未来の転生者
「は、はあ……」
というところで遠くからフレオンちゃんがご機嫌な様子でお空の散歩をしているようですぞ。
「いけいけ! わたしたちメルフィロせんたーい。悪がこのよに蔓延るー正義の拳で薙ぎ払えーみんなのゆうきとちからがー」
最近のフレオンちゃんはメルフィロとして婚約者やサクラちゃんと活動していて楽し気ですからな。
ところでこのラフえもん……ぼんやりとですが、どこかで見たような気がしますぞ。
樹がフレオンちゃんと楽しく過ごしたループでもいたような覚えがありますな。
正義に目覚めた樹には無視されており、リースカと話をしていたような……。
それとお義父さんがとても穏やかな笑みを浮かべつつお姉さんが困った顔をしていた気がしますぞ。
「あ……ああああ……くうう……」
樹が耳に手を当てて抗い始めました。
「……」
助手がスタスタと見つからないように遮蔽物に隠れました。
どうやらフレオンちゃんとの遊びをしたくないとの事ですぞ。
失礼極まりないですぞ。
お前は第三のメルフィロ・セントウィンディではなかったのですかな?
「ほら! いつきくん! このみみせんを付けるんだ!」
樹は藁にも縋る思いでハンペンみたいな耳栓を付けましたぞ。
「おお……あの謎の空耳ソングが静かに……フレオンさんの声だけ全く気にならなくなりました。これはすごいですね」
樹がみみせんを付けると正気に戻ったとばかりに平静を取り戻しました。
何となくいい流れに見えますがフレオンちゃんのことを思うと余計な代物ですぞ。
今のうちにそのみみせんを奪って破壊すべきでしょうな。
俺が一歩踏み出したところで足元にパキュンと銃弾が放たれました。
「元康さん、近寄らないでください。どうせこの道具を奪う気なんでしょう。そんな気がします」
「いくらなんでも元康くんもそこまで」
「フレオンちゃんの為ですぞ!」
「うわ! 図星だった! 元康くん、さすがにやめようね!」
「ですがお義父さん! フレオンちゃんが楽しく生きるには樹と遊ぶのが一番なのですぞ!」
「やはりそうですか! 尚文さんもいい加減理解してください。この方はあなたとフィロリアル以外どうでも良いと思っているんですよ!」
「元康くん、フレオンちゃんの為に樹を犠牲にするのはどうかと思うんだけどな……」
樹なんぞフレオンちゃんの楽しみの為なら正義に目覚めればいいのですぞ!
とは思うのですがお義父さんが注意するので何か手を考えなくてはいけませんな。
「ともかく助かりました。これで僕も悩みが解決しますね」
と、樹が安心しきった表情をしておりますぞ。
「未来の僕の子孫には迷惑を受けましたが、非常に助かりましたね」
「じゃあそろそろネタばらしの時間なの」
ライバルが笑うとお義父さんをはじめとした周囲の者達が眉を寄せました。
ネタばらしですかな?
「最初の世界にフレオンは居ないなの」
「原因が潰れるって事? とはいえ、樹の場合は治安維持活動とかはするよね。誤差の範囲じゃないの?」
「まあそういう見方も出来るとは思うなの」
「なんか引っかかりますね……」
「じゃあコレはどうなの? 弓の勇者が死んでいる世界でも来るなの」
「いや、それはさすがにおかしいだろう」
「そうだね。つまり樹の子孫が起点じゃないって事になるよね? というか、なんとなく流れ的に話を信じちゃったけどさ、今回の話って信用に足る内容だったかな?」
「……」
「……」
お義父さんの言葉に錬と樹が沈黙しました。
う~ん、この感覚は懐かしいですな。
最初の世界において、俺や錬、樹のゲーム経験は結果的に間違いでした。
つまり誰かの発言が必ずしも嘘偽りの無い情報とは限らないという事ですぞ。
あの頃の俺の様に、仮にこのラフえもんなるゴーレムが自分の言っている事が真実だと思っていても、それが本当に正しいかどうかの調査が必要でしょうな。
そしてこのラフえもんは突然現れた、初対面の相手ですぞ。
どこまでコヤツの証言は信用出来るのでしょうな?
場合によっては破壊……おや? 最初の世界のお義父さんが壊すなと言っている気がしますぞ?
う~ん、実際に聞いた覚えがありますぞ。
どこでしたかな?
俺は記憶を手繰り寄せる為に深く思い出しますぞ。
「ええ!?」
お義父さん達が不気味な雰囲気になっており、ラフえもんとやらは変な声を上げました。
「なのなの。弓の勇者、このラフえもんを送ってきたのはお前の子孫じゃねえなの。ラフえもんには子孫と嘘を教えて送り出したなの。お前の子孫は別に悪い事もしていないし、借金もねぇなの」
ああ、思い出しました。
そんな奴が来るのでしたな。
最初の世界のお義父さんを含めた様々な世界のお義父さんが壊すなと言っている魔導ゴーレムでしたな。
「ここに来て全ての前提がひっくり返った件」
「え? それってどういうことですか!?」
「ええええええ!?」
樹は元より件のラフえもんとやらも驚きの声を上げていますぞ。
おや? では誰がコヤツを送ってきたのですかな?
「そんな事ないよ! ぼくはいつきくんの子孫であるジュレイくんに頼まれて来たんだよ!」
「仕組まれていたからしょうがねえなの。こいつの制作者はこの時代では錬金術を駆使して仮死状態で波の時代を乗り越えようとした転生者なの。ワイルドなおふみの話だとコールドスリープしてるなの」
「なるほど、言われてみればこのパクリっぽさは転生者らしいな」
コールドスリープとは、突然SFっぽくなりましたな。
ですが、最初の世界でも似た様な話を聞いた事がありますぞ。
そもそも樹が培養カプセルに眠らされていた事があると聞いた事がありますな。
「……こういうのも平和ボケって言うんですかね?」
「そうだね。これまで平和だったからね……ちょっと迂闊だったね。今度ちょっときつめの訓練とかしとこうか」
「洗脳の恐怖と戦っていても平和ボケってするものなんだな」
「まあ洗脳が怖いと言っても一応世界を救う結末ではある訳ですからね」
「二人とも、少しは闇と正義に目覚めるのも悪くないとか思ってそうだもんね」
「そんな事はない!」
「ちょっと平和ボケしていた位で洗脳されたりなんてしませんからね!」
「と、ともかく、元康やガエリオンがループの知識を教えてくれるからな。そんなつもりが無くても弛んでいたって事か」
などとお義父さん達は納得しました。
「それで、なんでコールドスリープを?」
「転生者のすることはよくわからないけど、どうも他に自分より強い転生者がいるのがわかって勢力も大きいから都合の良い時代まで眠って、発明で一攫千金を狙っていたらしいなの」
最初の世界のお義父さんとそういう輩を倒しましたな。
そんな感じで眠っている転生者は結構いるのですぞ。
この世界は時代が変わると文明が後退する様に赤豚本体が画策していたので、今よりも文明が進んでいるとは限らないからとかなんとか。
最初の世界の樹が『つまり100年後の世界では異能力が衰退しているので、僕でも無双出来るって感じですね』とか言っていました。
「あー……タクトが転生者だってわかっていて、だけどこのままじゃどこかで見つかって処分されるから隠れて機会を窺っていた感じかな?」
「そうなんじゃないなの? 波という面倒な時代でがんばるなんて嫌で、楽な時代まで寝ていようって魂胆だったらしいなの」
「あの手この手で潜伏しているんだなぁ……居場所を特定されたらアウトだろうに……」
なんとも面倒くさい話ですぞ。
そういえばお義父さんが前に俺が戦国時代や三国志の時代に行きそうだとか何とか仰っていましたな。
「まあ、未来から来るというSF展開は異世界召喚が存在する手前、否定できませんが……それでこのラフえもんさんの作成者が転生者だとして、何が目的だったんですか?」
「そりゃあ転生者のやりそうな事なんて碌な事じゃないのはわかりきっているなの」
ライバルはラフえもんに近づいてお腹をゴソゴソと弄った後、カチリとパーツを外しますぞ。
ああ、魔導ゴーレムなのでしたな。
「え、ちょっと! 分解しないでよ! ぼくをどうする気!?」
「しなきゃもっと困る事態になるなの。良いから大人しくしてろなの。なのなのー」
蓋を外してライバルがラフえもんの腹部をあさり始めますぞ。
「……よくよく考えてみると未来から来たロボットをダメな少年が分解しないのはわかるけど、金持ちとか優等生が分解しないのはなんでなんだろうね? 部品を一つだけでも複製出来れば大金持ちになれるよね」
「尚文さん、そういうメタな話は野暮ってもんですよ……ただ、ガエリオンさん、あなたは一体……」
ゴソゴソとライバルが弄っていったところでズルリと何かが出てきましたぞ。
黒い星型の装置っぽいですな。
「ほら、なおふみや勇者達も確認するなの」
言われるままに確認すると高密度の魔法爆薬が詰まった爆弾のようですぞ。
既に魔法は込められており、術者のステータスに合わせた爆発をいつでも発生させられるようにされていますな。
「これは!?」
「爆弾!? 燃料とかじゃないの?」
「エネルギータンクはこっちなの」
コンコンとライバルは別の場所を軽く叩きましたぞ。
「ある程度、弓の勇者とリーシアの信用を得てから隙を見てこのラフえもんを自爆させて殺そうとしていたなの。過去を変えたら自分も狙われる事を考えないのが如何にも転生者ってワイルドなおふみが言っていたなの」
「そんな……ジュレイくんが……」
「お前の思い出の大半は偽りの記憶なの。現に具体的な記憶は微塵も無いはずなの」
「う……うう……」
ピッとライバルは爆弾の繋がったコードを魔法を使って抑え込んで取り外しました。
それから遠くまで力の限り投げつけた後に指を鳴らしましたな。
カッと空に太陽の如き光が発生しました。
「魔法障壁で囲ってこの威力なの。まあ、なおふみ達なら普通に耐えれる程度の代物なの」
説明を終えたライバルはラフえもんの外したパーツを元に戻して蓋をしましたぞ。
「これで危険は除去したなの。他の回路部分にも仕掛けがあったけど、そっちも起動しないようにしておいたなの」
「そんなはず……ううう……」
「落ち込む気持ちは完全には理解できないなの。でも大事な事だから言うなの。お前の目的は何なの? 弓の勇者をリーシアとくっ付けないのはなんでなの?」
「ぼくの目的はいつきくんとその子孫を幸せにするため……」
「それで良いなの。弓の勇者が幸せになるのとお前の制作者の目的は同じじゃなかっただけなの。じゃあがんばれなの」
「うん、ぼくがんばるよ」
そう言ってラフえもんとやらは頷きました。
「なんか良い話風になったけどさ……結局この子の世話はする形になる訳? いや、この子が樹の世話をするのかな?」
結果的に色々と助けになりそうだから良いんじゃないの? と、お義父さんは樹に聞きますぞ。
ここでふと、錬が悔し気な顔をしているのに俺は気づきました。
きっと樹の正義化の可能性が低くなった事に対する恨みでしょうな。
心は一つですぞ。
「僕の家に厄介になるって事じゃないですか! そもそもガエリオンさん! まだ説明が不十分ですよ!」
「わかってるなの。このラフえもんの制作者は自身の技術関連で弓の勇者の子孫にコテンパンにやられてしまって何も勝てなかったなの。だから目障りな弓の勇者とリーシアを消して子孫の存在そのものを消して都合の良い未来を描こうとしたなの」
「なんかその転生者、ものすごく遠回りな事をしてない? それに樹が居なくても送ってくるって事はどっち道、上手く行かないって事だよね?」
「なの。とはいえ、泳がせたらエクスペリエンス位は作りそうなのは間違いない奴なの」
転生者など、どいつもこいつも有象無象ですぞ。
とはいえ、未来から過去に送る技術を持っているのは確かですな。
ライバルの言う通りエクスペリエンスくらいは作るかもしれません。
「何それ?」
砂漠にいる装置ですぞ。
最近のループだと覚醒した錬、樹、クズに倒されたのが記憶に新しいですな。
「妙な自慢をしたがるのは転生者の特徴なの。ワイルドなおふみ曰く『俺のゴーレムが世界を牛耳る! って妙な野望でも持っていたんだろう』って話なの」
「わかるようなわからないような……」
まあ奴等は自尊心の塊ですからな。
しかも無駄に多種多様なのですぞ。
「まあ、この転生者の技術じゃ時間跳躍技術に生身で飛べるほどではなかったからゴーレムを送ったってのもあるそうなの。それと自爆させる目的で作ったからかなり適当なところがあるなの」
「きっとあのアニメをその転生者も知ってたんだなー……樹の持っている能力とか特徴から閃いたんだろうね。で……その転生者はどうなるわけ?」
「世界によって異なるけど、最初の世界だとワイルドなおふみがラフえもんを気に入ったから、泳がせて消えないようにしてから処理したなの。今回の場合は未来でガエリオンがタイミングを練って処理するから安心しろなの」
「大丈夫なの? 元康くんとループしてるんでしょ?」
「問題ないなの。ガエリオンのループは記憶セーブ型なの。槍の勇者が別ループに飛んでも今のガエリオンがループしているわけじゃないなの。だから処理は問題ないなの」
「ああ……そうなんだ」
「ラフえもんの由来は後年でも有名ななおふみに看破されないようにお気に入りの魔物であるラフーに似せて作って送り出したなの」
「俺も?」
「ワイルドなおふみはラフーをかなり気に入っていたなの。だからいきなり破壊されないように予防線を張ったと見て良いなの。実際、結構効果あるなの」
何となく思い出せますぞ。
お義父さんがこのラフえもんを庇ってお姉さんを撫でるようにかわいがっていたような気がしますな。
フィーロたんに『喋るならこれ位健気じゃないとな。お前もしっかり学べよ、フィーロ』とか言っていて、フィーロたんがブーイングしていました。
対応が若干後手に回り、未来を完全に把握するほどの力を無いようにしているとか仰っていたような……。
「なおふみ、何ならこのラフえもんをサディえもんにするなの? いつでも間に合うなの。きっとシャチ姿になるなの」