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関東私大、教職員のメールボックスから「組合の広報誌」を無断回収…労組の活動を学校が“妨害”か? 高裁も「不当労働行為」認定

関東私大、教職員のメールボックスから「組合の広報誌」を無断回収…労組の活動を学校が“妨害”か? 高裁も「不当労働行為」認定
判決について語る宮﨑執行委員長(右端)(11月11日 都内/榎園哲哉)

明海大学(千葉県浦安市、埼玉県坂戸市)の教職員組合が教職員に宛てて発送した「組合報」を大学が無断で回収していた問題で、中央労働委員会(中労委、厚労省外局機関)が発した不当労働行為の救済命令に対し、大学が取り消しを求めた裁判の控訴審が11月10日、東京高裁で開かれた。

同高裁は、大学側(原告)の訴えを退けた東京地裁判決を支持し、控訴を棄却した。

教職員組合の代表と代理人弁護士は翌11日、都内で会見を開き、声明を発表するとともに判決がもたらす意義を語った。(ライター・榎園哲哉)

メールボックスから組合報が抜き取られる

事件の背景には、大学側による組合の“排斥”とも言える対応があった。

会見に臨んだ明海大学教職員組合(執行委員4人、組合員数は非公表)の宮﨑礼二執行委員長が経緯を説明した。それによると、明海大学では学内での組合活動が、一部の団体交渉を除き一切禁止されているという。

組合の活動を唯一伝える広報誌「組合ニュース」(月1回発行)は、かつては教職員名簿を頼りに教職員の自宅へ郵送していたが、個人情報保護法の施行(2005年4月)によって住所が非開示となり、それができなくなった。

組合は、教職員宛の郵便物が、大学内の個別メールボックス(私書箱)に配布される仕組みを活用しようと、2016年1月の団体交渉において、組合報を各教員宛てに大学に郵送してもよいか確認した。

この確認に対し、大学側からは明確に禁止する旨を伝えられなかったため、組合は同年3月、組合報を封書にして郵送した。しかし、大学側は封書の内容物が組合報だと分かると、マスターキーを用いて各教員のメールボックス内から回収し、すでに個人に渡っていたものについても提出させた。

さらに、大学は組合と組合執行委員に対し、承諾を得ずに大学施設内において業務外の講習、集会、演説、文書の配布等を行うことなどを禁じる複数の就業規則に反しているとして「厳重注意」を行った。

労委「不当労働行為」救済命令を不服とし大学が提訴

組合側は、2017年1月、大学側による配布物の回収や厳重注意などの行為について、東京都労働委員会(都労委)に救済命令を申し立てた。

これに対し都労委は2019年8月、大学側の対応が労働組合法7条3号で禁止されている「不当労働行為」(※)に当たると判断。大学へ救済命令を発した。しかし、大学側はこの命令を不服として、同月に中労委に対し再審査を申し立てた。

※使用者に対し「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」などを禁ずる

中労委は、調査後の2022年12月、大学側の行為を「法人(大学)が組合活動を嫌悪していることをすべての教職員に示すことにより、組合の組織力の強化・拡大を妨げ、組合活動を抑制し、組合の弱体化を図ったもの」と断じた。

そして、都労委と同様に、労働組合法7条3号が禁止する「不当労働行為(支配介入)」に当たると認定。ポストノーティス(※)を命じるとともに、組合報を郵送した場合の対処について、組合と誠実に協議するよう大学に命じた。

※同様の行為を繰り返さないよう留意する旨等を記載した文書を、労働委員会の指定する場所に提示させること

大学は、中労委による不当労働行為救済命令を不服とし、東京地裁に取消訴訟を提訴(2023年1月)。今年3月に棄却されたが、東京高裁へ控訴していた。

そして今月10日、東京高裁も、東京地裁の判決を踏襲しつつ、さらに大学側の追加主張を退け、控訴を棄却した。

争点は「大学側の行為」が不当か

裁判では、大学側が行ったメールボックスに入れられた封書の回収および組合への厳重注意などの行為が「不当労働行為」に当たるのかが主な争点となった。

東京地裁は、「メールボックスの使用は、使用者(学校側)の自由な判断に委ねられている」としつつも、「労働組合やその組合員に対して利用を拒むことが、施設管理権の濫用と認められる特段の事情がある場合には、不当労働行為を構成する」と指摘。

そのうえで、判決は①「組合ニュース」は組合の活動内容等を教職員に確実に伝えることのできる数少ない手段の一つであり、情宣活動における必要性が高かったこと、②「組合ニュース」は団体交渉など活動状況を記載したものであって、違法不当な行為をあおり、またはそそのかす等の内容を含むものではなかったこと、などを挙げ、組合ニュースを郵送で配布する組合の行為は「一定程度保護される」と判断。

さらに、大学側が厳重注意の根拠とした就業規則違反についても、「施設外で行われた投函が規定に反するものということはできない」などとして認めなかった。

東京高裁の判決ではさらに、大学側が「団体交渉時にメールボックスの使用を黙認・許可した外形的事実があったとしても、大学側は黙認・許可していないと誤信していたから、不当労働行為の意思はなかった」などと主張したことについても、「黙認や許可する発言をしたとまではいえないものの、郵送に伴うメールボックスの使用を認めないとする明示的な発言もしていない」と退けた。

そして、「本件各行為が、いずれも参加人組合の弱体化を意図して行われたものと推認することが相当である」として、大学側の不当労働行為を認めた東京地裁判決を支持した。

「日本の企業内組合活動は遅れている」

教職員組合側の江森民夫弁護士は、判決後の会見で「健全な大学や企業では、企業内での組合活動を認めている。組合事務所が整備されていれば、わざわざメールボックスに組合報を入れるようなことは起きない。今回の訴訟はささやかだが、より広く企業内での組合活動の権利を保障すべきだという重要なメッセージになる」と語った。

一方で江森弁護士は、「企業内での組合活動を行う権利はないという判決もある」と指摘。

「フランスをはじめヨーロッパなどでは企業内での組合活動の権利が法律で認められている。日本全体としては、世界的な流れから見てまだ遅れている」とも述べた。

教職員組合は、東京地区私立大学教職員組合連合と連名で、以下のように声明文を発表。

「私たちは、学校法人明海大学の理事会が、東京高裁判決を真摯に受け止め、最高裁に上告していたずらに争いを長引かせるようなことをせず、公教育機関にあるまじき不当労働行為を止め、中央労働委員会命令を誠実に履行するよう強く求める」

一方、明海大学は筆者の問い合わせに対し、「今後の対応については、判決文を見て判断いたします」とコメントを寄せた。

■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

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