『Random Play』は、伝説のプロキシであるパエトーンの活動拠点である。けれど、パエトーンである兄妹は今、衛非地区に行っているため不在だ。そのせいなのか、店の一部がエージェントたちの集い場みたいに使われることが時々あったりする。
「それでは、作戦の再確認を行うわね」
「ああ、よろしく頼む」
一体何の因果か、治安局のセスさんと兵士の11号がとある事件解決のために協力することとなったとの事だった。ざっくり聞いた感じだと、ホロウレイダーの集団を一網打尽にすべく、動ける勢力をかき集めた結果らしい。
「悪いがサク、民間人の君には詳細を聞かせるわけにはいかない。俺が良いと言うまでは、間違ってもこの扉を開けないでくれ」
「その注意もう5回目ですよセスさん」
心配性なのか、或いは真面目すぎるのか。セスさんからずっと念押しされているけど、俺に聞かせられないならなんで『Random Play』でその会議を始めるんですかね。
セスさんと俺のやり取りを仏頂面で見つめる11号が、俺のうんざりした顔を見て口を開いた。
「心配はいらないわ、サカバン・バスピス」
「ねえそのコードネームほんと止めてほしいんだけど、もうちょっと他に無かったの?」
最初に11号と会った時、何か大昔の海洋生物みたいなコードネームを付けられてしまった。そもそも俺は一般人なんだから本名隠す必要が全くない。なのに11号が頑なに本名を呼んでくれないのはなんでなの。
「この場所は防音、セキュリティ的には案外信頼できる場所なのよ。それに、クリムゾン・アイズ・ハーミットの許可は既に取ってあるわ」
「いや誰それ?」
「アキラの事らしいぞ。俺も最初は混乱したけどな……」
もうアキラの要素が欠片もない。パエトーンから引っ張ったわけでもない。11号のネーミングセンスは理解不能である。
「だが11号の言う通り、一般市民に迷惑はかけない事を約束する。だから安心してくれサカ……サク」
「セスさん今つられかけましたよね?」
「そ、そんなことは無い!」
まさかセスさん、11号のネーミングを律儀に全て覚えようとしているのだろうか。覚えても良いこと無いと思うよ。この組み合わせ、果たして大丈夫なのだろうか。
俺への話が終わった後、2人は防音室に入って打ち合わせを始めた。俺は聞く気も無いので、レジでやや眠そうな18号と並んで座っている。
「……次にこの拠点を制圧するけれど、何か質問は?」
「問題ない。その拠点に潜んでいる可能性がある奴、全員の名前も覚えてある」
「上出来ね。ちなみにこの拠点に重要人物はいないから、もろとも爆破するつもりよ。だから覚えておかなくてもいいわ」
「それを先に言ってくれよ!!!」
行われた打ち合わせの大半が、セスさんが覚えてきた内容を11号が片っ端から台無しにしていくという、新手の賽の河原状態だった。セスさんはちょっと生真面目すぎるのに対して、11号は思ったことをズバズバと言っちゃうタイプだ。
なんで打ち合わせの内容を知ってるのかって? 防音扉が閉まり切ってないからだよ。
今6号が充電不足気味で調子が悪かったから、扉の開閉が疎かになってたんだよね。おかげで作戦内容が筒抜けです。これで俺が軍にしょっぴかれたりしたら嫌すぎるので、何も聞いていないということにする。
「そして、最後にとても重要なタスクがある」
「とても重要な? 待て、俺はまだその内容を知らないぞ。一体なんだ?」
空気が変わる。11号の鬼気迫る迫力に、セスさんがゴクリと唾を飲む。俺も思わず身構えてしまう。この先まで聞いちゃって大丈夫なのかと今更心配になったが、時すでに遅し、扉を閉める前に11号の口は開かれた。
「大将の激辛ラーメンよ」
「…………は?」
「…………ん?」
俺も思わず疑問の声を出してしまった。大将の激辛ラーメンってそれ、ただの11号が仕事終わりに行く趣味の一杯じゃん。今日一真剣なトーンで何を言ってんのこの兵士、真面目な空気がぶち壊しだよ。
「いや待て。それは今回の任務と何の関係があるってんだ? いくらなんでもラーメンは作戦に入らないだろ」
流石のセスさんもこれは信じられないようで、やや不信感を抱きながら11号に詰め寄る。しかし11号の憮然とした態度は変わらない。
「いいえ、これだけは疎かにしてはならない。スープの一滴すら残すことを許されない。これは兵士として……いいえ、治安局の人間であれ誰もが必ず通る道よ」
「う、嘘だろ!? あんな辛いやつを全部飲むってありえないだろ!? 俺の知らない所で、皆そんな危険な事をやってるってのか!?」
11号が真顔でめちゃくちゃな捏造をしていた。聞いたことないよそんな道。いくらセスさんでもこれは流石に信じないはず……。
「ま、まさか! これも兵士としての強さを得るための修行の一環なのか!? 確かに内臓の特訓に繋がると言えるかもしれないな……?」
「……ええ、そういう事にしておくわ」
いやしておくなよ。なんでセスさん納得し始めてるの。あれ、11号ちょっと笑いこらえてない?
「じゃあ早速胃の特訓に行ってくる! 11号、当日はよろしく頼むぞ!」
「ええ、幸運を祈るわ」
勇ましく扉を開けて、俺に軽く挨拶をしたセスさんは店を飛び出していった。向かった方角的に、チョップ大将の店に向かったようだ。
やや時間を置いて部屋から出てきた11号に、俺は思わず話しかけた。
「11号、まさか最後のやつ本気で言ってたのか?」
「……彼の人間性を試すための冗談だったのだけれど、ある意味想定外ね。彼が騙されないよう、サポートが必要になりそうだわ」
「あ、流石に冗談だったのね」
本気でラーメンを仕事にカウントしてるのかと思ってたから、冗談だったみたいでちょっと安心した。というかあなた笑ってましたよね、止めなさいよ。
「何にせよ、彼が嘘をつく人間ではないと分かった。信頼に充分値すると言えるわね」
「まあ、確かにそうかも」
セスさんは、良くも悪くも真っすぐな人間だった。人狼ゲームとか絶対向いてないと思う。勝手なイメージだけど、開幕から「俺は人狼なんだが……」って自爆しそう。
しかし逆に言えば絶対に嘘はつけない。つまり味方を裏切るような事はしないわけだ。新エリー都で育ったにしては珍しい純粋な青年である彼は、治安局に向いている人間だと改めて思った。
「ちなみにサカバン・バスピス、ラーメンには貴方も来てもらうから」
「なんでだよ!?」
そんなの聞いてない。チョップ大将の作る激辛ラーメンは本当に容赦なく辛い。以前に一度だけ食べた後、翌日ずっとトイレから離れられなくなったから、正直気が進まない。
「悪いけど、拒否権は無いわ。……貴方、私たちの作戦内容を聞いてしまったのでしょう?」
「あっ」
そう、迂闊にも打ち合わせでしか出ていないラーメンの話を、聞いていないはずの俺が切り出してしまっていたのだ。
「セスが出ていく時、扉の開く音がしなかったのよ。つまり多少なりとも私たちの声が漏れてしまっていた。恐らくだけど、聞いていたのはサカバン・バスピスだけだったから、まだマシと言ったところかしら」
そして状況も全て理解している。急に兵士らしくなった11号に、俺の背中は冷や汗でびっしょりだ。俺が戸惑う様子を見て、11号は安心して、と俺に少し優しく微笑んだ。
あれ、なんか今の笑い方アンビーに似ていたような。気のせいかな。
「貴方を軍に連れていく事態は好ましくない。だからサカバン・バスピスも作戦の参加者、という事にすればその必要は無くなるわ」
「そ、そういうものなのか?」
「ええ、そういうものよ」
11号はうっかり聞いてしまった俺を庇ってくれているのだろうか。だから一般人の俺でも可能な激辛ラーメンを作戦に含めた、という事なら今の話にも辻褄が合う。あれ、11号ってもしかして優しいのか?
「だから覚悟しておきなさい、サカバン・バスピス。今度の新作ラーメンは私にとってもまだ未開の領域。お互い骨は拾うつもりで臨みましょう」
あ、違うわ。これただ11号が道連れを作りたかっただけだ。
本当に優しさで提案したのであれば、別に合わせて激辛を食べる必要ないんだもの。俺に選択肢が無い辺りで察してしまった。
あと冷静に考えたら、元はと言えば扉ちゃんと確認しなかったそっちの不手際でもありますよね。そう思ったら腹立ってきた。絶対食べ切ってやるぞくそう。閉店時間になったら、俺もセスさんに倣って胃の特訓をしておこう。
コードネームは本当にただの思い付きです。流行的にはもう古いのでしょうね……。
サクはアンビーや11号の事情は全く知りません。入れようとしたらシリアスになっちゃうので。
本格的に次のネタが浮かばなくなってきました。誰かとネタだし等を兼ねて話とかしてみたいな、と思う今日この頃です。