Jリーグビジネスの限界 中
Jリーグが10から60へとクラブ数を急増させたのは、プロ野球という先行する業態と競合するうえでは「必然」だった。
現在で言えば、Jリーグは年間38試合しか公式戦をしない。プロ野球は年間143試合だから、いくら大きなスタジアムでもチーム数が同数では観客動員数では絶対に勝てない。観客数こそはマーケットの絶対的な指標だ。エキスパンションでクラブ数を増やさないと、マーケットは広がらないのだ。
エクスパンションは「必然的」
1993年、創設年のJリーグ観客動員は180試合で324万人ほど。この年のNPBは788試合で2274万人。これは球団発表の総計で、実数ではないが、ざっと8倍くらいの差があった。
これが、2024年にはJ1、J2、J3合わせて1140試合で1250万人を動員。NPBは858試合で2666万人だから、30年ほどでNPBの半分弱の観客を動員するようになった。
試合数が少ないというどうしようもないハンデがある中、マーケットを拡張するためにはエクスパンションは、必然ではあった。
しかし10クラブが60クラブに増えると言うことは、クラブ経営に伴うリスクも6倍に増えると言うことでもあった。
DAZNとの巨額契約
ここ30年、Jリーグは紆余曲折がありながらもじりじりと観客動員を伸ばしてきた。必ずしも順調とは言えないクラブもあったが、トータルでは成長曲線を描いてきた。
2017年にはJリーグとDAZNは10年間で約2,100億円の放映権契約を結ぶ。この契約は2023年から2033年までの11年間で約2,395億円に延長された。
広島のビジネスモデルで紹介したが、NPBの場合、放映権契約は球団とメディアが個別に結ぶ。スケール感ではトータルで数百億円であり、チェアマンがトップセールスをして包括的な大型契約ができるJリーグの方が圧倒的なアドバンテージがあるように思えた。
DAZNの契約金は、Jリーグから各クラブに分配され、特に新興のJ3クラブにとっては経営安定には大いに役立っている。
Jリーグの方がNPBよりもビジネスモデルでは圧倒的に優位だ。私などもそういう記事を書いたりしていた。
コロナ禍での「暗転」
しかし、形勢が大きく変わったのが2020年の「コロナ禍」だった。
観客動員をベースにするプロスポーツビジネスにとって「無観客」「入場制限」をしての試合興行は、致命的なダメージとなった。
それはNPBもJリーグも同様だった。
NPBの各球団は、この大ピンチを「親会社からの損失補填」で乗り切った。
この時点ではすでに「独立採算」に近いビジネスモデルを確立している球団もあったが、そうした球団も「緊急避難」的に、親会社の補填を受けた。
親会社のない広島は、恐らく自己資金を取り崩して急場をしのいだと思われるが、非連結の親会社であるマツダの支援を受けた可能性もあろう。
Jリーグの中にも、親会社やスポンサーからの支援を受けたクラブがあったと思われるが、新興クラブ、後ろ盾のないクラブの経営は危機的だった。
Jリーグ側は経営不安に陥ったクラブに対して様々な支援をするとともに、債務超過などの経営指標の基準を緩和した。
V字回服するも不安残るJリーグ
コロナ明けからNPBはV字回復し、2024年には実数発表になってから過去最多の観客動員となった。NPB12球団は完全に立ち直った。
Jリーグも24年に過去最多の観客動員となったが、30クラブの中には、債務超過など厳しい状態から回復できていないクラブもかなりある。
コロナ禍という想定外の大きな危難に際して、NPBとJリーグの「体制の違い」が明るみに出たと言う印象だ。
NPBの場合、経営の根幹は親会社から派遣された「経営のプロ」が担っている。斬新な施策はあまりできないが「経営の安定化」に関しては無類の強みを発揮する。親会社の絶対的な信用があり、資金面でも盤石だ。
しかしJリーグは、親会社の強力な支援が見込めないクラブもあった上に、経営を「選手上がり」など、現場の人間が担っている。経営手腕のある経営者も当然いただろうが、そうでない経営者もいる。また創設から日が浅くて、社会的な信用がないクラブもあった。資金面での不安もあったはずだ。端的に言ってNPBの12球団とJリーグの各クラブ、とくにJ3クラブとは「大企業」と「中小企業」くらいの格差があったはずだ。
独立リーグを支援しないNPB
プロ野球の場合、NPBは12球団だが、それとは別に「独立リーグ」というプロ野球チームが7リーグ30球団ほどある。
これらの独立リーグ球団は、NPB球団の100分の1以下の予算規模でリーグ戦を回している。経営は脆弱で、多くの経営者が球団を途中で投げ出している。球団は離合集散を繰り返している。
しかし同時に独立リーグは社会人野球が衰退する中で、重要な「選手供給源」になりつつある。
独立リーグ側は、NPBに対して、永年、資本提携、経営支援など、さらに強い結びつきを求めてきたが、NPBは一顧だにしていない。
それは、こうした弱小球団を傘下に加えることで、経営上のリスクが高まるし、業務量は膨大に増え、経費は増大するし、球団の収益が悪化することも考えられるからだ。
NPB球団としての「メリット」がないから、都合の良いときだけ選手をピックアップしたり、選手やコーチを派遣するなど、独立リーグを便利遣いしているのだ。
NPB側は「今のままでもやっていけてるじゃないか」といいたいのだ。
J3≒独立リーグ
Jリーグの場合、J3の各クラブは、野球の独立リーグの倍程度の経営規模はあるが、実態としては「独立リーグに毛の生えた程度」のクラブも多い。経済規模が小さくて、経営リスクの大きいJ3の一部クラブが、Jリーグにとって「リスク要因」になっているのは間違いないところだろう。
30年に性急にエキスパンションしてきたことの「負の側面」が、存在しているのだ。
「Jリーグ百年構想」で推進されてきたJリーグのビジネスモデルに、かなりのほころびが出て来たと言う印象だ。



コメント
4仰る通りチーム数が増えたので、J3のようなチームの経営リスクは上がっているかもしれませんね。でも、Jリーグは経営状況も常にフォローしているので、放置はせず、サポートもするので独立リーグとは全く異なり、幸いにも解散したチームは横浜フリューゲルスくらい。現在Jリーグチームのない県は5県のみ。サッカー文化の普及という意味ではJリーグが果たした役割は大きく、裾野の広さは、野球を超えていると思います。二つのスポーツが将来どうなっていくかちゃんと見ていきたいですね。
独立リーグとの違いについては、説明したかと思います。
すそ野を広くすれば、矛盾や利害の対立も出てきます。最近のJリーグはちょっと独善的かもしれません。
Jリーグは「理想的だ」とずっと思っていたのですが、システムがかなり疲弊してきているように思います。
〈性急にエキスパンションしてきたことの「負の側面」〉〈Jリーグのビジネスモデルに、かなりのほころび〉とは具体的にどのようなことでしょうか?詳しい説明を希望します。個人的にはJリーグのリスクはJ3クラブ数の増加よりもむしろ、DAZN頼みの財政構造や、J1の規模の大きなクラブの経営(親会社が経営危機の横浜・F・マリノスや、J1で優勝しても赤字の神戸、など)だと思っています。
j8takagiさん
一応プロのライターなので、あなた一人に説明するのはちょっとと思いますので、書くのなら続編をNoteに書きますが。
あなたは「経営」「マーケティング」について一通り勉強したことがある方だとみなしてお聞きしますが、
・DAZN頼みの財政構造とは?
収益の主たる柱がDAZNしかない「一本足構造」に対する批判でいいですか?
・J1の規模の大きなクラブの経営(親会社が経営危機の横浜・F・マリノスや、J1で優勝しても赤字の神戸、など)
これは何について言っているのでしょうか?よくわかりません。J1の大きなクラブの経営問題が、Jリーグ全体に悪影響を及ぼしているのでしょうか?
Jリーグの経営の「欠点」をあげつらうことと、Jリーグの経営の「健全性」を問うことは、似て非なることだと思います。
もう少し、その点について説明してください。
その上で反論をNoteに書くかどうか決めます。