蛇足ですが、昨日シーザー引きました。フーフーはまた次にガチャ来た時にでも……。
「な、なんで君がこんな所でもバイトを……? 昨日はバーにいたはずなのに……」
「――実は私、バイトを掛け持ちしないと生きていけない女なの……」
「そんな! 僕に何かできる事はあるかい!?」
今日の店番であるジェーンさんと、その相手であるモブっぽい顔の男が、何ともドラマティックなラブロマンスが繰り広げられている。このやり取りが『Random Play』のレジで行われているとは思えないほど、2人だけの空間が完成されている。
俺と18号は完全に空気と化していた。
「そうね……。もし彼方がここの会員になってくれたら、もっと長く会えるかもしれないわ。けど――」
「なる、なるよ! 次のデートも勿論僕が持つから!」
「……本当に? 私なんかのために、無理しなくてもいいのよ?」
「無理なんかじゃない! 僕は君を本気で愛しているんだ!」
男は気づいていない、流れるようにセールスの餌食になっていることに。よく考えたら会員になったら会える時間が増えるってどういう事なの。店員と客として会う時間なら、確かに増えるかもしれないけど。
「う、嘘だろ……あの男、人前であんな大胆なセリフを……」
店の端から顔を両手で隠しながらも指の間から見ているシーザーさん。耳まで真っ赤になりながらもじっくりと2人を観察している辺り、かなりの恋愛物好きらしい。反応が初心すぎてパッと見とのギャップが凄い。
「いつかオレ様にも運命の相手が……いや、でももしさっきみたいなダダ甘なセリフを囁かれたら……うあぁぁ~……」
ブツブツと何か言って悶えながらシーザーさんは店を出ていった。純情すぎて可愛い。シーザーさん、ただ他人の恋愛模様を見せつけられて帰っちゃったけど、なんか用事あったんじゃないのかな。
俺がシーザーさんを見送っている間に、会員登録の手続きが完了したようだ。
「これで登録完了ね。……ねえ、本当によかったの?」
「うぅ、前の稼ぎが一瞬でパァに……いいや、君のためなら当然さ!」
「……そう、ありがと」
妖美でかつ、どこか儚げな魅惑の女性を演じるジェーンさん。やや控えめな姿勢を見せつつ支払いはキッチリとさせている。
こんな感じでジェーンさん、なんと今日だけで5人目の会員をゲットしちゃいました。わーすごーい。誰1人ビデオ目的じゃなさそうだけど、ビデオ屋の利益になるならいいんじゃないかな。
ちなみに『Random Play』の会員制度は、最初に年会費を払ってもらうシステムとなっている。そのため、一度会員になったら最低一年分の会員費は確実に店に入る。この分はキャンセルによる払い戻しは無し。
クーリングオフ? 新エリー都にそんな親切な制度あるわけないじゃん。
良い子の皆は何か会員登録する時、或いは大きな支払いが発生する時、規約は出来るだけ目を通しておこう。でないと悪い大人に騙されちゃうかもしれないからね。
ジェーン・ドゥ。彼女は治安局の人間でありながら、『Random Play』への出資額が上限に達している最上のお客様である。というかもはや大株主といっても過言じゃない。
男が店を出ていった後、一息ついた彼女は「これで今日のカモは全員釣り終わったわね」と男たちをバッサリと切り捨てた。目的のために相手を騙すことを厭わない。それが彼女の本来の姿なのである。
「あの、そんなに予定入れちゃって大丈夫なんですか? 今ので5人分の約束しちゃってますけど……」
「あら、気にする必要はないわ。近々全員と関係を切る予定だもの」
「うわぁ……」
ジェーンさんが治安局の人間であるという話は、事前にアキラから聞かされていた。ジェーンさんが男たちに色目を使っているのは、ほぼ全てスパイ的な目的がある。
つまりさっきまでシーザーさんが見ていたのは、ラブロマンスの綺麗な部分だけだったのである。なんで一緒に見たのに俺だけ現実バージョンなんだよ。俺だって年頃の少年なんだから夢見させてよ。
「あ、そういえば。うちの年会費ってあんなに高額でしたっけ? 最近は滅多にいなかったから忘れちゃってたんですけど……」
「ああ、あれ? あいつが弱者から搾取した金額を、そっくりそのまま年会費に加算して突き付けてやったのよ」
「えっ。もしかしてあの男って……」
「そう。――うちの課が目をつけてるホロウレイダーがいるの。彼はその取引相手って訳。勿論お金は元の所に返すつもりだから、安心して頂戴」
絶句。人畜無害でちょっとキザっぽいだけに見えたあの男が、そんな悪さをしている人間だったという事実に身が震えた。ついでに「逮捕する前に、搾取される痛みを教えてあげるのよ」なんてサラッと言うジェーンさんも怖い。
「あの……俺にそこまで事情をバラしちゃってよかったんですか?」
「あんたの事は青衣から聞いてるわ。――どうせ店長ちゃんの事情も知ってるんでしょう?」
「っ!?」
「あんた、結構わかりやすいわよ。うちのセスほど単純じゃないみたいだけど」
初めて会ってからまだそれほど経っていないはずなのに、なんという洞察力だろう。トリガーさんの時も思ったけど、腹の内を隅まで知られているという怖さは、一般人の俺にはとても重い。
ジェーンさんも、この世界を生き抜く力を持っている人なんだなと、改めて感じさせられた。
「それで、さっきからアタイを見てくるあの子、あんたの知り合い?」
「え?」
ジェーンが指さした窓を見ると、俺からしたら最早おなじみの背景となりつつある紫色の傘と赤い瞳がこちらを見ていた。なんかいつもよりも眼力が凄くてちょっと悪寒が走った。
「あの女が、パエトーン様に最も貢いでいるお得意様……なんて羨ましい……。私だって全てを捧げるという気持ちは絶対に負けておりませんのに……っ! もっとバイトを増やさなければ……でもそうしたらパエトーン様とお会いできる時間が……」
……あれはあれで強い生き方なのかもしれない。参考にはしたくないけど。
ハンカチを噛みながら窓越しに何かつぶやき続けてるの本当にホラーだよ。君の愛しのパエトーンは今衛非地区に行ってるんだから、そっちに行ってくんないかな。
「あー……、店長絡みですね。重度の厄介オタクですけど、たぶんほっといて大丈夫かと思います」
「そう? まあ女に恨まれるのは慣れっこだからいいけど」
「えぇ……」
「そういう話なんだったら、あんたも恨みの対象なんじゃない? 店長ちゃんから相当頼られてるんでしょう?」
「勘弁してください……俺ただのバイトなんですって……」
あの妬みの目が自分に向いたらと思ったら安心して寝られなくなっちゃうよ。彼女が直接何かしてくるようなタイプではないと思うんだけど、それでもちょっと衛生的によろしくない。
不安で青ざめる俺を見てか、ジェーンさんの口角が上がる。
「……クスッ。ほーんと、この店は退屈しないわね」
未だにビビアンからにらまれ続けているというのにこの余裕の発言。ジェーンさん、肝が据わりすぎている。女性って怖いね。
Random Playの会員制度はわからなかったのでほぼ捏造です。
ジェーンさんがいなかったら間違いなく経営難だったと思います。セスも出したいと思いつつ、組み合わせたいキャラも決まっていたりして。話が出来たら投稿しますね。
あとついでに、ここ最近本編の悪役がモブ顔率高い気がするのは気のせいでしょうか。