インディゲーム開発のトラブルを回避するには 契約前からトラブル後まで
※本稿も問題周知のため、期間限定で全文無料で公開します。
先日、『『NEEDY GIRL OVERDOSE』の問題と、日本インディーゲームの将来』という記事を公開しました。
幸いながら大きな反響があり、とりあえず、開発者とパブリッシャーとの間に生じうる問題の周知として、一定の効果があったかなと自負しております。
そこで次に発信するべき論旨とは「ではどのようにすれば、パブリッシャーや出資者との問題を回避できるのか」でしょう。にゃるらさん・とりいさんによる勇気ある主張によって、日本のインディーゲームにおいても不公平で理不尽なトラブルが生じうることは認知されましたが、それらを回避する方法や解決する方法についてはいまだ十分に周知されているとは言えません。
今回、このような記事を発表することで注目が集まっている今、改めて現在、インディーゲーム開発者が陥りがちな問題や苦境を回避するための方法を、一種の啓蒙活動としてまとめたいと思います。クリエイティブ全般に共通して言えることなので、ゲームに限らず、あらゆる創作活動に関与する人には少なからず役立つと思います。
(なお本稿は何十、何百人と採用した企業を作りたい!と考えている方や、逆に一人で作るし利益も期待していない=趣味として割り切るから他企業の協力はいらないと考える方向けではありません。あくまで個人〜少人数でゲーム開発を行い、かつ一定の収益を見込む一部のインディゲーム開発者に向けたものとなります)
なぜ自分がこの問題を考えられるか
先に断ると、わたしはゲームデベロッパーではありません。作家であり編集者です。しかしながら、この問題を語りうると考える根拠は2つあります。
1つは、わたし自身がジャーナリストとして国内外の多くの開発者の方に取材してきたから。
日本ではラジオ・雑誌・メディアを通じて大企業から個人規模まで取材していますし、海外では北米・東アジア・豪州・欧州でインディーゲーム開発者に取材しています(『Baldur's Gate 3』や『Unpacking』、『SANABI』の開発者など)。
そのため、こうした問題についても複合的・多角的に知っている立場だと思います。
もう1つは、非常に残念なことに、わたし自身がまったく同じようにゲームパブリッシャーと法的なやり取りを行った(恐らく世界でも稀有な)経験があるから。
既に記事にて述べた通り、わたしがほぼ一人で企画・設計をしたメディアを巡り、ワイソーシリアスの斉藤大地氏による対応に対し、わたしは弁護士を通じた法的な対応を行いました。(なお本件は解決済みです)
幸いながら、わたしは自分自身が様々な対策を打っていたこと、また大変優秀な弁護士の先生の支援を得たことで、最低限受け入れられる「解決」に至ることができたため、そのノウハウを確認すべきであると考えたからです。また実際にトラブルに陥った当事者にしか理解できない恐怖、絶望といった精神的苦痛をも経験したため、本稿においても既にトラブルに陥った方に向けてのフォローもしています。
契約する前に必要なリソースを概算する
ではさっそく本題に入っていきましょう。
まずビデオゲーム開発を行う上で、とりわけ出資など外部の支援を借りるのであれば、最初にすべきことは必要なリソースを概算することです。
ビデオゲーム、というより何らかの創作をするには必ずリソースが必要になります。当然ですが、ミニマルなゲームであれば一人で作ることができても、アートや音楽を豊かにするのであれば複数人が必要になり、3Dで大規模なゲームを作るなら10人から100人もかかります。実際、大作ゲームは外注を含めると500人携わってたりします。
そして創作にかかる費用とは、ほぼイコール人件費です。どういう能力を持った人が、どれほど必要で、さらにその人数で何年・何ヶ月稼働すれば完成するのか。これを誰かが責任をもって概算してみてください。
仮に自分一人だけで開発できる!と考えてる人も、ちゃんと「自分一人」の稼働費を計算した上で、果たして貯蓄で賄えるか計算するのもおすすめします。(趣味と割り切ってしまうなら別に不要ですが)
なぜ概算する必要があるのでしょうか?当然ですが、ゲーム開発におけるトラブルとは、ほぼ確実に「金と権利」だからです。
当たり前ですが、出資側としては出資する額が多ければ多いほどそれはリスクになります。それ故に、出資側はその金額に応じて、契約の内容を厳しく縛る可能性があります。そしてその際に焦点となるのが権利です。つまり多く出せば出すほど、出資側としては権利に対する手を伸ばします。
よく、こういう問題は「成功したから欲に目がくらんだ」と考える人がいますが、実際には「成功前」の見積もりが原因だったりします。
そのため、正しく自分のプロジェクトにかかるリソースを知り、果たして自分がそれをどれだけ自力で補填できるのか、仮に他者から支援が必要になるにあたって自分はどこまで妥協できるのか──要するに自分は何が必要なのか──これらを予め知るために、現実的に自分のプロジェクトにかかるリソースを知っておく必要があります。
(ちなみに、わたしは「I.N.T.」にかんしてかかる費用は自分から概算し、それに対する権利や配分についても随時調整していたため、被害を最小限に留めることができています。)
ただここで留意してほしいことがあります。それは恐らく概算したリソースでは足りないケースがほとんどであるということです。
ゲーム開発は大変多くの要素が複雑に絡み合うため、想定通りにプロジェクトが進行することは稀です。現実的にその追加リソースを計算することは難しいのですが、後述する契約と併せ、自分が最低限どこまで妥協できるか・いくら必要か常にマネジメントするためにも、プロジェクトにいくら必要か考えておいて損はありません。
出資の受け方と契約について
さて問題となるのが、これ。出資です。
言うまでもなく、出資とは誰かと契約して(開発に必要な)お金を出してもらう代わり、開発後は何らかの代価を相手に支払うというもの。あるいは、ゲーム開発に直接かかわらない作業を誰かに委託するのも、誰かの人件費を使ってるわけだから間接的な出資です。
さて問題は、この出資における代価です。出資と一言に言っても「誰から」「どのように」「いくら」受けるかで実に様々あります。
まず「誰から」について。正直ここで網羅しきるのは紙幅的に難しいのですが、具体的には「パブリッシャー」「ベンチャーキャピタル」「国・民間によるインキュベータープログラム」「その他銀行や金融機関」、厳密には出資とは異なりますが「クラウドファンディング」など色々あります。また「パブリッシャー」や「インキュベーター」と一言に言っても企業ごと・案件ごとによって条件が全く変わります。
次に「どのように」について、これは直接的に金銭の出資を受ける以外にも、パブリッシャーからのサポート(PR、ローカライズ、QAテスト等といった作業)も含まれます。繰り返すように、これらも人の手を借りる以上は間接的な出資であり、当然相手は見返りを求めます。
最後に「いくら」ですが、これは出資の条件に相手側に何を渡すかという条件です。これも到底すべてを網羅できませんが、たいてい争点となるのは「売上」「権利」に大別されます。
「売上」については、例えばパブリッシャーとディベロッパーがそれぞれ何割ずつ受け取るのか(いわゆるレベシェア。場合によってはゲームの売上は全て開発者に渡すけど、IP等による収益はパブリッシャーがもらうといった契約もある)。
また「権利」については著作権をどちらが・どの程度持つのかという契約です(例えば著作権は開発者に帰属するけど、音楽やアートなど一部の権利はパブリッシャーが持つ等の契約もあります)。また契約期間も定められているのでここも確認しましょう(最近はあまりないが、3本同じ会社と作らなければいけないといった契約もある)。
このように、ゲーム開発に際して他社から出資を受けるにあたっては、この「誰から」「どのように」「いくら」といった全ての条件を記載した契約を結ぶことになります。言い換えれば、開発者の立場としては、相手側から受けられる支援(どのように)とこちらが支払う対価(いくら)が本当に釣り合っているのか検討する必要があるということです。
ここで重要なのは、「自分は何が必要で、何がそうではないのか」をハッキリさせておくこと。短期的な利益か長期的な権利か、あるいはリスクのある多額の出資かリスクの少ない出資のないパブリッシング契約か。「これだけは絶対に譲らないぞ」と決めた条件があると、双方納得のいく契約になります。
これをハッキリとさせるためにも、契約に際してなるべく「監査規程」を双方用意することもおすすめします。出資側が必要以上・以下の費用を出したり、販売側が販売した金額を誤魔化すことがありうるため「実際にいくら使いましたか・いくら売れましたか」と聞くために必要となります。
またここでトラブルになりやすいのが、先述した開発の延期に伴う追加の出資です。延期そのものが想定されていない場合、追加の出資には曖昧な取り決めや足元を見たような条件がついたりします。その際にも、本当にそれが必要なのかどうか(見合っているのかどうか)も冷静に考えてください。
どのような契約が妥当なのか?
率直に言いますと、正直、これは非常に難しい問いです。
「誰から」「どのように」「いくら」すべての項目において、とりあえず「この人に頼め」「これぐらいは受けろ」「これはやめとけ」と言い切れることはありません。
何故なら、「開発者が何を求めているか」「作品はどれほど売れそうなのか」といった条件によって話が全く変わるから。
例えば、同じ開発者でも実家が裕福でいくらでも経済的に困らない人であれば、利益も権利も全部丸投げして出資を集めるかもしれない。逆に、経済的にギリギリな開発者からすれば、出資を減らしても多くの利益は確保したいと考えるでしょう。そしてパブリッシャー側も、現実的には売れそうなゲームには妥協してでも出資したいが、逆にそうでもないゲームにはどれほど妥協されても関わりたくないと考えるわけです。
つまり、ゲーム開発に限らず、お金の関わる契約には絶対的答えはない。ではどうすればいいかというと、一人でも多くの信頼できる情報を得て、包括的な答えを検討すること──ずばり、契約の妥当性について検討する上で最も重要なのは、「色々な人から意見を聞くこと」です。
とはいっても、もちろん素人の友達や家族に相談しても、あまり意味はない(というか余計に混乱する)でしょう。問題は「誰と」問題を相談するかです。
①:開発者に相談する
真っ先に考えられるのは、もちろん開発者です。
経験豊富な開発者の仲間であれば、パブリッシャーが何を求め、どこに罠があるのか、何を妥協して何を得るべきかといった専門的な知識を持っている人は少なくない。普通に考えて、ゲーム開発の契約をしているのはゲーム開発者だけですから、一番信頼するべきソースといえます。
とはいえ、(特に不利な契約を結んでしまいかねない人は)なかなか開発者の友達を持つ人は少なかもしれない。そこで次に考えるべきことは、どうやれば開発者の仲間を見つけられるかです。
ベタですが、まずSNSは初歩的なツールと言えるでしょう。正直もうXは微妙ですが、Discordのような分散型SNSでは知見ある人が集まるサーバーがありますし、世界的には多くの開発者はLinkedinを使っています(交流には向いてませんが)。
もう一つ検討するべきは、リアルな集まりです。これも非常に様々ありますが、昨今の日本では非常に多くのインディーゲームのイベントが開催されるようになりました。
具体的な名前を挙げると迷惑がかかりかねないので伏せますが、商業的なイベントのみならず、あくまで「もくもく会」的に個人のゲーム開発者が集まるように作られたイベントでは、同じような仲間が見つかるかもしれません。最初は気になった方に名刺とノベリティなどを持って挨拶し、以降も礼節をわきまえて接していれば、何度か顔を会わせていると自然と仲良くなれると思います。(人によっては積極的に他人と接するのが苦手な人もいますので、そこは配慮しつつ)
開発者の仲間がいれば、具体的な契約についての相談もできますし、純粋に「あの会社・人には気をつけた方がいい」とか「こういう契約には同意しないほうがいい」といったネットには出てこない生々しい情報も入手できます。むしろ開発者の繋がりがないと、そういったリアルな話を知ることは難しいので、特に海外のインディーゲームコミュニティは過剰なまでに繋がりを重視している印象があります。
②:法律の専門家によるチェックを受ける
確かに開発者は間違いなく、もっとも同じ目線で理解してくれる知識を持ち合わせています。ただここで一つ問題があるとすれば、法律に関しては必ずしも専門家ではないことです。
そこで開発者だけではなく、契約に際しては、必ず弁護士など法律の専門家に相談するようにすることを、わたしはおすすめします。
特に契約書は、いわゆる法律用語で書かれています。つまり素人が読んでも、完全に理解するのは難しい。また残念なことに、その点を踏まえた上で、「実際に口頭で交わしたはずの内容と全く違う条件が契約書に記載されている」ということさえあります。そのため、納得できる条件で契約を交わしたと思ったら、実際には全然違うことが契約書には書かれていたなんてこともあるのです。
何を隠そう、わたしも何度もそういう契約書を渡されたことがあります(まだ”誰が”とは言いませんが)。そして、そういう手合に限って、こちらが「あの、ここ話と違いますけど」と指摘すると、まるで他人事のように「俺はそんなつもりじゃないのに、弁護士が勝手にそう書いてしまった、ごめんごめん タハハ」などと笑って開き直られたことがあります(笑い事じゃねえよ)。
だからこそ、必ず法律の専門家に相談する必要があるのです。契約書のチェックを頼む場合は数万〜数十万円と決して安い金額ではありませんが、その後に数百、下手をすれば数億円を失いかねないことを考えれば、やはり必ず弁護士による契約書のチェックを受けることをおすすめします。理想的には、顧問弁護士として常に相談できるような体制をつくると、より盤石です。
③:GDCやCEDECなど専門家によるカンファレンスも参考にする
これは厳密には「人」ではないのですが、直接の人間関係を築くよりも手っ取り早い方法として、GDCやCEDECなどゲーム開発者が集まるカンファレンスの情報を収集することもかなり役立ちます。
とりわけ昨今の欧米圏においては、開発者の利益や権利を搾取することに対して非常に敏感で、それらをいかに防ぐかといった講演は頻繁に行われています。ここでは具体的に役立ちそうなレポートを置いておきます。(本稿を執筆する上でも参考にしました)
実際に契約を結ぶにあたって
さて、ここまで予算を見積もり、それに応じて出資を受ける条件を決め、契約書について周囲の相談を受けながら検討した上で、いよいよ契約を結ぶことになったとします。
では実際に契約を結ぶにあたって、どのような点に注意するべきでしょうか。これもあまりにケースバイケースですが、わたし個人の経験として必ず守るべきことは3つあります。
1つは、まず相手の言い分に対して必ず「保留」すること。
とりわけお金や権利にかかわることは、絶対にその場で「イエス」とも「ノー」とも言わないようにしてください。その代わり「一度持ち帰らせてください」と言って、「保留」にするのです。
特に悪意のある人間は、その場で圧力や同情を誘って自分に有利な契約を持ちかけようとします。しかし本来契約というのは双方の熟慮ある意思決定の上で成立するものであって、こちらに考える暇を与えない提案は基本的に警戒すべきです。そしてえてして、「まるでその場で思いついたかのような提案」というのは事前に入念な台本を作ったうえでの「芝居」なので、決してその「ノリ」に付き合ってはいけません(そういう人を何人もみてます)。
一方、契約書を結ぶと決めたらなるべく早急に結ぶこともおすすめします。保留期間が長いとそれはそれで別の問題が生じる可能性があるためです。
もう1つは、相手がどのような立場・身分であっても、契約内容と契約書が異なる場合は臆せず指摘すること。
これは、例えば「有名企業のあの会社から声をかけられた」とか「あの大ヒット作品を手掛けたあの人から誘われた」といった事例の他に、純粋に経済力や体格に恵まれていて「いかにも妥協しませんよ」みたいな態度を取っている人もすべて含まれます。
いずれにせよ、立場や資本で上に立つ人が、それを自覚した上で振る舞うことが珍しくありません。一見すると不利な契約でも「我々の支援を受けられるならむしろ安いもんだよ」ぐらいの態度で契約を迫ることもあるのです。
実際、そうした規模や実績も魅力的ではあるのですが、果たして本当にそれに見合った条件なのかは臆さずに検討し、必要に応じて指摘や批判はしましょう。どんな大手企業であっても、あなたとは契約を結ぶ限り「対等」です。
最後に、契約書の内容を完全に覚え、保存しておくこと。
意外にも、契約書の内容を交わした当事者はその内容を正確に覚えていません。そのため、契約書には記載されていない業務を求められたり、監督権があるはずなのに内容に関与されるということがあったりします。
契約書は結べば全自動で機能するわけではありません。むしろ契約書はそれに基づいて双方が指摘することが機能します。あれ?と思ったら、臆せず「契約書ではこういう取り決めでしたよね」と指摘してください。
もちろん、相手が明らかに契約書を無視した言い分をしたり、あまつさえ別の契約書にサインさせようとしてきた時は、後述の通り即座に弁護士を呼んで対応してください。
万が一、トラブルの当事者となってしまったら
さて、ここまで読んだ上で色々配慮していたものの、出資側とトラブルに陥ってしまった(あるいは既にトラブルに陥っている)という人もいるかもしれません。
そういう人のために、パブリッシャーと正面から対決した「当事者」としての経験に基づき、恐らく世界的にもあまり共有されてなさそうなノウハウについて明らかにします。
①:発言を控え、これまでのやり取りも記録する
まずトラブルになって最初にするべきことは、迂闊な発言をしないことです。係争を前提とする場合、多くの人々は発言を記録し、裁判で優位にするために利用します。言い換えると、自分の発言がほとんどの場合において不利になるのです。
恐ろしいことに、こういうトラブルを意図的に起こそうとする人間は「不意打ち」を好みます。つまり相手に予告などは一切せず、秘密裏に根回しや計画を進め、権利を奪ったり会社をのっとったりします。
そのため一方的にトラブルに巻き込まれた人は、あまりに理不尽な対応に対する怒りの混ざった批判、悲しみのあまり自暴自棄になった提案、暴力や脅迫のような発言をしかねません。実際、信頼していた相手からの堂々たる裏切り(というかシンプル窃盗or暴力)はかなり精神的に応えるところがあり、動揺のあまり迂闊な発言をしてしまうことは仕方ないこともあるでしょう。
ただできればそうした発言を控えてください。不利な扱いを受けるとわかっていれば、場合によりますが、会議など対面する状況を避けるとか、チャットアプリでの発言もしないといった対応も必要です。
そして代わりに、すべての相手方の発言は必ず録音するようにしてください。基本的に許可を取ることが一般的ですが、あまりにも直接的な暴力を匂わせるような相手に対しては、無言でも大丈夫です。裁判に至らずとも、自分のための証拠を集めるのは後の弁護士との相談において有効です。
同時に、メール・Slack・Discordなど相手方とやり取りに用いていたメッセージについても、同様にできれば保存してください。これらも有効な証拠となりえます。
②:即座に弁護士に相談する
もう一つ、トラブルに陥って即座にするべきことは、弁護士に相談することです。
基本的に、トラブルに陥った段階で素人ができることは何もありません。悪意のある人間に対して、まともな説得や和解は一切期待できないものだと考え、根本的に対話しないほうがいいです(これは不利になるだけでなく、甚大な精神的苦痛を伴うからです)。
急ぎ弁護士に相談し、法的な代理人として、相手方とのやり取りを進めましょう。こちらも当然一定の費用が伴いますが、弁護士を雇わないまま係争に至って勝てる見込みがない=全てを失うことと考えれば必要経費もいいところです。何より、相手方からの脅迫や嫌がらせも回避できます。
何より、弁護士への相談は必ず急いで行いましょう。トラブルに陥った当日、少なくとも翌日が望ましいです。弁護士としても事情の把握には時間を要する上に、相手側もまた弁護士を使って何らかの法的な訴えに出る可能性が高いためです。(もちろん、トラブルに陥る前から予め弁護士と契約しておくと、格段に有利に進められます。)
ちなみに、わたしの場合は幸いなことに弁護士の友人がおり、「トラブル」が生じたその場で即退席→翌日に弁護士に依頼という流れによって、全面的にビハインドを背負うことなく進められました。詳細について割愛しますが、わたしから不利な発言を引き出す算段がほかにあったことは聞いているので、このスピード感がなければ危なかったと思います。
③:徹底してセルフケアをする
くだらないように思えるかもしれませんが、これめちゃくちゃ大事です。
繰り返すように、まず法的なトラブルはとんでもなく精神的な苦痛を伴います。信頼していた人が実は悪意をもって裏切る算段だったショックや、自分が大切に作ってきた作品や財産を奪われるかもしれない恐怖もさることながら、純粋に「本気でお互いどちらかが降参するまで喧嘩しよう」というシチュエーションが大人になって経験することがあんまりないです。ぶっちゃけ双方が「殺すか、殺されるか」ぐらいの覚悟で日々過ごすので、ちょっとした戦争気分を味わえます。
しかも物理的な喧嘩ならせいぜい1時間もせずに終わりますが、「法的な喧嘩」となると短くても数ヶ月、下手すると何年もかかります。そうすると、裁判するための予算はあっても、当人のメンタルが尽きて不利な条件でも飲んでしまうことや、仮にトラブルを乗り切ってもPTSDなど精神的な問題に苦しむことは珍しくありません(にゃるらさんもそのことを訴えています)。
そこで必要なのは、ひたすらセルフケアをすること。
とにかくトラブルのことを忘れられるのであれば、何だっていいです。好きな趣味に没頭するもよし、寝転びながらひたすらshort動画を見るのもよし。美味しいものを食べるとか、旅行するとかでも構いません。可能な限りストレスを減らし、トラブルのことを忘れられる環境を作って、自分のメンタルを少しでも守るようにしてください。(自分はとあるYouTubeチャンネルを爆笑しながら見ることでめちゃくちゃ救われました)
加えて、家族・友人・パートナーといった身近な人間と相談するのもおすすめです。そもそもトラブルが発生する=信頼関係が破壊される瞬間は、えてして人間不信に陥りやすいです。ちゃんと自分の味方となってくれる人と話し、話せる範囲ならトラブルのことも共有することで、かなり楽になります。(自分はトラブル中に色々な飲み会に顔出すようにしたら、何故かトラブル前より友達が増えました)
最後に
当たり前ですが、トラブルなんて起きないにこしたことはありません。
……が、お金と権利があるところには必ずトラブルが起きます(水面下ではいくらでもある)。そして更に残念なことに、権力と悪意をもって資産を奪おうとする人間も、やはり必ず存在します。
なので、くれぐれもトラブルは回避してください。仮に遭遇することがあっても、事前の契約を確認したり、事後の対応を素早く行うことで、ダメージを最小限にとどめてください。当事者と言えることはこれだけです。
わたしが自分で経験した地獄みたいな日々の記憶を掘り起こして、それをわざわざ無償公開するのは、少しでも被害者を減らしたい一心です。当然、大きなリスクを払って告発を行ったにゃるらさん・とりいさんもまた同様でしょう。このクソみたいな案件は、金輪際、日本のゲーム文化において起きてほしくない。そんなことは我々で最後にしてもらいたい。
どうか、開発者が自由に作りたいゲームを作れるようなゲーム文化でありますように。
わたしは「ゲームゼミ」および「Interacrit」を通じて、今回のような啓蒙活動を続けていきます。もし賛同・支援いただける人がいれば、購読いただけると幸いです。
Jini
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