キャベツおじさん
そうして冬が近づいてきた、とある夕方のことですぞ。
「ナオフミちゃん、今日のお夕飯は何かしら? あ、畑の世話はみんなで終わらせたわよ」
「ありがとう、サディナさん」
「もうナオフミちゃんったら、気軽にサディナって呼んでも良いんだからね。それとも、お・ま・え、とかが良いかしら?」
「んーやっぱサディナさんって俺は呼びたいなー」
「あらー」
「ラフタリアちゃんは今夜何食べたい? イミアちゃんも何か食べたいものある?」
「ラフー?」
お義父さんがお姉さんのお姉さん達と一緒に村での雑務をしながら仲睦まじい様子でお話をしておりますぞ。
「え、えっと……」
お姉さんとモグラが一緒に並んでお義父さんとお話していますな。
確かに幼いお姉さんとモグラは一緒にいると反応がよく似ていますぞ。
「イミアちゃんがねーラフタリアちゃんと一緒に畑の世話を一生懸命してくれたのよ」
「毎日ありがとう、二人とも」
「あ、はい……」
ちなみにモグラは技能を覚えたいと服作りを勉強中のようですな。俺やライバルにいろいろと質問をしてきますぞ。
なんて感じにお姉さんとモグラにお義父さんが質問していますが、お姉さんやモグラの視線の先はお義父さんではなく一点に向かいますぞ。
ボコ! ボコボコ! グニュ! グニュウウウウ! ボコボコ! ボコ! ボコッ!
などという音が響き渡りますぞ。
「ヒィイイ……」
「ヒ……」
ちょっと離れたところで錬と樹が悲鳴を上げております。
「あらー……?」
そこに……ゾウに補佐されながら、パンダが腹を押さえ、脂汗を流しながらやってきてお義父さんを睨みますぞ。
ライバルまでもまた飛んで来ましたぞ。
「おい! アンタ!」
と、パンダがお義父さんに向かって怒鳴りました。
「またその話? 一応シルトヴェルトから専用の治療師や助産師にも見てもらったじゃないか」
お義父さんが困ったように眉を寄せつつパンダに答えましたぞ。
最近、パンダは毎日お義父さんに向かってこのように詰問しているのですぞ。
しばらく姿を消していた樹と錬は帰ってくるなり何やら怯えているのですぞ。
パンダのこれは妊娠による精神的な問題というやつですな。
「何度だって言ってやるよ! アタイに何を仕込んだ! くぅ……ううう!」
ボン! っとパンダが仰け反りお腹が大きく突き出されましたぞ。
「そんなこと言われても……」
お義父さんもどう対処したらいいかお困りの様ですぞ。
「きっと近々お腹を食い破ってクリーチャーが出てくるんですよ! 尚文さん、貴方は人間じゃなかったんですね!」
樹がお義父さんを指さして糾弾を始めましたぞ。
「なんですかな? お義父さんはちゃんとした人間ですぞ!」
「人間か疑わしいあなたが言っても説得力はありませんね!」
最近、樹の異能の力が増してきてますぞ。
いい加減身の程を教える頃合いですかな?
「お姉さんのお姉さんやパンダに関しては妊娠中なので何の不思議もないのですぞ」
「これを見てまだそんなことを言っているのか! いくら何でも限度があるだろ!」
錬までもが便乗して、お姉さんのお姉さんのお腹とパンダのお腹を指さしますぞ。
ちなみに先ほどの音はこの二人のお腹から聞こえる音ですな。
「確か……伝承によると勇者様のお子様というのはとても優秀な子が生まれると伝えられておりますね」
ゾウがここで会話に入ってきましたぞ。
「そういえばそういった話を聞いたような気がするね。だから関係を持つ相手は十分注意をしないといけないとか、跡目争いに発展するから注意しようって話だったよね。俺はサディナさんが好きだから告白したんだけど……」
「優秀とか元気な子供とかそんな次元じゃないでしょう。これは!」
「そうだ! いつ母親の腹を食い破って生まれてきても何の不思議もないだろ!」
「うううう……」
パンダが青ざめた様子でお腹を押さえていますぞ。
ここでライバルがパンダの隣に着地しましたぞ。
「安心しろなの、パンダ。お腹を食い破るなんて事無く元気過ぎる子供が生まれるだけなの。しかしお前は別のループでも似たような事をなおふみに言ってたなの」
「これで安心しろってのは……無理じゃないかい!」
「あらーお姉さんとナオフミちゃんの子供はまだ生まれて無いのに元気よね。まだ生まれるのに掛かるのに元気すぎて安心しちゃうわ」
ボコっとお姉さんのお姉さんのお腹が大きく揺れますぞ。
ちなみに最近、お姉さんのお姉さんやパンダはずっと獣人姿でおりますぞ。
「安心……」
「えーっと……」
お姉さんとモグラの視線はお姉さんのお姉さんのお腹にくぎ付けですぞ。
「ガエリオンさん! これが他のループでも起こっていることなんですか!?」
「信じられんぞ!」
樹と錬がライバルに尋ねながら俺にも聞いてきますぞ。
「そうですな……確かにお義父さんの子供はみんな元気な子が多かった覚えがありますぞ」
「確定した事象ということなんですか!? 尚文さん。ますますあなたが人間ではない疑惑が膨らんでいますよ! 盾の勇者が魔物に好かれるのは盾の勇者自体が人間じゃないからということですね! 人間によく似た異世界の魔物ですか! 魔王なんですね!」
「樹……錬もだけどあっちで話をしようか」
大声で糾弾をする樹にお義父さんがユラァっと殺気を放って笑顔で誘導しますぞ。
あれはコウを叱りつけた時のお義父さんの気配ですぞ!
「ループは色んな可能性があるものなの。ちなみに最初のワイルドなおふみの世界でなおふみとサディナとの子供は村一番のやんちゃ者でイミアお姉ちゃんの子供とよく遊んでいたなの」
「え!?」
ここで注目がモグラに集まり、モグラはキョロキョロと周囲を見返しますぞ。
顔が青ざめているように見えますな。
「イミアお姉ちゃん、安心しろなの。お姉ちゃんとなおふみの子供はルーモ種内でも一際巨漢に育ってサディナ並みの体躯になるなの」
「でかくなりすぎだ! まったく安心できないだろ!」
「イミアさんの倍以上大きいじゃないですか! 十分化け物ですよ!」
「え……あ、その……」
「サディナの子供はともかく、イミアお姉ちゃんの子は大人しい有能な子供なの」
「そういう問題じゃないですよ!」
「いや……あのねー」
ライバルが思い出に浸るように空を見てますぞ。
不服にも限度があるのですぞ!
「ちなみにガエリオンを愛してくれたなおふみとガエリオンの子供とパンダの子供は仲良く遊んでいたなの。懐かしいなの」
「ガエリオンさん! あなたもこんな風に子供を宿していたんですか?」
「ふふ……なおふみの子供はみんなこんな感じで元気なのが多いなの」
ライバルは肯定とばかりに頷きましたぞ。
「なるほど、やはり尚文さんは……」
「樹、いい加減にしないとさらに改良したヘッドホンを毟って覚醒させるよ!」
お義父さんの殺気を流して樹が考察を続けておりますぞ。
これはどのループでもお義父さんが恋愛をしたら起こる事ですな。
「ちなみにラフーの子供は優秀だけどそこまでやんちゃじゃないなの。裏ボスなの」
「裏ボス?」
「ラフー」
お姉さんはラフ種を盾にするように顔を隠しておりますぞ。
会話に入りたくないということなのか若干肌が赤いですな。
「というか、まだその話を続けるの?」
「まあなおふみもこの際、聞くなの。なおふみの子供は基本的に元気で、母親似に生まれるなの。種族的に間ではなく亜人として生まれるってくらい亜人側として生まれるから安心しろなの。あ、なおふみ譲りの部分は引き継がれるから何となく実子だとわかるから安心しろなの」
「どういう安心? なんかふわっとしているような……」
「つまり混血でどっちつかずにならないということですか!?」
「なの。イミアお姉ちゃんの子供の場合は、獣人姿と亜人姿に変われる能力を持って生まれてたの。亜人姿は何となくなおふみの子供だってわかるなの」
モグラとお義父さんの子供ですかな?
あー……ぼんやりとしか思い出せませんな。
「幾らループしているからと言って、どの程度か疑わしいですね。ガエリオンさん」
「何言ってるなの? これは勇者の子供って意味での事なの。弓の勇者」
ここでライバルは樹に弓の勇者と強調して言いました。
ウンザリしていたお義父さんも自然と樹と錬へと視線が向かいましたな。
「なん、だとっ……!」
「弓の勇者、お前とリーシアの子供も似た感じで元気を絵に描いた子供が生まれてたなの。なおふみに言えるもんじゃないなの」
「な……」
ちなみにリースカは最近ショックから完全に立ち直ったのか樹が世話をしなくても元気に活動するようになっていますぞ。
ライバルが授けた着ぐるみでリースカとして行動しておりますな。
ただ、樹が時々消息を絶つのでフレオンちゃんと軽く話をする程度に収まっております。
「樹とリーシアさんの子供ってどんな子?」
「弓の勇者が健全に生存した世界だとガエリオンが覚えてる範囲だと女の子と男の子が居たなの、特に個性的だったのは女の子の方なの」
「へー……どんな感じで個性的なの?」
「それはむしろ槍の勇者の方が詳しいなの」
「元康くんが?」
ライバルが俺に話題を投げてきましたぞ。
お義父さんが興味があるように俺にキラキラとした瞳を向けてきておりますぞ。
樹は怖いものを聞く感じで青ざめているようですぞ。
ふむ……樹とリースカの子供ですかな? なぜ俺が詳しい扱いなのですかな?
と思いましたがうっすらと出てきますぞ。
「樹とリースカの子供はフィロリアル様と仲良しでしたな」
確かそうですぞ。
幼い頃からフィロリアル様と一緒にいたお陰なのか、フィロリアル様と常に共にいて仲が良かったのを覚えておりますぞ。
「槍の勇者、もっと詳しく言えなの、すごい個性的だったなの」
「個性的ですかな? 俺がこの世界に来る前に自己主張する豚を超えるかというとどうですかな?」
「元康くんの恋愛経験がすごいのはわかってるけど……」
「ああ、想像力が豊かなのは覚えてますぞ。あのテンションはどことなくリースカに似ていますが、それよりも元気なのは間違いないですな」
「夜の就寝時間に明りを消した部屋で寝ようとしていると、想像力を働かせて『このまま寝ずにいる悪い子にはキャベツおじさんがやってきて連れ去られてキャベツの中に閉じ込められちゃうんだー! もうダメだー!』とか夜にハイテンションの大声で叫んで尚文に怒られて更に大きな声を上げてたなの」
ああ、なんか聞き覚えがありますぞ。
しょうがないのでフィロリアル様と一緒に寝るようになったのですぞ。
フィロリアル様ともずっとお話ができる子でしたな。
ぴったりと引っ付いていてたくさんのフィロリアル様に囲まれておりました。
「ネガティブな妄想家なのにハイテンションで元気だったなの」
「確かに個性的で元気そうだね。キャベツおじさんってイマジナリーフレンドかな?」
ここで樹が顎に手を当てて深く考えるような動作をしました。
「キャベツおじさん……尚文さん、あなたのシールドプリズンってスキル、一見するとキャベツに見えませんか?」
「俺をそのキャベツおじさんにしないでくれないかな?」
「ですが特徴などを合わせていくと自然と僕の将来の子供は尚文さんをキャベツおじさんとして認識しているように感じますよ。これは揺るぎようの無い事実です」
コウさんの件もありますからね、と樹が念押ししてきました。
「悪さをしていて聞かずに、人に迷惑を掛ける子ならやむなくしつけは必要だと思うけど、その子は暴れん坊なの? フィロリアルに育てられたからーみたいな感じでさ。その世界の樹とリーシアさんって忙しそうだし」
樹達の教育に問題があったのでは? ですな。
「ネガティブなのは生まれつきっぽいなの。暴れん坊でもないなの。根は良い子で『両親は勇者だから私は甘えちゃいけないんだ。甘えると迷惑が掛かってキャベツおじさんが来て――』のコンボが炸裂して弓の勇者達も困惑してたなの」
「うーん……一言でいうと面倒そうな子だね。パニック癖のある子……とかなのかな?」
「あれは精神障害じゃなく性格って領域だったなの」
「フィロリアル様達とは仲が良かったですぞ。いつもフィロリアル様と遊んでおられました」
「能天気なフィロリアル達といろいろと歯車がかみ合ったんですね」
「元気といえば元気なのかな。要約すると勇者の子供っていうのは優秀な子供が生まれやすいって事なのかな」
「母親の腹を食い破りそうな位にですね!」
樹のセリフが炸裂してますぞ。
「いやーん。お姉さんの子供、元気すぎて困っちゃうー」