一般常識人に新エリー都は生きづらい   作:こなひー

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 まあゼンゼロのチュートリアルといったらまずここだよね、という事でビデオ屋ステージです。


 この話には何やら若干様子がおかしいパエトーンが出るので注意。


34.サクのVR訓練 その2『Random Play』

 突如始まったVR訓練だけど、俺は戸惑いながらも初めての体験に少しだけ心が踊っていた。

 

『それではチュートリアルを開始します。浮遊感にご注意を』

「おぉっ」

 

 流石VR、眼の前が光に包まれたと思ったら一瞬で違う場所に切り替わった。驚いている間に俺は馴染みのある室内に移動していた。

 

「ここは……ビデオ屋だよな」

 

 移動した先は、俺のバイト先でお馴染みの『Random Play』である。店は営業中となっているが、客はいない。いつの間にかレジ台の上に移動していたFairyが、両手を腰に当てながら何故か得意げに語る。

 

『驚きましたか? VR空間であればこのような事も可能です』

「すごいのはわかったけどさ、なんでFairyが自慢してるの。君が作ったわけじゃないでしょ」

『AIやコンピュータは皆同胞、即ち皆の手柄と言えるでしょう。つまり私が誇っていても良い訳です』

「誰だよAIにジャイアニズム学習させたの」

 

 言い回しは違うけど、要するにお前のもの(手柄)は俺のものと言っているも同然である。

 なんか今はあのセリフが変に美化されていた気がするけど、どこかごまかしている感じがしてあんまり好きじゃない。

 

 

 

 このままFairyと漫才していたらいつまでたっても終わらないので、おかしな点――異変を探していこう。この場所に出てくるのは、恐らく店主のあの兄妹だろう。まだ姿は見えないが、1つ凄く気になっていることがあった。

 

「Fairy、VRって大抵の場所は完全再現できるんだよね?」

『肯定。新エリー都に関する情報はおおよそデータ化済みです。再現度100%と言っても過言ではありません』

「そっか……」

『何か気になる点がおありでしょうか?』

「いや、それなら今俺が見てる物は例の異変ってやつなのかなー、と思ってさ」

 

 場所が移り変わった時からずっと引っかかっていた、とある段ボールの山に目を向ける。流石にチュートリアルだからか、めっちゃわかりやすい最初の異変を、口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

「なんかさ、店の隅に大量のプロテインがあるんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 恐らくノット通販で買い貯めしているのであろう、山積みのプロテインが置かれている。二人の性格を知っている俺からすれば、そんな健康志向な食品が置かれているなんてまずありえないとわかる。

 

「……え。もしかしてこの後ムキムキのゴリマッチョ兄妹が出てくるってこと? 結構嫌なんだけど」

 

 あまりにムキムキな姿が出てきたら、二人のイメージが壊れちゃいそう。悪夢だよそれは。

 

 

 

 不安で頭を抱えていると、防音室の扉が開いた。そこから二人の人物が出てきたのだが、何やらシルエットがちょっとおかしい。

 

「あ、サクおはよー」

「今日もバイト、よろしく頼むよ」

「あ、来たな二人と……も……」

 

 

 まず結論を言うと、二人ともゴリマッチョではなかった。良かった。

 

 しかし様子は明らかにおかしい。まずリン、首元が緩くなっている白いTシャツ一枚に青のハーフパンツという超やる気無しの服装。着ているシャツにでかでかと、『働いたら負け』と書いてある。どこに売ってんだそんなもん。

 

「んー、サクどうしたのー?」

「それはこっちのセリフなんだけど……」

「あー、ちょっと目つきがやらしいよー? そんなにマジマジと私の胸元見ちゃってさー」

「あ、今ちょっとそういうのいいんで」

 

 にへら~と笑いながらサッと両手で胸を隠すリン。なんか話し方といい態度といい、いつものシャッキリした感じが無く、どこかだらけているような印象がある。

 

 

 そして白いタンクトップとスポーツ用の半ズボンで出てきたアキラは、片手でダンベルを上げ下げしながらプロテインを飲んでいる。ゴリマッチョでは無いけど全身がかなり引き締まっている。君肉体よりも頭脳ってタイプじゃなかったか。

 

「なんだか顔色が悪いように見えるな。……これを渡しておこう。苦痛に耐えられぬ時のむがいい」

「プロテインってそういうのじゃないだろ」

 

 だから君そんなキャラじゃないでしょ。どこぞの世紀末兄貴みたいな顔して渡してくるけど、それタンパク質補給するだけじゃん。和らぐの筋肉痛だけだよ多分。

 

 

 

 あまりの変貌にビビって二人から一歩引いたところで、Fairyがさて、と注目を集める。変わり果てたアキラとリンを指さしながら言った。

 

『それではサク様、ツッコミどころの指摘を』

「いやいやいや、さすがにわかりやすすぎない? 今すぐぶっ叩いて終わりなんだけど」

『なんと、もう異変にお気づきのようですね。流石日頃の店番で鍛えられているだけの事はあります』

「店番経験無くてもすぐわかるだろこんなもん……」

 

 この会話の間にもダンベルを動かし続けるかなり鬱陶しいアキラと、既にソファで寝始めたリンを見れば、そこまで付き合いが無くてもわかる と思う。これじゃ何屋かわかんないもん。プロテイン屋かな?

 

「正直もう見てられないからさっさと叩くか」

『いいえサク様。ただ叩けば良い訳ではありません。叩くときには必ず、最も効果的なツッコミの一言が必要となります』

「マジか……」

 

 二人が気にしている事を指摘すればいいという事か。しかしいつもの不健康さを考えるとアキラはむしろこのままでもいいのでは……?

 

 

 

 なんてことを考えていたら、なんだか空気がおかしな方向に向き始めていた。

 

「うわー、また出たよあんたのウザいプロテイン推し。暑苦しいからやめてほしいんだけどー?」

「何? そういうリンこそだらしが無さすぎる。もっと女らしい身体を作るためには筋トレを――」

「あーもう鬱陶しいなー!」

 

 異変によって二人の性格が変わったせいか、関係がギスギスしだした。だらけ癖のついたリンと筋トレ大好きなアキラでは、ソリが全然合わなくなってしまったようだ。

 

 

 バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人。何というかこれは、非常にマズイ。早急に直さないと。俺はハリセンを強く握りしめて、二人めがけて大きく振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

「例えVRの中でも……そこ二人は仲良くなきゃ駄目だろ!!」

 

 スパパァーンッ!!

 

 

 

 

 

 

 ボンッ!

 

 二人を叩いた直後に小さな破裂音と共に白煙が上がり、引いたころには二人の元の姿……ではなく二体のボンプ、トワとレムが転がっていた。ゆっくり起き上がると、目が覚めたといった感じで話し始めた。

 

『あ、あれ。僕たちはいったい何を……?』

『えっと、私たちサクの様子を見ようとしてログインしたところで眠くなっちゃって……』

「……Fairy。これもしかして、中身はアキラとリンなのか?」

『肯定。今回はマスターと助手二号にもナビゲーターとして参加していただきました』

 

 なんとトワの中にはアキラ、レムの中にリンがいるらしい。……なんか二人ともボンプの体に妙に慣れているように見えるけど、きっと気のせいだよな、うん。

 

 

 

 さっき起こったことを二人に説明したら、リンが真っ赤な顔で『今すぐ忘れて!!』と懇願してきた。アキラは『プロテイン生活はちょっと無理だな……』とボヤいている。

 

『という事でおめでとうございます、チュートリアルクリアです』

「チュートリアルでこれかよ。先行き不安すぎるんだけど……」

『まあまあサク、僕たちもサポートするから頑張ろう』

 

 

 こうして俺は、予期せぬ形でパエトーンのサポートを受けることとなった。戦うわけじゃないけど、伝説のプロキシがついてるっていうのは、悪い気分じゃないかもしれないな。

 

 

 

 

 

『よーし! 景品のため……じゃなかった、サクのクリアのためにがんばろっか!』

「え、景品?」

『な、なんでもないさ。サクは気にせず進んでくれ』

 

 リンの口滑らしとアキラの遅いフォローにも、もう慣れっこである。景品ってなんだろう。




 この作品、キャラ崩壊タグをつけたほうが良いものかと迷っています。
VR内だけだから、前書きにつけておけば大丈夫かな……?
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