Jリーグビジネスの限界 上
私は長くプロ野球とJリーグのビジネスモデルの比較をしてきた。2016年、首都大学東京の理事長室で、Jリーグの実質的な創設者のひとりである川淵三郎元チェアマンに「野球について」話を聞いたことがあるが「僕はプロ野球を反面教師にしてJリーグを作ったんだよ」と言っていた。
「Jリーグ百年構想」
表面的には「ファンと呼ばずサポーターと呼ぼう」「コミッショナーではなくチェアマン」など呼称の違いがわかりやすいが、それ以上に、ビジネスモデルが違った。
Jリーグは1996年に「Jリーグ百年構想」を掲げた
◎あなたの町に、緑の芝生におおわれた広場やスポーツ施設をつくること。◎サッカーに限らず、あなたがやりたい競技を楽しめるスポーツクラブをつくること。「観る」「する」「参加する」。
◎スポーツを通して世代を超えた触れ合いの場を広げること。
これの意味するところは、
・Jリーグは大都市圏だけでなく、全国各地にクラブを作り、リーグ戦を展開し、サッカーを普及する。
・その拠点として緑のピッチを持つグラウンド、スタジアムと周辺施設を整備する。
・その施設は、サッカーのためだけでなく地域の市民スポーツの拠点にもなる。
・選手、サポートする人々、観客などサッカー、スポーツをする人すべての幸せを実現する
ということだ。
これに対してプロ野球は
◎大都市圏のフランチャイズだけに球団を作る
◎球場はプロ野球をする球団、選手専用の施設
◎プロ野球は選手とファンのためだけにある
だったから、まさに「反面教師」にしたことがわかる。
エクスパンションに走るJリーグ
Jリーグはこの「百年構想」を本気で実現しようとした。この点、草創期に「大リーグとの真のワールドシリーズを」と目標を掲げながら、80年以上もほったらかしにしているNPBとは大きな違いだ。
Jリーグはこのためにどんどん「エクスパンション」を行った。
Jリーグが始まった1993年に1リーグ10クラブだったものが、2024年にはJ1、J2、J3各20クラブの60クラブになっている。
経営体質の違い
そしてクラブの経営スタイルもNPBとは大きく異なっている。
NPB球団の場合、広島東洋カープを除く11球団が、大手企業グループの「連結子会社」になっている。赤字が出たときには、親会社が損失を補填してくれる。親会社の補填分は、国税庁の通達によって「広告費扱い」ができるので、親会社にとっては経費と同然になる。
そういう形でNPBは「親会社に拠っかかって」ここまでやってきたのだ。
これに対して、Jリーグは原則として「独立採算」を前提にしていた。「原則として」というのは、実際には「オリジナル10」と呼ばれる創設時に存在した10クラブは元は社会人クラブで、親会社の支援を受けていた。他にも親会社のあるクラブがあった。
川淵元チェアマンは「NPBと同じように、損失補填を広告費扱いにしてくれるように言いに行ったんだよ」と言っていた。
事実、コロナ期に入ってJリーグは国税庁に「Jクラブに対する親会社の損失補填を広告費扱いにできるかどうか」を確認する書面を出している。
ではあるが、親会社があってもクラブはすべて「独立採算」が基本だった。もちろんプロスポーツチームが、入場料収入、物販だけで成立することはあり得ないから、スポンサーは獲得したけども、それも含めて「自分たちで黒字経営をする」のが大前提だった。
透明度が高いJリーグ
独立採算を打ち出したJリーグは各クラブの経営データを1年目からすべて公表してきた。経営状態を「見える化」することで、サッカーの実力の優劣だけでなく、経営者の優劣まですべて明るみに出した。
NPBは今に至るも12球団のほとんどが経営データを公表していない。12球団は企業としては非上場だから、有価証券報告書を提出する義務がない。ただ、上場企業の親会社を持つ球団は、連結子会社になっているから、親会社の決算報告でその一部を知ることができるが、巨人などはブラックボックスのようになっている。
2004年の「球界再編」のときに、労働組合プロ野球選手会の古田敦也会長は「プロ野球は赤字だ赤字だ、というが一度も経営状況を公開していない。本当に赤字なのか?」
という疑問を呈した。噂レベルでは、親会社は企業として明るみにしたくない経費をプロ野球チームに付け替えていたのではないか、とも言われている。
Jリーグはその点「ガラス張り経営」を徹底的に推進してきた。健全性で言えば、Jリーグの方がはるかに上回っていた。
Jリーグとプロ野球の「体質の違い」
Jリーグがこうしたことが可能だったのは、
・プロスポーツでなかった時代が長かったこと
・クラブ、リーグの運営を自分たちでやる伝統があったこと
が大きい。
プロリーグがなかった時代、どんな有名選手でも引退すればクラブを所有する企業のサラリーマンになったり、他の企業に就職したり,、自営業になったりした。サッカー指導者になった人も、多かれ少なかれサラリーマン経験がある人が多かった。
川淵三郎元チェアマンも、引退後古河電工のグループ会社の取締役になっている。敏腕ビジネスマンだったのだ。
そしてJリーグは、その前身の社会人時代からリーグの運営を自分たちでやって来た。
プロ野球が、リーグの運営も球団のマネジメントも、ほとんどが野球選手上がりではない親会社のサラリーマンなどに委ねていたのとは対照的だ。
プロ野球選手上がりは「野球以外は何もできない」人が多かった。
独立リーグの指導者になった元プロ野球選手に「何月何日に現地に入ってください」というと「新幹線のチケットやホテルの手配はしてくれないんですか」と言われることが多い。プロ時代はみんなマネージャーがしてくれたから、そうしたことを自分でした経験もなかったのだ。自身の身の振り方さえ不確かなのに、チームやリーグのマネジメントなんてとてもとても、という状態だったのだ。
JリーグとNPBは「体質の違い」が非常に大きかったのだ。
以下、明日に続く



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