一人に割ける時間は限られている。

 

 

「……わからん」

 

 

 拷問に耐えきるその根性はどこから湧き出るのか。すべては虚しい……そう教えられた私には理解が及ばない領域に彼女はいる。

 教えて欲しかった、何故そこまで耐えるのか。拷問をしている間にも、私の心が疲弊していくのを感じていたから。

 底なしに溢れるポジティブ。傷つき、声すらも出せず、ただ痛みに悶えるだけの姿になろうとも、折れない心はどこで手に入れたのかと。

 全てを諦め、全てを憎むことしかできない私達にはできない生き方。これは嫉妬だろうか。

 すべてが虚しいとしても、足掻き続けなければならない。これと似たようなことを、アズサはよく口にしていた。でも、彼女は違う。

 

 アズサと何が違う? わからない。

 私達と何が違う? わからない。

 こんな状況で何故笑う? わからない。

 全ては虚しいのではないのか? ……彼女は、表情で答えた。

 

 

「……もう、いい」

 

 

 出口へと歩きつつ、そう吐き捨てた。私は兵士で、考えを持つ必要は無い。

 エデン条約を乗っ取り、全てを破壊する。それだけだ。

 

 

「巡航ミサイルの準備は?」

「既に4()()とも準備できてる。何時でも使えるよ」

「3発は古聖堂へ。カタコンベへの入口が崩れない場所を狙え」

「わかってる。残りの一発は──」

「万魔殿の飛行船に、ですよね……これから苦しくなりますねぇ。みんな、辛い目にあうんですよねぇ……」

「あぁ。万魔殿のやつら、余計なことをしなければ苦しまずに済んだのだがな」

 

 

 万魔殿の議長、羽沼マコト。一丁前にカリスマを気取るタヌキだと思っていたが……何があいつの気を変えたのか。

 以前からエデン条約など結ぶ気が無いと言っていたから手を組んだのだが、突然無かったことにと連絡が入り、それ以降の連絡が途絶えていた。

 しかし与えた飛行船に積まれていた爆薬は依然と放置状態……だったはずが、エデン条約直前になり撤去された。気づかれないよう細工していたはずなのだが。

 しかし、こちらには相応の武装がある。

 ただ燃えて沈むだけで済んだはずの飛行船が、ミサイルによって真っ二つに破壊される様を、眺めてやろうじゃないか。

 

 

「空崎ヒナは先生と合流する予定となっている。その前に叩く」

「ミサイルはそれに合わせて……ですね。偵察してくれてる先兵も犠牲になりますけど……仕方ありませんよねぇ」

「古聖堂にも相当な爆薬を仕込んである。正実、風紀委員……一般の委員ならミサイルとそれで全員戦闘不能にできる」

「それが運命……定め……決まっていて変えられない未来……でしょ、サッちゃん?」

「……ああ、そうだ」

 

 

「vanitas vanitatum et omnia vanitas」

 

 

「全ては虚しい。どこまで行こうとも全ては虚しいものだ……それを奴らに教えてやる」




知ってる?
戦力を増やされたらね?
攻撃の手数を増やせばいいんだよ!
ミサイル4発はこわいねぇ。
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