タイトルはふざけましたが、本編に岸部露伴要素はありません。悪しからず。
近頃インターノットで睡眠負債なる言葉が流行っている。端的に言うと、日々の寝不足が蓄積していくことで自身の健康が脅かされるというものだ。この言葉が突き刺さってそうな月城さんとかめっちゃ心配になる。
逆にその心配が全然無さそうな人も中にはいる。例えばそう、『Random Play』の防音室に置いてあるソファーに、我が物顔で寝転がっているパイパーがまさしくそれである。
「はぁ~、やっぱりここのソファは快適だねぃ。サクがお茶も出してくれるし、ビデオも沢山だし、いくらでも寝られるしで最高だぜ~」
「この店を漫画喫茶か何かと勘違いしてない?」
店番という役割で来たはずの彼女が、第一声に放った言葉がこれだ。せめて従業員用のエプロンぐらいつけませんか。
「ちょっとぐらいはレジに立ったりとかしてくんない?」
「えぇ~、おじさんに立ち仕事はキツイよ~」
「俺からしたら長時間運転する方が辛いと思うんだけどな……」
バスとかで長いこと座り続けてると、体中が痛くなったり腰がおかしくなったりするらしいからやりたくないんだよな。
「ドライブは楽しいからいいよ~。レジってずっと同じ光景だし、何よりスリルが無いだろぉ~?」
「レジにスリルなんかあってたまるか」
強盗とかが押し入ってくるとかでもない限り、スリルとは無縁の仕事だと思う。うちは治安局とかも客として出入りしてるから、そういう輩が全然来なくてほんと助かってるな。予想だけどズートピアでレジやれって言われたら自信ない。
「ま、あたしはやるときゃやるおじさんだよ。ただちょ~っとだけ力を蓄える時間が長いだけだぜぃ~」
「アイアンタスクより燃費悪いじゃねえか」
稼働時間よりも充電時間のほうが明らかに長いバッテリーとか使いたくない。
俺から見たパイパーの印象は、はっきり言って七つの大罪で言う怠惰を人の形にしたやつだ。ただルーシーさん曰く『ドライブやエーテリアスとの戦闘においては、光るものがありますわね』との事だ。その面を知らない俺にとっては、にわかに信じがたい。
「……すぅ~」
「ってこら寝るんじゃない」
「はっ! ……やだな~、まだ寝てないよぉ~」
「いや思い切り寝てたじゃん」
「むしろこれから寝るところなんだよぉ~……」
「もう眠すぎて言ってる事おかしいぞ……」
パイパーは一度寝ると本当に起きない。ゆすり起こそうにも寝ている成人(に見えないけどそうらしい)女性にベタベタ触るのも抵抗がある。そう思って前回は爆音で有名なアクション映画を思い切り流したんだけど、それでも起きなかった。
なのでここは寝かせてはならない。とりあえず監視しているけど、何か良い方法は無いものだろうか……。
「……ところでサクー? 今さっき客か入ってきた音がしたぜぃ?」
「え? 何も聞こえなかったけど……」
あまりに自信をもっていうものだから、防音室から出て確かめてみる。しかし店にいたのは俺を見て「ンナ?」と首をかしげる18号だけだった。すぐに防音室に戻る。
「誰も来てなかったぞー……って」
「すぴ~……」
「うわやりやがった」
パイパーの発言は、俺を一度離してその隙に寝るための嘘だったと今になって理解した。うっかり騙されてしまったことへの悔しさが込み上げてくる。
万策尽きたかとうなだれていたところで、店の入り口からガチャッと開いた音がした。足音も聞こえる辺り、今度は本当に誰か来たようだ。様子を見に行くと、そこにいたのはエレンだった。
「あ、エレ」
「ごめん限界。奥で寝させて……」
そういうや否や、重い足取りのまま防音室のソファに直行する。
エレンはエネルギーを使いすぎると急激に眠くなってしまうため、外のベンチとかで寝てしまう事があると前に聞いた。
それでライカンさんから『なるべく屋外では寝ないように』って言われていたから、それを守ってここまで来たのだろう。ちゃんと言いつけ守れて偉い。
「あ待って、今ソファーは先客が――」
ソファでパイパーが寝ているから他で、と言う前にエレンはソファにダイブしてしまった。
どさっ。
「ぐえっ」
見事にパイパーの上半身がエレンの尻尾に潰された。圧迫されてうめき声をあげるパイパーには全く気付かず、エレンはすぐに熟睡を始めてしまった。
しかし、ハプニングはそれだけじゃ終わらない。
スリスリ……。
「ぬわあぁぁー……」
寝相で動くサメ肌しっぽによる頬ずりが、パイパーに容赦なく襲い掛かる。絵面の緩さから一見平和な光景に見えるけど、サメ肌ってかなり痛いらしいから、多分相当ダメージ入ってるだろうな。
これは流石のパイパーでも音をあげて起きてくるはず……。
……。
「……Zzz」
いや起きないんかい。
ここまで起きないと最早逆に尊敬するわ。今日も店番は諦めよう。そっと防音室の扉を閉めた。
この後、先に起きたのはエレンだったようで、パイパーがいたことに驚いたのか部屋から飛び出してきた。あれは誰なのかと聞かれたから、ドライブとギャンブルが好きなおじさんだよ、って言ったら「は? 何言ってんの?」って睨まれた。だって本人がそう言うんだから仕方ないじゃん……。
それからしばらくして、閉店間際にようやくパイパーがのっそりと起きてきた。
「いや~、ドライブしてたら砂嵐に襲われる夢を見ちまったぜぃ。リアルな夢すぎて、体がヒリヒリしてるよ~」
「そ、そうか……」
「……」
上半身がやや赤くなっているパイパーの言葉に、心当たりのあるエレンが気まずそうに顔を逸らした。
どっちも良く寝るからこういう事もありそう、という至極単純な理由で会わせちゃいました。あとパイパーにぐえっって言わせたかった。