水滴実験
「まあ、とにかく水中ギミックがあったら錬と俺は行ってくるよ」
という訳で水中へ行く際の組み合わせは決まったのですぞ。
俺達はどんどん道を進んで行きますぞ。
当然の事ながら道中で魔物等にも遭遇していますな。
次の階層の前には当然の様にボスが出て来ていますぞ。
カルマー系のボスばかりですな。
次の階層へと進んだ所でお義父さんがまた話をしましたぞ。
「さっきの雑談だけどさ正直、みんなの世界で一番行ってみたいのって錬の世界なんだよね。VRゲームってやってみたいし」
「俺の世界がそんなに気になるのか?」
「まあ……確かに気になりますよね。先ほどの推測から考えて自由に空さえ飛べそうですし」
「樹、お前はもう空を自由に飛べるだろ」
逆噴射での飛行ですぞ。
「忘れようとした事をぶり返さないでください」
「空さえ飛べそうって言ったのは樹だけどね」
「自爆ですな。迂闊ですぞ」
失言が多い樹も大概に間が抜けていますぞ。
さすがはラフえもんの飼い主ですな。フィロ子ちゃんが笑う訳ですぞ。
「そうじゃなく重力を無視して飛べそうじゃないですか」
「まあ……確かに自由に空を移動出来るエリアはあるが……」
「あるんだ……」
「下手な調整エリアに入り込むと高いところから急速落下して驚く事になる」
「わー……ジェットコースターみたいで恐そうだね、地面に叩きつけられても痛くは無いんだろうけど」
「初期は触感とか無かったらしいがブレイブスターオンラインが出来た頃には大分再現出来る様になったらしい。ただ、現実との差がなさ過ぎると脳に体が殺されかねないって事で精度が落されたらしいけどな」
「尚文さん。錬さんの説明する懸念って分かります?」
「思い込みによる障害って奴かな? 余りにもリアルな体験をすると体が意識に反映されてしまうって話を聞いた事がある」
「薬では無い物を薬と思い込んで効果を発揮してしまうプラシーボ効果の反対とも言えるノーシーボ効果、副作用が無いはずなのに副作用を起こしてしまう現象ですぞ」
「元康さんって妙な知識を結構持ってますよね。思い込みが激しいって点で言ったら元康さんがまさにそれですが」
「しっ! 聞こえちゃうよ」
バッチリ聞こえてますぞ樹!
確かにこの辺りの知識は理科系の豚から教わった話であるのは間違い無いですがな。
「俺の世界では実在するかどうか判断に悩む都市伝説にブアメードの水滴実験という物がありますぞ」
「へーそんな名前なんだ。そこまで俺はパッと出て来なかったよ」
「概要で言うなら死刑囚の男性に出血死するまでの血液量を説明した後、目隠しを付けて縛り上げ、手足にメスで実際は付けて居ない傷を付けてそこから血が滴っていると思わせるように水滴を垂らし続けたのですぞ。そして丁度致死量に到達しましたと語った所で死刑囚は死んだという話ですな」
豚が語っていた事で俺も後で確認した都市伝説ですぞ。
「定義で言うならこの世界の呪いとは異なる、日本のある世界での呪い死だそうですな」
「現代社会における呪いのメカニズムって事ね。自分は誰かに呪われていると言う思い込みから不調になっていくって奴」
「催眠系の異能力で殺人があったと言う話を聞いた事がありますので僕の世界だと存在しますね。なるほど……確かに能力者によっては呪い系と言われたりする理由が分かりますね」
「VRもリアル過ぎると怖いんだなー」
「そこまでのめり込むのも大概だがな。ただ、精度を落してもネット内での感覚を強く感じる後天的体質所持者とかがいて、そういう奴がゲームで強かったりするわけだが……」
と、錬はお義父さんを見つめましたが、その視線はお義父さんでは無く別の何かを見ている様に見えますな。
「お義父さん。俺の世界はどうですかな?」
「元康くん自身が全く帰りたいとか思ってないしフィロリアルの居ない世界って事で行かないでしょ。前にも言った通り俺だとモブ扱いになりそうだし」
全く帰りたいと思いませんぞ。
という所でズキっとまたも頭に痛みが走りましたぞ。
『ちょっとね。君を哀れに思うと言うか……君が寿命を終えた後、君はまた元の世界、日本で並行分岐する回し車を回す事になるからさ……君の世界の理なんだろうけど大変だね』
『まー世界の理はそれぞれだからね。槍の精霊も死から君を救いつつ引き抜いたって事なんだろうけど……』
『主犯の手口を読み取ると第一指名が呼べない様に他の候補を死なせたみたいだね。目の前の死を見過ごせないのを願う精霊の性質を利用した手口だね』
「元康くん?」
お義父さんが俺へと小首を傾げて尋ねてきましたぞ。
あの声は……ですが、今はお義父さんへ返事をするのが先ですぞ。
「そうですな。俺は帰るつもりなど毛頭ありませんぞ」
前にもお義父さんに元の世界には微塵も未練が無いと言いましたぞ。
ですが、お義父さんが興味があるのでしたらこの元康、お義父さんに色々と説明したいですな。
「でしょ? 錬や樹だって俺や元康くんの世界は昔過ぎて嫌でしょ」
「レトロだからこそ味わいがあるとは思うが……色々と困りそうだな」
「確かに少し時代が違うのはそうですね」
「尚文、樹の世界はどうなんだ?」
「異能力が人権の世界でしょ? 俺じゃ厳しくない? あ、でもこの世界の力がそのまま使えるなら楽しいかもね」
樹の世界をこっちの世界の力を使って乗り込むのですな。
「異能力など屁でも無いですぞ」
「尚文さんは異能力者の疑いが非常に高いからこの世界の力が使えなくても全く問題なさそうですけどね。しかも複数能力の可能性があって出来れば来て欲しくないです」
「樹は元の世界に帰りたいと思わないの?」
お義父さんの質問に樹は毛頭無いとばかりに両手を挙げてますぞ。
「俺も樹の世界に行ったら……」
錬も想像しているようですぞ。
「尚文や元康以上に地味だな。魔法も武器も無しじゃ尚の事だ」
「俺より地味って卑下しすぎだと思うけど……」
「異能力が関係ない学校に行けば普通の生活は出来ると思いますが、確かに面白みは全く無いでしょうね」
「むしろ尚文がどっちの世界でも適応出来そうなのがおかしいんだ」
錬が呟き、樹がため息をしますぞ。
お義父さんはそれだけ有能という事ですぞ。
「適応と言ってもな……錬の世界でゲームやってみたいってだけなのに適応しても生活までは無理じゃない?」
「何処かの料理屋にバイトで入ればそれだけで生活出来るだろうし、VR機材を買えばゲーム内でそこそこ出来るだろ」
「俺は錬程に剣術とか得意じゃ無いよ。弟が剣道やってたけどさ」
「どうだかな……尚文、魔物を捌くの上手だけどアレは一目で急所が分かるんだよな?」
「錬だって分かるでしょ。人でも魔物でもさ、生物の体の構造なんて大体似たり寄ったりじゃないか」
俺だって判断出来ますぞ。
頭か心臓を潰せば一発ですぞ。
「尚文が盾の勇者じゃなかったら剣の心得が無くても一発で急所を当てそうな気がしてな。格上の魔物が口を開いて爪で飛びかかってきた所をすかさず口の中に剣を差し込んで息の根を止めたりしそうだ」
「何その曲芸攻撃、俺を買い被り過ぎだよ」
「あの包丁捌きを見たら否定はさせませんけどね。空中で血抜きをした後、毛を綺麗に剥ぎ取って肉にしても不思議じゃ無いですよ」
樹までも錬の台詞に続いていますな。
確かにお義父さんの空中料理の腕前は凄いですからな。
出来ても何の不思議もありませんぞ。
ここでふと……お義父さんをコウが怒らせた時の事を思い出してしまいましたぞ。
皮肉にもあのお義父さんはこのお義父さんですぞ。
縛られたコウの体に器用に点線を付け、臓物の場所を適切に記して居ました。
「なんか元康さんがウサウニー姿なのにどこぞの恐怖絵みたいなポーズをしてますね」
「何やってんだ? なんか妙な事を考えて勝手に妄想で恐れて居るのだとは思うが……」
「ヤンデレを思い出して居るのかな? 包丁繋がりだし」
「どうなんでしょうね、なんとなくフィロリアル関連、ああ、そういえば尚文さんは初見でコウさんの体に炭で急所が何処かまで書いてましたね」
くう……樹め!
ここに来て命中で俺の想像を当てやがりました。