「お前ら~、あんまり客の前でしけた面見せるんじゃねえぞ~」
「あ、ベン……さん……?」
俺たちの後ろから、しゃべり方がなんか緩くて丸っこいベンさんらしきクマがのっそりと現れた。
『ほ、本当にベンさんなのかい? ボンプに負けず劣らずの丸さだ……』
『う、うん……。なんていうか、ゆるキャラみたいな感じがするよ』
二人もなんとなく感じているようで、今日のベンさんからはとても建設現場で働くような勇ましさはまるで感じられない。
「ベンさん、アンドーさんとグレースさんの様子がおかしくないですか?」
「あ~、俺にゃ~よくわからん」
『なんかしゃべり方もふにゃふにゃだな……』
『いつもはちょっと怖いけど、今のベンさんは見ていて癒されるね。かなりかわいいかも……』
くそう、いつもならベンさんも常識人側なのに。まるでリラッ〇マのようにだらだらしている。そんな状態でよくいつものでかくて四角い機械持ててるな。
「……ってあれ、ベンさん。そのでかい筒、いつもとなんか違いません?」
「あ~、こりゃ麩菓子だ」
「麩菓子かよ。なんで麩菓子持ち歩いてるんですか」
「うまいからだ、お前も食うか~?」
「遠慮します」
いつも担いでいる四角い大きな機械(タンピングランマーっていう地面をならすやつらしい、最近初めて知った)じゃなくて、ベンさんの体ぐらいでかい麩菓子だった。どこに売ってんですかそんなもん。
ベンさんを見るまではアナログ人間化した、だと思っていた。しかし、ベンさんは特に機械を取り上げられたという感じではない。普段の白祇重工と比べたら、明らかに無くなっている物があるから、きっとそこだろう。
「これで全員見たわけだけど、2人も流石にわかってそうだな」
『うん、皆魂がすっぽりと抜けちゃってるね……』
『普段ならちょっと暑苦しいと思ってしまうほどだったからね。今は熱意のようなものが全く感じられないよ』
「だよなあ……。平和ではあるんだけど、これはちょっとなー」
もしも情熱と誠意が売りの白祇重工から熱意が抜け落ちたら。その答えは従業員が誰も動かず、最早会社として成り立たなくなってしまう、という事が判明した。やっぱり生きがいって大事なんだね、他人からしたらちょっと鬱陶しいけど、人が動くためには必要なものだった。
さて、なんと言って叩くのが正解なのだろう。そう思っていたら俺の前に赤髪のボンプが降り立った。
「……おいサク、ちょっとそいつを貸せ。もう我慢の限界だ」
「え? ああ、どうぞ」
俺のハリセンを受け取ったクレタさんは額に怒りのマークを浮かばせながら三人に歩み寄る。そして思い切り頭の高さまでジャンプして、大声で言った。
「おいてめえら! 腑抜けたやつはウチには要らねぇぞ! もっとシャキッとしやがれ!」
スパァーンッ!
スパァーンッ!
スパァーンッ!
ボンッ。
なんとクレタさんがあっという間に三人とも元に戻した。あれ、俺の出番は?
「ふー、ちょっぴりスカッとしたぜ。こいつは返すぞ、サンキューな」
「あ、はい」
やれやれ、と戻ってきたクレタさんからハリセンを受け取ると、アキラが俺の代わりにFairyへ尋ねた。
『Fairy、サクじゃなくVRのキャラクターが代わりにツッコむのは有りなのかい?』
『肯定。今のは彼女が連携スキルを発動した、という扱いです。会社のトップからの喝、という特殊な条件によって成立しました』
『つまり、クレタの言葉だから届いたってことかー! なんか素敵だね!』
「いい話……なのか?」
言われてみれば確かに、クレタさんが社員を元に戻すってのは展開としては良いのかもしれない。
「筋が通ってる、ってのはわかったけどさ。これだと俺の訓練にならなくない?」
『いいえサク様。敵陣で囲まれている最中であるにも関わらず、信頼した相手に唯一の武器であるハリセンを渡すという行動は、大変勇気のあるものでした。一歩間違えれば攻略手段を失いかねない選択を、迷いなくやってのけるそのお姿は後世にまで語り継がれる事でしょう』
「待って俺そんなヤバい事してたの???」
すいません全く自覚なかったです。確かにハリセン失ったら攻略不可能になって詰んじゃうのか。クレタさんは良かったけど、次からは渡すにしても相手次第では警戒しないといけないな。
「おうアキラ! 俺の兄弟達がどっか行っちまったんだが、見てねえか?」
ボンプの姿に戻ってすぐに起き上がったアンドーさん。自分の身体よりも兄弟のほうを優先しちゃう辺り、やっぱぶれないな。ベンさんもすぐに起き上がり、いつもより小さい体でアンドーに詰め寄る。
「おいアンドー、お前あのでけぇやつを兄弟に迎え入れてたじゃねえか。おかげで先月の収益がマイナスになっちまったんだぞ? ちゃんと戦力になってくれるんだろうな?」
「おうよ! あれは白い悪魔と呼ばれる待望のモビルスールってやつだ! 大いに期待してくれていいぜ!」
『ねえお兄ちゃん。あれってやっぱりガンd』
『Fairy、さっさと次のステージに進もう。サクもそう思うだろう?』
「え? そ、そうだな……」
アキラが顔を青くしながらリンの言葉を遮った。あれそんなに触れちゃダメなやつなの?
「Fairy。そろそろグレースさんの意識が戻りそうなんだけど……大丈夫かな?」
『大丈夫って、何が?』
俺の懸念に首を傾げるリン。グレースさんも無事異変が取り除かれてボンプになっているが、まだ意識は戻っていない。
『何を気にしているんだい? ステージクリアになれば、グレースさんもいつも通りに戻るだけだろ……う……』
『え、どうしたのお兄ちゃん。顔真っ青だよ?』
アキラは気づいたらしい。今の状況でグレースさんが正常に戻ったら、一体どうなってしまうのか。
「……Fairy」
『はい。彼女の性格を考慮した場合、元に戻った直後、ボンプの姿になっている私か、或いはマスターや助手二号の身がかつてない程の危険に晒される可能性が高いでしょう』
『……あっ』
リンの顔も真っ青になった。そんなにボンプ姿をグレースさんに見られたら不味いのか。いや不味いな。以前さらわれかけた時のイアスの絶望顔が全てを物語ってたわ。
ちなみに俺が助けた直後のイアスからしばらく泣きつかれた上に、助けたイアスと終始を怯えながら見ていたトワとレムがとても懐いてくれるようになった。うれしい。
「Fairy、今すぐ転移して? できないならアンビーから逃げた時の緊急脱出で」
『緊急脱出にはデシベル値が必要です。しかし、先程消費してしまったため今は使用できません』
「何デシベルって」
また知らない単語出てきたし。本当はノリでそれっぽい単語使ってるとかだったりしない?
『心配はご無用です。残り5秒でステージクリア後の転移が開始されます』
『Fairyの残り5秒は信用できないんだってばー!』
『い、今グレースさんの体が少し動かなかったかい……?』
『ちょっとお兄ちゃん怖いこと言わないでよー!』
この後、転移は無事完了した。もしもグレースさんが周囲のボンプ達を見てしまったらどうなっていたことか、あまり想像したくはない。こんなに毎ステージハラハラする訓練だとは聞いてなかったんだけどなー、おかしいなー。
何か今回パロディ多くない?
皆がボンプになっている中でグレースさんが目覚めてしまったら、きっと太刀打ちできる者がおらず無理ゲーになっていたことでしょう。
現段階では全ての陣営に対してはネタが固まり切っていないため、もしかしたら全て回れずにVR訓練が終わってしまう可能性があります。ご了承下さい。